BLACK PSYREN   作:どるき

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Ex.Call.1「余談 相棒殺し」

「マッチングを頼みたいのだが―――」

 

 一人の男がIISOへ電話を掛ける。場所は房総沖の断崖絶壁である。

 男が言うに、未踏査領域を移動中にガストレアに襲われ、相棒を失ったとのこと。この土井春樹と名乗る男は、民警ライセンスを取得してから述べ百五十回も同様の要請をしており、その回数の多さから一部では『相棒殺し』として名高いほどである。

 

「了解しました。出来るだけ早急にご用意いたします」

 

 IISOの職員はそういうと電話を切る。いかに相棒殺しと噂される男が相手でも、おいそれと彼を否定することは出来ないからだ。確かに相棒としてあてがわれた呪われた子供たちを弄るために民警ライセンスを取得するものもいるのだが、そういった一部の悪質な人間を基準に規定を厳しくしたのでは組織は回らないのだ。

 IISOとて度が過ぎた犯罪行為に対しては報復を行っており、蛭子影胤の例のような問題が発覚しない限りは手出しできない。

 

「今度の奴でちょうど百五十人目か。何か記念品でも用意するかな?」

 

 男は律儀にこれまでコンビを組んできた少女たちの事は頭に残していたが、一つ数え間違いが存在した。

 

「電話も終わったことですし、帰りましょうか。それに拒否した子と本当に死んだ子が合わせて十三人いますから、百五十人記念にはまだ早いですよ」

「そうだったか、スマン」

 

 こうして土井と名乗る男は、もう一人の別の男と共に埠頭から姿を消した。

 

――――

 

 この日、勾田大学病院にある室戸菫の研究室に千寿夏世が訪れていた。

 夏世からすれば興味本位に他ならないのだが、菫からすればほとんど初対面の幼女が突然来訪しても、気分がいいものではなかった。

 

「私はあまり生きている人間には興味がなんだけれどねえ。大人しく病室に戻ってくれないかな?」

「その前に一つ教えてくれませんか?

 私は里見さんが『新人類創造計画』の改造手術を受けた機械化兵士であるということを知っています。そしてアナタが里見さんの主治医と言うのも知っています。この二つの関係を教えてください」

「キミねえ……」

 

 菫は気怠い表情で頭をポリポリとかく。菫は目の前の少女が自分と『新人類創造計画』に何か関係があるとかぎつけているであろうことは、口ぶりから容易に想像できていた。

 菫はある程度裏を取っているのならば無意味であろうと観念して口を割った。

 

「仕方がない。見返りに面白い話の一つや二つ、教えてもらうことにするよ。

 ―――ご推察の通り、私は『新人類創造計画』とは関係が深い。なにせ『新人類創造計画』の研究主任だからな」

 

 夏世は耳を疑う。そのようなポストがなぜ一般の病院、しかも地下室に引きこもっているのかと。

 

「その開発主任がなぜこんなところに」

「平たくいえば、燃え尽きてしまったからかな。ガストレア戦争当時の私は、死んだ恋人をともらうために取りつかれていたのさ。それほど意気込んでいたプロジェクトが解散されて以降、人間と関わり合いを持つことに嫌気がさしたよ」

「でも、里見さんたちとはだいぶ仲がよろしいようですが?」

「蓮太郎君は別だよ。何と言っても私の患者だからな。彼以外でも過去に機械化兵士として施術したうちの何人かはいまでも連絡を取りあっているよ」

 

 『恋人』と言う言葉を発した時の愁いを帯びた瞳に、夏世はなにかを感じていた。室戸菫という女性にとって、蓮太郎たち少数の患者とその関係者を除くと大切な人と言うのはすべてすでに死んでいる人間なのではと夏世は思う。

 夏世はあらかじめ蓮太郎から菫が死体愛好家であることは聞いてはいたが、もしかしたら死んだ恋人への執念が彼女にそういう趣向をもたらしたのかと推測する。

 

「―――これで私の話はおしまいだ。次はキミの話を聞かせてくれないかな」

 

 菫の話が終わり次はキミの番だという態度を取られても、夏世は面白い話のネタなど持ち合わせていなかった。だが少し思い返し、将監と出会う前にあった変わり者のことを思い出した。

 

「そうですね……これは私が将監さんとペアを組む以前にあった話です。IISOからのマッチングで引き当てられたプロモーターに土井春樹という男がおりまして……」

「土井春樹?」

 

 菫はつい、その名を聞き返す。彼女には聞き覚えがあったからだ。

 

「ちょっと待った。キミはあの相棒殺しとペアを組んだことがあるのか? よくも生き延びたものだな」

「相棒殺しが何のことかはわかりませんが、私は結論から言えば土井春樹とはペアを組んではいません。彼は私にこういいました『同朋として楽園に来るか、それともクソカスの東京エリアに留まるか』と。私は彼の言っていることが夢物語のようだったので、詐欺ではないかとおもって拒否しました」

「ほう……ではその夢物語について教えてくれるのだな」

 

 菫は夏世の言う土井春樹と噂の相棒殺し土井春樹が同一人物かを判断するために、とりあえず彼女の話を大人しく聞くことにした。菫の知る限り土井春樹という名のプロモーターは一人しかいないのだが、他人かもしれないと言うことを視野に入れて。

 

「彼が言うには太平洋の南に孤島があり、そこでは彼と彼の仲間が集めた呪われた子供たちが集まって、自給自足の生活をしているそうです。そこは誰も呪われた子供たちであることを忌諱しない、私たちにとっては楽園であると」

