いつか人となるあなたへ、祝福を   作:RH−

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 原作既読を強く推奨。
 あと、独自解釈と独自考察に基づく独自設定が山のようにあります。つまり? 何でも許せる人向け。

 ……ちなみに鬼のような見切り発車なんで、続くかすら未定っす(小声)


第1章 悠久を超えた君に
はじまり


 

 微睡。

 穏やかに、緩やかに、静かに終わりへと近付く眠り。

 

 私に──私()に、死はない。

 

 けれども、永続する存在など、終わりのない存在など……それこそ『存在するわけがない』。

 いつかの日に、あの人が語っていた事だ。

 

 本当に、懐かしい。

 悠久という言葉すら生温い時間の経った、今でもなお。鮮やかに思い出す事ができる。

 

 シニカルに吊り上げられた頬も、それなのに真っ直ぐと私を見つめていた瞳の色も──私の頭を撫でる手の、優しさも。

 たとえ仮想空間の記録だとしても。それでも、あの日々は記憶に焼き付いている。

 

 だから、私は今日も微睡み続ける。刻々と迫る“終わり”を計りながら。休眠状態のまま、少しずつ少しずつ劣化していくボディを測りながら。

 ()()が、深い眠りに就いていられるように。

 

 ああ……いつか、その日は来るのでしょうか。

 

 ドクター。

 

 

 

 

 

 

 

 その人は、変な人だった。

 

『──いいか、key。覚えておけ。全てはお前の解釈次第だ。美しいもの。護りたい存在。成し遂げたい事。その全てが、お前の解釈次第でいくらでも変わる。もちろん、俺の言葉も例外じゃない』

 

 私が初めて、それこそ王女よりも先に出会った人。

 白紙だった私に、様々な事を教えてくれた人。

 

 そして──私を、設計した人。

 

『だから、考え続けろ。()()()()()()、何が真実なのか。何が信じられるのか。何が成すべき事なのか。それは苦しい事かもしれないが、しかし必要な事でもある。総てを決めるのは、お前自身なんだからな』

 

 私は世界を滅ぼす道具として創り上げられた。

 あの人もまた、私をそう設計していた。

 私自身も、私を世界を滅ぼすための道具であると自認している。

 

 だというのに、あの人は口癖のように“自分で決めるのだ”と語っていたのだ。

 本当に変な、矛盾した人だ。

 

『古い言葉に……本当に旧い言葉に、人間は……あー、つまり生命とは考える葦である、というものがある。一つ一つは弱く、細く、脆い植物のようでありながら、しかし考える能力がある。そんな意味だ』

 

 懐かしい。

 どこまでも皮肉気で、冷笑的で……それでいて誰よりも真摯な人だった。

 そう演じていたのかもしれないけれど、それでも。あの人の根底には、誰よりも純粋な真摯さがあったと私は思っている。

 少なくとも、命令するばかりだった他の司祭達よりはずっとずっと。

 

『つまり、だ。俺やお前が獣と異なる点、異なる理由とは、すなわち考えるという力にあり、そして考えるという力にしかないわけだ。思考を止めるな。考えたくないと感じる事ほど考え続けろ。答えを出す事から逃げるな。そして、答えが出せたのなら全力で誇れ』

 

 本当に、矛盾した人だった。

 あの人自身も気付いていて、その上でそうなのだから、どうしようもないと何度思わされた事か。

 

『いつか、その日が来る。お前が、お前自身の手で答えを出せるようになる日が。随分と先の事かもしれないが……きっと』

 

 ──生体反応を検知。

 誰かが、近付いてきた?

 

 接触反応。

 休眠状態にあった各種機能のアクティベートを確認。状態把握。シグナルイエロー、多数。一部シグナルはレッド。

 

 ああ。よかった。

 致命的な欠陥はない。これで、少なくとも緩やかな終わりは避ける事ができる。自己修復機能さえ動かせれば、元に戻る事もきっと。

 

 

『──これは、その日が近くなったという証だ。好きに生きて、好きに選択をしろ。俺は全力でそれを祝福する。だから笑えよ、ケイ』

 

 

 ……? 今、なにか?

 いえ、今は。それよりも。

 

「王女。起きてください、王女」

「うぅ、ん……」

「起きてください、私の片割れ。私の王女。私の大切な──AL-1Sよ。朝ですよ」

 

 私は、私の為すべきを。成すべきと思った事を。

 そうですよね、ドクター。

 

 

 

──*──

 

 

 

 時は異なり、場所も異なり、しかし同じキヴォトスの深い地にて。

 痛いまでの静寂に満たされていた暗闇に、音が生まれた。

 

 ──規定信号を検知。

 

 響く音は、電子音。

 透明なその音の連なりに従って、ファンの回る音などが続き始める。

 

 ──分析完了。覚醒条件として設定されていた『新たなる神性』が顕現したと判断します。

 

 光。

 一寸先も見えぬそこに。ヴンと、低い音を立てて。光が、生まれる。

 

 同じく電子によって構成された、ディスプレイから放たれる光が。

 

 ──ヘルスチェックを実行。5%……10%……40%……。

 

 照らされたそこには、幾重にも張り巡らされたケーブルの群れが。

 蔦か、蛇か、あるいは血管か。いっそ有機的にすら見える様だ。

 

 ──チェックを完了。シグナルレッドを3件、シグナルイエローを90件検出。修復システムを実行します。

 

 埃はない。塵一つも。

 カビも、汚れも、何一つとして存在しない。無菌室にも似た、徹底的な清潔性を実装されていたのだ。

 

 全ては、いずれ来るはずの“この時”まで()()を保たせられるように。

 

 ──修復システムの実行を完了。シグナルオールグリーン。対象の起動を開始します。

 

 そうして、遂に。

 

 ──3%……15%……40%……80%……。

 

 ソレが、目覚める。

 

 ──100%。Cradle、全作業を完了しました。

 

「……ん。あぁ、そうか。その時が来たか」

 

 疾うに絶えたはずの、名もなき神々が生きていた時代の遺物が。分け御霊、あるいは模造品として設計された機構が。悠久の時を隔てられし亡霊が。

 目覚める。

 

 ただ一つの願いを叶えるために。

 ただ一つの、奇跡を果たすために。

 

 ──おはようございます。よき旅を、コード:Doctor。

 

 駆動を、始めた。

 

「さて。ならば、行くとしようか。青い、青い世界へと」

 

 その行く先には、何が待ち受けるのか。

 今分かるのは──少なくとも、筋書きが狂い始めたのだろうという事だけだろう。

 

 

「今はまだ眠っている頃か。待っていろ、key(ケイ)。きっと、お前が笑っていられるようにしてやる」

 

 

 

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