次の日、朝は役にデニロさんが私を迎えに来ました。
「俺が今日からリアの世話をする。ついてこい」
まず私は街中の大きなお屋敷へ行きました。
召使の人に案内された部屋へ入ると、親分さんと同い年ぐらいの男の人が座ってました。
「この子が例の?」
「はい。オーチャー先生、どうかよろしくお願いします」
「リアと言います。よろしくお願いします」
私はデニロさんに続いて頭を下げました。
「良い子だね。躾がちゃんとされている」
「商売させてますので」
「そうかい。親分には何かと世話になっているからね。この子の“力”、しっかりと見させてもらおう」
「よろしくお願いします」
男の人はオーチャーさん、覚えました。
「ふむ。じゃあリア、地下へ行こうか」
「リア、オーチャーさんの言う通りにするんだ」
「デニロさんは?」
「俺はここで待ってる」
「わかりました」
オーチャーさんについていくと、床に大きな穴があって階段が下へと続いています。
降りていくと石造りの広い廊下があって、ドアがたくさんありました。
見張りの人が立っている大きめのドアの前にオーチャーさんは立ち止まりました。
「五人ほどデクを。そうだな、そこそこ戦える奴を連れてこい」
「はっ」
「さ、リア、中へ入って」
中は広い部屋で、色々な道具や武器みたいなものが置かれていました。
「まず服を脱いで。下着も」
「はい」
オーチャーさんは私としたいのでしょうか?
「まずリア、“力”を使うと人は身体の何か一部を代償として捧げるのは知ってるかい?」
「いいえ」
私は裸になるとオーチャーさんの前に立ちます。
「そうか。これは忘れちゃいけないことだから」
そう言いながらオーチャーさんは私の身体を触って調べていきます。
「“力”の代償は人によって違うんだ。ある者は爪だったり、また別の者は髪の毛だったり。昨日君が“力”を使った後、何か変わったことはなかったかい?」
「えっと……よくわかりません」
「そうか」
話をしながらオーチャーさんは私の髪の毛や爪、腕や太もも、背中を触って調べた後、巻き尺でおっぱいやおしりを測ったり、身体の重さを見たりしました。
それから見たこともない道具を私のお腹に当てています。
「これはね、リアの身体の中を見る道具なんだよ」
すごい! そんな道具があるなんて。
デニロさんに『先生』って呼ばれていたから、オーチャーさんはお医者様に違いありません。
オーチャーさんは机に向かって紙に書き込んだ後、振り向いて優しく言いました。
「よし。もういいよ。服を着て」
「はい」
「いいかいリア、これから五人、君を殺そうとする者がやってくる。君は“力”を使ってそいつらを殺しなさい」
「はい」
えっと、昨夜みたいにすればいいってことかな。
「安心したまえ。その五人は殺されても仕方のない人間なんだ」
「はい」
「……ほぅ。抵抗ないようだね」
するとドアが開いて、さっきの見張りの人に連れられて男の人が五人、入ってきました。
その人達は手枷をつけられ、顔つきが怖い人ばかり。私を睨んできます。
「さてお前達、この娘を殺すことができたら解放してやろうじゃないか」
オーチャーさんがそう言うと、男の人達は喜びました。
「ほっ、本当か?」
「へへっ。小娘じゃねえか」
「ここに連れられてきた時は終わりかと思ったが……」
さっきと違って嬉しそうに私を見てきます。
「そこにある武器は使って良い。リア、君もだよ」
「え、武器ですか……」
色々な大きさのナイフや剣、槍、それからよくわからない武器がたくさんあります。
どうしよう。
私は家で使うナイフに一番よく似たものを選びました。使い慣れてるからです。
男の人達は長い剣、大きなナイフ、ハンマー、槍、鎌を持ちました。
「じゃあ始めたまえ」
私は前屈みで走り出し、一番右端にいる槍を構えた人へ向かい、四つん這いになって後ろへ回り込みました。
「こいつ! すばしっこいな」
ニヤニヤと振り向いた槍の人。私の目の前にある両足首を斬ります。
「うがっ」
続いて動きの鈍い隣の人も。大きいナイフ、槍が床に落ちました。
「こいつっ!」
二人とも膝をつき私を睨みます。
次に私を剣で斬りつけようとする人の方へ転がった槍を持ち上げました。
剣の人が槍を躱すのに顔を傾けたのでナイフを投げます。
「ぎっ」
首元に深くナイフが刺さりました。
すぐ大きいナイフを拾うと、首にナイフが刺さった人を盾にしてハンマーを振りかぶった人から隠れます。
「チッ! 邪魔だ」
「ひっ」
鎌を構えるでもなく、びっくりしたような顔で棒立ちの人へ向かいます。
股の下をくぐり腰のあたりに大きいナイフを突き立てました。そのままその人のお尻を蹴飛ばしてハンマーの人の前へ。
「うおおっ!」
ハンマーの人は鎌の人を打ち据え、私に向かってこようとしましたが、私は横へ飛び転がります。
そしてすぐに立ち上がり、さっきの槍を拾ってハンマーの人に突き刺しました。
「うぶっ」
そのまま後ろへ倒れたハンマーの人。
「ふふっ」
私はまた笑ってしまいました。だってすごく楽しいから。
それにすごく気持ちいい!
