系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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3:あなたとなら

 

「〜♪」

 

 ……またかよ。

 もう驚かないし裸も見慣れたし、それ以上のこともしているし、今更どうってことはないのだが……狙ってるんじゃないよな?

 この前は仮眠を取りに行ったからともかくとして、今日に関しちゃ“少し席を外す”って言っただけだぞ。用を足すだけだし“すぐに戻る”とも伝えたんだぞ。

 

 ……まあ、邪推は止すとして。

 

『戻りました』

「あ、お帰りなさい、ソウ様」

 

 シャワーを止めて、湯船へといそいそと浸かるシアさん。

 ……出ないんすか。僕この状態で戻れないんです。

 衣服着てるからここで戻るとビッシャビシャになるんですよ。

 

『……あの』

「ふぇ? ……ああ! そうでしたね、すいません」

 

 良かった伝わ……ってないな?

 湯船の外で人に戻されたはいいんだけどさ、土足で浴室はどうかと思うんだ。

 さっさと出──

 

「ちょっと待った!」

 

 ──ようとして、腕を掴まれる。

 

「お召し物をしまって……このまま、一緒にお風呂、どうですか?」

 

 どこか艶やかな笑みを湛えた姿に、唾を飲む。

 

 結婚してから5日経った、新婚ほやほやの頃のことだった。

 

 ◆

 

「改めて……只今、戻りました」

「……はい、おかえり、なさい……」

 

 ベッドの上で謎に向かい合い、正座した上で礼をし合う。

 あんなことを可愛くて愛おしい妻に言われたら、そりゃね。そりゃあね?

 そんな後だから、シアさんも少し息が切れている。リラックスと身を清めに風呂へ行ったんだろうに、疲れて汚れて戻っては、世話も無かろう。

 時間も良い所だと2回で済ませたが……それでも、今日は忙しいのだ。

 

 ──しかし見渡す限り、部屋は整然としている。散々と置かれていた筈の荷物も既に纏まっているらしい。

 ゆっくりしすぎて危ないかと思ったが、これなら時間にも間に合いそうだ。

 

「とりあえず……準備は出来てる、って感じですね」

「それは、バッチリです。……あ、でも……」

 

 両手を広げて待ち構える、可愛らしいお嫁さん。

 

「もうちょっと……補給がしたいです、かね?」

 

 ……さっきあんなにたっぷり補給しただろうに。

 しかし小首を傾げ、上目遣いで愛らしくそう言われてしまっては、夫としても応えざるを得ないのだ。

 仕方がないなあ。ああ、本当に仕方がないなあ。

 

「……はは。はいはい」

「きゃーっ!」

 

 押し倒すようにしながら、胸に抱き込む。

 碌な抵抗もなく、ぽすんと体がベッドへ倒れる。

 ……これが、ここ数日の彼女のお気に入りだった。

 

 至近距離で、翠の瞳に見つめられる。

 湯上がりの体の温かさと、シャンプーの甘い香りとが合わさって、酷く脳を揺さぶられる。

 

 我慢出来ずに、軽く唇を重ねた。

 

「……ふふっ」

「…………ははっ」

 

 柔らかさと、甘美な快感に、思わず笑みすら溢れた。

 

 やばい、幸せ過ぎる。

 今が人生の絶頂だ。間違いなく断言出来よう。

 

 ずっとこうしていたいのは山々だが……しかし、今日はこうもしてはいられないのだ。

 今日は出立の日の刻限。

 

「……名残惜しいですね」

「もう少し、こうしていますか?」

「いえ、大丈夫です。十分愛も貰えましたので!」

「それは良かった。じゃあ……出る支度をしましょうか」

「はいっ!」

 

 ここを離れ、次に向かう先は……グランバロアである。

 

 ◆

 

「毎度毎度、結構心配なんですよ」

 

 街道を連れ添って歩きながら、そんな事を彼女が言った。

 

「心配、ですか?」

「はい。もう戻ってこないんじゃないかー、って」

 

 《其の身に自由を(ウェポンズフリー)》は、シアさんに自由を与える。

 しかし僕が戻らねば、一生を1人で過ごすことになる。

 幽閉し続けるのとどちらがマシかは解らないが、どちらにせよ酷であることは確かだろう。

 

 しかし……それ程に信用が無かっただろうか。

 ……まあ、先延ばし先延ばしにし続けた奴の信用なんて、そんなもんだろう。

 

 少し自嘲するが、頭を振る。

 僕はもう、そこで終わる男ではないのだ。

 

「独りにはしませんよ。絶対に」

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 決して確約出来る言葉ではないけれど、それでも僕の意志は固い。

 彼女のどこか満足げな表情に、その意志が伝わったのだろうと解った。

 

「結婚してすぐ未亡人だなんて、嫌ですからね?」

「はい」

「ちゃんとあちらでもご飯を食べて、体を動かすように!」

「善処します」

「確約してくださいっ!」

「は、はい」

「……ふふん、よろしい」

 

 すっかりと奥さん姿が身に馴染み、実に愛らしい。

 彼女にも言われたとおり、健康に気を遣っているし、あちらの生活も蔑ろにしていない。

 まだ1日2日だが、その辺りに気を配り始めていた。

 

 《其の身に自由を(あのスキル)》が生まれる前とは比べ物にならないくらい、人間の生活をしている気がする。

 まあ……1日の大半がログインだったからな。

 シアさんを縛らぬように必死で必死で、作家という職の立場をフルに悪用していた。

 扱いとしては、今でも長期の取材中である。

 

 そんな事を考えていれば、いつの間にやら駅舎に着いていた。

 丁度竜車も着いていたので、席に座って一息つく。

 

「間に合いましたね」

「はい。ゆっくりしすぎかと思ってました」

 

 自覚はあったんだな。

 

 しばらくすれば、そのまま竜車は動き出した。

 過ぎ去り始める景色に少しばかりの寂寥と、新たな地への期待とを覚えた。

 

「……次は、グランバロアですね」

「緊張しますか?」

「いいえ、ワクワクします。四海を走破したお話、私大好きなんですもんっ」

 

 結婚しても、好みはそうそう変わらない。

 まだ数日だし、そう変わられても──

 

「──それに」

 

 ……ふと。

 開いた窓から吹き込んだ風で、銀の髪が靡く。

 美しさに、思わず目を奪われる。

 

「貴方となら、どこへ行っても楽しいですから!」

 

 満面の笑顔は、いつにも増して輝いていて。

 

「……やっぱり、愛されてますね。僕は」

「勿論そうですよ。愛しの旦那様なんですから」

「ははは……っ」

 

 ……ああ。

 

「僕も、愛していますよ」

「……わっ、わかって、ますっ」

 

 この時間が、幸せが、長く永く続くことを、僕は心から願う。

 

 




一旦終わり
文字通りに、終わりです

蛇足を書くかも知れませんが
だらだらと終わらせず垂れ流すよりも
書きたい所までは書けた以上
ここで終わりとさせて頂きます

書きたいものをどうにか形に出来たこと
思ったよりも沢山の方へ届いたこと
その全てを幸福に思います

誤字脱字が怖いので
この辺りで失礼します
それではまた
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