ようこそ希望と幸運に満ちた素晴らしき教室へ   作:予測精度30%のカムクラ

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CHAPTER 01 入学編
1. ようこそDクラスへ


 バスから下車したボクらを待ち構えていたのは、天然石の連結加工が際立つ大きな門だった。

 

 ──高度育成高等学校。

 

 東京の埋立地の一角を陣取る広大な敷地。最も目立つ場所に(そび)えるその建物は、とある理念の下、日本政府主導で設立されたという。

 その理念とは、未来を支えていく若者を育成すること。

 字面だけを見るならちょっとありきたりというか、他の教育機関が掲げるそれと大差ないように思える。けれど政府肝いりの事業なだけに力の入れようは凄まじく、本校には唯一無二とも言うべき最大の特徴があった。

 

 なんと、生徒の希望する進路をほぼ百パーセント叶えてくれるというのだ。

 

 徹底した指導により、ジャンルを問わずあらゆる夢を実現させる──そんな()()()()()()()()()()()を、この学校は大真面目に謳っている。

 事実、パンフレットの紹介にある卒業生の中には、界隈で名を馳せるような著名人も多く見受けられる。彼らの分野は学術からスポーツ、芸術関係に至るまで非常に幅広い。

 

 国の将来を担う希望を育て上げ、各界に有望な人材を輩出する名門校。

 もしその肩書きが本当ならば、まさに第二の希望ヶ峰学園と呼んでも差し支えないだろう。

 そして、椎名さんを見てボクは確信した。この学校に(つど)う生徒たちもまた、才能を秘めた輝かしい逸材だってことを。

 才能が無ければ、どんなに優れた教育を受けたところで未来を支える希望になんかなれっこないからね。

 

 ボクがこの学校への進学を決意したのは、ボク自身の目で確かめたかったからに他ならない。

 

 希望ヶ峰学園が存在しないこの世界でいかにして希望を集め、育成するのか。

 在籍する生徒たちがどんな才能を持ち、どれほどの輝きを見せてくれるのか。

 果たして彼らは本当に希望の象徴たり得るのか。

 ボクは見届けなければならない。それがボクに課された義務であり、使命であり、存在意義なのだから。

 

 だからボクは入学する。

 希望のために。ひいては、前世でも(まみ)えることの叶わなかった真の希望を創るために。

 

 もしかしたら、また()()()()に会えるかもしれない──そんな女々しい期待を胸に秘めながら。

 

『狛枝クンの嘘つき。希望のためになんてクッサイこと()かすのは勝手だけど、結局は自分のために入学したんでしょ。何でもかんでも希望を免罪符にできると思ったら大間違いなんだからね!』

 

 再び現れたモノクマの戯言を無視し、椎名さんとともに校門をくぐる。

 

 刹那、立っていられないほどの眩暈がボクを襲った。ブラックアウトしていく視界の中、謎の扉が出現して────なんてことはなく。

 

 校舎前に設置された掲示板へと無事たどり着いた。

 敷地に入るだけでこんなに身構えるのはボクくらいなんだろうな、などと思いを馳せていると、椎名さんがどこかそわそわした様子でこちらを見つめていた。

 張り出されたクラス表に一足早く目を通していたらしい。

 

「私はCクラスでしたが……狛枝くんはいかがでしたか?」

 

 背中を押され、ボクも掲示板を一瞥する。

 並ぶのは百六十名分の入学者名簿。その中から自分の名前を捜すのは骨が折れると思っていたけど、ボクの場合あっさりと見つかった。下から数えてすぐの場所にあったからだ。

 ただし、所属クラスに『C』の文字はない。

 

「ボクはDクラスみたいだね。残念ながら別のクラスだ」

「そうですか……」

 

 途端に、椎名さんの瞳に哀愁の色が浮かぶ。

 

「せっかくなら同じクラスで本の感想を語り合いたかったのですが……うぅ、とても残念です……」

 

