BLACK PSYREN   作:どるき

29 / 62
第三次関東開戦編
Call.29「八雲」


 東京エリアの玄関口となっている新東京国際空港に、旅行カバンを持った子供連れの夫婦が降り立った。夫婦の外見は三十歳程度に見えるが、注視すると細かい皺などでもう少し年齢を重ねていることが見て取れる。連れている子供は十歳ほどの女の子で、女の子は行儀よく両親に付き従っていた。

 

「さあて……講演まで時間があるし、とりあえず天童民間警備会社なるところに行ってみるとしますか」

「そうですね。ほら姫乃、今日はこれからパパとママの友達に会いに行くぞ」

「朧やカブトのおじちゃんみたいな?」

「ああ、そうだ」

 

 親子三人はタクシーを拾うと、勾田にあるハッピービルディングに向かうように運転手に注文した。

 

――――

 

 太平洋に浮かぶ小さな島『慰問島(いもんとう)』。ここはガストレアも寄せ付けない天然の結界に守られていた。この島で暮らすのは約五十人の呪われた子供たちと、百人程の異能の力を持った人間である。島を統治するリーダー天戯弥勒は、情報収集役として重宝している予知能力者(ヴィジョンズ)の青年、ジンからの報告に重い腰をあげようとしていた。

 

「……私の予知では、近々東京エリアに危機が訪れます。ゾディアックもピスケスとアクエリアス、二匹の襲来が予想されます。今回はいかがなさいますか?」

「前回のスコーピオンはキサマの予知にて倒されることまで含めて見通していたが、今回はどうだ?」

「それが……読めません。ですがゾディアックと共に大量のガストレアが東京エリアになだれ込むと私の『俯瞰的未来視(サイドエフェクト)』がそう言っています」

「つまり、東京エリアの未来は解らない……流石にゾディアックが二体同時に現れたら対処する術はないという事か。

 残るゾディアックはあと八匹、考えようによっては両方を打ち取ればゾディアック殲滅への道が大きく開く。

 今が打って出る時だ。シャイナ、何人使えそうだ?」

「星将以外で戦力になりそうなサイキッカーが約三十人、呪われた子供たちで訓練が修了している子供の数もほぼ同数……星将を一人一組、他は二人一組で考えて、我らの戦力は四十組と言うところでしょうか」

「わかった。シャイナ、お前はドルキと共に先行して東京の様子を探れ。今まで雲隠れしていたゾディアックどもが立て続けに東京に現れるのにはおそらく何か理由がある」

「わかりました」

 

 シャイナは島の訓練施設で子供たちに戦う術を教えていたドルキに声をかけ、事情を説明して東京エリアに向かった。彼が得意とする空間転移(テレポート)の力を使って。

 

――――

 

 延珠たちの退院から数日後、学校が終わって事務所に集まっていた蓮太郎に、一枚のビラを持った木更が意気揚々に現れた。

 

「見て見て、里見君」

「何のビラだ?」

「今年の幻庵祭(げんあんさい)に合わせてあの八雲祭が講演に来てくれるんだって」

「へえ……木更さん、大ファンだったよな」

「そうなのよ」

 

 木更のはしゃぎように、奥で天誅ガールズのDVDを見ていた延珠たちも話に加わった。

 

「大ファンって何の話だ?」

「八雲祭っていうピアニストだ。俺もお前くらいの年の頃に一回生演奏を聞かせてもらったが、あれは心に響いたな」

「そうそう。データで聞いても素晴らしいのだけれど、あの迫力はどうしても生じゃないと出ないのよね」

 

 期待に胸を躍らせていた木更と、その様子に引きずられていた明々はノックの音に気が付かない。音の主はコンコンと最初は軽く叩いていたのだが、中でははしゃいでいるのに無反応という状況にイラついたのか、次第にドアを激しく叩く。

 

「ドーン!」

 

 その轟音は天童民間警備だけではなく、上下のテナントまで驚かせる。特に上の階に事務所を開いている光風ファイナンスは、急なカチコミかと緊張して、拳銃を構えて玄関を注視するほどである。

 轟音に気が付いた蓮太郎は驚き、恐る恐るドアを開ける。

 

「お、やっと開いたか」

「どちらさまで?」

 

