系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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2:ぼくの

 

 そんなこんなで、直ぐに2日は経ち。

 遂にその日──プロポーズの日がやって来た。

 

「……本当に、ここで良かったんですか?」

「はいっ」

 

 街のはずれにある焼け跡、シアさんの家があった場所。

 シアさんに指定されたのはそこだった。

 

「ここなら、お母様たちにも、見てもらえますから」

「ご尊父はどうなさるんですか」

「もちろん、ちゃんと後で報告しに行きますよ!」

 

 ()()人数的なものと周る順序もあるだろうが……まあ、ドンマイ。お義父さん。

 ……まだ義父ですらねぇんだよバカが。まだ婚約が受け入れられるかどうかもわからんのだぞ。

 

 シアさんが、庭だっただろう場所へ、ゆっくりと歩み出る。

 

「お墓に挨拶したあのときは、まだまだひよっこでしたけど……こんなにっ、立派になれましたし」

 

 くるりと振り返ると、両手を広げて、彼女は笑う。

 纏う雰囲気に、思わずこちらの口角も上がった。

 

「気付けば<超級>ですね」

「はい! でも、まだまだスタートラインですっ」

 

 そう。彼女の夢は、まだ始まったばかり。

 

「これからどんどん有名になって、強くなって、世界に知られて、それで──」

 

 手を広げたまま、くるくると回り、天を仰ぐ。

 スカートの裾が広がって、何かの踊りのような。

 

「──世界の理不尽を、私の名前だけで吹き飛ばせちゃうぐらいの、そんな存在になるんです」

 

 踊りながら語るのは、途方も無い夢の果て。

 大きさで言えば、あの時聞いた“冥王”の目標にも負けていない。

 それでも、不思議と叶わない気はしない。

 

 別に自惚れじゃない。世の中にはより強い者が居て、どう逆立ちしても勝てない相手だっている。

 でも……。

 

 踊りが止み、瞳が向けられる。

 

「貴方と、一緒に」

「……はい」

 

 2人なら、きっと出来る。

 

 ……しかし、その前に。

 共に歩むを決めて貰う前に、今一度聞いておかねばならないだろう。

 あの時許されたんだから良いだろう、なんて思わない。

 マルクス──いや、総一郎との戦いを経て、真実を知って、その罪の深さは更新された。

 

 あの日彼女に許された咎を。僕の優柔不断と、ダブルスタンダードの、その結果を。

 もう一度……問わねばならない。

 

「……僕は、ずるい人間です」

 

 思えば、初めからそうだった。

 

「貴女を死地へと誘い、そして死して尚戦わせる」

 

 実質的な一択。死にたくないと、誰でも言うであろう状況。

 

「この前の……マルクスとの戦いでだって、そうでした。戦えないから、貴女に戦うことを求める」

 

 そこからどうにか救い出した気でいて……その実全てが、仕組まれていたと知った。

 

「その癖、死んで欲しくないと願う僕を」

 

 そんな今でも──

 

「──それでも……貴女は選んでくれますか?」

 

 そんな僕の最終確認。

 本当に()()で良いのか、なんて情けない問いをぶつけ、少し逸る鼓動を抑えんとする。

 その僕の目の前に立っている彼女は……微笑んでいた。

 

「勿論です」

 

 返ってくる首肯と言葉に、ほっと息を吐く。

 ……先ずは一安心、だな。

 

「では──」

 

 しかしそれも束の間。再び緊張が走り、言葉が詰まる。

 

 一世一代、最初で最後になるだろう言葉。

 あちらでも、こちら側でも、通しでたったの一度だけ。

 彼女以外を欲しいと思わないし、代わりなんて無い。

 

「──シアさん……いや、アレクシアさん」

 

 声が震え、それを押し殺す。

 不安と、祈りを乗せたまま。

 

「僕の、妻になって下さい」

 

 跪いて、手を彼女へ差し出す。

 

 視線が合う。

 瞳が、静かに揺れていた。

 

「……はい。不束者ですが、お願いします」

 