 今にもしょんぼりという音が聞こえてきそうなくらいに落ち込んでしまった。

 まさかボクとクラスが分かれただけでこんなにも悲しいと思ってもらえるなんて。ボクのような凡人(モブ)にとっては身に余る光栄だ。

 そんな切なげな顔も絵になりそうなくらい、彼女は美しい。心からそう思う。

 

 だからこそ実に惜しい。

 

 希望(キミ)に、涙は相応しくない。

 

「まぁまぁ、そんなに気を落とさないでよ。クラスが違うからといって一生会えないわけじゃないんだし、放課後や休日だったら好きなだけ話せるよ」

「そう、ですね……少し結論を急ぎすぎました。学校生活も始まったばかりですもんね」

「そうそう。なにせ三年間も同じ学年で過ごすんだからね。むしろ会わないようにする方が難しいくらいだよ」

「ふふ、おっしゃる通りです」

 

 椎名さんの顔に微笑みが戻る。うんうん、やっぱりキミには笑顔が一番よく似合うよ。

 目的地が定まったところでボクらは掲示板から離れ、二人並んで校舎に入った。

 新入生の姿はまばらで、廊下に人影はあまり見られない。蛍光灯に白く照らされ、適度に清潔感の保たれたそこは至って普通の廊下だ。

 

 ──そう、普通。

 ボクにとっては、()()()()()()()()()()()が広がっている。

 

『なんだかキナ臭くなってきましたなぁ!』

 

 モノクマが鼻息荒くボクらの周りをうろつく。それに伴い徐々に蘇る頭痛。

 相変わらずコイツはボクの邪魔しかしてこない。

 

「うるさいなぁ……」

「狛枝くん?」

 

 振り返る椎名さんに何でもないと返し、話の続きを促す。

 

「それにしても、三年もあったら一体どれほどの本と出会うことができるのでしょうか。今からとても楽しみです」

「椎名さんならきっと図書館の本を全て読破できるよ」

「買い被りすぎですよ、狛枝くん。国が運営しているのですから、蔵書数も相当あると見るべきです。気に入った本はリピートすることもありますし、やはり全てを読むのは難しいのではないでしょうか」

「それならそれで嬉しいとボクは思うな。読み切れないほど大量の本に囲まれるなんて、本好きからしたら垂涎のシチュエーションじゃないかな」

「確かに、とっても素敵な夢ですね」

 

 そんな雑談に興じているうちに、ボクらは教室の前へとやって来た。

 名残惜しいけれど、椎名さんとはここで一旦お別れだ。彼女の話は実にウィットに富んでいて、久々に楽しいひと時を過ごすことができた。叶うなら二十四時間ずっと聞いていたいくらいだ。

 でも、ボクにはやるべきことがある。

 この扉の先に待っているであろう希望の候補生──彼らに会うという最重要任務が。

 

「それじゃボクはこっちだから。バイバイ、椎名さん」

「……あの!」

 

 扉に手をかけた瞬間、椎名さんに袖を掴まれた。

 

「もし……もしよろしければ、今日の放課後、一緒に図書館に行きませんか?」

 

 本当に全部読破できるかどうか確かめてみたいので──なんて可愛い理由も添えられる。

 当然、ボクの答えは決まっていた。

 希望(彼女)からのお誘いなんて、ボク如きの人間が断れるわけがないからね。

 

「もちろんだよ。()()()、椎名さん」

 

 それを聞いた椎名さんの表情は、わざわざ描写するまでもない。

 今日一番の笑顔だったことだけは付け加えておくよ。

 

「──はいっ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 Dクラスの教室に入ると、既にほとんどの座席が埋まっていた。

 離席して同級生と話している人を除けば、ボク以外の全員が座っている状況。ギリギリのバスに乗っていたボクがどうやら最後の登場だったみたいだ。

 

「ねぇねぇ。今来た男子、結構イケメンじゃない……?」

「背高くて細身で優男顔……かなりの優良物件かも。あたし話しかけちゃおっかな」

「ケッ。イケメンなんて全員滅んでしまえ」

 

