BLACK PSYREN   作:どるき

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Call.24「天才vs新人類」

 朧との再会から一晩が過ぎ、アゲハ達三人は天童民間警備の仮事務所を訪れていた。要するに蓮太郎の自宅である。今は延珠たちが入院中のため、家主一人しかいない部屋は何処か寂しげな雰囲気を醸し出していた。

 元々アゲハとは約束があったとはいえ、昨日の今日で会ったばかりの朧までこの場にいることに蓮太郎は小首を傾げる。

 

「こっちの都合で悪いが、今日は朧も連れて来たぜ」

「そうはいってもだな……いったい何の用だよ?」

 

 初対面に近い男が眼前に居ることの違和感に、蓮太郎は目つきを悪くする。昨日の件もあってか蓮太郎は朧に好印象を持っていないこともその一因である。

 

「キミがその若さで序列三百位だと聞いてね。興味が湧いたんだよ」

「興味って……それに三百位と言っても正式な通達はまだだし、今の千番台だって運に恵まれたことと延珠のおかげだ。実力で三百六十位って序列を勝ち取ったアンタに自慢できるほどのもんじゃねえよ」

「僕に言わせれば、運や環境だって実力のウチさ。

 無論、僕だって序列は下でもキミに劣っているとはこれっぽっちも思っていない。ただ、キミが何かを持っている人間かどうかを見極めさせて欲しいのさ。今日はアゲハ君と特訓をするんだろう? 一つ、僕とも手合わせをお願いするよ」

 

 こうして半ば強引に、蓮太郎は朧と手合わせをすることになった。ルールはいつも通り、金的目潰し以外は何でもありのタイマン勝負である。

 道場に移動して運動着に着替えた後、蓮太郎と朧の二人は中央で対峙した。

 

「始める前に一応言っておくけど、怪我をしても知らねえぞ」

「心配ご無用!」

 

 蓮太郎が朧に投げた威嚇の声が、そのまま開始の合図になった。

 朧は意識の隙間を縫うダッシュにて懐に飛び込み、蓮太郎のみぞおちを突く。昨日はこの一撃で失神してしまった蓮太郎ではあるが、今回は義眼を解放していただけのことはあり一味違う。生身の右眼に対しては意識の隙間を縫うことが出来ていても、左眼に搭載されたプロセッサによる演算までは誤魔化せない。左眼が認識し脳が反射的に体を突き動かす。

 

虎搏天成(こはくてんせい)!」

 

 頑強な右腕で突きをガードした蓮太郎は返す刀で反撃を加える。左腕一本での抜き打ちの突きであるが、朧を吹き飛ばして体勢を崩すには充分な威力を誇る。のけ反る朧に蓮太郎は追撃を加えた。

 

焔火扇(ほむらかせん)!」

 

 蓮太郎の拳はノーガードな朧の胸板を貫いた。

 だが朧はその一撃に顔色一つ変えることなく、後ろに飛んで距離を取る。

 

「やるね。曲がりなりにも序列三百位だ」

「お世辞は結構!」

 

 ノーガードとはいえストレングスを全開にして攻撃を受けた朧には焔火扇の衝撃は届かない。武芸者としての経験から悔しくもそれを肌で感じているがゆえに、朧の評価はお世辞以外には聞こえない。余裕の態度を取る朧に一泡吹かせたいという思いが蓮太郎を突き動かす。

 道場にバシュンという炸裂音が響き、いよいよ切り札の炸裂カートリッジを解禁した蓮太郎は、脚部炸裂でのダッシュで間合いを詰めて勢いそのままに蹴りを放つ。

 

陰禅(いんぜん)黒点風(こくてんふう)!」

 

 朧は余裕の態度で受け止めるが、黒点風が体をカチあげる下からの角度で放たれた事で、朧の体が浮かび上がる。自分の意思ではなく相手の策で空に浮いたことで、朧に隙が生じた。

 

「一の型三番―――轆轤鹿伏鬼(ろくろかぶと)!」

 

 そのまま即座に飛び掛かった蓮太郎は、カートリッジの炸裂を込めた轆轤鹿伏鬼を朧に放つ。空中で斜め下に打ち付けられた朧が道場の床を跳ね、錐揉み状に転がって壁に打ち当る。

 

「だから言っただろう? 怪我をしても知らねえと」

 

