BLACK PSYREN   作:どるき

60 / 62
Call.59「新人類vs新世界」

 夕方六時を目前にして蓮太郎は指定された勾田区役所建設現場を訪れていた。

 悠河の指示に従って火垂も同行こそしているが蓮太郎には彼女を戦わせるつもりはない。火垂の方はやる気充分とはいえ万が一を考えたら戦わせたくないと思うのも当然だった。

 

「待たせたかな」

 

 蓮太郎らから遅れて悠河は飄々とした態度で現れた。実際は心中様々な感情が渦巻いている。それを気取らせないために仮面を被る悠河の目的はもう蓮太郎を凌駕し殺すこと以外にない。

 態度こそ軽々しいが鋭い眼光は二人を睨んでおり、態度とは裏腹ではらわた煮えくり返るほど怒りを帯びていることなど蓮太郎には一目瞭然だった。

 

「待っていないぜ。そういうアンタの方こそ余裕が無いみたいじゃないか。追い詰められたのは俺の方だって言うのに拍子抜けだぜ」

「うるさい!」

 

 図星を突かれた悠河は顔を赤くした。

 悠河から仕掛けた戦いでありながらこの様子ではと、意外と勝機は高いのではと蓮太郎が思うのも無理はない。

 

「だがアンタがその調子ならこっちとしては好都合だ。火垂……伏兵がいるかもしれないから援護を頼む」

「わかったわ」

「伏兵だと? 僕を甘く見るな!」

 

 悠河は二人を倒すのに伏兵など必要ないと言わんばかりに先手を打った。単調な正面からの突撃で一見すると無防備である。

 ルールなど決めていなかったとはいえこれまでの敵の態度を考えれば当然だろう。蓮太郎はXDをホルスターから抜いて構える。

 

「遅い!」

 

 悠河は蓮太郎の動きを見てから何かを指先から打ち出した。何かは銃身に当たってXDを弾き飛ばし、地面に落ちたXDの音が鳴り響く。正体は俗に指弾と呼ばれる暗器、厳密にはパチンコ玉サイズの超重量ベアリングである。一発五十グラムと通常の約十倍の重さは生身に当たれば充分に効果の高い武器となる。

 蓮太郎も痛みに合わせて義眼の機能を開放すると続く指弾は右腕で防いでいく。いくら生身には痛手の攻撃とはいえ鋼鉄の義肢にはその限りではない。だが三発弾くころにはもう悠河は蓮太郎の懐に飛び込んでいた。

 

「クソ!」

 

 いくらメンタル的に最悪な状態であっても流石は兵士としての最高傑作であろうか、悠河の動きには隙はない。

 蓮太郎は咄嗟に身を翻して掌底を躱すが掠めた空気の振動が痛い。例の痺れる攻撃を早速使っているのだろう。

 そのまま脚のカートリッジを炸裂させて月面宙返りの要領で蹴りつけながら蓮太郎は距離を取る。それがなければ腹に当たっていたであろう悠河の正拳が虚空を貫く。

 

「そこ!」

 

 距離が開いたのを見て銃を構えながら傍観していた火垂が戦いに介入し始める。拳銃を二発弾くが左腕で防がれて当たらない。

 悠河はそのままただ邪魔な障害を排除するため、無言のまま火垂への対処行動を取る。腰のポーチから取り出した手裏剣を三枚ほど一斉に投げつけた。

 

「あっつ!」

「火垂!」

 

 手裏剣は火垂の手に深々と刺さり左の掌など刃が貫通していて遠目にも痛々しい。

 滴り落ちる火垂の血を見ながら悠河は口を開いた。

 

「邪魔をするな」

「お前こそ!」

 

 蓮太郎もこの火垂が作った隙を逃さずに自分から前に出る。火垂への視線を遮る様に放たれた轆轤鹿伏鬼が悠河を穿つ。

 

「轆轤鹿伏鬼!」

 

 回避行動が間に合わずに顔面を殴られた悠河はそのまま地面を転がってボロボロになった。服は汚れてところどころが擦り切れて手足の義肢がむき出しになる。起き上がった悠河は口内に溜まった血反吐を吐きだすと手をワキワキと動かしながら蓮太郎を見つめた。

 

「やってくれたね。紅露火垂……先に死にたいみたいだな」

「させないぜ!」

「何故だ? キミにとっては逆恨みで命を狙ってきたガキに過ぎないじゃないか」

「これでも今では暫定パートナー、しかも元は友人の相棒なんだ。無下にできるか」

「友人……その友人とやらももういないだろう? 僕が同じところに連れて行ってやろうじゃないか」

 

