学園黙示録 ‐Crosser of the DEAD‐   作:浜田猫@執筆中

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イントロダクション 2

狂乱のきっかけである放送が流れてから数時間。

 校内は僅かな悲鳴と数多の唸りに包まれた惨状が広がっていた。

 あの放送が流れた時に動き出したもの、あの放送が流れる前にことの不自然さに気付いたもの、そして単に運よかったものは、皆各々に活路を見出し生き延びている。

 だがそれ以外にも、実は生き延びている者たちもいる。

 

 ことは、昼休みにまで遡る。

 

 

 

     1

 

 

 

「そう、出たんだ」

 

「ああ。まだ少しだがな」

 

 校舎裏、校庭の喧騒を聴きながらこれからのことを考える。

 ことが町で起こっているとなると、ここに来るのにそう時間はかからない。

 早くても、五時間目の始めには来るだろう。

 

「もう授業が始まる。とりあえず二人に知らせよう」

 

「わかった」

 

 踵を返そうとして気付き呼び止めた。

 持ってきた紙袋を差し出す。

 

「君の分もはいってるから」

 

 大きな顔が袋の中を覗き込む。

 

「使い方がわからねェぞ、俺は」

 

「じゃああいつに渡しておいてくれればいいよ」

 

「おまえは?」

 

「いくつか持ってる。さあ時間がない、急ごう」

 

 外の惨状と最悪の状況を想定しながら、校舎裏を出た。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「宮本さん、ここ教えてもらっていい?」

 

「え?」

 

 五時限目の予習をしていたらしい源に話しかけられた。

 源とは席が隣同士で、新学期からよく話す仲となっている。

 趣味も合って、当初出来ないだろうと思っていた大事な友人である。

 

「どこ?」

 

「えっと――」

 

 とその時、教室の入り口から源が男子生徒に呼ばれた。

 源は「ごめんなさい」と私に言って、教室の外へと向かって行く。

 少し気になって見ていると、男子生徒に引っ張られてどこかに連れて行かれてしまった。

 

「へぇ、源って彼氏いたんだな」

 

 いつの間にか傍に来ていた永が、教室の扉を見ながらそう言った。

 

「気になるの?」

 

「少しね。いるようには見えなかったから」

 

 今のは普通なら「違う」と言ってくれるところじゃないだろうか。

 私じゃなかった誤解しているかもしれない。

 

 まあ、こうやってはっきり言ってくれるところもいいんだけどね。

 

「でもあの男子には見覚えがないけど、あんな人二年にいたんだ」

 

「確か、D組だったかな。丸い眼鏡が印象的だったから、なんとなく憶えてる」

 

「へぇ。あとで付き合ってるのか込みで聞いてみよ」

 

 さっき源が指差していたところを読みながら言う。

 結局そのまま源は、五時限目が始まっても帰ってこなかった。

 そしてそのときは気付かなかったが、高城が視界の隅で開いていた携帯を閉じて教室を後にしていた。

 

 

     ◇

 

 

 

 屋上に着いたのは、五時限目のチャイムが鳴った直後だった。

 扉を開き外に出ると、妙に冷たい風が吹きぬけ髪を揺らす。

 目を瞑って風をやり過ごし、再び目を開けると、こんな時間に人を呼び出した傍迷惑な奴の背中が見えた。

 

 扉を閉めて腕を組み、私は出来るだけ刺々しく言ってやった。

 

「めずらしいじゃない、引き篭もりが外に出てるなんて」

 

 鉄格子に肘を突いたまま、そいつは体を開いてこちらを向いた。

 

「久しぶりだね高城。いつかのパーティ以来か。もっともあの時は、僕は急用ですぐに抜けてしまったし、君も最後まではいなかったみたいだけど」

 

 富豪同士のパーティなどは、パパが「くだらん」と言って高城家は出席することが殆どない。

 あるのは、パーティの名を借りた密談か、高城家に必要な用事があった場合のみ。

 そしてその時はこいつが主催したパーティで、内容はまったく知らされなかった。

 ただパパが参加すると言うくらいだから、無駄ではないのだろうと連れられるまま参加しただけ。

 用事は済んだと言って、三十分もしない内にパパが戻ってきて帰ることになったのだけど。

 

「御託はいいわ。早く用件を行って頂戴」

 

「そうか。高城は優等生だからな、早く教室に戻らなきゃいけない。じゃあ手短に言おう」

 

