終わりの章です
1:だめ
<超級>となって、早くも1週間──そりゃもう当然デンドロ側の──が経った。
あれから、総一郎とはうまくやっている。
どちらかといえば、関係はより良好になっただろうか。
困ったことがあったら相談してくれるし、こちらとしても抱え込まずにいてくれるのは助かる。
あの時のように、また変な方向に抱え込まれて、変な方向に爆発されても困るんでな。
……もうちょっと落ち着いたら、また今度、旅行に誘ってみようと思う。
こちらから誘うのは初めてだが……まあ、どうにかなるだろう。
ケージ……件の、<超級>になったらリベンジしに来ると言った【屍肉姫】は、未だその姿を見せてはいない。
居るとしたらカルディナだろうか? こちらに顔を出そうにも、指名手配では動き辛かろう。
最早あの辺りへは行きたく無さ過ぎるが、いつかは行かねばならない。だいたい5カ月後には。
……どうにか回避できないものか。まあ無理か。
ついで、にかの宗教関連だが、少しばかりルールに強化が入った。
といっても今までは口約束だったのが、誓約書を書かされて、その上でしっかりと縛られるようになっただけだ。
一つ、一国に留まれるのはひと月まで。
一つ、政には決して与さない。
一つ、国同士の諍いにも、決して与さない。
後は例外になる場合を、みたいな感じでな。
強くなるとどんどん柵が増えるのは、この世界の性なのだろうか。
……【使徒】が特殊すぎるせいなだけな気もするが。
あの時の土下座が益々悔やまれるが、後ろを向いてばかりもいられない。
◆
そんなこんなで、今日もいつものようにログインしてみたら。
「〜♪」
シャワー中のシアさんの首から、ペンダントとして下げられた状態だった。
──順を追って、説明しよう。
あの<超級>への進化で、僕は《
しかしあれは『《再鍛》を使った結果生まれた、“
故に【ヘファイストス】にも、新たに必殺スキル……ではないが、普通の、必殺じゃないスキルが増えていたのだ。
戦闘中だった故に流し見した、《再誕》の利用回数以外に増えていたもう1つ。
《
ログアウト後に装備者を回収する代わりに、装備可能な武器として《ウェポンシフト:ヒューマン》以外の形態のアバターを装備者の手元へ残すことも可能になる。
その際に武器としてのステータス補正、及び装備スキルの効果は半減し、《
この効果を使った場合、デスペナルティを除いて次回ログイン地点が“アバターの位置”へ固定される。
パッシブスキル
長々とした説明だが、要はグラインダーやらチャージャーやらの状態で、ログアウト後もアバターを残せる、ということ。
不死性や保護はそのまま、彼女に自由を与える……そんな画期的なスキルだった。
……あの時増えた十字のペンダントの姿──ブレッシングが、携帯に適していて良かった。
他2つの姿は嵩張るし、背負おうにも大き過ぎる。
その点、ペンダントならば首から下がっていても違和感が無いし、有事の際にはそのまま武器へ変ずることも可能だ。
装備補正が平時の際には無いにしろ、まあ問題はないだろう。
正に革命。
いい事ずくめのスキルなのだ……と、思っていた時代が、僕にもあった。
ということで──
「〜♪」
……どうしようかな、これ。
気分の良さそうなシアさんを見て、内心非常に焦っている。
ログアウトして、アバターがこっち側に残せるようになって。
それで彼女の行動が制限されなくなったのは、まあ喜ばしい。
喜ばしいんだけども。
「〜♫ 〜♪」
シャワー中とかにログインしちゃった場合って、本当にどうすりゃ良いんだろうな。
マジでどうしようこれ。
眼福はそうなんだけども、怒られるの僕だぞ。不可抗力なのにさあ?
「〜♫ ……あっ……」
…………鏡越しに、目が合った。
この状態の目がどこだか未だに分からんが、合ってる。
……ああ、そうか。《託宣》で中に
でもじゃあ、これ怒られるやつかな?
