【バトルマスター】のゆるふわタウンライフ 作:千寿院うにいくら
ある日のこと。
今路は一人、彼岸時町の広い公園を訪れていた。
「プイッ(よう、今路)」
鼻先を今路に向けて、鼻を鳴らす犬が居た。
冬木プイードである。
「おや、プイ様。お一匹(ひとり)ですか、ツバキ様は?」
「プイ(御主人なら、ベンチの横で寝てるよ)」
「ベンチで横になって、ではないのですね」
「プイ(落ちた)」
公園の常連である冬木ツバキは知っていた。
そのベンチが、広い公園で数少ない木陰の下に位置するベンチであることを。
だが、普段はすっぽりとソファーにうずもれて寝ている彼女は、ベンチの上だと寝相が良くなかった。
「プイプ?(そっちの御主人は?)」
「御髪の片方のドリルを切り落として、山籠もりをしているところです」
「プイ……(空手の修行かな?)」
「ちなみにお嬢様は、もともとは綺麗な直毛なのですが剣道の防具で蒸れてドリルの癖がついてしまっているのです」
「プー(へー……。それにしても)」
「それにしても、なんでしょう?」
「プププ……?(あのお嬢さん、うちの御主人に拘らない方が、幸せに生きていけるんじゃないのかなぁ?)」
個人付きの執事が居るほどのいいところのお嬢様なのであれば、わざわざ一人のライバルに固執して山に籠る苦行を行わなくても良いだろう、とプイードは思った。
「いえ……お嬢様は生まれつき知能が高く、学んだことはすぐに身についてしまうために人と足並みを揃えて歩むことができませんでした。普通の範疇から抜きんでてしまうが故の孤独。しかし、ツバキ様の背を追いかけている間は、お嬢様は孤独な存在ではなくなるのです」
そう語る今路の表情は慈愛に満ち、柔らかく穏やかだった。隣で彼女の成長を見守ってきた彼には思うところが多々あるのだろう。
「プイ(そうかぁ……人間社会にもいろいろあるんだなぁ……。でも、あんたも大変そうだね)」
「好きでお嬢様にお仕えしておりますので」
「ププネ(言うねえ)」
「私は動物の言葉がわかる不思議な体質故に周囲から浮いた存在でした。でも、その体質のおかげで……同じく周囲に理解されることの少ないお嬢様のお気持ちも理解することができ、そして、お嬢様から頼りにしていただけている……私はそれを幸せに思うのです」
「プイ~(なるほど、その体質には良いこともあるんだなぁ)」
「ええ。遠く離れた今も、お嬢様がお腹を空かせて木の根を齧ろうか葛藤している様が手に取るように受信できています」
「プイ(お腹壊すよ)」
「そうですね……お嬢様が早まったことをする前に、迎えに行って差し上げねばなりません」
「プイッ(それじゃあな。また話し相手になってくれ)」
「はい、こちらこそ。貴犬とは話が合いそうです」
一人と一匹は友情のシェイクハンドを交わした。
が、傍目には犬がおてをしている姿にしか見えなかった。
「…………あっ」
「プイ?(どうした?)」
「…………食あたりのお薬を用意しなければならなくなりました」
「プィ~(間に合わなかったかー)」
「お腹を壊して苦しむお嬢様も……それはそれで」
「プー(強いなぁ)」
藻根泉レンと今路エドガーの割れ鍋に綴じ蓋の関係は続く。
一方の、プイードの飼い主は──
「プイちゃん……!私より執事のお兄さんの方に懐いてない!?」
昼寝から目を覚まして、飼い犬と仲良くしている今路に、軽く嫉妬していた。