BLACK PSYREN   作:どるき

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Call.17「木更襲撃」

 蓮太郎は生徒会長である司馬未織との待ち合わせの為に、休日の学校へと向かっていた。木更たっての要望から木更も合流していたのだが、仲が悪い相手と対峙するとはいえ完全武装をするその出で立ちに蓮太郎は身じろぎしていた。

 それは、敵をあぶりだすために二人を尾行するアゲハと桜子も同様だった。

 

「うへえ、天童社長のあの格好……サイレンゲームに参加していた頃の桜子より凄いんじゃないか?」

「刀にショットガンと拳銃……当時の私じゃ銃器なんて手に入らなかったとはいえ確かに凄い装備ねアレ」

 

 さすがに通学路にてその格好なのだから人目を引くのも仕方がないのだが、木更本人はまるで気に留める様子はない。

 アゲハ達は蓮太郎と木更が学校の敷地に入ったことを確認すると、学校の裏手に回り塀の内側に忍び込む。そして人目を盗んで屋上まで壁伝いにかけ上ると一息をつく。

 

「ここまでくれば流石に大丈夫かしらね」

「今日は授業もねえだろうしな」

 

 この日は土曜日と言うこともあり学校内の人影は少ない。心配があるとすれば部活動で登校している生徒が屋上にあがってくることくらいであろうか。だがそれから二時間ばかりが経過するも誰も屋上に来ることは無く、そんな心配も取りこし苦労に終わる。

 

「ふあ~―――

 おっと! どうやら話は終わったようだぜ」

「そのようね、尾行を再開しましょうか」

 

 二人は蓮太郎に気が付かれないように注意を払いつつ彼の尾行を再開した。学校を出て、路地の角で木更と別れたところでアゲハは不審な男に気が付く。

 

「桜子……」

 

 アゲハの呟きに桜子も反応し、すぐさまにテレパス用の有線トランスを行う。

 たとえ相手がサイキッカーであろうとも直接心を覗かない限り傍受は困難なこのトランス技術は街中での秘密話にも最適なのだ。

 

『気が付いているか? 後ろに殺気がビンビンな奴がいるぜ』

『トーゼン、あんな禁人種(タブー)みたいな雰囲気なんて街中ではとても目立つもの』

 

 二人は立ち止った女性とその様子を気にかける恋人のていでさりげなく殺気の放つ方向を確認する。するとそこには全身を覆うマントに顔を隠すスカーフのような布を纏った奇抜なファッションが歩いていた。

 体格から推測するとおそらく男であろうが、異様すぎるその様相から街を行く人々は意図的に認識しないように顔を反らしており、その男の周囲だけがぽっかりと開いていた。

 

『方向も一緒だしとりあえずアイツをつけてみよう。たとえNEXTとは別だとしても何か事件を起こすつもりなのはまるわかりだぜ』

 

 まるで暴力が服を重ね着しているかのような殺気の男はその後も蓮太郎の後ろをついて歩き続ける。蓮太郎も男に気が付いているのか、周囲を気に掛けるような行動が目立ち始める。

 おそらく蓮太郎なりのトラップなのであろうか、蓮太郎はあえて人気が少ない路地裏に足を運んだ。ここでなら戦いを挑まれても周囲に被害は出ないという事だろう。

 人気がなくなったところで男が動く。

 

「チッ!」

 

 だが右手を背中に当てようとしたところで、男は舌打ちをして右手をポケットに戻す。そして電話が入ったのか、取り出したスマートフォンのパネルを操作し電話を受ける。

 

『予定が変わった、今は待て』

「なんでだよ」

『ティナの仕事に影響するからだ。奴が天童の代わりに聖天子直々の命で護衛についていることが分かった。奴を襲うのは五日後、護衛中の奴をイニシエーターと分断すればティナの仕事が確実になる』

「だったら今のうちに仕留めても一緒じゃないのか?」

『それだと最悪の場合、聖天子が引きこもるかもしれん。それでは斎武大統領が訪問中に仕留めろと言うクライアントの要望に間に合わん』

「チッ! 気が小さいな。本当に世界一の天才なのかよオメーは」

『どうとでも言え。死にたいのならな』

 

 電話を切ると、男は殺気を引いて踵を返す。

 尾行中のアゲハと桜子はすれ違いざまにその背中に大きな突起を見ていた。

 思い過ごしか、それとも何かの事情で行動に移さなかったのか。その真相は二人にはわからなかった。

 

 

 それから四日ほど、二人は蓮太郎の後を尾行し続けた。

 蓮太郎は定期的に眠た眼をこする金髪幼女に呼び出されてはたこ焼きをタカられていたのだが、延珠に知られたら面倒なことになるなと二人は心のうちに伏せていた。

 この日は延珠と共に菫のもとに相談に来ており、先に話が終わったのか延珠だけを残して蓮太郎は病院を立ち去った。

 当然、尾行対象である蓮太郎を優先して二人は尾行を再開したのだが、その途中で電話を受けた蓮太郎が血相を変えて駆け出すとしばらくして桜子の携帯電話にも着信が入った。

 相手の名前は室戸菫である。

 

