【バトルマスター】のゆるふわタウンライフ   作:千寿院うにいくら

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<Equip.3>職人の竹刀

 その日!

 冬木ツバキは午後のロードショーで往年の名作映画を見た後、情報番組のよじごじデイズを視聴して使いもしないシミ抜きの知恵を学んでいた!

 

 そして、ジャパネットたかたの高級クルーズ船での旅行に想いを馳せつつ、いつもの通りに飼い犬プイードの散歩に出かけたのであった。

 

「うららかな小春日和だねぇ」

「プイ~」

 

 一人と一匹は足取りも軽く緑の萌ゆる葉桜の道を行く。

 この地球は常日頃から外宇宙や異世界の侵略者に脅かされているが、彼女らが暮らすこの彼岸時町(ひがんじまち)は平和そのものであった。

 

 

「見つけましたわ!冬木ツバキ!」

 

 新緑を揺らす風に乗って呼ぶ声がして、ツバキは立ち止まった。

 見ると、くるくるとドリルのように巻いた金髪のお嬢様然とした小柄な少女の姿がある。

 

「……どちら様でしたっけ?」

 

 見覚えがないではない。

 だが、緩やかに脳が衰退しているツバキの記憶力はその娘のパーソナリティ情報を引き出すことができなかった!

 

「っ……!貴女のライバル藻根泉(もねいずみ)レンですわ!貴女はいつになったらわたくしの名を覚えるのですか!?」

 

 彼女は藻根泉レン。

 財閥系大企業藻根泉グループの令嬢であり、高校女子剣道界ではツバキと並び称されるほどの実力者であり、ツバキが無様に地方予選で敗北した高校三年時には圧倒的な力で大会を制している。

 

「ああ~レンちゃんだっけ。一度、戦ったことがあるよね。久しぶり~」

 

 ツバキのその言葉がレンの怒りに触れた。

 

「二度ですわッ!冬木ツバキっ!わたくしと勝負なさい!」

 

 一応、主人公の擁護をしておくと、剣道の試合は頭に防具を被るのでツバキがレンの顔を覚えていないのも無理はないのである。

 

「ええ~……でも、今、プイちゃんの散歩中だし……」

 

「今路!そのモフいわんちゃんを預かりなさい!」

 

「承知しました。しばし失礼いたします、プイ様」

 今路、と呼ばれた若い執事の男は恭しくツバキからリードを預かり、対峙する二人の少女から距離をとった。

 

「プイ……?(なんだあ、あのお嬢ちゃん……)」

 

「語らねばなりませんね……。お嬢様のツバキ様への執着の理由を」

 

 リードを握りつつ、今路はプイードに向けて語り始めた。

 

「お嬢様とツバキ様が初めて対決したのは高校一年の時、全国大会決勝トーナメントの二回戦でした。その時、お嬢様は成す術もなくツバキ様の前に敗れ去りました。お嬢様はその敗北により、更なる強さと剣への道を極めようとしました。お嬢様の周囲の環境も彼女をバックアップしました。そして二年の大会決勝戦。そこに再びツバキ様が立ちはだかったのです。お嬢様には勝てる自信がありました。──だがツバキ様は強すぎた」

 

「プイ~(御主人に逆恨みをしているってことか……)」

 

「いえ、逆恨みではありません……。ツバキ様の御迷惑は重々承知の上……しかし、お嬢様は向上心の高いお方……相手が強ければ強いほど厳しい鍛錬を自身に課して高みへと登っていきます。お嬢様が今よりも成長し、強さへの道を究めるためには、ツバキ様という高い壁を超える必要がどうしてもあるのです」

 

「プイッ(まあ、御主人は毎日暇そうにしてるしいいけど……)」

 

「お心遣い痛み入ります、プイ様」

 

 無事に飼い犬の承諾が得られ、対峙する二人の少女の緊張はますます高まった。

 

「レンちゃん、ほら、あたし竹刀持ってきてないから~」

 

「腑抜けたものですわね……。剣士たるもの犬の散歩にも武器を携えておくのは当然の心得のはず!」

 

「剣士じゃないよぉ、浪人だけど」

 

「こちらを使いなさい!冬木ツバキ!」

 

 レンは二本持っていた竹刀を一本、ツバキに投げて寄越した。

 

「うわっと……──」

 

 ツバキは体勢を崩しながらも、竹刀の持ち手を取って、投げられた竹刀を受け取る。

 

──その時、不思議なことが起こった!