 ドアの前に立っていたのは短髪の、いかにもヤクザという強面だった。服の上からでも垣間見える傷だらけの体は、眼前の男が只者ではないと蓮太郎に告げる。思わず飛び退いて構えをとる蓮太郎に、男は声をかける。

 

「アゲハはいるか?」

「アゲハ? 夜科さんに何の用だよ」

 

 男の外見から刺客かなにかだと勘違いした蓮太郎は、警戒して男を睨む。

 

「……出てこねえってことは留守か。ここに入り浸っているって話は電話で聞いている。上がらせてもらうぜ」

「質問に答えろよ!」

 

 遂に蓮太郎は声を荒げて怒鳴る。その怒号に、男の後ろにいた女の子が怯えていたことに蓮太郎はハッと気が付く。

 

「俺達はアイツらの知り合いだよ。なんだ? 俺をどこぞのヤクザが雇ったヒットマンと勘違いでもしたか?」

「冗談はそれくらいにしろよ……ええ、雹藤(ひょうどう)影虎(かげとら)さんよお」

 

 蓮太郎が勘違いで警戒してしまったかと警戒を解いたのとは対照的に、上の階に住む住人が拳銃片手に現れた。ヤクザのフロント企業である光風ファイナンスを牛耳る金貸しに『堕ちた』ヤクザ、阿部翔貴が。

 阿部は一人で降りてきたのか、舎弟の姿は見えない。

 

「キサマの鼻も衰えたもんだな」

「ええと……確か光風会の阿部か。残念だが雹藤影虎ならここにはいないぜ、出直して来な」

「ふざけるな」

 

 眼前に現れた宿敵に阿部は興奮する。こうなると、目の前で繰り広げられる任侠映画のワンシーンさながらの光景に、蓮太郎はポカンと口を開けて傍観せざるを得ない。木更や延珠たち女性陣は、まるで映画をタダで見ている気分で彼らのやり取りを見つめるほどである。

 

「俺は結婚して籍をいれたからな。今は『八雲(やくも)』影虎なんだよ」

「詭弁を言うんじゃねえ! オヤジの所に連れていこうにも従うようなタマじゃねえのは承知している。大人しく死ねや!」

「ちょ、ちょっと……どういうことだよこれは」

「これは蓮太郎さん、あっしらのイザコザをみせちまってすみませんね。これから玄関先を汚してしまいやすが、すぐ片付けますんでご勘弁を」

「いやいや、人の家の前でコロシだなんて非常識すぎるだろ」

「ヤクザの世界ではこれくらい普通ですよ」

 

 突然の超展開に蓮太郎は頭を抱える。こうなったら影虎と呼ばれた男を助けてしまえばどうだろうかと思う反面、光風会の邪魔をして自分だけでなく木更まで危険にさらすわけにはいかないと蓮太郎は悩んでいた。

 だが悩みの種が唐突なら、そんな蓮太郎の悩みもまた唐突に解決してしまう。

 

「撃てよ! お前は弾く、そして雹藤影虎は死ぬ。これで光風会も満足するだろ?」

「随分とあきらめがいいな。雲隠れした九年間に丸くなったか?」

「俺はとっくに脚を洗っているんだぜ。むしろお前さんたちが固執しているんだろうよ」

「違いねえ。だがこれもオヤジの為だ。悪く思うな」

 

 そうして、阿部は言われるがままに引き金を弾いた。蓮太郎だけではなく、流石に木更たちもコロシの場面に驚いて眼を覆う。そしてしばらくして眼を開くと、冗談のような光景が眼前に合った。

 

「おい……なんで生きている……なんで死なねえんだ」

「何言っているんだ。お前さんはちゃんと雹藤影虎を殺したじゃねえか。ここにいるのは八雲影虎だ」

 

 影虎は着弾の衝撃で横に倒れたものの、すぐに起き上がり平然と頭をかく。拳銃で撃たれたこめかみは、虫刺されのように赤くはれるだけで血すら出ていない。

 

「ば……ばけもの!」

「このままじゃ可哀想だろう? 私が治療しといてやるよ」

「すまねえ、ママ」

 

