正義実現委員会の訓練がお休みの日。
普段ならしっかり休息を取るためにベッドの上でゴロゴロしている筈の時間....今日の私はそれをしないで朝起きた時からうんうんと考え事をしていた。
「何かお返し出来るもの...」
私の頭の中を占めているのは、いつもあるお昼休みの光景────
『いただきます!』
正義実現委員会は日頃から学園内外の治安を守るために訓練や任務にあたっている。
当然朝から動いていればお腹も空く、だからこそ活動終わりのお昼ご飯は私達にとって欠かせないのだ。
普段私はサンドイッチを買ってそれを食べているけど、他のみんなはお手製のお弁当を持参していることが殆どだった。
『ハツネちゃん、これ食べる?』
『私も唐揚げ少し作り過ぎちゃったから、良かったら食べて』
『いいの?ありがとう!』
しかもみんな優しくて、いつも私に自分のお弁当のおかずを分けてくれていた。
『う〜ん!美味しい!』
『ハツネちゃんって凄く美味しそうに食べてくれるよね』
『そうだね、いっぱい食べて午後からも頑張らないと....はい!これも食べていいよ』
みんながくれるおかずはどれもとても美味しく、私のお昼を彩りのいいものにしてくれる。
勿論その度にしっかりお礼は伝えているし、みんなも気にしないでと言ってくれはする....でも不意にこうも考えしまうのだ。
(...やっぱり私ばっかり貰って申し訳ないなぁ....)
同じ正義実現委員会として訓練時も任務時も助け合いは必要だ、でもお昼ご飯に関しては一方的にこっちが助けられてしまっている。
なので何度か断ろうとしたこともあった...でもその時にその子達が浮かべる少し悲しそうな顔を見てしまうと結局断りきれなくなってしまう....
(でもずっとこのままじゃ駄目、今度こそ私がお返しをしなくちゃ!)────
そう決意し、いよいよ私のお返し大作戦が始まった。
作戦内容はいたってシンプル、"お弁当"には"お弁当"で返すというもの、おかずの交換なんてことも出来るかもしれない!
....ただこの作戦には致命的な問題があった、それは...私自身今まで一度も料理を作ったことが無いということ。
難しそうなものは勿論ただ焼くだけとかそういったこともしたことが無い....私にとって料理というのはまさに未知の領域だ。
でもだからって諦める訳にはいかない、どんなことでも挑戦しなくちゃ結果すら得られないんだから!
「よし、行こう!」
それからの行動は速かった。
その日のうちに寮を出た私は一目散にトリニティ郊外にある本屋さんで"ゲヘナでも絶対できる!はじめてのお弁当レシピ"という本を購入。
そのまま流れる様に卵やお肉、野菜などの色んな食材を買い込んで寮に戻ると、ついでに買ってきたエプロンを身につけて早速部屋のキッチンに立った。
あとは本を読みながら作るだけ!意気揚々と本を広げて中の文字に目を通して....いったのも束の間。
「え、塩コショウを少々の"少々"ってどのくらいなの...?ひとつまみ?大さじ1?え、何を使えばいいの?」
これまで全くと言って良いほど料理を自分でしてこなかった私にとって、レシピ本に書いてある文字が全く頭に入ってこなかった。
本の中では軽く炒めるとか中火で焼くとか書いているけど、まるで自分の知らない言葉が使われているかの様。
結局困惑しっぱなしでその場で固まっていた私は....