 突き刺さる視線を無視して、ボクのネームプレートが置かれた席に向かう。

 位置としては中央のやや後方。一般的には当たりでも外れでもない普通の席順といったところかな。

 単なる平凡(モブ)に過ぎないボクにとってはまさに相応の席だろう。それに希望のみんなに囲まれるのも悪くはないね。

 社交に勤しむ同級生たちの邪魔にならないよう、静かに腰を下ろす。

 それを見計らってか、隣の席の女子が会話を中断してこちらに近付いてきた。

 

「あの、初めまして! 私、櫛田(くしだ)桔梗(ききょう)って言います。もし良かったら名前聞いてもいいかな?」

 

 誰もが想像するようなキラキラした女子高生。それが第一印象だった。

 

 椎名さんとは別のベクトルで釘付けにさせる容姿。

 庇護欲を誘う顔の角度、上目遣い。

 さらには最後に入室したボクを孤立させないよう、さり気なく話のきっかけを与えてくれる高いコミュニケーション能力。

 まさに完璧。理想的なクラスのマドンナ。

 もし二つ名を付けるとするなら──【超高校級の女子高生】とかかな? ちょっと頭痛が痛い感じもするけど、それくらい彼女の姿は光り輝いていた。

 

 頬のにやけが止まらない。

 

「初めまして。ボクの名前は狛枝凪斗だよ。よろしくね」

「狛枝、凪斗くん……何だかかっこいい名前だね! こちらこそ三年間よろしくね!」

「ありがとう。名前を褒められたのは生まれて初めてだよ」

 

 前世から含めてね──心中でそう付け足しながら握手を交わす。

 

 椎名さんもそうだったけど、どうして女の子の手ってこんなに柔らかくて触り心地が良いんだろうね。

 握手という行為自体はただの挨拶なのに、異性というスパイスが加わるだけで特別な気分になれる。それが櫛田さんのような可愛い存在なら尚更だ。

 好きな人とずっと手を繋いでいたいという感情も、今なら分かる気がするよ。

 

『そんなこと言っちゃって〜。ボク()の手ほどじゃないでしょ、このこの』

 

 彼女の手がブレる。

 消える温もり。

 整えられた爪が、派手なネイルに置き換わる。

 絶望が、ボクの手を拘束する。

 

「──ッ」

 

 ボクは努めて冷静に、平静に、彼女との握手を終えた。

 手をわずかに湿らせた汗は、多分気付かれてはいない。

 

 ここで話の流れが途切れるのは不自然だ。

 会話を、続けなければ。

 

「……ボクに言わせれば、櫛田さんの方こそすごく綺麗な名前だと思うよ。桔梗には『永遠の愛』『誠実』『気品』なんて花言葉もあるくらいだし、きっと君もそれに負けないくらい美しい心を持っているんだろうね。羨ましいよ」

「うぇ!?」

 

 どうにか話題を絞り出したけれど、今度は櫛田さんが固まる番だった。

 

「え、えへへ……ちょっと大袈裟だよ狛枝くん。そんなんじゃないって……でもそう言ってもらえてすっごく嬉しいな。ていうか狛枝くんって物知りなんだね! 自分の名前だけど私ですらそんなに詳しく言えないよ。すごいね!」

 

 手でパタパタ(あお)いだり、かと思ったら胸の前でぐっと拳を作ったり。そんなころころ変わる仕草が小動物のようでつい愛おしく感じる。

 ──否、愛おしく()()()()()()()

 

「物知りだなんて大層なものじゃないよ。花言葉なんて調べればすぐ出てくるし、櫛田さんなら頭も良いだろうからすぐに覚えられるよ」

「そ、そうかな……でもそれをスラスラと話せるのは普段の努力の賜物だと思うな、私。やっぱ狛枝くんはすごいよ、尊敬しちゃうな」

「いやいや、ボクなんて櫛田さんの足元にも及ばないよ。ここに合格できたのもきっと運が良かっただけなんだろうし」

「もう、狛枝くんは謙遜しすぎだよ。知識量だったら多分私よりも上だもん」

「櫛田さんの方が素晴らしいよ」

「狛枝くんだって──」

 

