BLACK PSYREN   作:どるき

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Call.20「コピーキャット」

 斉武大統領との会談を終えた聖天子は、蓮太郎を伴ってリムジンに乗り込むべく庭先に居た。護衛役の蓮太郎も狙撃ポイントであるJS60ビルからの狙撃に備えてその方角への警戒を強める。

 一歩、二歩と庭を歩いていると、蓮太郎は不意に虫の羽音に似た振動音を感じ、周囲を見回した。

 

「なんだ? なあ延珠、なにか聞こえないか?」

「妾は……」

 

 音そのものは聞こえるものの発信源が解らないため、二人には不快な雑音として心に引っ掛かる。音の発信源に気を取られてあたりを見回したことが功を奏し、蓮太郎は無警戒だったビルの谷間からマルズフラッシュの光を偶然捕える。

 

「間に合え!」

 

 蓮太郎は咄嗟に足のカートリッジを炸裂させ、その爆発的推進力を用いて聖天子を強引に拐かす。JS25ビルから鵜登呂亭までの距離はおよそ700メートルであり、引き金を弾いてから着弾までの間は一秒にも満たない。

 その絶望的に短い時間から、蓮太郎は自らを黒い弾丸へと変貌させることで勝利を掴みとった。ティナの弾丸は聖天子を救い上げて通り去る蓮太郎の背中を掠める。

 ティナの用いた狙撃ポイントはビルの谷間を縫うことが前提のため、正面玄関しか狙うことが出来ない。聖天子を抱きかかえて横に十メートルほど移動したことで、聖天子は狙撃不可能なポイントまで移動していた。

 

「里見さん?」

「危なかった。今のは偶然だぜ」

「蓮太郎、大丈夫か?」

「無事だ」

 

 蓮太郎はお姫様だっこから聖天子を解放する。

 

「俺は狙撃手と戦わなければならない。だからここから先の護衛は、彼らに任せる」

「蓮太郎、ティナの位置がわかったぜ、JS25ビルだ。それに敵は他のビルから遠隔操作でも撃ってくる、JS60ビルもそのうちの一つだ」

「了解だ。行くぞ、延珠」

「おう」

 

 蓮太郎は聖天子とアゲハに対する勝利の誓の意味を込めて、左手でサブアップをしてティナの待つJS25ビルへと向かっていった。

 蓮太郎たちが場を離れたことで、鵜登呂亭の庭先には聖天子とアゲハが残される。

 そこに、我知らずという顔をした斉武大統領が庭先に出てきた。

 

「いったい何の騒ぎだ?」

「狙撃だ」

「なに、狙撃? 聖人君子と言われる聖天子様も刺客に狙われておるのですか。くわばらくわばら」

「その割には嬉しそうだな。アンタも敵の標的かも知れないってのに」

「キミ……穏やかじゃないことを言うね。もっとも大阪エリアの人間であるワシからすれば対岸の火事だ。悪いとは思いつつ、人の不幸をあざ笑う気持ちが全くないとは言えんな。それにワシからすれば命を狙われることなど日常茶飯事なのでな、今更どうということはない」

 

 初対面ながら、その狸めいた雰囲気にアゲハは狙撃に関わっているのではとカマをかける。だがそれは暖簾に腕押しに終わる。

 アゲハは斉武に軽く会釈をした後、聖天子をエスコートしようとする。しかし、それも簡単にはいかない。黒装束の男、伊熊将監が鵜登呂亭の正門を潜って来たからだ。

 

「なんだあのガキ、先走った挙句に失敗しているじゃねえか。それに里見の姿もねえぞ?」

「何しに来た伊熊、狙いは聖天子か?」

「まあな。俺が里見をひきつけている間に狙撃するって算段だったんだが、いやはやうまくいかねえぜ」

 

 上手くいかないのも当然である。将監の作戦ではJS60ビルから狙撃することになっていたのだが、ティナが独断でJS25から狙撃するようにプランを変えたからだ。

 知らぬは将監の方なのだが、彼に責は無い。

 

「この一か月でテメーに何があった。テメーとの付き合いなんて禄になかったが、快楽的に人を殺せるような奴だったのか? オマエ」

「快楽ってのは違うぜ。俺は欲望に忠実に生きているだけだ。そのために必要だったら、俺は誰だって殺すぜ」

「……たとえそれが、夏世でもか」

「夏世は関係ねぇだろうが!」

 

