BLACK PSYREN   作:どるき

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Call.40「亀の化物」

 夜が明けて時間も九時を過ぎると、ガストレアは再度の進行を開始した。モノリスの外と言うこともあり野生のガストレアは数多く、アルデバランはプレヤデスを含めた戦力低下を、それらを従えることで補う。

 民警たちにはアルデバランがどのような手段でそれを実現しているのかまでは計りかねていたのだが、これまでモデルアントを主体としていた軍勢がオオカミ、鹿などを混成した一団に変わっていたのだからそう考えざるをえない。

 プレヤデス討伐に向かった蓮太郎と影虎はまだ戻らず、昨日独断専行した望月朧の一団もまた戻らない。ただ「プレヤデス撃破」の情報が民警団にとっての希望の光となっていた。

 

 前線の状況などどこ吹く風と言った様子で後方「回帰の炎記念碑」にて陣を取っていたW.I.S.Eメンバーは、前線の民警団が察知していない新たな敵に遭遇していた。始まりは一人のメンバーが朝食の買い出しから帰ってくる途中である。

 

「あれ? 昨日はこんなものあったかな」

 

 青年はふとモノリスの外を眺めた。朝日に照らされる黒いモニュメントを見て、昨日このようなものがあったかと小首を傾げる。二本足で直立する黒い亀に似たものが合計八体、怪獣映画のセットのようなそれを見て、青年はかつて見た映画を思い出す。

 

「小さい頃……ガストレアが現れる前は、こういう怪物も映画の中でしか見たことが無かったなあ」

 

 よく見ればモニュメントには瞳があり、ライズで視力を凝らせば潤っているようにも見えるほど精巧である。しばらく眺めていると、その精巧な瞳はギロリと動き、青年に視線を合わせた。

 

「動いた? まさか!」

 

 その動きに青年は驚き、咄嗟に周囲に思念を飛ばす。

 

『ガストレアだ!』

 

 青年がモニュメントを敵と認識するのに合わせて、モニュメントだと思われていたそれは動き出した。正体はジュナスらが取り逃したピスケスの卵から産まれた変異ガストレアであり、いわば量産型アクエリアスともいえる存在である。サイズ同様に性能も縮小された『化外の心臓』を備えた八体の亀は口から水を吐き出す。ウォータージェットの要領で歯の間から吹き出す水流は、三十メートルは離れていたであろう青年の元まで届き、手にしていた朝食用の食料を引き裂く。

 

「うぐぐ……ライズ!」

 

 青年は右肩を抑えながら、渾身のライズでその場を立ち去った。抑える左手は溢れる血に濡れる。荷物ごと削り飛ばされた右腕を回収する暇もなかった。

 八体の亀はモノリスの中にこそ入ろうとはしないが、磁場の影響範囲内でも余裕の態度で活動する。ゾディアック同様のバラニウム磁場耐性を備えているのは明白である。

 

 青年によるテレパスと帰還した本人の怪我の具合を見てシャイナは作戦を立てる。先ずは青年を慰問島のキュア使いの元に運び、残った雑兵たち一人一人にテレパスの線をつなぐ。

 

「僕が危ないと判断したらすぐに慰問島に送る。気兼ねなく戦ってくれたまえ」

「わかりました、シャイナ様」

 

 W.I.S.Eの雑兵六十五人はバラニウムの武器を片手にガストレアに襲い掛かった。距離を開けてアサルトライフルによる一斉掃射を仕掛けたが、固い表皮は弾丸を通さない。流石に頭部は皮膚が薄いのか腕を盾にして銃弾を防いでいるのだが、その大きさ故に突き出すだけで顔面は固く防御されてガードをすり抜けることが出来ないでいた。

 

「ミリィ、突撃だ!」

 

 雑兵の一人がパートナーのイニシエーターに声をかけて防御を抜くための攻撃を開始した。ライズを全開にして相棒を投げ飛ばす人間砲弾のような技であるが、近接戦闘に持ち込むには理にかなっていた。放物線を描いて頭に飛び乗り、その首に刃を突き立てると血飛沫が流れる。

 

「やった……あ、あれ?」

 

 刺さったことに喜ぶのも束の間、突き立てた刃は抜けなくなる。無理に引き抜こうと手間取っていると他のガストレアは一斉に彼女の事に気が付いて注目しだす。

 

「逃げろ!」

 

 少女を狙う一匹が仲間ごと水流で撃ち貫いた。口から放出されるウォーターカッターが散弾のように少女を襲う。咄嗟にシャイナは彼女をテレポートさせるが、元の位置にいたガストレアの首はズタズタに引き裂かれて血を吹き出し、それにより抜けたバラニウムの刃は音も小さく地面に刺さる。

 同士討ちとはいえ放っておけばこの程度の傷など回復してしまうのは自明の理であり、出来るだけ回復するよりも早く命を刈り取らなければならないのは明白である。

 