『落ち着いて聞いてくれ、大ボーンヘッドだ』

「先生? どうしたの」

『今さっき延珠ちゃんから聞いた話だが、聖天子の護衛計画はかなり漏洩が激しいようだ。おそらく天童民間警備の情報も漏れているだろう。私が襲撃者ならまずは木更ちゃんを襲って蓮太郎君の心を折る……嫌な予感がする、急いでくれ』

 

 菫の声は妙に上ずっており、それだけ菫が緊張しているのだということを物語っていた。だがたとえ一キロ弱の距離とはいえ、不安と慟哭で張り裂けんばかりに心臓が鼓動する蓮太郎を衝動のままに放置するのも心配だと二人は二手に分かれることにした。

 蓮太郎の尾行は桜子に任せてアゲハが先行することにしたのだ。これはアゲハならばたとえ相手が機関銃を持ち出そうとも暴王によって対処が可能だからと言う理由に他ならない。

 

「先生の取りこし苦労ならいいんだけどな」

 

 ビルの谷間を飛び跳ねてハッピービルディングを目指すアゲハであったが、ビルの前に仁王立ちする男にその期待は打ち砕かれる。

 頭巾にマント、そして背中から見える突起物とまさに先日の不審人物に他ならない男がハッピービルディングの階段前に立っていたのだ。

 

「―――邪魔をする気か?」

「言いがかりは止せよ、夜科」

「なんで俺の事を?」

「俺だ」

 

 アゲハを前にした男はその頭巾を取った。頭巾の下の顔はアゲハにも覚えがあるものだった。

 

「伊熊なのか」

「ああ、久しぶりだな」

「夏世をほったらかしておいて何故こんなところにいるんだ? それにオマエをとっちめて夏世の前に叩きだしたいのはやまやまだが、今はそれどころじゃ―――」

 

 突然現れた伊熊将監の姿に驚きつつも、アゲハはそれよりも先にとビルの階段を昇ろうとしていた。だが、突然の轟音がアゲハの言葉を遮る。

 

「お、始まったか。今頃中にいるお嬢ちゃんの手足はミンチになっているかもな。ああ、もったいねえ」

「この音……それに伊熊、オマエは何を言っているんだ」

 

 将監の言葉にアゲハは耳を疑う。失踪したはずの将監がなぜ木更を狙う襲撃者の事を知っているのか。答えは一つだがそれは夏世の事を考えると思いたくない発想である。

 

「だから天童社長だよ。あれだけのデカパイ女を殺すなんてもったいねえとは思わないか? おっと、オマエのコレはペチャパイだったな」

 

 将監はアゲハに軽口をたたく。ごく自然に木更を殺すという将監の挑発にアゲハも歯ぎしりを立てて睨む。

 

「怒ったか? まさかオマエ、あの女社長に鞍替えしたか。可愛い顔して浮気者だな」

「―――骨の一本や二本くらいどうでもいいわね」

 

 将監の桜子への侮蔑の言葉はちゃっかり届いていた。ハッピービルディングまであと五十メートルという距離を走る蓮太郎の後方二十メートル。合計七十メートルという距離を怒りに任せた全開のライズで駆け抜けた桜子は、ケースに入れていた木刀を取り出して将監に叩きつけた。

 鎖骨からの袈裟狩りの一閃はあまりの衝撃に一太刀にて木刀が砕けるほどである。

 その動きを眼前に見せられた蓮太郎は驚かざるを得ない。

 

「はあ……はあ……雨宮さんと、それに伊熊将監?! こんなところで何を」

「話は後だ! 天童社長が襲われている。俺は窓から飛び込むから、オマエは階段から行ってくれ」

 

 アゲハの怒鳴り声に再び木更を不安に思う慟哭に駆られた蓮太郎はアゲハの指示通りに階段を駆け上り社内に突入した。

 同様にアゲハも窓から飛び込む。先に突入した蓮太郎が開幕一番の焔火扇で襲撃者を殴ると、アゲハはコンビネーション攻撃として飛ばされた襲撃者をミドルキックで蹴り返す。

 よくよく室内を見渡せば機関銃によるものと思われる傷跡が生々しいが、襲撃者の手にあるソレは銃身が切り落とされてもはや鈍器と化していた。

 

「少女だとは聞いていたが、まさかここまで幼いとは驚いたぜ」

 

 アゲハは確認した襲撃者の姿に驚く。それもそのはず、年齢でいえば延珠や夏世と同じ十歳程度の子供なのだ。その眼は赤く輝いていたのだがアゲハは気が付いてはいない。

 