お仕事で男の人におっぱいを吸われた時みたい。
この人達を動けなくしたんだって考えるだけでゾクゾクします。
「お見事だねぇ」
オーチャーさんが手を叩くとドアから何人もの男の人が入ってきて、五人を運び出し、床の掃除を始めます。
「さ、リア、こっちへ。また服を脱いで」
「はい」
オーチャーさんがさっきと同じように私の身体を調べます。
「う〜ん。無くなってるものが見当たらないね。すると……」
オーチャーさんは考え込んでしまいました。
「リア、君の代償はあまり例のないものかもしれない」
「そうなんですか?」
「もう少し詳しく調べてみないと断言できないけどね。さ、リア、あの扉の向こうで水浴びしてきなさい」
「はい」
オーチャーさんの言う通り、私は水浴びをしました。
立派な浴室です。公衆浴場みたいに石鹸が置いてありましたので、それも使いました。
外へ出たら私が着ていた服が無くなってて、代わりに新しい服が置いてありました。しもかなり上等な服です。
「あのぅ」
「ああリア、前の服は血の汚れがひどいからね、処分したよ。それは君に差し上げるんでね、着なさい」
「ありがとうございます」
私は頭を下げてオーチャーさんにお礼を言いました。
「気にしなくていいよ。ここには何でもあるからね」
オーチャーさんはニコニコして言いました。きっとオーチャーさんはお医者さんで大貴族だと思います。
デニロさんの待つ部屋へ戻ると、すぐにソファに座るように言われ、召使いさんがお茶とお菓子を出してくれました。
「さ、食べなさい」
わぁ。私は目の前の美味しそうなお菓子に夢中になりました。こんなに美味しいお菓子は食べたことありません。
「さてデニロ。リアの“力”は殺人に特化したものだと思う。五人の犯罪傭兵をあっという間に屠ったよ。手持ちは小さなナイフでね」
「そうですか」
「ただ代償が何なのかは不明だ」
「……不明」
「うん。統計的に多いのは毛髪、歯、爪、筋肉なんだけど……」
オーチャーさんが私の方へ向きました。
「少し変わった例では指や耳、眼球、骨というのもある。でもリアはそのどれにも該当しない」
「すると……」
「デニロ、君も聞いたことがあるだろう? 内腑を代償とすること」
「ええ。その件で先生にお話があります」
「ん?」
「先週、親分が大きな商会へ借金の取り立てに向かったことがありまして」
「親分さんは手広くやってるからねぇ」
「はい。向かった先に“力”を使う用心棒がいました」
「ふむ。王家に拾われたら食いっぱぐれないのに、何か事情があって用心棒稼業に身をやつしていたんだね」
「ええ。そいつは小さな雷を起こして操ってました」
「ほう」
「ですがこちらの手勢も数を揃えてましたので、一晩中かかってやり合いました。奴は何百回も雷を撃ってたと思います。そうすると急にその男が倒れました」
「それで?」
「はい。ことが終わった後に親分の命令で元猟師のやつに解体させました」
「ははっ。親分さんも好奇心旺盛だねぇ!」
オーチャーさんは愉快そうに笑いました。私もデニロさんの話が気になります。
「親分も先生のお話で興味が出たって」
「そうなのかね。まぁ協力者のコネは多い方がいいからね」
「親分も『先生のお役に立てれば』と」
「ありがたい」
「で、そいつが言うには肝臓がなくなってたと」
「肝臓……そうか。肝臓はね、大した再生能力を持つ内腑なんだ。若い人なら半分に切っても数日後には元通り」
「そうなんですか」
「“力”を使いすぎたんだね。親分さんにも私が感謝していたと伝えて欲しい」
「わかりました」
「リアの代償がはっきりするまでは、あまり力を使わないようにした方がいいよ」
「はい。親分にしかと伝えます」
デニロさんが大きく頷いて、私の方をチラッと見ます。
「王家に届けず手元に置くことにしたからには、この子を大事にしたいだろうし」
「その通りです」
「今日の費用はね、さっきの情報で相殺。それでいいよ」
「え? しかし……」
「いいんだ。寧ろ私がもらいすぎなぐらい、貴重な情報だったよ」
「は、はい」
「リア」
オーチャーさんが私の目を覗き込んできます。
「もう一度言うよ。君は“力”を使えるようになったけれど、その度に身体の何かを対価として失う」
「はい」
「“力”を使いすぎると命に関わるかもしれない」
「はい」
「だから決して“力”を使いすぎてはいけないよ」
「はい」
「よーし良い子だ」
そう言ってオーチャーさんは笑ってくれました。