回帰の炎に到着した一行を待ち受けていたのは六体のステージⅣガストレアだった。すべてが同一型の二足で直立する亀である。
「全部同じ、しかもステージⅣか」
「これだけの被害を出した相手よ。油断せずに行きましょう」
周囲の惨状をみて桜子は注意を促す。地面を濡らす血糊を見れば致し方ない。だが怒りに燃えるドルキにはその声は届いておらず、先ほど同様に先走った一撃を放つ。
「絶対に許さねえ」
再度のバーストストリームでPSIを周囲に奔流させ、ドルキは渾身の爆塵者を放つ。通常の爆塵者十数発分の爆発エネルギーを秘めた可視の爆弾を三発矢継ぎ早に放ち、三対のガストレアに直撃させる。爆発はガストレアの肉をえぐり血煙をたてる。
上半身が一撃で吹き飛ばされ、足のみが残る彫像が瞬く間に三つ出来上がる。
「俺達も一気に仕掛けるぜ」
負けじとアゲハもバーストストリームを形成してPSIを貯める。
ライズによる格闘戦を主体とする桜子と朧は気を静めて仕掛けるタイミングを計る。
「
右手を突き出し、アゲハは直径二メートルの漆黒の球体を放つ。ガストレアは飛来するそれを手で払いのけようとするが効果は無く、その振りかざした手諸共に肉を削り取る。そのまま暴王は肉を貫き背後へと通過していくが、アゲハが突き出した右手を握り胸元に引くと暴王もそれにつられて反転する。右手の動きに合わせて縦横無尽に飛び交う暴王は貪るようにガストレアを捕食する。
「
ガストレア一体を削り取り終わると、アゲハはいつぞや八雲祭にされたように右手人差し指を突き出して拳銃を弾くポーズを取る。それは暴王が削り取れる容量限界を示しており、bangの発音と共に球体は割れて砕け散る。
限界を迎えた暴王に破壊の力はない。その破片が地面へと降り注ぐのに合わせて待機していた二人も攻撃を始めた。
風よりも早く駆けて間合いを詰め、桜子は居合でガストレアの腕を切り落とす。溢れる血飛沫は駆け抜けた桜子にはかからない。一方でむしろその血を化粧のように浴びた朧は右腕をバーストオーラで包んで、腕を亡くしたガストレアの腹を殴った。怪力は巨体を揺らして押し倒し、周囲には轟音が響く。
これで残るはあと一体。サイキッカーを含むW.I.S.Eの部隊三十人強でも攻めあぐねたステージⅣであっても、彼らには物足りない相手なのか。
一方でガストレアも残る一体になっても勝つことをあきらめない。体の節々から触手を伸ばし、それはアゲハらに葬られた兄弟の死骸を啄む。兄弟の血を吸ってさらに強くなる化外の心臓は血の涙を流してアゲハ達を襲う。
「URAAAA!」
奇声を上げたガストレアは全身の肌の穴から体液を放った。水鉄砲の要領で発射されたそれは極細の水流カッターとなって襲い掛かる。細い蛇口のため射程は短いものの、全身から吹き出すためその射線の多さに逃げ場はない。
「しまっ……きゃあ!」
アゲハ達の中で、不幸にも桜子がその間合いにたっていた。不幸中の幸いであろうか極細であるがゆえに当たり所が幸いして死には至らないまでも、きれいな柔肌には無数の刺し傷が広がり目にも痛々しい。
「桜子!」
「彼女は僕がなんとかする。アゲハ君はアレに集中して」
朧は全身をオーラの鎧で包み込んで桜子の救助に向かう。近づいてきた朧の姿を見たガストレアは好機とばかりに二回目の攻撃を行う。水圧の貫通力は朧のバースト波動をも貫くが、深手には至らない。桜子を抱えたまま安全圏まで移動した朧はすぐに彼女の治療を開始する。
「仇は俺様が取ってやるよ!」
次の攻撃の準備をしていたドルキはついに切り札を見せた。アゲハには失われた未来において見覚えがある、あの圧倒的姿を。
「爆塵者・星艦形態」
全身が爆破の波動に包まれたドルキに死角は無くなる。浮遊しながら近づくドルキをガストレアも水流で迎撃しようとするが、そのすべては爆壁によって遮られる。
「これで終わりか」
桜子の治療をしながらドルキを眺める朧はつぶやく。ステージⅣという面白そうな相手を前にしたことと言えば腹を一度殴った程度なのだから、彼の性分を考えたら当然ながら寂しげである。
ガストレアは吸い上げる血も自身の血も次第に枯渇し始める。いくら攻撃してもドルキの爆壁を破ることが出来ず、意地になって攻撃を繰り返した結果、体液の生成が消費に追いつかなくなったからだ。だがそれはドルキも同様である、当人すら気づいてはいないが。
「トドメだ……」
最後の一撃を放とうとしたところでドルキの体力は限界を迎えた。アドレナリンで過度の興奮により気が付いていなかったが、昨夜からの戦闘を合わせるといかにW.I.S.Eの第七星将といえども限界なのだ。糸の切れた凧のように星艦形態は解除され、ドルキは地面に墜落する。
「この……クソカスが……」