「....うん!とにかくやれば何とかなるよね!やってみれば案外上手く行く事が多いって言うし!」
考えることを止めた。
「まずは簡単そうな卵焼きからいこう!確か卵を割ってフライパンに落とせばいいんだよね、それくらいなら何となくわかるし....」
とりあえず買ってきた油をフライパンへおおよその量を垂らしてから卵を落としていく。
「あ、殻が...!って熱い!?」
卵を落とした瞬間じゅぅぅぅ!と大きな音と一緒にパチパチと油が跳ねてそれが手にかかりかける。
「えっと、えっと...ま、混ぜるんだよね?ってあれ、卵焼きってこんなにぐちゃぐちゃなやつだっけ?...みんなのは綺麗に四角くなってた様な....」
慌てて何か長い箸のようなものを掴んで卵を混ぜていったけど、卵がどんどん崩れて細かい固まりみたいになっていってしまう。
「と、とりあえず卵はこれで良いや!お皿お皿...あ、溢れちゃった!?」
「次はウインナーを....ああっ、何か真っ黒に焦げた!?」
「野菜炒めは...これ野菜ってどう切ればいいの!?」
そうして初めての料理と格闘すること1時間──
「.....」
私の目の前には、お皿の上に乗った見たことないような塊があった。
よくわからないくらいぐちゃぐちゃになった卵に焦げた真っ黒なウインナー....他にも色んな料理?がまるで私を見ている様に圧を放っている。
味に関してもどこで間違えたのかしょっぱ過ぎたり味がしなかったりと散々な出来で、せっかく買ってきた食材があっという間によくわからない物体Xへと変化してしまった。
「ダメだ....これじゃ絶対お返しにならない...」
唯一無事に生き残ったのは、奇跡的に上手くいった炊飯器の中でツヤツヤと輝く"お米"だけ。
もうタッパーにご飯だけ詰めてお弁当です!なんて言おうかとも考えたけど、正気に戻った私は溜息をついた。
「....一応おにぎりにしてみようかな...?」
ただの白米よりはおにぎりの形に握って中に具を入れたり海苔を巻いたりすれば立派な"料理"になる筈だ、そう思った私は適当に買ってきた中にあった梅干しやふりかけをおにぎりに加えていく。
「ん...美味しい、かも?」
やがて完成したおにぎりを食べてみた私は、もう少し美味しく出来るかもと少しずつ改良に改良を重ねるために、次の訓練日までおにぎりの研究をしていった。
「ふぅ〜、やっと休憩〜」
「お昼たべよー」
「ハツネちゃん、お昼ご飯食べよ」
「う、うん!」
数日後、お昼休みになり他の子達がそれぞれ木陰に集まってお弁当箱を広げ始める中、呼ばれた私は緊張しながらみんなと並んでベンチに腰掛けていた。
「あれ? ハツネちゃん今日はパンじゃないの?」
「そ、そうなの!その...」
不思議そうに覗き込んでくる子に私は袋にゆっくり手を入れていく。
「みんないつもおかずを分けてくれるでしょ?そのお返しで私もお弁当作ってみようと思ってたんだけど、初めてで全然上手くいかなくて、結局材料全部ダメになっちゃって....」
「え、そうだったの?」
「別に気にしなくていいのに....」
驚いた顔をするその子達に私は言葉を続けた。
「それでね?なんとかお米だけは綺麗に炊けたから、おにぎりを作ってきたの....よ、良かったらどうかなって!勿論いらなかったらいいんだけど!」
恐る恐る取り出したおにぎりを見せると、その子達は目を丸くさせながら嬉しそうに笑ってくれた。
「本当?ハツネちゃんの手作りのおにぎり食べていいの?」
「う、うん」
「やったー!じゃあ1つ貰うね」
「ありがとう〜」
そうしておにぎりのラップを取った後、その子達はいただきますと言ってパクリとおにぎりにかじりついた。
「....んっ!」
「っ!」
突然発せられる声に私は心臓が口から飛び出そうなほど緊張しながら彼女達の顔を見つめる。
(まさか失敗!?ど、どうしよう!まずいものを食べさせちゃった!?)
内心焦りながらどうすれば良いのか固まっていた間も彼女達はもぐもぐと咀嚼し続ける、それからパッと花が咲いたような笑顔を向けて口を開いた。
「美味しい!!ハツネちゃん、これすっごく美味しいよ!」
「塩加減も絶妙だし、ご飯もふんわり握られてて口の中でほどける感じ....もう1個もらっても良い?」
「あ、私も!」
そう言って次々とおにぎりに手を伸ばして美味しいと言ってくれる、そんな彼女達を見て私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「....うん!どんどん食べて!」
「あ、私達だけ食べてたらハツネちゃん食べられないよね。はい!ハツネちゃん、私のお弁当も食べて!」
「私のも自信作だよ、はいどうぞ!」
他の料理は失敗しちゃったけど、初めてとなる私のお返し大作戦は結果的に大成功に終わったのだった。
——でも、それが良くなかったかもしれない。
みんなから美味しいと言ってもらえた嬉しさと、おにぎり作りの楽しさにすっかり目覚めてしまった私はある種の"おにぎりハイ"状態に陥っていた。
(次はどんな具材にしよう!色んな味のおにぎりも試したいよね....難しそうだけど焼きおにぎりなんていいかも!)
そんなことを考えながら毎日の様に具材を買い込んでは寮の自室でひたすらおにぎりを握り続ける日々。
その結果......
「....これ、どうしよう」
目の前の冷凍庫の中身を見ていた私はポツリと呟いた。
その中にあるのはカッチカチに凍った大量のおにぎりたち。
ツナマヨ、梅、昆布、鮭、唐揚げマヨ、おかか、そしてよく分からない創作具材の数々....。
完全に調子に乗って作りすぎた結果、冷凍庫はすでにおにぎりによって完全に占拠され限界を迎えてしまっていた。
「....しばらくは作るの我慢しよう」
こうして暫くの間、朝・昼・晩の全部がおにぎりの生活が確定してしまったのだった。