「嘘……嘘です……」

 

 蓮太郎の顔を見た少女は狼狽していた。不審に思ったアゲハもよくよく顔を確認し、その理由を察した。少女は蓮太郎を尾行中に見かけた金髪幼女その人だったからだ。

 

「ティナ……どうしてオマエが」

「暗殺の邪魔になるからです。天童社長を人質に出来れば護衛の手を緩めることができて暗殺が容易になる……そのはずだったのに」

「そうか、オマエがNEXTの……」

 

 状況判断でティナの事情を察した蓮太郎ではあったが、『親切なお兄さん』と『聖天子の護衛を務めるはぐれ天童の番犬』が同一人物であることを知らなかったティナはうろたえざるを得ない。

 まだ齢十歳の少女にそこまで冷徹になれと言うのも酷と言う事だろう。

 

「どうしてアナタが!!!」

 

 ショックで混乱したティナは銃身が壊れた機関銃のトリガーを引く。着火の衝撃で暴れまわる鋼鉄の鈍器は地面を叩き、先の戦闘による流れ弾と木更の放った『飛ぶ斬撃』によってもろくなった床を叩き壊す。

 舞い上がる噴煙を目隠しにしてティナは窓の外に飛び出した。

 

 アゲハが天童民間警備の社内に突入したその頃、桜子は突然現れた伊熊将監と相対していた。といっても、怒りに任せた桜子が先に手を挙げたのだから二人の間には緊張が走るのも当然である。

 

「おいおい、痛いじゃねえか雨宮ちゃん」

「アナタにちゃんづけされる筋合いはないわ」

「おお怖い。さっきのペチャパイってのはそこの天童社長との比較で言っただけだ。悪気はねえし俺はペチャパイも大好きだぜ」

「そうね、夏世ちゃんともよろしくやってたロリコンさん」

「テメー……」

 

 二人の舌戦に喧嘩早い将監は先に頭を沸騰させる。やはり口喧嘩では女が有利とはよく言ったものである。

 

「口喧嘩はこれくらいにして本題に入りましょうか。アナタ、何故ここに?」

「暫定だが新しい相棒が出来たもんでな。そのおもりだ」

「夏世ちゃんはどうする気なのよ」

「夏世は捨てた。何ならテメーが拾ってやれ」

 

 将監の口振りに桜子も怒る。

 

「今まで二人三脚でやって来た夏世ちゃんにそんな言い方をするなんて」

「俺にも他人のテメーには計り知れない事情があるんだぜ。ムカついた、予定外だがテメーは蹂躙決定だ!」

 

 それに対して逆上した将監は背中のバスタードソードを引き抜いて構える。

 心鬼紅骨の桜子とバスタードソードの将監、二人は互いに相手に一太刀を浴びせんとにらみ合う。

 単純にアゲハに軽く倒されたころの将監が相手なら殴り倒せば容易く決着がつくであろう。だが相手はおそらく『NEXT』の機械化兵士である。現に木刀をいくら桜子が力一杯に叩きつけたとはいえ骨よりも先に木刀が砕けるというのはなかなかに少ないだろう。

 その体験があるがゆえに桜子は警戒してまずは見の姿勢に出た。

 

「レディファーストだ、早く来いよ」

「急かすなんて罠を張っていますと言っているようなものよ。それにレディファーストの起源って知っている? 罠避けに使い捨ての侍女を先に行かせたことから来ているそうよ」

 

 将監はまさに義眼の機能をフル活用し後の先を取ろうと桜子を睨んでいた。

 桜子も気取られぬようにトランスのジャック端子をゆっくりと地面を這わせながら将監に接近させる。たとえ将監には見えていないとはいえ万が一を考えての慎重な動きである。

 だがそれを邪魔するように人影が間に飛び込んだ。天童民間警備の窓から飛び降りたティナである。

 

「この子……」

「しくじったか、このガキが!」

 

 将監は舌打ちをするとスモークを焚きティナを抱えて駆け出した。

 桜子も急いで追いかけようとしたものの、連鎖的に爆発を起こすハッピービルディングに気を取られた隙に逃がしてしまう。

 すぐに建物の中からアゲハ達も駆け出してきたが既に将監の姿は見失った後だった。




木更さんがょぅじょに襲われる話
あとついでにメタ視点ではバレバレとはいえ民警殺しの殺人犯が将監さんだとバレる話

襲撃に将監が関わっているのと同様に原作とは違い、木更は万全の状態で戦っていたとう展開です。描写は特にありませんが、五分の戦いの末にガトリングガン切断をしていることになります。
蓮太郎の焔火扇エントリー後に木更が平然としているのも持病の発作が起きていないからです。とっちらかるから木更の戦闘描写は結果に留めてカットしたのですが正直言うと文才の限界です。
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