 将監の真意を確かめるべく問い詰めたアゲハは彼の地雷を踏んだ。アゲハに夏世のことは触れられたくないのか将監は逆上したのだ。

 将監とて本来は夏世との民警生活を続けていきたいという淡い願望は持ってはいたのだが、その願いは影胤によって戦うための体を奪われた時点で不可能なものに変わっていた。

 再び戦うべくして手に入れた半機械の体も、今後一生涯『NEXT』に依存せざるを得ないという大きな代償を残していた。

 いやが応もなく、既に伊熊将監という人間はエイン・ランドの駒に成り下がっているのだ。この檻から逃れるためには、エインから檻の主としての座を奪う以外にないと将監は考えていた。

 そのためにはどんな敵であろうとも撃退し、今はエインの機嫌を取ることが最善だというのが将監の筋肉でできた脳みそが導いた答えである。即ちアゲハの問いに対する答えは『YES』ではあるが、一個人としての意地がそれを口には出させない。

 本能的に口に出した瞬間に、将監は自分が『NEXT』という檻の縛りを解くことをあきらめることになると感じていたからだ。

 

「仕方がねえ、あのガキがやらねえのなら俺が聖天子を……」

「させるかよ!」

 

 開き直った将監はバスタードソードを鞘から抜き、聖天子へと切っ先を向けた構えをとる。対するアゲハはライズを併用したチャージにて獣のような瞬発力で将監に殴り掛かる。

 アゲハはいかに将監が改造人間として能力を底上げされていようとも、蓮太郎のような眼を持たない限りライズでの速さには追いつけないと踏んでいた。だがそれは悪手だった。

 

「見えてんだよ!」

 

 将監は構えを崩して左手を柄から離し、ショートアッパーでアゲハの右腕を打ち返した。姿勢を崩されたアゲハを待ち受けるのは右手一本での逆胴による追撃である。

 いつかの模擬戦とは違い今回は真剣である。重さと切れ味を兼ね備えた一撃は、当たれば腰を切り落とすことなど雑作もない。

 

「くっ!」

 

 アゲハは咄嗟に横に飛んで斬撃を躱した。アゲハは将監の『NEXT』としてのコードネームを思い出し、迂闊に攻めたことに冷や汗をかく。

 

「忘れていたぜ、オマエの装備が蓮太郎のコピーだってな。だったら当然、その眼ももっているんだよな」

「誰がコピーだ、誰が! 俺は伊熊将監だ、コラッ!」

 

 バスタードソードを上段に構えた将監は、義足による脚力を生かした一歩で間合いを詰める。

 将監の義肢は蓮太郎の物とは違い、炸裂カートリッジによる爆速爆撃の機能はない。その代り、モーター補助動力のオーバーロードと、骨格保護用のコルセットを使った全身への動力伝達による馬鹿力を発揮する機能が組み込まれている。

 持続可能な瞬発力と言う点では蓮太郎の物を上回る代物に仕上がっていた。

 脳天を狙う唐竹の一閃に、アゲハは暴王でガードしようとする。だがアゲハは寸前でそれを取りやめ、斬撃をバックステップで躱した。

 

「逃げるんなら遠慮なく聖天子の首をもらうぜ。ターゲットじゃなくて命拾いしたな、夜科」

「誰が逃げるか!」

 

 アゲハが防御を躊躇したのは理由がある。もし暴王の月(メルゼズ・ドア)にて斬撃を防いでいたら、容易く防御ができたとしてもバスタードソードを削り壊すことになるからだ。

 民警殺しの犯人である将監が、再び夏世とコンビを組んで民警活動をすることは絶望的である。ならば形見の一つでも残してやりたいという思いがアゲハの脳裏に雑念として浮かび、それが躊躇を生んでしまった。

 半端に事情に踏み込んでしまったことが迷いにつながったのだ。しかし、一方で将監はそのバスタードソードを、アゲハや聖天子を殺すべく振り回している。いくらなんでも素手でそれに立ち向かうのは、蓮太郎と同じ二十一式バラニウム義眼を持った相手には厳しい。

 アゲハは腹を決めるしかないと、気持ちを切り替えてポーズを取る。

 

「さあ、聖天子の首が欲しければ俺を倒してみろ」

 