え……どうしよう。
「すっ、すいません! 今出ます!?」
『ああいえいえお構いなく』
「え、えぇ!?」
あっ、有耶無耶に出来そう。
変な返ししたのに?
テンパり過ぎて変な返ししたのに???
◆
「えっち」
「…………申し訳ありません」
出来なかったよ。まあそりゃそうか。
土下座ももう何度目だ? ……10度目か。
最近の10回の土下座。その内9回は、こうしたハプニングの末に、シアさんへ行ったものだ。
トイレとかシャワーとか……あとその、慰みとか。笑えねえ。
「…………ま、まあ、ソウ様になら、見られても良いですけど……でも、もっと早く言って下さいよっ!」
「仰る通りです」
ぐうの音も出ねえしさ。
……見られてもいいの部分は、聞かなかったことにしておく。
「ソウ様が私のこと大好きなのは、あのスキルの名前でもわかってますよ?」
そして、また始まったこの弄り。
あのスキル、とは……あの時《再鍛》で増えた2つのうち、1つ。
名前は──《
《
発動中は《パワープレイ》の効力が倍になり、《ウェポンシフト:ブレッシング》中の装備補正が有効化される。
加えて、武器の持つ全てのジョブスキルと装備品のスキルが利用可能となる。
このスキルは5分以上継続して利用できず、再び使用するには最大で600時間の冷却が必要となる。
アクティブスキル
文字通りのぶっ壊れ。
尚、ブレッシングの装備補正は165%である。しかも現時点での数値だ。
僕のAGIの上3桁とパーセンテージが一致しているので、今後もさらに伸びるのだろう、多分。馬鹿だろこれ。
長いクールダウンも、短く絞って使えばその分短く済む。
こんな倍率だし、10秒で大概は事足りてしまうだろうから、その場合は20時間のクールダウンとなるのだ。1日経てばまた使えてしまう。
言葉は変だが……小回りの利く、大技だった。
いいスキルだと思うし、そこに異論はない。
しかし……スキル名。ルビはいいとして文字の方だ。
「でも……もっと段階を踏んでもらわないと!」
「……はい」
これのせいで、こうして事ある毎にシアさんに言われるのだ。
「そ、その……プロポーズ、とか? してくれてれば、裸だって見られても、怒ったりしないんです、よ?」
こんな感じで。
《貴方の隣に私は在る》のアンサーとも取れるような名前。
──確かに、あれはプロポーズみたいですが。
だなんて感想を漏らしたのが運の尽き。
催促、という訳では無いだろうが、最近は露骨にこういう事を言うようになっていた。
……いい加減腹を決めろ、とは自分でも思っている。
と言うかもう括った。指輪もとっくに作った。
しかし。
「……そういう事を、まだ結婚してもいない男性に言うんじゃありません」
「別にもうすぐなんだからいいでしょう?」
「だとしてもです」
「じゃあ早く、ここでプロポーズ──」
「──ストップ」
こうもなし崩し的だと、正直僕は、気が引けてしまう。
「もうすぐ、なんですから」
「…………待てませんよ」
日取りを決めたのは、この弄りが始まってすぐのこと。
来たる2日後、僕は彼女に婚約を申し込む。
そう既に予告しているし、場所も彼女に指定してもらっている。
いやまあ、付き合うより先に婚約とか順序が狂っているのは自覚している。
でも……そうでないと、己の欲に負け、なあなあに付き合って、なあなあに結婚してしまいそうだった。
ちゃんとした式すらも碌に開けそうもない状況下なんだから、せめてそこだけは、ちゃんとしておきたかったのだ。
「──だめ、ですか?」
少し悲しげな上目遣いで、申し訳なさそうな表情をされたとて。
「…………駄目、です」
己を律して理性を保つには、必要だったのだ。
「……やっぱり結構揺らぎますね、ふふっ」
「うるさいです」
必要、だったのだ……っ!!