いつか人となるあなたへ、祝福を   作:RH−

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 先生視点です。一人称じゃなくて三人称一元視点ですけど。
 またの名をパヴァーヌ以前の情報を押さえるための整理回とも言う。


想起、あるいは決意

(……これは)

 

 ミレニアムサイエンススクールはゲーム開発部、その才羽姉妹の依頼を受けて、彼女らの下を訪ねて……なんやかんやあって、“廃墟”と呼ばれる廃都市エリアにやって来た先生。

 その中にあった工場にて、どうしてか自身の事を認識していた機械音声によって地下に落とされた、彼は。今。

 

 静かに、表情を硬くしていた。

 

(今回は、もしかしたら重い案件になるかもなぁ……)

 

 その視線の先には、円形の部屋の中央にて、機械的な玉座にも似た椅子に座って眠るようにしている少女の姿が。

 見た目だけで言えば、歳の頃は小学六年生辺りのようにも。椅子の背もたれを超え、地面にまで届かんとする黒の長髪(ながかみ)は、あるいは垂れ幕みたく映るかもしれない。

 そして──()()()()()()()()は、司祭服だろうか。白地に金の糸で緻密に作り込まれたデザインは、見る者に否応なしに荘厳さと清廉さを感じさせるだろう。

 

 それら全てを認めると、先生は一度まばたきをした。

 ゆっくりと視界が黒に覆われるのに合わせて、その思考が巡り始める。

 

(誰も寄り付かない立ち入り禁止区域の奥。人の立ち入った形跡のない場所に眠る少女。見た事のない趣向の衣服。そして──何より傷も汚れも見られない、と)

 

 まあ、尋常な状況ではないだろうと。

 先生は思う。

 

 抜けているようだったりお人好しのようにも思われやすい彼だが、危機感が欠如しているわけではない。加えて、現在は生徒と共に危険地帯にいるのだ。その危機察知能力は相応に研ぎ澄まされている。

 さらに言えば──

 

(それに、あの子の雰囲気。少しだけ、似たような気配の覚えがある)

 

 眠る少女から受ける気配に覚えがある事もまた、その表情を硬くさせる要因となっていた。

 

 

(あれは、そう……アビドスだ)

 

 脳裡に過ぎる、以前の一件。

 すなわち、アビドス高等学校、そしてアビドス廃校対策委員会にまつわる諸々の話。

 

 これまで対応してきた案件の中では最も大規模であったソレを思って、先生は少しだけ息を吐く。

 

(あれは、大変だった)

 

 元々、依頼内容──暴力組織に追い詰められている自分たちを助けてほしい、という要請──からして一筋縄ではいかないだろうと覚悟していたソレであったが、蓋を開けてみれば事前の想定を遥かに超える事件となったのだ。

 

 まずは、件の暴力組織、つまりはヘルメット団との抗争をある程度解決できたかと思えば、尋常じゃない額の借金の話が出てきて。

 その翌日には、対策委員会の一人であるセリカが拉致され。

 どうにか彼女を取り戻してみれば、今度はヘルメット団に代わる新たな強敵である便利屋68の面々が襲撃してきて。

 さらには、諸々の事態は自治区内を超えてブラックマーケットまで関わっていると判明し。

 遂には、指名手配犯である便利屋68の追跡を名目にゲヘナ学園の風紀委員会まで現れ。

 それらをどうにか凌いで、ようやく黒幕であるカイザーコーポレーションの尻尾を掴めたかと思えば、今度は唯一の三年生であるホシノが自主退学を申し出てきて。

 その混乱の治まらぬ内に、今度はカイザーPMCの大軍が襲撃してきて。

 ホシノの身柄を押さえたという黒服には、やけに皮肉気に『ずっと前から私達は貴方の事を知っていました。その意味を、どうぞ忘れないでくださいね』などと言われ。

 

 そして──そのタイミングで。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ホシノを取り戻して、ユメとホシノとの再会を果たしたかと思えば、ビナーと呼ばれる謎の怪物が現れ。

 

(そして……)

 

 そして、追い詰められたその場面に。

 現れたのだ。波打つような光沢を放つ黒のローブに全身を覆われた、何者かが。ただの数発の銃撃でビナーを退却させる、そんな埒外の化け物が。

 

 その何者かこそが、今、先生の目の前で眠る少女と似た気配を放っていたのだ。

 

(うーん、中々……どうしたものか)

 

 後から聞いた話によれば、ユメ曰く、その何者かは彼女を救けてくれた人でもあるらしいが。

 あの一幕以降は一切の情報もなく、当然ながらコンタクトも一切ないのが彼の現状である。善人か悪人かも確定せず、しかし途轍もない力を持っている事だけは確実な相手など、頭痛の種以外の何物でもない。

 

 そも、ユメの姿は二年前の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。これが異常であるというのは、それこそ小学生でも理解できる事だろう。

 重ねて言えば、件の人物の背格好はどう見ても自身に近しい──つまりは成人男性の──それであった、というのも問題だった。ヘイローも見えなかった以上は生徒ではないはずなのだが、ならばあの生徒顔負けどころか並の生徒を凌駕するほどの戦闘力は何なのか。

 というか大人でも前線で戦う術があるなら教えてほしい……というのはさすがに冗談ではあるが。半分ほど。

 

 そんな感想が、先生の正直なところであった。

 

 で、ここに来て、もしかすればそんな彼/彼女の関係者である可能性のある少女の登場である。

 

(まあ、まあ、まあ。悪くはないか)

 

 意識的に口角を上げ、先生は思考を締めくくった。

 鬼が出るか蛇が出るか、戦々恐々といった心境ではあるが、そもそも鬼も蛇も出てくるか分からなかったのが以前である。進歩が見えるのなら、そう悪い事ではないのだろう。

 

 おそらく。

 きっと。

 たぶん。

 

 そんな個人的で不確実性の高い諸々については才羽姉妹に悟られぬよう隠しながら、先生はこの少女は何なのか話し合う二人の下へと歩を進めたのだった。

 

「私は、子ども達のための先生だ」

 

 ──それは、あるいは眠るこの少女も含めて。

 

 頷く姿は、決意に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 ……なお、この後に少女の纏う司祭服がミレニアムの制服を模倣するように変化したり、記憶が無くなっているらしい彼女へ個性的と表現する他ないゲームで情操教育を施す事になったり、その結果ナチュラルに先生をマスコット扱いする畜生無邪気な少女が爆誕してしまったりと、彼は色々と頭を悩ませる事になるのだが。

 まあ、余談だろう。

 

 

 

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