BLACK PSYREN   作:どるき

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Call.38「先行と閃光」

 モノリス倒壊から三時間が経過し夕闇が広がり始めたころ、前線で戦闘を行う自衛隊の陸戦部隊は次第に劣勢に立たされていた。当初は戦車隊による陣形射撃で優位を取っていたものの、次第に数の暴力により押され始めていた。百台の戦車に対してガストレアの数は二千匹を超えている。最初の千匹が捨石となることで戦車側の弾薬を枯渇させて陣形を崩すに至っていた。

 自衛隊の大きな誤算は航空戦力への過信である。本来の予定ならば半数を戦車隊が叩き、残りは航空爆撃により対応する手順となっていたのだが、それが出来ないのだから当然残された地上の戦車隊は孤立してしまう。

 航空戦力と言う理を生かしてガストレア集団の後方に移動していざ爆撃を行おうとした戦闘機は次々と銀色の光の前に墜落していく。

 

「なんだ?!」

 

 その光を見た自衛隊の人間はまさに『なんだ』としか言い現わせなかった。銀色の光は目にもとまらぬ速さで戦闘機の翼を切り裂き、揚力を失ったそれは錐揉み状に落下して自分の腹の中に抱える爆薬の前に散っていく。

 皮肉にも高性能な緊急脱出装置により命だけは無事に投げ出されたパイロットたちを待っているのは地獄だった。

 

「うわあぁ」

「や、やめろ」

 

 パラシュートでゆるりと降りる先に待ち構えるのは数えきれないほどのモデルアントの群れであり、必死にシートベルトを解いて飛び交い逃げようとする男たちの努力も虚しく次々と餌として捕まってしまう。モデルアントたちはこうして投げ出された人間の腕や足を軽くツマミでも口に入れるように捕食した後、ウイルスを注ぎ込んで自らの仲間に加えていく。

 

「馬鹿な、なんだ今のは」

「わかりません。ですがこのままだと……」

「そんな事などわかっている。後退だ!」

「ダメです。動きません」

 

 航空戦力の相次ぐ墜落に恐怖を覚えて撤退しようと判断したが既に遅く、弾薬の乏しい鉄の塊は多くのモデルアントの前にただ鉄の檻として籠城するための格子と化していた。だがそんな引きこもりをガストレアは許さない。先ほど航空戦力を落とした銀の閃光は矛先を戦車たちに変え、放たれた光は装甲を貫いて操縦席を露出させる。

 

「ば、化け物が!」

 

 気丈に振る舞う士官の左腕は振るえない。なにせ先ほどの光によって切断されて何処かに千切れて飛んでいったからだ。残る右腕で護身用にと持ち歩いていたバラニウムブラックの軍刀を構えるがカタカタと震えて、まして片腕とあればまともな一撃など放てるわけもない。

 

「ニィ!」

 

 士官はガストレアが広げた口がまるで悪魔がにやけて口を開けるかのように錯覚を覚えていた。震えながらのなまくらな一閃は刃先が滑って傷一つ与えることが出来ない。そうしているうちに光によって足を失い逃げる間もなかった眼前の部下たちは別のガストレアにより捕食され、周囲に生きている人間は自分ひとりとなる。

 

「グサリ」

 

 恐怖の前に動くことも声をあげることも出来ない一人の男は無慈悲にもガストレアに前足で胸を突き貫かれてその生涯に幕を閉じた。

 

――――

 

 自衛隊の部隊が全滅したことを受け、待機していた民警団に出動要請が下った。団長我堂長正を中心として小隊の陣が割り当てられたのだが、ある一つの隊だけはその命令を無視して独自に動いていた。

 

「望月朧は何処だ? あやつの隊はワシら本隊の盾となるように言っておいたはずなのだが」

「そ、それが……」

「それが? もったいぶらずに報告しろ」

「望月隊長は命令に従う義理も義務もないと真っ向から命令を無視して、少数を引き連れて先行しています」

「なんだと? では、あやつらは既に出発したというのか」

「そのはずです。おそらくこのあたりに居るものかと」

 

 報告する長正の部下が指し示す場所は現在地点から一キロほど離れた雑木林の中であり、ちょうど自衛隊が全滅した場所と、予定していた戦闘開始位置との間である。作戦が見事に崩れていく光景に軽い眩暈を覚えながらも、知勇兼備と言われるだけの事はあり長正は気持ちを切り替える。

 

「長正様、彼らの処分はいかかいたしましょう」

「沙汰はあやつらが生きて帰ってから考えればいい。それより予定変更だ。ワシら本隊を下げ、代わりに全体的に他の隊を前に押し上げる。伝令、急げよ」

「畏まりました」

 

