BLACK PSYREN   作:どるき

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Call.27「卵の行方」

 ピスケスの卵捜索から一週間が過ぎ、回収したサンプルの遺伝子解析によってピスケスの動向が推測された。

 卵の設置順から、北から南へと移動しているのは判明したのだが、肝心のピスケスは衛星写真には一向に写らない。何かの影に隠れながら移動しているのだろうか。

 二次調査の際に消えていた卵が二つあり、一つは蛭子影胤によって回収されたためではあるのだが、もう一つは自然に孵化したためであった。そして孵化したガストレアにはある恐ろしい能力が備わっていた。

 

『アゲハ君、先週の卵の事は覚えているだろう?』

「トーゼン。だがそれがどうかしたか」

『司馬重工のラボで解析してもらった結果なんだが、あの卵から産まれたガストレアはバラニウム磁場に対する耐性があるそうなんだ。流石にゾディアックのように完全に効かないわけではないらしいが、先日パーティ会場を襲った固体のようにこっちまでやってくる可能性は充分にある』

「わかった。今日は蓮太郎の稽古もなくて手持無沙汰だからな。俺と桜子も外周区を見回ってみるぜ」

 

 電話にて朧から話を聞いたアゲハは、桜子をつれて外周区に足を向けた。古河市の方からくると考えて茨城方面を重点的に調べるが、モノリスの壁を突破するガストレアは現れない。

 日が沈み始めて夕焼け空に浮かぶ月を眺めた後、アゲハと桜子は諦めてアパートに帰った。

 一方そのころ、退院後の延珠を受け入れる学校を探していた蓮太郎は影胤事件のおりに延珠が世話になった松崎氏の元を訪れていた。彼の頼みが青空教室の講師と言うこともあり、渡りに船と延珠の受け入れを要求した蓮太郎は、問題を一つクリアしてすがすがしい気分でアパートへと帰るため脚を運んでいた。

 この日は先に見舞いを終えており、時刻は夕焼け空に星のきらめきが増え始めるころである。後は帰って明日の支度をしようかと考えていた蓮太郎の頭上を、大きな三つの影が飛び越えていった。

 急に暗くなったことで不意に顔を見上げた蓮太郎の眼に、羽根の生えたガストレアの姿が映る。

 

「なんでこんなところに!」

 

 蓮太郎は驚いたものの、モノリス外からのガストレア襲撃はあり得ない話でもないと気を取り直してXDを構える。地面から頭上へと銃弾を発射するが、固い表皮は拳銃弾などものともしない。

 

「固い!」

 

 銃弾が効かず、蓮太郎はアゲハにでも救援を頼もうかと考えたのだが判断が遅れていた。銃弾を受けたガストレアは蓮太郎を格好の獲物と認識し頭上から降りてきたからだ。

 だが手の届く位置にまで来てくれたのなら蓮太郎にとっても好機である。敵はせいぜいステージⅡ程度、ステージⅣを想定した蓮太郎の義肢ならば防ぎようがないと経験からわかるからだ。

 

「延珠がいないのが心苦しいが、修業の成果を試させてもらうぜ」

 

 百載無窮の構えを取った蓮太郎は、義眼を解放して先陣を切るガストレアの動きを見る。助喜与のいう見切りの極意を噛みしめ、一挙手一投足ではなく動きそのものを見切るように。

 ガストレアの突撃に対してクロスカウンターのように右の拳打を加える。カートリッジ三発を使用した爆速の拳は先頭のガストレアの胸を貫き突き飛ばす。後続のガストレアもそれに遮られることで動きを止め、三匹目だけは咄嗟に空に逃げる。

 

「天童式戦闘術一の型八番―――焔火扇(ほむらかせん)

 

