正義実現委員会本部の一室。
そこには黙々と事務作業をしているハスミの姿があった。
「ふぅ、このくらいでしょうか。すみませんがこれをあちらの棚に移してくださいませんか?」
「は、はい!」
一仕事を終えたハスミは一息つきながら、処理し終えた書類の束を近くにいた一年生の部員に手渡す。
彼女達が入部してから1ヶ月、大半の新入生は自身が得意とする担当業務を決め終え各々行動しており、仕事ぶりも最初の頃よりも定まってきたように感じる。
イチカ曰く、『訓練してる子達も結構上達してきてるっすよ』との事。
(流石にまだ任務に向かわせるのは早すぎる気がしますが....そろそろ同行くらいはさせてもいいかもしれませんね)
そんな事を考えていたハスミだったが、丁度そのタイミングで部屋の扉が開く音が耳に届いた。
「戻ったぞ」
「ああツルギ、お疲れ様です」
音のした方へと視線を向けると、部屋に入ってきたは委員長のツルギであった。
任務の直後の為か、制服が若干汚れている彼女にハスミは労いの声をかける。
「その様子だと無事鎮圧出来たみたいですね」
「ああ、そいつらはヴァルキューレの奴らに引き渡し済みだ」
ツルギは部屋に入るなり使用していたであろう銃についた汚れをタオルで拭き取り始める。
そんな作業を静かに見守っていたハスミだったが、ふと先程考えていた案について彼女へ問いかけた。
「ツルギ、お願いがあるのですがよろしいですか?」
「?」
「少し前に入部した彼女達なのですが、そろそろ任務に同行させようと思っているんです。実際に仕事をしている場面を見学させるのも勉強になりますから」
「まあそうだな」
「そこで今度の任務の際、あの子達を一緒に連れて行ってあげて欲しいんです」
「私が?」
ハスミの言葉を聞き思わず動かしていた手を止め顔を上げるツルギ。
「...そういうのはイチカ辺りが適任だろう」
「実は今年の新入生は例年より人数が多くてですね、一人では中々難しいんです。彼女自身も別で任務を色々と受けていますし....ツルギはまだあの子達とは顔合わせをしていないですよね?」
「......」
「それにあの子達にとっても良い経験になると思います」
「...わかった」
その説得に断りきれなくなったツルギは顔を逸らしながらもその件について了承し、そんな彼女の姿を見たハスミは小さく笑っていたのだった。
「し、松果ハツネですっ!ほ、本日はツルギ委員長の任務に同行する貴重な機会を与えてくださり、あ、ありがとうございます!」
「「「よ、よろしくお願いします!!!」」」
「.......」
それから数日後、トリニティ郊外でスケバン達が道を塞いで困っているとの通報を受けたツルギは、一年生達の前で自己紹介をしていた。
彼女達は初めてツルギを見た興奮や緊張でしどろもどろになりながらも、一斉に頭を下げ挨拶を行っていく。
「今から郊外に向かう」
「は、はい!了解しました!」
「.....」
そんな新鮮な雰囲気を漂わせる一年生達を前に、ツルギはそう一言呟くとすぐさま通報のあった場所へと移動を開始する。
「や、やっぱり委員長って凄いね」
「うん、ずっと冷静で任務の事に集中してるもん」
移動中、背後から自身の事について話す声が聞こえてくるが、それでもツルギは一切表情を変えることなく真っ直ぐ足を動かしていく。
側から見れば、任務中は他のことに構わないというプロの空気が感じ取れる振る舞いであるのだが....
(...どうしよう、何も話題が無い...)
その実、彼女の内心は一年生との関わり方についての悩みで埋め尽くされていた。
(こういう時にイチカやハスミならば気の利いた話を投げかけれられるんだろうが.....)