 蓮太郎の技のキレは、聖天子護衛任務に就く以前に見たものとは一段上に成長していた。護衛任務以前の実力を知るアゲハは、今回の組み手に舌を巻いていた。目に見えて急成長を遂げた蓮太郎の動きは、何処となくライズによって底上げされた動きに感じられるほどである。

 

「こいつは驚いた。朧に勝っちまうなんて」

「アゲハ君……まだだよ……」

 

 二人の勝負を見届けたアゲハは蓮太郎に軍配をあげようとしたが、朧はそれを拒否した。バランス型のアゲハと異なり、パワーや頑丈さが売りのストレングス型である。たとえそれが炸裂カートリッジを使った剛腕であろうとも、朧にとっては耐えきれる攻撃なのだ。

 立ち上がった朧は、蓮太郎を見つめて不敵に笑う。

 

「面白いよ、里見君……今度はちょっと、僕の本気を見せてあげようか」

「まて朧! 今の勝負は蓮太郎の勝ちだ」

「勝敗なんてどうでもいいよ。だったら、第二ラウンド開始と行こうじゃないか」

「俺もそのつもりだぜ。アンタと戦えば強くなれる、そんな気がするんだ」

「それも当然さ。なにせ僕は天才だからね」

「仕方がねえな……それじゃあ、第二ラウンド開始だ!」

 

 朧の頼みもあり、そのまま組み手の第二ラウンドが始まる。朧は全身にバーストオーラを纏い、強化戦闘の体勢を取る。

 ストレングスにて強化された一歩で瞬く間に間合いを詰め、朧はそのままショートアッパーを蓮太郎に放つ。蓮太郎は上半身をのけぞらせて回避するが、掠めただけで脳が揺らされ目を回す。

 負けたくないという思いが義眼の演算速度を加速させ、その刺激で意識をつないだ蓮太郎は、体を起こして体当たりを決める。天童式戦闘術三の型九番、雨奇籠鳥(うきろうちょう)が朧の体に深く沈みこみ、腰を落とさせる。

 並の人間が相手ならこの一撃で悶絶したであろうが、相手は天才望月朧である。これで勝てるとは蓮太郎も思っていない。そのまま左裏拳をこめかみ目掛けて放ち、朧がガードするところを見越して体を正面に捻り、右腕のカートリッジを炸裂させる。

 

雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこうりゅう)!」

 

 蓮太郎は得意のアッパーで朧を打ち上げる。これまで蛭子影胤やティナ・スプラウトとの勝負を決定づける一打となった懐に飛び込んでからの雲嶺毘湖鯉鮒は、いわば蓮太郎にとっての最大の決め技ともいえる。朧もまたこの一撃で空に舞いあがるが、今までとは違いここが屋内であることが蓮太郎の判断ミスとなる。

 さらに朧の上昇スピードは影胤やティナの時より数段早い。なぜなら朧は打ち上げられたのではなく、自ら望んで飛び上がったのだから。

 

空中殺法(エリアルコンボ)が得意なのはキミだけじゃない、僕もゲームで鍛えているからね」

 

 普通なら格闘ゲームの腕前が実際の格闘に反映されることはまずないが、朧に限ってはそうとも言い切れない。朧はPSIに重要なイメージ力をゲームの動きからでも見出せる芸達者であり、小手先の才能という意味でのセンスではアゲハや桜子の比ではないからだ。

 蓮太郎が脚部カートリッジを炸裂させて飛び上がるが朧には追いつくことが出来ず、天井を蹴った朧と交差する。咄嗟にカートリッジを使って蹴りを放つが、朧はそれを掻い潜り、すれ違い様に背中を叩く。

 

「ぐあ!」

 

 蓮太郎は背中の痛みで悶絶する。朧はその後、蓮太郎の服を掴んで組み付くとバスターの体勢で地面に落下する。

 落下の衝撃音と蓮太郎の関節がきしむ音が道場に響き、蓮太郎は口から血を吐く。

 

「滞空時間が足らないから、不恰好なキン肉バスターで決めさせてもらったよ」

「大丈夫か?」

「大丈夫、この程度なら治せる」

 

 組技を解いた朧は、蓮太郎を失神させたことなどまるで気にも留めず、冷静に怪我の具合を見る。肺の傷と腰骨のヒビで普通なら全治一か月程の怪我を負っているのだが、朧は『治せる』と豪語する。

 

「キミはまだまだ強くなれる。こんなところで終わるような人間じゃない」

「自分で痛めつけておいてよく言うぜ」

 