 と、果てなき称賛合戦が始まろうとしたところで、始業を告げるチャイムが喧騒を鎮めた。

 櫛田さんがウィンクして会話を切り、みんなと同じように席に戻る。

 それと当時に開かれる扉。入ってきたのは教諭らしきスーツ姿の女性だった。

 

 ……最近の女性は胸元を大きく開けるのが流行りなのかな?

 なんて、とある体操選手を思い浮かべたのも一瞬。教壇に立った彼女は長いポニーテールを揺らし、視線のみでボクらを見回した。

 

「新入生諸君。私はDクラスを担任することになった茶柱(ちゃばしら)佐枝(さえ)だ。担当科目は日本史。この学校には学年ごとのクラス替えが存在しないため、卒業までの三年間をお前たちとともに過ごすことになると思う」

 

 よろしくと、簡潔に自己紹介を済ませる茶柱先生。次いで見覚えのある資料が順番に配られる。

 事前の入学案内にも同封されていたそれには、高度育成高等学校の()()()()()()についての説明が事細かく記載されている。

 先生による解説が流れている間、ボクはこれまでに提示された事実(コトダマ)を整理することにした。

 

 まず、クラス替えの有無について。

 卒業までクラス替えがないということは、必然的に他クラスの生徒たちとの交流機会も減ってしまう。これは死活問題だ。

 彼らの希望を全て見届けるためには、能動的に接触していかなければならない。

 できれば他学年の生徒とも親睦を深めていきたいところだし、状況次第ではかなり慌ただしくなりそうだね。

 

 次に、寮生活の義務付けと、外部との連絡禁止。

 これらに関しては、ボクへの影響は皆無と言っていい。

 希望あふれるみんなと寮生活できるなんて願ったり叶ったりだし、商業施設や娯楽なんかも充実したところで興味を(そそ)られることはないだろうからね。

 それに、ボクには連絡を取りたい人なんて一人もいない。故にデメリットになるわけでもなし。

 

 そして問題の三つ目。設置された監視カメラの異常な数についてだ。

 現時点で学校側からの説明はない。けれど防犯を目的とするには明らかに多すぎる。

 椎名さんと歩いている時に抱いた既視感もそうだった。

 玄関や廊下は言わずもがな。今いる教室内だけでも二つ、死角を補うようにして監視の目を光らせている。

 それも設置されているのは目立ちにくいようなタイプのものばかり。すなわち、(はな)から犯罪抑止効果は期待していないということ。

 別の思惑があるのは考えるまでもない。

 

 まるで、あのコロシアイの日々の再現みたいじゃないか。

 

『狛枝クン、お口が緩んでますよ。チャックチャック』

「おっと」

 

 口元を隠して、意識を現実に戻す。

 先生の話は佳境を迎えていた。本校独自にして最大の特徴とも言える、Sシステムについての説明だ。

 

「今から学生証カードと携帯端末をそれぞれ支給する。この学生証は身分提示だけでなく、施設の利用や商品購入など、生活のあらゆる場面で使うことになる。まあ、クレジットカードやポイントカードの類いだと思ってくれればいい。紛失には十分注意するように」

 

 茶柱先生から学生証と端末を受け取る。見てくれは確かにただのカードだけど、ここでの生活に無くてはならないものだという。

 

「例えば売店で買い物をする際。学生証を機械に通す、または提示することで現金の代わりにポイントが消費され、購入手続きが完了となる。敷地内にあるものなら何でも購入可能だ。ちなみに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。覚えておくといい」

 

 さらに説明は続く。

 

「ポイントは毎月一日に自動的に振り込まれることになっている。まず初期費用として、()()()()()()()()()1()0()()()()()()()()()()()()()()はずだ。1ポイントにつき1円の価値がある。これ以上の説明は不要だろう」