「それが本当だとしたら、だいぶ驚かされるな」

「先生もそう思いますか。第一そんな孤島でどうやって武器や抑制薬を調達しているのか不思議です。

 ……ですが、最近はもしかしたら本当の話なのではと思うようになったんです」

「どうして?」

「私は夜科さんから超能力が実在するという話を聞きました。

 もしもの話ですが、東京エリアと件の島をテレポートでつないで行き来していたら、彼の言う楽園も作れたのかなと思うんです」

 

 菫は超能力と聞き、ゴミの山に積まれたブライス研究録を持ち出す。ページをめくり『テレポート』に関する記載を開く。

 

「この本では最長でも四十キロ程度とは書いてあるが……確かにブライスも出会えなかったほどの強力なサイキッカーなら、東京から沖ノ鳥島くらいならつなげることも可能なのかもしれないな。

 そういえばワイズ残党の報告資料には同等程度距離を瞬間移動したとしか思えない目撃例もあったな。仮に土井春樹とワイズが何か関係があると安直に考えるのであれば……

 そうか、相棒殺しとペアを組んで消えた子供たちはワイズの一員となったと考えられるのか」

 

 夏世は一人でヒートアップする菫の言葉において行かれ始める。夏世は土井春樹と言う名と相棒殺しの異名の関係性も知らなければ、ワイズという一団も知らないからだ。

 

「先生、私にもわかるように説明してくれませんか?」

「済まない、一人で熱くなってしまったようだ。まず相棒殺しと言うのは百人以上の子供たちとペアを組んで、そのすべてとごく短期間でペアを解消している悪名高いプロモーターだ。そしてその彼の名も『土井春樹』と言うんだよ」

「つまり、私が出会った彼が、その相棒殺しなんですか?」

「おそらくな……

 相棒殺しのペア解消理由の九割がイニシエーターの喪失とされているが、本当は喪失したのではなく合意のもとに新天地へと姿を消していたのであれば、すべて合点がいく。

 もう一つのワイズというのは過去に日本で暴れたサイキッカーテロ集団なのだが……彼らは後年、サイキッカー保護のために悪をなして巨悪を打つようなダークヒーローさながらの活動をしていたのだよ。

 もしワイズのメンバーが呪われた子供たちを保護するために偽名を使って民警ライセンスを取得していて、マッチングされた子供たちを件の孤島に集めているのだとしたら……目的と手段が一致するよ。

 彼らも元はその力を忌諱された存在だ。同様の境遇にある呪われた子供たちに同情してそのような活動を始めたとしてもおかしくはない」

 

 菫の推理を聞いて、夏世はふとあの時土井春樹についていったらどうなったのかと思う。だが将監やアゲハと出会うことは無かったであろうし、過去のもしもを考えてしまうのはナンセンスだと気持ちを切り替えた。

 だが二人にはその真相を知る由など無い。彼女たちの推理はあくまで飛躍した噂話でしかないのだ。

 

――――

 

 IISOへの申請から三日、相棒殺しのもとに折り返しの連絡が届く。その連絡に従い、相棒殺しとその付き添いの二名はIISOが運営するシェアハウスを訪れていた。銀髪オールバックにバイザーと、若白毛にサングラスという見方によってはかなりいかつい二人組である。

 

「これが№35……風待将子の経歴書です。ご要望通り、天涯孤独で両親については一切不明で、彼女自身知りません」

「上出来だな。ではこの子を貰っていくぜ」

 

 相棒殺しは35号室の鍵を受け取ると、そのままその部屋に向かう。部屋の中には囚人服と見まごうほど地味な白服を着た少女が大人しく座っていた。

 

「初めましてだな、お嬢ちゃん。単刀直入に言うぜ。お前は俺達の同朋として楽園に来るか、それともクソカスなこの東京エリアに留まるか、どちらがいい?」

「楽園? いったいどんなところですか?」

「お前達呪われた子供たちであっても一人の人間として扱い、迫害するものなど誰もいない南の島だ」

 

 将子は過去にリンチを受けた経験があり、そのことを心の傷として引きずっていた。だがその半面でリンチから救ってくれた名前も知らないプロモーターへの感謝から、プロモーターという職業に過度に期待するきらいがある。

 

「ついていきます。よろこんで」

 

 彼女は相棒殺しの甘言を二つ返事でOKした。相棒殺しと将子が施設を出ると、先に外に出て待っていた白髪の男が声をかける。

 

「早かったですね、ドルキさん」

「このおじさんは?」

「紹介するぜ。俺達の仲間のシャイナだ。それについでだから今言うが、俺の事はドルキと呼べ」

「あれ? 土井春樹さんじゃないのですか?」

「アレはただの偽名だ、民警として活動するためのな」

「そうなんですか」

 

 将子は普通の人間は嘘をつくがプロモーターはつかないという価値観を持っていた。そのためドルキの言葉も簡単に信用している。その様子に、シャイナは今回すんなり勧誘できたのはこういう子だからかと思い、二人を見つめる。

 

「これから楽園に戻ったら色々と教えることがあるぜ。年長の仲間も多いから、ちゃんと言うことを聞きやがれよ」

 

 三人は人通りの少ない路地に入ると、誰の目にも触れることなく姿を消した。付添人であるシャイナの持つテレポート能力を使って、一瞬のうちに彼らの拠点、慰問島へと移動したからだ。

 

 土井春樹ことドルキがこれまで組んだイニシエーターは総勢百五十人。確かに彼は組んだイニシエーターのほとんどを相棒としての存在価値でいうならば殺していた。これが相棒殺しと呼ばれる男の真相である。




第二章を書いた際に四章の前振りとして考えた話の蔵出しです。
ドルキさんの偽名は次の五章を書くときに使う予定なのでうまく生かせれば良いのですが。
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