 アゲハはカンフー映画でおなじみの手招きを将監に見せる。将監はそれが虚勢であろうとなんであろうと、挑発の意味を含んでいるのがわかる以上は乗らざるを得ない。

 半分機械の体になろうとも、やはり将監の脳みそは筋肉なのだ。逆にいえば筋肉にメカを混ぜたからこそ、ややこしい事情を抱えた将監がこの場にいるというほうが正しい。

 

「舐めるな!」

 

 将監は左腕一本でバスタードソードを持つと、そのままブーメランのように投げた。回転する巨大な刃がアゲハと、その後ろにいる聖天子を襲う。先ほどの躊躇が護衛対象を背にするという失態を呼んでしまう。

 

「(ぶっ壊すか?)」

 

 将監の右手には拳銃が握られている。このまま下手に避ければ聖天子を見殺しにする上に、聖天子を抱えて逃げようと思えばその隙を銃で狙うのは必然である。

 アゲハはいよいよバスタードソードを壊すしかないかと、右手に暴王の月を構えて停滞させる。円盤形態(ディスク)のプログラムにより瞬時にディスクカッター状に変化した暴王の月を盾として構えようとした瞬間、アゲハの脳内に声が響く。

 

『アゲハ、剣を蹴りあげて!』

 

 当然それは桜子のテレパスである。五分ばかりの休憩を終えて、桜子が庭先に駆けつけたのだ。将監の投擲を見て作戦を思いついた桜子はアゲハに指示を送る。

 

『わかったぜ!』

 

 アゲハは桜子の指示に従い感覚機能強化(センス)を全開にして眼を凝らし、バスタードソードの軌道を見切る。

 そして眼前までひきつけた上で身体機能強化(ストレングス)を全開にして、バスタードソードを蹴りあげた。

 

「どっせい!」

 

 蹴りあげられたバスタードソードの切っ先が天を向き、空をかけた。

 その光景をニヤリとした笑みを浮かべながら将監は左眼で眺める。そして引き金を弾いた。将監からすれば必殺の一撃である。

 

「終わりだ」

 

 三発の銃声が鵜登呂亭に響く。発射の瞬間に勝利を確信し笑みを浮かべた将監であったが、それは幻に終わった。

 バスタードソードを蹴り飛ばしたアゲハは蹴りの前に生成していた暴王の月を防壁にしたからだ。将監が放った銃弾はすべて暴王によって削られて消滅する。

 目の前で披露された超常現象に、将監の手痛い記憶がフラッシュバックする。

 

「なんだそりゃあ……まるで……あの仮面野郎の……」

「あんな奴と一緒にするな。あれは、今のオマエの同類だ」

 

 同類とは将監と影胤が共に外道に落ちた機械化兵士であるという意味である。

 

「うおおおおお! お前を殺して、小僧も殺して……あの仮面野郎も超える!」

 

 将監は脚部をオーバーロードさせ、全力の跳躍で空を舞うバスタードソードに飛びつく。空中で柄を掴んだ将監は、そのまま刀身をアゲハに振るう。

 

「りゅー! つい! せん!」

 

 将監は幼いころにテレビで見た技名を叫びつつ、アゲハに刃を振り落した。落下の重力を加えた一撃は暴王の月を真二つに切り裂き、アゲハの右腕まで切り落とす。

 

「アゲハ!」

 

 傍らから桜子の叫び声が聞こえたが、蛭子影胤の能力に似た黒い障壁を切り裂いたことで上機嫌となった将監にとっては、心地の良いBGMに過ぎない。

 

「じゃあな、ツレは種つけてから後を追わせてやるぜ!」

 

 勝利を確信した将監は、最後まで果敢に戦ったアゲハへの手向けとして、全力の一振りで命を絶つことを選んだ。高位序列者伊熊将監としての代名詞ともいえる疾風を纏う斬撃、その中でも最も得意とする逆胴である。

 義肢に組み込まれたオーバーロード機構と、その動力を生身にも伝達させるコルセットによる補助によって発揮される剛力。その力を充分に発揮した逆胴は音を置き去りにした。

 アゲハは回避行動をとる暇も無く腰から真二つに切り裂かれ、切断面から赤い血と臓物が噴出した。

 

「アゲハ!!!」

 

 目の前でのアゲハの死に泣き叫ぶ桜子、そして同様に惨殺光景を目の当たりにして言葉すら失う聖天子。絶望の淵に立たされた少女二人を前に、将監は下賤な考えに胸と股間を膨らます。