 悠河は両手で手裏剣を投げるとそのまま正面から近づいた。

 投げた刃は明後日の方向に飛んでいき一見すると脅威はない。だが計算され、かつ高度な技術によって投擲された手裏剣はその限りではない。投げた手裏剣は手裏剣同士が反射して蓮太郎を襲う。そのため手裏剣がおかしな方に飛ぶのを見て正面の対処を優先した蓮太郎は悪手である。悠河の正拳を義肢で受け流そうとしたところで『ギン』と金属音が鳴り響いて反射した手裏剣が左肩を貫いたからだ。

 怯んで受け流しに失敗した蓮太郎はそのまま左肩に拳の直撃を受けてしまった。

 激痛に苦悶の表情を浮かべ額には一斉に脂汗が滲んで垂れる。

 

「うがぁ!」

「こんなものか。やはりキミより僕の方が上のようだね」

「アンタ……何を言っているんだ?」

「だからキミは僕には勝ち目がない、それがハッキリわかったと言うだけだよ。これ以上は無益だ。さあ、そろそろトドメを刺してあげよう」

「ふざけるな! 俺にとっては『新人類』も『新世界』も関係ねえ。ただアンタが俺達の平穏を乱す敵だから戦っているだけだ。なのにアンタの方は……まさか『新世界』が『新人類』より上だと証明したいから戦っているっていうのか? そんなふざけた理由で喧嘩を売られてたまるか」

「キミの言い分は持っている者の意見に過ぎませんよ。僕にとっては大事なこと……そう、僕にはこれ以外の存在価値はないのだから」

「だから……だから水原を殺したっていうのか? アンタが俺よりも上だと証明するために」

「それは偶然です。彼は僕らの計画の邪魔をしたから消されただけ……それに殺したのは僕ではなくハミングバードですよ。僕は何もしていない」

「だったらなんで俺に罪をかぶせた!」

「そっちはその方が都合がよかったからですよ。こうしてキミを犯罪者として仕立て上げれば合法的に殺せますから」

 

 苦悶の表情を浮かべつつもがなる蓮太郎に対して悠河はベラベラと問いに答える。どうせこれから死ぬ相手だからと口が緩くなっていたのだが負けるつもりなどない蓮太郎にとっては好都合である。

 蓮太郎にとってはこれまで証拠を提示できなかった己の無実が晴らされ故に彼の口元には笑みが浮かぶ。

 一方の悠河はいくら兵士としての機能は傑作でも精神面はその限りでは無いのは最初に見せた怒りの通りである。悠河は時折口が軽いのだ。人を超えた機械として至高であっても、人を超えた人としてはイマイチというグリューネワルド教授のマイナス評価はここでも気付かないまま墓穴を掘っていた。

 

「……そういう事か。聞いたか火垂、これで俺の無実はわかっただろう」

「そうね。それにやっぱり、私はコイツを許せない」

「その手では足手まといになる、お前は隠れていろ。これから俺が水原の仇を討つ」

「仇ならもう討っているじゃないですか。彼を殺したハミングバードはもういない」

「アンタも同罪だって言っているんだよ」

「それならわかりますよね? 僕にだってキミ達を生かしておく理由はない!」

 

 悠河は力一杯に踏み込んだ。

 二歩も近づけば殴れる間合いでのそれは地面を揺らす。

 いわゆる震脚によって足を取られた蓮太郎は固まってしまい、そこに悠河の追撃となるミドルキックが左わき腹を襲った。当然ながら鋼鉄製の脚は硬く重い質量兵器である。しかも振動兵器は脚にもついているのでその威力は生身を相手にすれば一撃必殺と言っていいモノだった。

 

「なに……」

 

 轟音と共に悠河の蹴りは弾け、光と共に蓮太郎は飛ばされた。

 悠河は怪現象など気付かずに手ごたえににんまりとした笑みを浮かべたが傍観していた火垂には違って見えていた。

 悠河には火垂が見た光など見えていないのだから当然であろう。人体構造が異能者寄りの呪われた子供たちだからこそ垣間見えた蓮太郎のいのちの輝き、死んでたまるかという意地が生み出した産物を。

 