 二匹目のガストレアの動きが止まったことを蓮太郎は逃すことは無い。脚部カートリッジを使ったダッシュで飛び掛かり、爆速の正拳がガストレアの頭を消し飛ばす。

 残るガストレアは空に逃げた一匹、蓮太郎は牽制の為に再びXDを構えて引き金を弾くがやはり通用しない。皮膚が薄い翼を狙うがその部分でさえ穴が開かないのだ。

 

「やるしかないか……遠くを狙うときは姿勢を固定し、心臓を止めろか……」

 

 蓮太郎は残る狙いどころは眼しかないだろうと考えるが、空を舞う相手の眼を正確に撃ちぬく自信などない。それでも出来るかではなくやるしかない状況に、以前アゲハから聞いたコツを思い出して心を落ち着かせる。

 集中により義眼のプロセッサが加速して、それが蓮太郎の脳と連動することでガストレアの動く未来を読む。後はその予測位置に銃弾を撃ち込むだけ。

 

「……」

 

 蓮太郎は無言のままに引き金を二回弾いた。弾丸は吸い込まれるようにガストレアの両目を貫き、その痛みにガストレアは墜落する。脳にまで弾丸が届いているのかもがき苦しむガストレアに蓮太郎は飛び掛かる。

 

「天童式戦闘術一の型十二番―――閃空斂艶(せんくうれんえつ)

 

 蓮太郎はガストレアに飛び乗り頭蓋に右拳を当てると、そのまま密着させて零距離の拳打を放つ。轟音と共に衝撃がガストレアの頭を襲い、その頭蓋を砕いた。

 

「終わったか」

 

 三匹のガストレアを倒した蓮太郎は一息を着く。結果だけ見れば圧勝であろうとも、怪物と一人で戦うのはやはりストレスである。念のために生死を確認しようと足元の瓦礫を三匹のガストレアに投げつけるが反応はない。

 安心して気を許したその隙を、狡猾なガストレアは狙っていた。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオ」

 

 その雄叫びに振り向いたときには既にガストレアは間合いに入っていた。拳打によって胸を貫かれた最初の一匹はまだ息があったのだ。再生の過程で構造が歪み、蝙蝠の翼は羽ばたくものではなく鈍器と化していた。羽ばたけなくなった代わりに相手を殴ることに最適化した胸筋によって放たれる打撃が蓮太郎を襲う。

 

「ぐわあ!」

 

 咄嗟に右腕でガードしたが衝撃による激痛は蓮太郎を悶絶させる。ガストレアは仲間の仇を討つと言わん表情で、突き飛ばされた蓮太郎に歩み寄る。

 ズンズンとゆっくりとした足並みは怪獣映画のような恐怖を蓮太郎に与える。

 

「クソ……」

 

 起き上がり、迎撃の為にカートリッジの点火準備をした蓮太郎は思わず舌打ちした。先ほどの攻撃で義手の機構にゆがみが生じてしまったからだ。義眼に表示されたエマージェンシーは暴発の危険から使用するなと警告する。

 それでも弾丸すら通用しない相手に対して残された武器はこの体だけである。幸い脚のカートリッジは無事である。動きを止めることが出来れば、足技ならば使えるはずだと蓮太郎は思考を切り替える。

 

「シャア!」

 

 ガストレアは蓮太郎にジャンプして飛び掛かり、そのまま剣を振り下ろす様に右翼を振るう。蓮太郎が左に躱すと、ガストレアは追撃として左翼を横なぎに振るう。

 蓮太郎は動きを予測し、タイミングを計って飛び上がることで横なぎを回避し、そのまま翼を足蹴にして飛び立つ。

 脚部カートリッジの加速のみ、いつものような右腕の炸裂なしに渾身の一撃を蓮太郎は見舞う。

 

「一の型三番―――轆轤鹿伏鬼(ろくろかぶと)!」

 

 得意の打ち下ろす拳打に蓮太郎の気迫が乗り移り、それは意外な結果を呼んだ。

 

「ぐぎゃあ!」

 