 差し出した手を、しっかりと受け取られて。

 その瞬間……ものすごい安堵と、幸福感に襲われた。

 人を愛し、それを受け入れられる喜び。

 今まで経験したことのないそれが、全身を駆け巡る。

 

 細められた目の端から涙が溢れる。

 それを拭いながら、彼女は笑った。

 

「ふふ……ずっと、ずーっと、待ってました」

「本当に、申し訳ありません」

 

 向き合おうと宣言をしてから、色々なことがあった数カ月。

 愛想を尽かして心変わりしてもおかしくは無いだろうに、それでも彼女は待ってくれた。

 本当に、感謝しかない。

 

「いいんです。それだけ、いっぱい考えてくれたんでしょうから。でも──」

 

 ふと、取られた手がそっと離れて。

 気が付けば僕は、彼女の腕の中に居た。

 耳許に口が寄せられて、ほんの少しだけ擽ったい。

 

「──待ったぶん、いーっぱい、愛してくださいね?」

「……勿論ですよ」

 

 言われずとも。

 

 ◆

 

 帰り道を歩く彼女の左手。

 その薬指には、小さな翠の石をあしらった指輪が1つ。

 僕にも同じように嵌っているそれを、彼女はしげしげと眺めている。

 

「……私の瞳の色、ですよね?」

「はい」

 

 幸福や幸運を意味するらしい宝石。

 彼女のこれからの旅路に、ピッタリと言えるだろう。

 

「ありがとうございます。とってもきれいで……」

「気に入って頂けましたか?」

「はいっ! とっても!」

 

 ……二安心に続いて、三安心か。

 何かと心労が絶えない日だが、それすらも勲章だろう。

 

「あっ、でも……」

「はい?何か──えっ』

「これが一番、うれしいですかね?」

 

 気づけば十字のペンダント……ブレッシングの姿に変えられて、首にそっと掛けられる。

 こちらを見るその顔は、かなり自慢げというか、得意げというか。

 

「結婚首輪、じゃないですけど」

『なる……ほど』

「……駄目、ですかね?」

 

 思うところが無いでは無い、のだが。

 少し悲しげな、申し訳なさそうな表情を浮かべる彼女を見ると、それでも良いと思えてしまう。

 

「いいかなぁ、って思ったんですけど……」

 

 やっぱり、駄目だ。この顔にはどうしても弱い。

 ……まあどの顔にも大概弱いが、この顔には特別に弱い気がする。

 しかも、素でやっていると来た。多分その筈だ。何せ、計算でやっているときとは破壊力も段違いに高い。

 より関係が進んで……少し盲目になったせいかも知れないが、それでも良い。

 好きな女性に良いように使われるなんて、本望だろう。

 

『……貴女が、それで良いのなら』

「っ! じゃあ、決まりですねっ!」

 

 ぱぁと輝く笑顔に、僕はもう何も言えなくなってしまった。

 

 首飾りを異性へ贈る意味は、“束縛”と“独占”など。

 贈ってないと言えば無いのだろうし、贈ったとてそこまでをする気もあまり無いが、誰にもシアさんを渡す気はないし……面映ゆいというか、複雑な……。

 

 なんて考え唸っていると、気づけば彼女に覗き込まれていた。

 その顔には、結婚首輪だのと宣った先程のように、自慢げな、得意げな笑顔を浮かべている。

 

「“ずっと一緒”、ですよ?」

『……ははっ』

 

 なるほど、解ってて言ってたんだな? この人。

 ……それなら、この気恥ずかしさも快い。

 

『ええ、一緒です』

「はいっ!」

 

 風が、静かに草葉を揺らした。

 

 ……必ず、彼女は幸せにします。

 どうか、どうか見守っていて下さい。

 

 ◆

 

 その日の晩。

 言われたとおりに、待たせてしまった分を取り返すように。

 僕は、彼女を深く、深く愛することになった。

 そのことについて、ここで語ることはしない。

 

 ……どうやら僕は、自分が思っていたより、首飾りを贈れる人間だったらしい。

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