 

 

「ッ……!!」

 

 レンが、瞬時に警戒態勢を取る。

 ツバキが竹刀を手にした瞬間──それまでふわふわとしてだらけ切っていた周囲の空気が一変した。ツバキの放つ威圧感が、一触即発の緊迫した空気へと瞬時に変えてしまったのだ。

 

 レンが日ごろ愛用している竹刀──それは、武の神髄へと迫らんとする気概に満ち溢れたレンのために特別にしつらえられたものである。

 その職人の心意気が、ツバキの手によって発露したのだ。

 

「ふふ……このプレッシャー……さすがは我がライバル冬木ツバキ……ですわ!」

 

 先手を取ったのはレンの方だ。

レンは地面を強く蹴ってツバキとの距離を一足飛びに詰め、小手調べとばかりに手にした竹刀を横薙ぎに払った。

開始の合図(ヨーイドン)は不要、既に臨戦態勢にあったツバキはレンの初撃を難なく捌いて見せる。

 

「やりますわね!では、こちらはどうでして?幻影舞踏(ファントムステップ)!」

 

「プイッ!?(なんだあれは!あの娘の姿が二重に見える!)」

 

「あれは古武術に由来する秘技、霞の歩法です。お嬢様は血のにじむような努力を重ね、二年の月日を費やしてあの霞の歩法を習得なされ、幻影舞踏と名付けました。いかなツバキ様とて初見で見切ることは不可能でしょう」

 

 レンは幻惑しながらツバキに迫り、再度竹刀を横薙ぎに払う。が──

「なっ……わたくしの流し打ち込みが一度ならず二度までもっ……!?」

 ツバキの虚を衝いたはずの一撃は空を切り、レンはわずかに態勢を崩す。

 

「その打ち込みはさっき見たよ」

 

 その声は、レンの背後からしていた。

 振り返ると──

 

「!?」

 

 レンは絶句した。

 ツバキが八人に分身していたのだ。

 

「プッイ……(ご主人の姿が……八重に見える……」」

 

「あれは……霞の歩法の八乗の習得難度を誇る、幻影舞踏・八重霞……!」

 

「プイ~(二年の八乗となると……256年……256年かぁ……)」

 

 

「なッ……そんな馬鹿な、ですわっ!」

 自身の常識からあり得ない光景、そして、二年の研鑽が一瞬で打ち崩された現実に、レンは狼狽した。

 しかし、揺らぎつつある戦意と体勢を立て直して、再度ツバキから距離を取り仕切りなおす。

 

「プイ(勝負あったんじゃないの?)」

 

「いえ、まだお嬢様にはあの技が残っています!一撃必殺のあの技さえ決まれば……!」

 

 距離を取り向き合ったレンは、半身になって腰を落とし、竹刀を目の高さにまで掲げ、その先端をまっすぐにツバキに対して差し向ける。

 

「後の先、あれこそがお嬢様の真のスタイルです。制空圏を侵せば一撃必殺の突きがツバキ様の喉元を穿ち貫くでしょう」

 

「プイ……(物騒すぎる……でも、これって……)」

 

「ええ、お嬢様の勝ちです」

 

 剣道についてはまるで見識の深くない犬のプイードでさえも、ツバキが容易にレンの制空圏に踏み込めない様は見て取れていた。

 

「プイィ……(まるで隙が無い……)」

 

「焦れて先に動いた方が不利、それは両者ともにそう考えているはず──」

 

 しばし、時が凍り付いたように両者は動きを止めた。

 

