【バトルマスター】のゆるふわタウンライフ   作:千寿院うにいくら

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<Equip.1>飼い犬

 その日!

 冬木ツバキはおうちでぐうたらしていた!

 

 何をすることもなく、ただソファーに身をうずめてだらだらとする。

 それが、在宅浪人&家事手伝いにのみ許された最高の贅沢と言えよう。

 

 だが、ツバキのそんな贅沢な時間を邪魔する者がいた。

 

「ツバキちゃーん。プイちゃんのお散歩お願いできるかしら」

 

 専業主婦の母、冬木サザンカである。

 

「……今、忙しいし~……」

 

 ツバキはそう返事をした。

 もちろん、彼女は忙しくなどない。ただダルいだけなのである。

 

 そんなことはサザンカも先刻承知の上なので、

「母さん手が離せないから、お願いね~」

 有無を言わさずツバキに押し付けた。

 

「うう~……プイちゃんの散歩はビオラ(妹)の仕事なのに……」

 

 妹は来年に中学受験を控えており、小学校から帰宅すると塾に通っている。

 ツバキも浪人生である以上、来年に大学受験を控えているのは同じだが、塾に行くでもなく、やる気もないのだから始末に負えない。

 

 飼い犬は妹の仕事である、と抗弁しようものなら、そのことを突かれて苦しい立場に追い込まれるのは目に見えている。

 ツバキは渋々と、人間をダメ人間にするソファーから身を起こした。

 

「プイちゃーん、お散歩いくよ~」

 

 ツバキは飼い犬のプイードに声を掛ける。

 しかし、プイードは気乗りしないように顔をプイッとツバキから背けた。

 

 プイードは、ツバキを舐め腐っているのである。

 

 最近の研究では、飼い犬はヒエラルキーを決めない論が主流のようだが、プイードはツバキの妹ビオラが拾ってきた野生のウェルシュコーギーであった。

 野生のコーギーの群れで社会性を培ったプイードは家族においても階層構造で人に順位をつけている。

 

 一位は母のサザンカ、二位は妹のビオラ。同率の二位に全寮制の高校へ通って家を出ている弟。四位は単身赴任中の父であり、高校時代ひたすら部活動に打ち込んでいたツバキの順位は冬木家の家庭内で最下位である。

 

 故に──プイードは、ツバキを舐め腐っているのである。

 ツバキの呼びかけになんて応えてやるもんか、と、食パンのごとき尻を向けている。

 

「お母さーん、プイちゃんの首輪とリードは?」

 

「新しいの使ってー。前のは、大分ボロボロになっちゃってたから」

 

「は~い……これかな~。わぁ~……真っ赤で、かわいらしいねぇ~。はい、プイちゃ~ん」

 

 ツバキは顔を背けたプイードに、背後からにじり寄って、その首に真っ赤な首輪を嵌めた。

 

 

──その時、不思議なことが起こった!

 

「プイちゃん、Sit(おすわり)」

 

「プイィ!?」

 

 プイードは困惑した。

 ツバキのおすわりの指示に、自分の身体が抗えなかったのだ。

 

 ツバキが手ずからプイードに首輪を嵌めたことにより、ツバキのバトルマスターのスキルが発動したのだった!

 

 飼い犬とは、すなわち家畜である。

 犬は、古来より狩猟、牧畜、番犬と、人との共存関係を築いてきた動物だ。

 

──ツバキのバトルマスタースキルは、飼い犬を『武具』と認識したのだった。

 

「プイちゃん。おて」

 

「プ…‥プイッ!(イヤだッ!ぼくはツバキの命令なんて聞きたくないんだッ!)」

 

 プイードは全身全霊でツバキの指示(コマンド)に抵抗しようとする。それほどまでに、プイードにとってツバキの命令に従うことは屈辱的なことであった。

 

──だが、ツバキのユニークスキル『バトルマスター』は、あらゆる武具を意のままに扱う強力無比なスキルである。

 

 そして、母の用意した首輪とリードは、偶然にも近所に住む名うてのドッグトレーナーがしつらえた逸品であった。

 犬との信頼関係を育み、良き友となるように──そんな想いが込められた首輪とリードが、バトルマスター冬木ツバキの手によって今、プイードに牙を剥く。

 

 必然──プイードは、抵抗むなしくツバキに自身の短い右前脚を捧げることとなった。

 

「おかわり」

 

「Down(ふせ)」

 

 プイードは、彼の身体は……自身の意志に反して、ツバキの出すコマンドに悉く対応してしまった。

 

「よ~しよしよし!グッドボーイ!グッドボーイ!」

 

 ツバキは上機嫌で、プイードをわしゃわしゃとモフった。「いや~、プイちゃんこんなにいい子だったかな~。いい子になってくれて、私は嬉しいよ~」

 

 一方のプイードは、自己の尊厳が破壊されて虚ろな目になっていたが、ツバキはまるで意に介すことはない。

 

「カモン、プイちゃん!彼岸時町(ひがんじまち)を一周するよ~!いや!一周と言わず何周でも!」

 

 ツバキは、首輪とリードに込められた「犬との信頼関係を築く」意図のままに、プイードと共に家を飛び出した。

 

 

 彼女と、すっかりぐったりしてしまったプイードが帰宅したのは、「ツバキを主人として認める」と、プイードの心が折れた真夜中のことであった。

 

 

次回、『<Equip.2>中華鍋』

 

■キャラクタープロフィール①

Name:冬木ツバキ

スキル:武芸百般(バトルマスター)

 

 本作の主人公。

 彼岸時町(ひがんじまち)の実家に暮らしている。

 家族構成は、両親に弟と妹が一人ずつ。

 父は単身赴任、弟は全寮制の高校に通っているため、母と妹との三人暮らし。

 

 蒼波高校在籍時はその凛とした美貌とストイックに部活動へ打ち込む姿から校内にファンクラブまであったが、現在は身だしなみが乱れて見る影もない。

 

 ユニークスキル『バトルマスター』は、製作者の設計意図の通りにあらゆる武具を操ることができる。

 

 

■キャラクタープロフィール②

Name:冬木プイード(犬)

特性:愛玩(モフみとやわらかみ)

 

 冬木家の飼い犬。オス。犬種はウェルシュコーギー。

 

 元は飼い犬ではなく彼岸時町に生息する野生の吸血コーギーであったが、ツバキの妹ビオラに拾われて冬木家の一員となり、吸血コーギーではなくなり普通のコーギーとなる。

 常に鼻が詰まり気味なため「プイ~」と鳴く。

 

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