 

「よく考えたら、聖天子としての存在を殺せれば、実際に殺すことはねえか。これだけの上玉だ、殺すなんてもったいねえ」

「ぶ……無礼者!」

「無礼で結構。お楽しみはこれからだ。さあ、ヤサまで行くぜ」

 

 将監は恐怖におびえる聖天子の鳩尾を突き、気絶した彼女を抱える。

 ついでに意気消沈のすえに気絶した桜子も脇に抱えると、鵜登呂亭に止まっていた車を奪い隠れ家まで移動した。

 車に乗るとあっという間に隠れ家まで到着し、将監は桜子と聖天子をベッドの上に寝かせ、逃げないように手錠をかけた。

 

「さあて、どっちから頂こうかな」

 

 どちらにしようかなと迷い箸のすえ、将監は聖天子を選ぶことにした。ハサミで服を切り裂き、こぼれだす乳を軽くもんでから乳首を嘗め回す。

 

「うめえ……三ヶ島さんが連れてきた肉奴隷なんか、めじゃねえぜ」

 

 将監は、三ヶ島ロイヤルガーターに居たころに三ヶ島社長が紹介した上玉のコールガールとの一夜を思い出す。当時は天上の快楽と思っていたその夜のコールガールも、完璧な象徴として純粋培養された三代目聖天子の美貌には敵わない。

 充分な前戯の末にそそり立つ一物を挿入せんとしたその時、将監の耳にアゲハの声が聞こえた。

 

「いい夢、見れたかよ?」

 

 将監は幻聴かと思いあたりを見回す。すると、先ほどまでむさぼりついていた聖天子の顔がぐにぐにと変化する。夜科アゲハの顔へと変化したのだ。

 

「オマエ……さっき、俺が……どうなって……」

「私だけじゃなく聖天子まで犯そうとして、サイテーね」

 

 聖天子が体まで完全にアゲハへと変態を遂げると、周囲の空間すら書き換わっていた。

 ベットは消え、隠れ家ではなく先の戦闘が行われた鵜登呂亭の庭先に戻ってきていた。

 将監はバスタードソードを杖代わりにして立ち尽くしており、自分でもなぜこの姿勢なのか記憶にない。ただわかることと言えば、アゲハも桜子も聖天子も、傷一つ負っていないことである。

 

「さっきのは……夢?」

「夏世ちゃんの言う通り、脳みそまで筋肉なのね」

 

 将監には見えていないが、彼の頭には大鎌が突き刺さっていた。

 狂気の鎌(インサニティ・サイズ)と桜子が呼ぶ、思念の大鎌である。

 本来これは、対サイキッカー戦闘においてあえて相手に壊されることで、幻覚を見せつける幻覚爆弾である。

 将監はサイキッカーではないため破壊することは敵わないが、直接突き刺すことでも幻覚を見せることは可能なのだ。

 先ほどまで将監が見ていた光景は狂気の鎌による幻覚に過ぎなかった。

 

「いつから?」

「教えてあーげない」

 

 実際に将監が桜子の罠に落ちたのは、空に舞うバスタードソードを掴んだその時である。桜子は将監が脳みそまで筋肉と聞いていたことから、もしや蹴り飛ばせばジャンプして掴むのではと思い、アゲハにバスタードソードを蹴りあげるように指示を送ったのだ。

 狙い通り過ぎるほどのリアクションを示した将監に対して投擲した狂気の鎌を突き刺したが最後、暴王の月を一刀のもとに切り伏せた時点で幻覚はスタートしていた。

 将監が幻覚を見ている隙に、有線トランスによる次なる精神攻撃の準備は整っている。桜子は将監の戦闘能力を削ぐために、トランスによる眠りを与えた。

 『NEXT』のコードネーム『コピーキャット』、機械化兵士伊熊将監は聖天子の目の前で拘束され、駆けつけた警官隊により留置所に送られた。

 彼が持っていたバスタードソードは、そのままアゲハが預かった。




vsメカ将監の話
当初の予定では対人戦闘用に最適化されたサイボーグツヨイという予定だったのですがいつの間にかおちんこでることに。
逆にいうと桜子の手によって倒されたことで予定していたオーバークロックGENKAITOPPA死にはならずに済んで、再登場待ちになりましたが。
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