 

 違和感(コトダマ)が、着実に増えていく。

 

「ポイントの支給額に驚いたか? ()()()()()()()()()()()()()──つまり、入学を果たしたお前たちにはそれだけの価値と可能性があると、学校側が判断したに過ぎない。先ほども言ったがポイントは必ず月初めに振り込まれる。遠慮なく使っていいぞ」

 

 その後、ポイントは卒業後に全て回収されてしまうこと、譲渡が可能なこと、カツアゲといった不正行為には毅然とした対応を取ることなど、補足説明がつらつらと述べられる。

 尤も、クラスメイトの大半はそんな些事など耳に入っていないだろうけど。

 入学したばかりのボクたちに突如配られた10万円。

 希望あふれる彼らだってまだまだ子供なんだ。お小遣いに浮かれるのも仕方のないことだよ。

 

「さて、質問がある者はいるか? いないなら私は入学式の準備に戻るが」

 

 茶柱先生がぐるりと教室内を見渡す。

 手が挙がる気配はない。戸惑いと興奮で、質問しようにも考えがまとまらないといった様子だ。

 

 じゃあ遠慮なく質問させてもらおうかな。

 懸念事項はなるべく早めに消化させておきたいし、何よりこの機会を逃したらずっと気付かない人もいるかもしれない。

 ゲームみたいに会話ログが表示できれば別だろうけど、そんな便利機能は現実には実装されないからね。

 

 分かりやすくヒントを出してあげるのは、チュートリアルのお約束ってことで。

 

「狛枝か、どうした」

「クラス替えについて質問したいんですが、構いませんよね?」

 

 ゆっくり立ち上がり、身振りを大きく見せる。

 不自然にならない程度に。でもみんなの記憶に残るように。

 

「先ほど先生はこうおっしゃいました。『学年ごとのクラス替えは存在しない』、そして『卒業までの三年間をともに過ごすことになると()()』と。クラス替えがないのは確定事項、だから断定した。これは分かります。でもどうして後半は『思う』なんて曖昧な言い方をしたんでしょうか」

「……何が言いたい?」

「いえ、ただの言葉の綾だったのならボクの勘違いで終わります。ですが、敢えてボクの意見を言わせてもらうなら──ボクらがずっとDクラスのままで過ごすのは確定事項ではないから、じゃないですか?」

 

 茶柱先生の視線が鋭くなる。続けろ、ということらしい。

 

「学校による正式なクラス替えは存在しない。ただし正規の手段でないのなら、クラス変更は起こり得る。ボクは先生の説明をそう受け取りました」

「論理の飛躍だな。単なる仮定をまるで事実のように扱っている。それに私はそんな説明をした覚えはない」

「直接的にはそうですけど、先生はこうも断言していましたよね? 『学校内においてポイントで買えないものはない』と。その事実を照らし合わせれば、ボクの考えもあながち間違いではないと思うんですけど」

 

 クラスを変更する権利もポイントで購入できるのではないか。

 目下、ボクが一番知りたかったのはこれだ。

 大人数を異動させるのは無理にしても、他クラスの希望を見るためならボク一人がクラスを移れば事足りる。それくらいなら実現できるかなと踏んでの発言だ。

 それに、椎名さんと同じクラスになる可能性がゼロなのはちょっと残念だったからという思いもある。

 

 そして──茶柱先生の沈黙は、それが正しいと悟るには十分だった。

 

「……結論から言うと、確かにクラスを移動する方法は存在する。そしてそれがポイントにより可能なのも事実だ。相場は2000万ポイント。それ以上のことは現時点では伝えられない」

「今までにクラス替えをした生徒はいましたか?」

「残念ながら過去にはいないな」

 

 ま、そうだろうね。

 毎月10万ポイントもらえたところで、卒業までの理論値は360万。2000万には到底及ばない。

 現状、手段もメリットも皆無。そんなルールが何故か存在している。

 