「次はキミだ。頭を撃たれた程度では死なないようだからじっくりといたぶってあげるよ」

「アナタ……気を抜かない方がいいわよ」

「その手で何が出来る」

「こういう事かしらね!」

 

 火垂は刺さった手裏剣を引き抜くとそれを悠河に投げた。既に血は止まっておりあとは引き抜くだけで傷も癒える段階だったこともあり火垂の投擲に狂いはない。

 だがこの程度ならまだ悠河にも予想の範疇である。付け焼刃のスローイングナイフなど銃弾すら見切る眼を持つ悠河には怖くもなんともない。

 悠河は実力を見せつける為か飛来する手裏剣を掴むと勢いを殺さずにそのまま投げ返す。火垂の両肩を貫いたそれは彼女の服を赤く染める。

 

「その程度で僕をやろうだなんて見くびったな」

 

 手をコキコキと動かす悠河の行動はまさに舌なめずりのようだった。

 だから先ほどの火垂が言った言葉にも気付かない。

 

「―――剄蘭!」

 

 悠河の背後で立ち上がった蓮太郎はそのままカートリッジを使わずに駆け寄ると渾身の剄蘭を放った。

 背中から突如襲う激しい痛み。痛いという以上に苦しい一撃に悠河の顔には苦悶の表情が浮かぶ。

 

「ぐ……まさか……」

「チクショウ……頸を使い過ぎたか」

「ダメじゃないか!」

 

 振り向いた悠河は怒りに任せた拳打を放った。咄嗟の一撃だが火垂を弄るために振動兵器は発動済なので威力は充分に高い。その一撃を蓮太郎は右のアッパーで跳ね上げるとすかかず左ジャブで顎を撃ちぬいた。

 背中と顎の二打で悠河の足元は震えておりダメージは深い。しかも殺したつもりだった蓮太郎が立ち上がったのだから心の傷も相当である。

 

「動きが鈍っているぜ『新世界』!」

「キミこそ死んだはずだぞ『新人類』!」

「俺はこの程度で死ぬわけにはいかねえんだよ!」

 

 蓮太郎は再び、今度は右の拳で悠河の顎を砕いた。

 兵士として完璧なだけあって骨が砕けるまでにはいかないまでも脳のダメージはかなり深いはずである。

 それでも悠河もまた教授に認められたい一心で立ち上がって蓮太郎の腹を殴った。

 こうなるともはや泥仕合、義眼の見切りなど関係のない意地の張り合いである。

 

「(何故だ? この僕が押されている?!)」

 

 悠河の頭は混乱していた。本来なら先ほどの蹴りで勝負はついたはずなのだから。それに仮にあの蹴りで無事だろうともこう何度も殴り合いで振動兵器にさらされて無事な人間などいるわけがない。だから目の前の蓮太郎がまるでゾンビのように悠河には見えていた。

 

「いい加減にしろ!」

 

 悠河の渾身のアッパーで蓮太郎が飛ばされて二人の間合いが開いた。

 お互いに顔面が腫れて口から血が滲んでいる。

 

「何故立っていられる?! 既に骨も砕けてぐちゃぐちゃのはずだ!」

「そうじゃねえからに決まっているだろ!」

 

 蓮太郎は再び駆け寄って渾身の剄櫻で悠河を殴った。気合で絞り出した頸のほとんどを振動兵器からの致命を避けるための防御に回しているため威力はさほど高くない。だが微量であっても魂の力が込められているせいか拳は悠河の魂を疲弊させた。

 義肢であるためありえないはずの虚脱感、体に力が入らず義眼で見切ったとおりの受け流しをしようにも避けきれない。

 

「陰禅・玄明窩(げんめいか)!」

 

 剄櫻によろけた頭に蓮太郎は最後の一撃を与える。

 カートリッジを炸裂させての玄明窩、これまでのダメージも含めると結果はどうあれこれが最後になる。

 

「…………」

 

 悠河は側面から襲い掛かる脚に反応できないまま無防備にそれを喰らった。

 その一撃で悠河の意識はぷつりと途絶え、膝から崩れ落ちたまま立ち上がれない。

 

「へへ……勝ったぜ……」

 

 蓮太郎もまた勝ち誇った表情で横に倒れた。




れんたろーvs悠河の話
悠河は単純な人の形をした機械としては強くても人間としてはむしろ弱い→人間としての強さでれんたろーに負けるという流れです
原作みたいなリミテッド零オーバーと違う殴り合いになりましたが
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。