トリニティ敷地内に設置されたベンチ、遠くの方から微かに射撃の音や掛け声に耳を傾けながら、あることで頭を悩ませていたコハルは1人小さく溜息をついていた。
彼女の悩み事、それは今の自分の実力について....
正義実現委員会には彼女以外にも大勢の新入生が入部している、当然コハルも未来のエリートを目指す身として、先輩達に並び立つために努力をかかさず訓練に臨んできた。
けれども、その中で徐々に自覚していったのは周りとの実力差だった。
他の子が出来てきたことが自分にはまだ出来ない、走り込みや射撃訓練などあらゆる事柄でそれが嫌でもわかってしまう。
なんとか差を埋めようと1人残って訓練した事もあった、だがそれでも日が経つにつれまた広がり不安が積み重なるというまさに負のスパイラルへと陥ってしまっていた。
....自分は正義実現委員会として、相応しくないのでは?
そうして普段の彼女では絶対に考えないであろう事を、今の彼女は考えるまでに気持ちが落ち込んでしまったのだ。
自分がみんなと一緒に前線に出ても役に立てない、なら事務仕事でも手伝える様に今から先輩達にお願いしてみるのもいいかもしれない。
そんな事を思いながらまた溜息をついていると
「コハルちゃん、こんな所でどうしたの?」
横から聞き覚えのある声が聞こえ、思わず顔を上げるとそこにはハツネの姿があった。
「何か考え事してる途中だったらごめんね?でもコハルちゃん、なんか暗い顔してたから気になっちゃって....横座ってもいい?」
「い、いいけど...」
コハルが了承すると、ハツネはありがとうと言って隣に座ってくる。
そのまま何を話すでもなくお互い無言の時間が続く中
「ね、ねえ、ちょっと聞いてもいい?」
「ん?いいよいいよ」
「その...最近そっちはどんな感じ?ほら、訓練の調子とか...」
「私?そうだなぁ、最近は色々やる事が増えてきたかな。マシロちゃんって子と一緒にトレーニングもやってるよ」
「ふぅん...」
彼女の話を聞き、また少し黙ってしまったコハル。
だがそのままの状態が暫く続いたのちに
「.....私、皆から離れて事務の担当にしてもらおうと思ってるの」
「え?」
ハツネはその発言に驚き視線を向けてくるが、そのまま言葉を続けるコハル。
「最近はずっと訓練しても上手く出来ないし...勿論最初の頃よりは成長してきたと思うけど、他の子達に比べたらまだまだだし....」
コハルは、これまで自分1人で抱えていた悔しさや本音を静かに溢し続けた。
正義実現委員会として立派な働きをしたい、それは嘘ではない。
けれども、理想と現実のギャップという穴を前に彼女は足踏みしてしまっていた。
「ごめん、こんな話聞かせちゃって...」
やがて愚痴のような話を終えたコハルはポツリとハツネに謝ると、そのまま立ちあがろうとする。
「でもおかげで少しスッキリした、じゃあこれからハスミ先輩の所に....」
そう言いかけた時だった。
「っ!」
突然手に柔らかい感触が伝わり横を向くと、いつの間にかハツネが自分の手を握っていた。
彼女は小さく笑みを浮かべながら、コハルに告げる。
「コハルちゃんがもしそっちに移りたいって考えてるならそれがいいと思う。結局他の人がどんなに言っても最後にそうするって選択をするのは本人しか出来ないから」
「だから他の人の意見で決めるよりは自分で決めたほうが後悔は少ないし、きっと一番それが良い未来が待ってると思う....まあ私が言っても説得力は無いと思うし、なんだか凄く大袈裟なことを言ってるかもしれないけど」
「.....」
コハルは握られた手の熱を仄かに感じながら、彼女の顔を見つめていた。
「あ、でももしコハルちゃんが離れて、会える時間が減っても安心して!休憩時間とか、放課後とかに絶対会いに行くから!」
「...何それ」
最後に元気な笑顔を浮かべてそう締め括ったハツネにポカンとしていたコハルだったが、それから彼女は小さく息を吹き出しつられるように笑っていた。
不思議と先程まで胸の中で渦巻いていた不安が引いていくのに気付かぬまま、2人の少女はそれから少しの間ベンチで笑い合っていたのだった。