 長正は先行する朧たちを切り捨てることを選択した。無謀ではあるが、単独で大きな戦果を挙げてくれるのならばそれでいいという考えである。

 

――――

 

 長正が本陣で気をもんでいた頃、先行する望月朧隊は雑木林に到着した。参加するのはアゲハ、桜子、アビス、朧、ドルキの精鋭五人、どれも一人一人が世界最高峰のサイキッカーとして選ばれるにふさわしい超人軍団である。

 出発前の情報を頼りにアゲハ達はモデルアントの群れを待ち構える。無数の群れは数えきれない程であり、その数にアゲハは数えることを止める。

 

「確か最初の予想だと二千匹だったよな……自衛隊が倒した分はガストレアにされた分でプラマイゼロと考えると俺達がアビスを入れて五人だから……一人頭四百匹倒せば俺達の勝利か」

「それくらい、俺様一人で充分だぜ」

「そう相手を甘く見るな。こういう時ほど伏兵って奴が怖いぜ」

「そうね……まさかモデルアントを数だけ揃えたところで戦車と戦闘機を使う自衛隊をこうも容易く倒せるわけないわ」

「それにアルデバランもいるから、完全体特有の巨体と再生能力には手を焼くだろうね」

「そんなもん、爆塵者(イクスプロジア)で塵にしてやるぜ」

 

 三十分ほどが経過すると遠目に怪物の影が映る。それを確認してアゲハが放った流星を合図に戦いが始まった。握り拳大の黒い流星は中央を行くモデルアントの頭を串刺しにして削り飛ばす。

 ついで放たれたドルキの爆塵者が敵陣先頭で炸裂すると、まばゆい光に紛れてライズ主体の残り三人が群れに飛び込んでいく。

 

「一撃一殺、確実に行くわよ」

「余計なお世話さ」

 

 先駆ける朧はまさに千切っては投げと言うにふさわしく、単なる拳打でガストレアを倒していく。狙うは常に蟻の頭であり、殴り飛ばされた巨大な頭蓋が積み重なっていく光景は昼間であれば嫌悪感を覚えるに容易いグロテスクな景色を作り出す。

 続いて二人の雨宮、そして合流したアゲハは刃で蟻を切り裂いていくのだが、流石の数の多さもあり築かれる死骸の山は視認性を悪くする。

 

「死骸になっても邪魔だぜ」

 

 他の四人が近接戦闘に切り替えてもなおドルキだけは己のバーストに自信を持ち容易に視認が出来る距離まで近づいては爆塵者による爆破を行う。作業効率の面では一撃で複数匹を消し飛ばせるドルキが最も効率が高いが、集団戦闘故の同士討ちを防ぐ気遣いもあり速度は一匹ずつ倒すのと変わらない。

 たったの五人は扇状のドミノを倒すかのようにモデルアントの陣形を崩していく。

 

「ちょっと待って、何かおかしいわ」

「おかしい? 予想よりガストレア共がふがいないだけじゃねえのか?」

「まだ千匹も倒していないわ。その割には数が少なすぎるのよ」

 

 一人百二十匹、約六百匹程を倒したところで桜子はガストレアの数が少ないことに気が付いた。予想では二千匹以上と言われていたはずであるが、その割には残ったガストレアを合わせても千匹にも届きそうにないからだ。いくら自衛隊が先に数を減らしていただろうとはいえ、ガストレア化した自衛隊員を考えたら少なすぎると桜子は思考を巡らせる。

 桜子の疑問から朧は答えに気が付く。

 

「やられた。このガストレアは足止めの囮だ」

「まさか、ガストレアが囮を使うほど頭がいいなんて聞いてねえぞ」

「いいや、あり得ない話じゃないわね。同じ昆虫でも蜜蜂なんかは雀蜂を相手にしたときには仲間を死なせることを前提にぶつけて相打ちをねらうそうだし、それと同じかも知れないわ」

 

 桜子は説明しながら眼前のモデルアントを切り殺す。説明に合わせてドルキが空を爆発させて灯りをともすと、その光が消えないうちに桜子は飛び上がり、周囲の様子を上から窺う。

 

「やっぱり残ってるのはせいぜい二百匹ってところだし、アルデバランの姿もないわ。私たちが倒したのがだいたい五六百匹として……半数以上が私たちを避けて先に進んだようね」

「向こうには二千人以上の民警が集まっているんだ、心配より先に今この場にいる奴らを早く倒しちまおうぜ」

「そうだね」

 

 終わりが見えたことで尻に火が付いたアビスはまとめて三匹のガストレアを大鎌で狩る。早くこの場を切り抜けて、アゲハと共にシャワーでも浴びて戦いの埃を落としたいと思いながら、アビスは鎌を大きく振るった。

 




独断先行の話
本業で時間が取れなくて2か月ぶりの更新です
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