「強い……これがステージⅣって奴なのか?」

「しかも同型が八体も」

「俺達だけでやれるのか?」

 

 雑兵たちはガストレアの強さに恐怖していた。士気の低下にシャイナも焦り、仲間を呼ぶべきか悩む。ひとまずドルキを呼ぼうと、シャイナは雑兵の一人をドルキの元へ転送した。

 

 トランスの感応を頼りにシャイナによって転送された青年は林の中にいた。ガストレア側が用意した八百の囮を退けたドルキらは本陣には戻らずにそこで野営をしていたからだ。

 

「ドルキ様!」

 

 青年は近くにドルキがいるはずだと大声で叫ぶ。その声に反応してかガサガサと林の中に物音が響く。

 

「ド……」

 

 音に振りむいた青年は固まって声が詰まる。物音と共に現れたのはドルキではなく大蛇であり、身の丈ほども長いそれは大きな口を開けて牙を向けていたからだ。

 

「いえゃー!」

 

 青年は奇声をあげながら渾身のバースト弾を放った。不可視の衝撃波は大蛇の牙をへし折り喉に風穴を開けるも、その程度ではガストレア化した蛇の命は刈り取れない。

 

「なんだ?」

 

 物音に気が付いたドルキらが駆けつけると、引き裂かれた大蛇の死体とうずくまる青年の姿があった。

 

「トウマ、何故ここに?」

「大変です、ドルキ様。急いで回帰の炎へ……」

 

 青年は大蛇を倒した際に受けた傷から流し込まれた毒の影響だろうか、言葉の途中で倒れた。直ぐに桜子がトランスで残りの言葉を意識から引き出し、皆は状況を把握する。

 

「すぐに回帰の炎まで向かうとしても、コイツはどうする? ここに置き去りには出来ねえだろう」

「とりあえず僕のキュアで応急処置だけはしよう。向こうに着いたらW.I.S.Eの誰かに任せればいい」

「それでいい、急ぐぞ」

 

 一先ず青年は応急処置だけを済ませてそのまま連れていくことに決める。先頭を切るドルキはバースト使いとしてのポリシーも何のそのでライズを全開にして未踏査領域を駆ける。道中に立ちふさがる野良ガストレアはたちどころに爆塵者(イクスプロジア)で消し飛ばし、殺しきったか否かなど確認もしない。

 鬼気迫るドルキの表情は一行に緊張感を与え、何も語ることなく小一時間で回帰の炎周囲まで到着した。

 

「あれが例の……」

「ガキどもをこんなにしやがって、クソをクソほど浴びせてやる」

 

 周囲には戦闘の結果なのか地面はあれて硝煙の匂いが立ち込める。残っているW.I.S.Eの雑兵は数えるほどで、地面のぬかるみは誰のモノとも知らないまでも血糊によるものなのは想像に難くない。

 

爆塵者(イクスプロジア)爆撃機形態(フォートレス)!」

 

 劣勢を強いられる状況に怒るドルキはバーストストリームを展開し、怒りに任せた一撃を放つ。爆塵者十発分を一つの球体に留めたそれは、はじき返そうとしたガストレアの左腕に触れると一気に炸裂し腕ごと頭を吹き飛ばす。蒸発する血潮が赤い煙となり、その爆撃音はその場に残った雑兵たちに勇気を与える。

 

「あれはドルキ様の爆塵者!」

「これならいけるぞ」

『遅かったですね、ドルキさん』

 

 離れた位置にいたシャイナは肩で息をしながらトランスで呼びかける。これまで約五十人の雑兵たちを慰問島に転送しており、自分も仲間も死なないように注意を払い続けたことで精神をすり減らしていた。

 もう少し遅ければ一度全員撤退もやむなしと考えていたほどである。

 

『だいぶ追い詰められているじゃねえか。まさか殺られたヤツなんて出していねえよな?』

『そんなこと出来るわけないじゃないですか』

『それもそうだな。マジでヤバいならとっくに逃げるか直接誰かを呼びに言っているだろうお前なら』

『当然ですよ』

『よし、ここからは俺が引き受ける。お前が伝令に寄越したトウマのヤツも怪我をしているから、まとめて島まで帰って治療してやってくれ』

『お任せしますよ』

 

 ドルキと話をつけたシャイナは残った雑兵たちと共に慰問島まで帰った。残るガストレアはあと六匹、一匹は雑兵たちが必死になって倒しておりもう一匹は先ほどドルキが倒したそれである。

 時刻は朝の十時を回り、プレヤデスの撃破を確認した前線ではアルデバランとの決戦に向けて出発しようとしていた。幸か不幸か長正ら前線の司令官は回帰の炎に現れたガストレアの事は知らない。

 




WISEサイドの話
亀ガストレアは小さめのガメラをイメージしていただければ幸いです
この次はだいたい用意できていますが次々回が仕事が忙しくてまた時間がかかりそうです
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