 このようなシーンでは些細なことがきっかけとなる。

 そして、口火を切るその些細なこととは、一匹の観客であった。

 

「プシッ」

 

 新緑の爽やかな風が、プイードの鼻をくすぐった。

 そのはずみで生じたくしゃみが、場の凍り付いた時間を動かしたのだ。

 時間停止モノのなんとかでも、犬には時間停止が効かないと言われているので、プイードがそのきっかけとなったのは必然だったと言えよう。

 

 動いたのは、ツバキだった。

 地を蹴り、まっすぐにレンとの距離を数歩、詰める。それを、レンは心の内で手ぐすねを引くようにして待ち構えていた。

 

「冬木ツバキ!やぶれたりですわッ!」

 

 制空圏の領域を侵したその瞬間に、レンの雷光の如き一撃必殺の突きが、それを貫く。

 

「…………っ?」

 

 レンはその手ごたえの無さに困惑した。

 若干の重さが、竹刀を通じて感じるのみであった。

 

「プイっ!?(あれは……)」

「うんち袋……!」

 

 見れば、レンの力強く差し出された竹刀にビニール袋がぷらんぷらんとぶら下がっている

 

「冬木ツバキ……どこに──」

 

 レンは、ツバキの姿を見失っていた。

 

「一撃必殺の技の弱点は、二の太刀を想定していないこと──」

 

 その声は、レンの死角となった利き腕の右手側から聞こえた。

 

 そして、体勢を崩したレンは成す術もなく、側面から軽く面をパシッと叩かれ──

 

「やっぱ強えですわ……冬木ツバキ……さすがは……我が終生のライバル……っ!」

 

 どさりと砂埃を上げて地に崩れ臥した。

 

 その様を見届けて、ツバキは竹刀を地面に預けるようにそっと置いた。そして……

 

「執事のお兄さん──今路さん、でしたっけ?プイちゃんありがとうございました~」

 

 ツバキはプイードのリードを今路から受け取り、そのまま葉桜の緑が萌ゆる道をプイードと共に去っていった。

 

 残された今路はそれを見送り、倒れ伏したレンの元に駆け付けた。

 

「お嬢様……」

 

「敗けましたわ……完敗ですわ……ううっ……」

 

 レンは地面に額を擦りつけたまま、べそをかいているようだった。

 

「お嬢様、お嬢様は敗けておりません。なぜなら剣道の試合においてはうんち袋の使用は認められておりませんので」

 

「では……わたくしは……敗けてはいないのですね!」

 

「はい、お嬢様はうんち袋に敗け……ではなくツバキ様の反則で、この勝負は無効試合です」

 

 負けてはいるのだが、今路は後々面倒なことになることを考えて、そういう風に丸め込むことにした。

 

「無効……ノーカンですわね!今路!帰ったらまた特訓ですわよ!次は冬木ツバキが汚いばっちい卑怯な手を使っても勝てるように!」

 

「お嬢様!」

 

 レンは起き上がり、うんち袋をぶら下げた竹刀を担いで夕陽に向かって駆けだした。

 

 この物語は、藻根泉レンが天才冬木ツバキに勝利するまでの物語──

 

 

次回、『<Equip.4>牛丼チェーンの制服』

 

■キャラクタープロフィール③

Name:藻根泉レン

スキル:練磨(エリート)

 

 藻根泉財閥のご令嬢にして、主人公冬木ツバキと並んで高校剣道界の至宝だった。

 

 ユニークスキル『エリート』はいわゆるセンス○。あらゆる技術の習得難度が低下するので努力すればするほど目に見えて成長する。

 一般的な感覚からすれば十分天才なのだが、彼女の同世代に上回る天才が居たことが彼女にとっての不運で幸運だった。

 

 

■キャラクタープロフィール④

Name:今路エドガー

スキル:以心伝心(フルマルチリンガル)

 

 藻根泉レンのお付きの執事で、メガネ。年齢はレンよりも一つ年上。

 

 ユニークスキル『フルマルチリンガル』により異種族とのコミュニケーションが可能。

 

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