 拳銃すら通用しない固さから、牽制程度にしかダメージを与えられないと思って放った轆轤鹿伏鬼は轟音と共にガストレアの固い表皮を貫き拳は深々と突き刺さり脳髄を潰す。思いもしない結末に蓮太郎は思わず呆気にとられる。

 

「今の手ごたえ……」

 

 その予想外の一撃を思い出す様に、横たわる他二匹のガストレアにも拳を突き立てる。だが先ほどの一撃はまぐれなのか、拳は弛緩して固さが和らいだ皮膚を破ることは出来ても、突き刺さることは無い。

 そこで、あの一撃は助喜与師範が言う『(キャ)の型』なのだろうかと蓮太郎は察する。

 

「とりあえず、先生に義手を直してもらわないとな」

 

 蓮太郎はガストレアの遺体を処理するためにIISOに電話で手続きを取ったのち、菫の待つ勾田大学病院の深淵へと向かった。

 

――――

 

 義手の不調から菫の研究室を訪れた蓮太郎は、菫に事情を放し終えると開口一番で雷を落とされた。

 

「キミはなんて無茶をしたんだ!」

「しかたねえじゃないか! 襲われちまったんだから」

「襲われたことに関してはキミ特有の不幸だから文句を言う資格なんてないさ。だがな、いくら私の義肢があるからと言っても飛行能力もち、しかも拳銃が効かないガストレアを三匹まとめて相手にしようというのは分が悪い。キミも武芸者の端くれだから知っているだろう? 人間の最大の死角を」

「頭上だろ」

「そうだ……言い換えれば頭上を取られるということはそれだけで不利なんだ。幸い遭遇した場所は人的被害に合いにくい外周区だ。拳銃で対抗できないことが分かった時点でキミは一時撤退するべきだったんだよ」

「それは……正面切って襲ってくる相手に下手に背中を見せられねえよ。俺だって逃げられるものなら一旦逃げて立て直す気だったんだ、おかげで肝を冷やしたぞ」

「そうか……わかっているみたいだが、一応大人として一言言わせてもらう。同じ失敗は繰り返すなよ。人間誰だって間違えることはある、それは仕方がないことだ。だが過ちを繰り返すことは悪だ。その違いがわからないような人間でもキミは無かろう?」

「ああ……」

 

 珍しく雷を落とされたことで蓮太郎は落ち込んでいた。その様子に言葉攻めのクスリが効いたと気を良くした菫は話題を切り替える。

 

「この話はキミが無事生還したことをもって不問としよう。

 ―――だが義手の故障についてはキミは運がいい」

「?」

 

 蓮太郎は何が渡りに船なのかが解らず小首を傾げる。

 

「というのも、キミ専用の新しい義肢を製作したものでね。マイナーチェンジに過ぎないが、応答性が一段上がっているぞ」

「新しい義肢? そんなものを作るなんて、どういう風の吹き回しだよ」

「伊熊将監を憶えているだろう? 彼に取り付けられていたエイン製の義肢を解析したのでな、奴のを参考にしてちょっとしたバージョンアップを施したのだよ」

「参考って……パクるなんて先生の趣味じゃなさそうなのに」

「参考と言ってもコピーではなくサンプリングだ。当然だろう? あんなヘタレの真似なんて死んでも御免だ」

 

 エインへの侮蔑と自画自賛とも取れる菫の態度に、蓮太郎は思わず吹き出す。

 

「試作段階だがマイナーチェンジだから一通りの動作は保障できる。完成予定は十日後、ちょうど延珠ちゃんたちの退院と一緒になるな。それまではカートリッジは使えないがそのまま今の義手を使っておいてくれ」

「わかった。それじゃあ新しい義肢を楽しみにさせてもらうよ」

 

 義肢の修理について目途が立ち、蓮太郎はそのまま病院を後にした。




れんたろーがちょっとコツを掴む話。
一応卵の設置順というのは年代測定的に時間がたった順で並べての話です。
そろそろ関東開戦はっじまるよーなので次回勝った三部完の予定です
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