 朧は久々に治癒能力(キュア)を使い、蓮太郎に自分の生命力を分け与える。流石に脳と心臓以外は再生できるイアンやヴァンと比べれば劣るが、朧の場合は自身の生命力そのものが強いために下手なキュア使いよりも回復効果は高い。

 朧のキュアにより蓮太郎の怪我は外見上では回復し、一晩眠って体力を回復すれば完全回復するほどである。目を覚ました蓮太郎は、治りかけで痛む体を起こす。

 

「………」

「そう落ち込むことは無いさ。キミはやはり何かを持っているのが解ったからね。

 ただ、一つだけアドバイスさせてもらうとすれば、キミはその義肢に頼り過ぎている。カートリッジなしに今の動きが出来るようになれば、一皮むけると思うよ」

「それは……」

 

 朧の言葉は蓮太郎の耳には痛い。影胤との戦いを経て機械化兵士としての能力を受け入れた蓮太郎ではあったが、正直言って木更をはじめとした天童流の免許皆伝者に勝てるかと言われればその自信は無い。初段と免許皆伝では大きな隔たりがあり、機械化兵士としての力も言い換えるならその差を埋めるためのインチキに過ぎないからだ。むろん意地の上では負けるつもりはないとしても、勝てるとは言い切れない。

 

「だったら、何かアドバイスとかはあるか?」

「そうだね……キミは拳法使いだから、型の練習とイメージトレーニングをオススメするよ。あのカートリッジを使ったつもりで型を練習するんだ。漫画的に例えるなら、手足に気を貯め込んで一気に爆発させるイメージでね」

「それだけか」

「ああ、それだけだ。でも忘れちゃいけないのは『確固たるイメージ』をもってやらないと意味がない。それだけは覚えておいてくれ」

 

 その後、朧から受けたダメージが深いことからこの日の訓練はこれでお開きとなった。

 

――――

 

 蓮太郎と別れた後、朧が宿泊しているホテルに移動したアゲハ達三人は、夕食のルームサービスを食べていた。セレブ向けの高級ホテルだけあり、ルームサービスと言っても単なる出前の域を超えた美食の数々が並ぶ。

 

「流石にシャッチョサンなだけあるな」

「僕くらいになればこれくらい当然だよ」

「……ところで、今日のアレはやり過ぎだったんじゃないの?」

 

 桜子は食事に手を付ける前に、朧に昼間の事を切り出す。

 

「里見君のこと? いいじゃないか、怪我は僕が治したんだし」

「治せばいいってものでもないでしょ」

「それになあ……自分本位なお前にしては、蓮太郎のことは意識しすぎには感じたぜ」

「直感だよ」

「直感?」

 

 朧が急に持ち出した言葉に、アゲハと桜子は小首を傾げる。

 

「里見君は何かこの世界で重要な役割をもっている気がするんだ。僕やアゲハ君のようにね」

「たしかにアイツは機械化兵士なんていう普通じゃない生い立ちだけど……」

「それだけじゃない。彼という存在とガストレア、この二つには何か関係がある気がするんだ。根拠はないけれど」

 

 朧の言葉に、桜子は以前の叙勲式での出来事を思い出していた。あのとき聖天子が蓮太郎に対して投げかけた言葉は、言い返すならばそれだけ里見蓮太郎という個人の出生に秘密があると受け取ることができるからだ。

 桜子は、思い出したことを朧に伝える。

 

「そういえば……以前、聖天子が里見君の両親について意味深なことを言っていたわ。『里見貴春(たかはる)と里見舞風優(まふゆ)の息子を名乗るのであれば、あなたには真実をしる義務がある』と」

「里見貴春(たかはる)と里見舞風優(まふゆ)? 僕も知らない名前だが、後で松本さんに調べてもらうことにするよ」

「お願いするわ」

 

 この後、食事を終えたアゲハと桜子はアパートへ帰った。アゲハとのパジャマパーティでもしようかと思っていた朧は少し落ち込んだのだが、しばらくして不貞寝した。




れんたろーvs望月朧の話
天才だから耐えられると言っても痛くない訳では無い
クロス介入で原作での射撃スキル開眼話がことごとく折れそう(原作コピー展開以外で狙撃開眼のオチどころをイメージできない)ですので、そのかわりここのれんたろーには体術を鍛えてもらう方向です
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