「じゃあ最後にもう一つだけ。実際にクラスを移動したわけじゃないけど、()()()()()()()()()ってどれくらいいましたか?」

「……それも答えられない」

 

 これで満足か? ──そうにやけた彼女に、ボクも満面の笑みでもって肯定した。

 

 クラス替えの希望がまだ残されていること。それに加えて、先生には()()()()()()()()()こと。

 これを知ることができただけでも大収穫だ。

 

 着席する。

 いつの間にか教室内は静まり返っていた。

 

「他に質問のある者はいないな。では良い学生ライフを送ってくれたまえ」

 

 茶柱先生が退室すると、思い出したかのようにざわめきが戻ってくる。

 10万ポイントの使い道、放課後の予定、学校側の真意。あるいは──ボクに対するあれやこれや。

 ボクの隣人も例外ではなかった。

 

「す……すごいよ狛枝くん!」

 

 櫛田さんが頬を紅潮させながら話しかけてくる。

 

「私、10万ポイントに夢中で全然頭が回らなかったよ! 確かに違和感というか、不思議だなって思う部分は何となくあったんだけど……あんなに的確に言語化できて、しかもそれが当たっちゃうなんて! もしかして狛枝くんって天才?」

「残念ながらボクはただの凡人。それに2000万ポイントを使ってまでクラスを移動したい人はそういないだろうし、結局さっきの質問は何の意味もなかったと思うよ」

「ううん、そんなことは絶対ないよっ。狛枝くんはかっこいいし頭もいいし……一緒のクラスになれて良かったって、心の底から思ってるの」

「櫛田さんは本当に優しいなぁ」

「狛枝くんの方が──」

 

 なんてデジャヴのやり取りをひと通り終えたところで、ボクは話題を変えることにした。

 クラス最大の関心事──高額なポイント支給に対する所感を聞きたかったからだ。

 

「それにしても、いきなり10万ポイントもバラまいてくれるなんてね。ボクも流石に驚いちゃったよ。随分と太っ腹な学校なんだね」

「ほんとだよね。高校生からしたら大金だもん。もらえるのは嬉しいけどちょっとびっくりだよね。私、まだ心臓ドキドキしてる……」

「櫛田さんは何に使うかもう決めた?」

「日用品みたいな生活必需品は除いてだよね? うーん……お洋服見たり、カフェでお茶したりとか……あ、みんなでカラオケにも行きたいかな~」

「ふふ、その調子だと10万ポイントもすぐなくなっちゃいそうだね」

「あはは……でも確かに使いすぎは良くないかも。()()1()0()()()()()()()()()()からって、浪費癖が付いちゃったら治すの大変だもんね。気を付けなきゃ」

 

 櫛田さんの顔に浮かぶのは、まさに希望に満ちた笑顔だ。

 これからの学校生活、私生活、そして卒業後の自分──希望の未来を思い描くその表情は、見ていて脳が痺れるほどに美しい。

 

 だからこれは前払いだ。

 櫛田さんがボクに見せてくれるであろう希望に対する、前払い。

 本当は彼女自身に解いてほしかったけれど。まだチュートリアルってことでノーカウントにしておいてあげるよ。

 

 

 

それは違うよ

 

 

 

 この世界での初めてのコトダマを、キミに捧げよう。

 

 




【モノクマ劇場】

モノクマ
「狛枝クンの席、櫛田さんの隣にするか、それとも■■■(原作主人公)クンの近くにするのか、投稿する直前まで迷ってたんだって。
そんなクソどーでもいいことに時間を浪費するから凡人は凡人のままなんだよね!
ボク? ボクだったら席に座る前に教室を爆破させるもん。
『爆発オチなんてサイテー!』ってコメントで感想欄を埋めてはい完結! 筆者の次回作にご期待くださらなくて結構です。
てなわけだから早く爆発して消えてよね。モノミ」

モノミ
「……え、あちしの出番これだけ!?」
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