彼女の脳内には、自身の後輩のイチカがフレンドリーに声をかける様子や、ハスミが丁寧に任務の動き方を教える姿が自然と映し出される。
折角の同行任務なのにただ着いて来させるだけなのはどうなのかと悩んでいたのだが、生憎こうしたやり取りをあまりして来なかったのもあり何も思いつかず、結局今も表情を頑張って保つ事しか出来ていなかった。
そんな事を考えつつ移動し続けた結果、目的の場所へと辿り着いたツルギ達。
そのタイミングで少し離れた所から銃声と共にスケバン達の大きな声が聞こえてきた。
「おらおら!ここは今日からあたしらの縄張りだ!」
「通して欲しけりゃ通行料払いな!」
「そ、そんな...会社に行きたいだけなのに!」
「私もバスの時間が!」
よく耳をすませば、スケバン達の他にも困り果てている様子の住民の声が混じっているのがわかる。
スケバン達の数は二十名程、中々に大人数ではあるがこの程度ツルギにとっては何の障害にもなっていなかった。
「危ない時はすぐに隠れろ」
ツルギは緊張した様子で固まる一年生達にそう一言言い残し
「ここからは、私の役目だ....キィヒヒッ....」
目の前のスケバン《敵》に視線を向け銃を構えだした。
体勢を低く、目つきも獲物を見据えるものへと変化し、彼女の口からは笑い声が漏れ始める。
「カァハハハハハハッ!!!!」
そして一際大きな笑い声を上げたと同時に、勢いよくその場から飛び出した。
彼女は地を蹴る反動を利用しスケバン達との距離を一瞬で詰めていく。
「うわっ、な、なんだこいつ!?」
「この制服...正義実現委員会の...ぐぶっ!」
突然現れたツルギに驚くスケバンだったが、そのうちの一人が銃を構えようとした段階で彼女の攻撃をくらい、とてつもない勢いで後ろに吹き飛んだ。
「ケヒャヒャヒャッ!!!」
「や、やべぇぞこいつ!」
仲間がやられた事にようやく事態の大きさを理解したスケバン達は一斉にツルギへ攻撃を開始するが、そんな彼女達の攻撃をツルギは真正面から受け止め尚攻撃の手を緩めようとしない。
「ッ!」
「よ、よし!当たった....!」
「....かかかかっ、シャア!!!」
「ひ、ひぃ!?」
飛び交う銃弾の一つがたまたま頭に命中するも、彼女はまるで何事もなかったかの様に笑い動きを再開させる。
一人はショットガンを集中砲火され、一人は服を掴まれそのまま壁へと叩きつけられ気絶....そうして次々と戦闘不能に追いやられていくスケバン達。
あれだけ威勢の良かった彼女達は一人、また一人とその数を減らしていき...
「お前で最後だぁ!!」
「〜〜〜〜っ!?ご、ごめんなさっ...!」
バンっとショットガンの音が響いた後、地面には気絶したスケバン達全員が倒れ伏している光景が広がっていたのだった。
「.......」
ツルギはそんな惨状を静かに見下ろしながら、建物の影からこちらを見ていた一年生達の元へと歩いていく。
彼女達の顔は信じられないものを見る様にポカンとしており、その目はまるで畏怖の念を抱いているかの様だった。
今回の目的は、今後任務に向かう事になるであろう彼女達に、実際の任務の様子を見学させ学ばせる事。
だがこれではただ怖がらせてしまっただけ....アドバイスも何もなく、いつもの通り殲滅しただけだ。
(....やっぱり私には向いていない)
そんな事を考えるツルギは、彼女達の視線を受けながら来た道を引き返していく。
「あ、あの!」
「.....」
だがその時不意に背後から声をかけられ振り返ると、一年生の内の一人が何かを話そうと口をモゴモゴと動かしている姿があった。
「す、すごく格好良かったです!」
「......!」
予想していたものとは違う反応に思わず驚いてしまうツルギだったが、そんな彼女を前に少女はそのまま言葉を続ける。
「あんなに人数がいたのに一切引かずに倒してたり、住民の人達に攻撃が当たらない様に配慮してたり.....やっぱり正義実現委員会の委員長って凄いんだって...”正義実現委員会”は凄い組織なんだって改めて思えました!」
「わ、私も!この委員会に入れて良かったです!」
「じ、実力はまだまだですけど、これからも一人前になれる様頑張ります!」
「........」
次々と送られる賞賛と尊敬の言葉。
そんな彼女達の反応を静かに見つめていたツルギだったが
「....そうか」
ただその一言を返すと、彼女達に背を向け学園へ帰る旨を指示したのだった。
....だが前を向く彼女の口元が僅かに緩んでいた事に、彼女達は勿論、本人も気づいていなかった。