這いつくばりながら最後の意地を見せようとするが体力が足らない。得意の爆塵者といえども体力の限界には勝てない。
ドルキが倒れ、桜子が倒れ、朧は治療で手が離せない。
互いに残ったのは一人だけと言う状況にアゲハは目を血走らせる。
「ドルキ……後は俺がケリをつける」
「行って来い、夜科アゲハ」
アゲハは息切れした声でアゲハを押した。
それを横目に仲間の死骸を貪るガストレアの触手は体液だけでは飽き足らずにその肉や皮までもジュースへ砕いて吸い始める。最初は只のポンプに過ぎなかった触手ももはや一つの武器である。行動不能に陥っていた彼の兄弟は生き残った最後の一匹によって捕食されその命を終えた。
兄弟の血肉を喰らうとその栄養価で肉は盛り上がり強化された造血能力による血管の拡張で全身が一回り大きくなる。
「GAAAA!」
ガラガラとうがいの様な濁音を響かせたのち、ガストレアは口から何かを吐いた。巨大な水滴は水鉄砲となってアゲハを襲う。このまま避けようにもドルキをはじめとして仲間たちに当たるためどうしようもない。
「
咄嗟に暴王の渦を形成したアゲハは正面から痰を防ぐ。周回するレールに沿う小型の暴王はアゲハに触れるよりも先に痰をかき消して削り取る。一撃を防ぐと今度はお返しとばかりにアゲハの反撃が始まる。
「攻撃形態、モードスプラッシュ!」
アゲハは渦のレールを解放しガストレアに向かって暴王を解き放つ。飛び出した三機の暴王はガストレアの胸に穴を開けて体液を流させるが穴の口径が小さいため致命にはならない。
ガストレアはこの程度の傷などものともしないという態度なのか、逆に筋肉を盛り上げて一度止血をしてから、逆に傷口から血を飛ばす。
「GUUUUU!」
「
眼前に迫る血の水流を見て、咄嗟にアゲハは円盤状にした暴王を盾にそれを防ぐ。攻撃そのものは防ぐことが出来ても勢いまでは殺しきれず、アゲハは地に叩きつけられる。
ガストレアはそれを見て得意げに触手をアゲハに向けて伸ばした。
「このヤロー!」
アゲハは右手に構えた円盤で触手を削って防ぐ。鞭のようにしなる触手は左右から次々と襲い掛かり、一本でもそれに捕らわれたらたちどころにジュースにされるのは明白である。一撃でももらえない状況の中、神経をとがらせてアゲハは進む。
一見すれば渦を展開してチャージすれば事足りるかもしれないが、アゲハにはかつてそれを過信して敗北した過去の記憶があるため用心してその手段はとらない。渦はその性質上、防御範囲が広い半面で防御力に欠けるからだ。
「そろそろ大丈夫だから、アゲハの援護を……」
「僕もそう思っていたところさ」
朧は桜子の体力なら充分だと判断するまでの応急治療を終え、アゲハの援護に向かう。いかに攻撃防御の双方が強力と言えども暴王の月をまともに当てることさえできればこちらの勝ちである。問題はそれを遮る触手と水鉄砲による乱撃にある。ならば朧が取る手段は単純である。
「ストレングス全開!」
右足に渾身の力を込めた朧は一直線にガストレアに向かって飛び掛かった。
当然ながら両腕はバースト波動に包まれておりちょっとやそっとでは傷つかない。
それに気が付いたガストレアも続けざまに三発の痰を放つが、朧は自身の加速も加わり威力を増したそれをガードで弾く。
「そろそろクライマックスだ。モンスターは棒立ちになる時間だよ!」
全身を傷つきながら拳の間合いに入った朧はついに顔面へ一撃を加えた。ダメージの影響やガストレア自身の自己強化もあり一撃で行動不能に陥るほどではないにしても、この攻撃でアゲハを襲う触手の動きは止まる。
「ここだ! 暴王の月」
その隙を逃さずアゲハは円盤のプログラムを書き換えて二発の暴王を発射した。頭と心臓を貫いたそれはガストレアの動きを沈黙させる。だがその体は死には至らずに再生しようと蠢く。アゲハもその再生力を侮らないため先ほどと同様に暴王を操作して追撃を入れる。
「やっちまえ」
「いけ!」
それを見守る桜子やドルキもつい声を漏らす。
二つの暴王は縦横無尽に飛び回りガストレアの体を削り壊した。
アゲハらを苦しめた水鉄砲を生んだ心臓も、肉をもすり潰して吸い込む触手も削られたことでもうない。他のガストレアはすべて最後の一体により肉片ひとつ残らずに食い尽くされたためこの世にはもう存在しない。
人知れず行われた回帰の炎周囲での戦闘は、人とガストレアによる血潮の痕だけを残して終息した。
W.I.S.Eのジンが予見したステージⅤによる脅威はこうして消え去った。だがまだステージⅣアルデバランによる脅威は消え去っていなかった。
ドルキさんと愉快な仲間たちvsアクエリアスJr.の話
触手能力はお互いに見せ場が無いかと考えていたらこんな感じになりましたが、イメージとしてはジョジョの柱の男やナルトの神樹みたいな触れたらアウトなうねうねです