 撃ち殺したと思った人間が平然としていることに驚いた阿部は、恥も外聞もなくイモをひいてしまう。そして「俺は確かに雹藤影虎を殺した」とぶつぶつつぶやく。影虎の後ろに控えていた婦人が何かをすると、阿部は夢遊病患者が徘徊するように、呆然とした態度で光風ファイナンスへと戻っていった。

 目の前の男が拳銃で撃たれても平然としていることに、驚くのは弾いた当人だけではない。その光景を見ていた蓮太郎たちもまた、驚いて思わず訊ねる。

 

「アンタ……今、拳銃で撃たれたよな?」

「俺は何度も死線を潜り抜けてきたからな。今では三十八口径くらいじゃ痛いで済むぜ」

「本当に人間かよ。男なのにイニシエーターなんじゃねえのか」

「冗談を言うなよ。イニシエーターだからってそこまで頑丈なわけないだろう」

 

 影虎は蓮太郎の言葉を冗談と捕え、ツボにはまったのか豪快に笑う。

 あきれた蓮太郎は、気を取り直して影虎たちの要件を訊ねることとした。

 

「それで、アンタ達は夜科さんに何の用があるんだよ?」

「なあに。このあいだ久々に電話で話をして、あいつらがこの天童民間警備会社を根城にして民警活動をやっていると聞いてな。俺達も幻庵祭のついでに東京に出てきたから、久々に会おうと思って顔を出したんだ」

「なるほどな……」

 

 蓮太郎は影虎が単純にアゲハ達の旧友だと知り、またこの人間離れをした人も望月朧のように馬鹿げた力を持ったサイキッカーなのだろうなと一人で納得する。

 一方で、後ろから見ていた木更は影虎が連れている婦人の顔を確認して驚き、思わず声をあげた。

 

「ちょっと! 里見君、後ろ……」

「え……あれ、まさか……」

「なんだ? 少年少女たち。私の顔に何かついているか?」

「失礼ですが……まさか、八雲祭さんですか? ピアニストの」

「ひょっとして私のファンか」

「やっぱり! 光栄です。サインをください」

「それくらいお安い御用だ」

 

 影虎の妻、正確には影虎を婿に迎えた女傑こそ、木更が大ファンであるピアニストの八雲祭その人であった。奇跡的幸運に浮かれてサインをねだった木更であったが、延珠たちイニシエーターズは望月朧に続いて有名らしいピアニストとも知り合いとは、思った以上にアゲハの顔は広いなと心の内で思う。

 天樹院エルモアが過去の人となった2031年現在では、アゲハの知人で有名人など残るは『必ず生還する戦場カメラマン』霧崎カブトくらいで打ち止めではあるが、確かにいわゆる一般人にしては著名な知り合いは多い。

 

「こんにちわだ子供たち……この子は娘の姫乃だ。見たところ同じくらいの年齢だから、仲良くしてくれよ」

「はじめまして、八雲姫乃です」

「妾は藍原延珠だ」

「ティナ・スプラウト……」

「千寿夏世です」

 

 年の頃が近いだけあり、姫乃も一時停止状態だった天誅ガールズのDVDに食いつき、すぐに子供たちは打ち解ける。姫乃は不人気キャラとして通っている天誅ヴァイオレットがお気に入りの様子で熱く語るが、延珠たちも子供の世界でも爪弾きにされがちなこともあり、ヴァイオレットを悪く言うことは無い。

 子供たちが仲良くしているところを眺めながら小一時間お茶をすすりながら、木更による質問攻めをのらりくらりと祭が受け流していると、アゲハと桜子も事務所に顔を出した。

 

「ちょっと急な用事が出来ちまって、遅れてスマンな」

「おう、邪魔しているぜ」

「か、影虎さん?! なんでここに」

「今度こっちで幻庵祭があるだろう? それに合わせてコンサートをやるから、その準備だ」

 

 影虎たちと再会したこともあり、この日は蓮太郎との訓練も中止にしてちょっとしたパーティを開くことになった。アゲハの計らいで朧もこの場に呼び、最近ハマった特撮ヒーローの主演俳優の登場に延珠たちイニシエーターズも喜び、姫乃も朧との久々の再開に喜んだ。




大決戦の前にいろいろキャラを投入する話
話のメインが大きくなってきてて一回一回だととっちらかる部分なので今日中にあと2,3まとめて投げる予定です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。