 そいつは背を鉄格子に預けて此方を向く。

 私と同じように腕を組み、細く鋭い目で真っ直ぐ私を見て、酷く真面目な声で頓珍漢なことを言ってきた。

 

「――逃げたほうがいい、今すぐに」

 

 唖然とし、少し遅れて私は「はぁっ?」と返した。

 

「意味わかんない。なんで逃げなきゃいけないのよ」

 

「言っても信用しないだろうから、忠告だけしておこうと思ってさ」

 

「……で、用件はそれだけなの?」

 

「うん」 

 

 怒りを通り越して呆れた。

 人をこんなところに呼び出しておいて、話の大筋も言わないでただ「逃げろ」ときたものだ。

 それで素直に「はい」と逃げるような人間がどこにいるというのか。

 自分で言っておいて、逃がすようなことをしていない。言動がまったく一致していない。

 あまりに馬鹿馬鹿しくて、何か言う気にもならずそのまま後ろの扉を開けて中に入った。

 

「呆れた。あそこまでとは思わなかったわね」

 

 前々からなにを考えてるのかまったく分からなかったけど、ここまでくるとただの馬鹿にしか見えない。

 今から戻って、やっぱり一発お見舞いしてこようか。

 

 そう思い顔上げて、

 

「悪いな、退いてくれ」

 

 体の横を岩が通り過ぎていった。

 

「え?」

 

 振り返ると、はちきれそうなガクランが扉の外に出て行くところ。

 閉まる扉を、私は唖然と眺めた。

 

「なに、今の?」

 

 あんなボディービルの選手が制服を着たような男子生徒が、この学校にいたなんて記憶にはない。

 じゃあ一体誰、あれなに。

 あんなのが廊下を歩いていたら、確実にいっぱつでわかる。

 なのに知らない。

 

 いや、一度だけ似たようなものを見た気がする。

 あれは、入学式の時だったか。

 今から約一年前のことだが、あの時に確か見た記憶がある。

 それ以来見ていないということは、学校に来ていないということだろう。

 ということは今は、留年でもして一年生をしているのだろうか。

 

「ま、興味ないけど」

 

 知らないが、知る気もない。

 無意味な思考を切捨て階段を下りていく。

 

 教室までの途中、外側の階段を使っていた私は偶然、あいつの背中を見つけた。

 鬱憤を晴らすように言ったのは悪いとは思ったが、さりとていつまでもウジウジしているそいつにまた腹が立ち、もやもやした気持ちを抱えたまま教室に入った。

 

 ――あの惨劇は、それからすぐに始まった。

 

 

 

 

 

     2

 

 

 

 

「……ひどい」

 

 震える彼女の手を引き、腐臭の漂う廊下を走る。

 壁や床の至るところに、誰のものかも判らない血が飛び散っている。

 死体は見当たらない。

 おそらく餌を求めて歩き回っているのだろう。

 今まで出会わなかったのは、運がよすぎた。

 

「二人とも、大丈夫かしら」

 

「大丈夫だよ。ちゃんと待ち合わせしてるから、そこに行けば会えるよ」

 

 本当はこんな光景、彼女には見せたくなかった。

 彼女は今日ここにいるはずはないのだが、どうしてもと言って最後に登校させたのだ。

 昨日のは軽い冗談だったが、まさか本当に今日事が起こるなんて、タイミングが悪すぎた。

 

「――ひっ」

 

 立ち止まる。

 手を放し、庇うように手を出す。

 

「下がって」

 

 いた。

 低い呻き声を発し、爛れた肉を落としながら近づいてくる。

 右手で、制服のズボンの背中に差したソレを握る。

 もう後戻りはできないんだろうなぁ、なんて楽観的なことを心で呟きながら、ソレを相手に向けた。

 

 大丈夫だ。

 ことあやとりとこれに関しては、絶対の自信がある。

 この腕があれば、何度だってみんなの窮地を救える。

 

 ――彼がいた頃も、そしてこれからも。

 

「ごめん」

 

 引き金を引く。

 乾いた音と共に、手に衝撃が伝わる。

 その直後、パキャ、という不思議な音が鳴り――人間だったものは、頭部を破壊されて力なく崩れた。

 

「っ」

 

 振り返る。

 そこには涙を流し、震えながら胸の位置で手を握り締める想い人がいる。

 この子だけは、絶対に守る。

 改めてそう心に決め、左手を彼女に向けた。

 

 目を開け、僕の手を見た彼女は、涙を拭って手を取る。

 小さな手は、やはりまだ震えていた。

 けど彼女はこういうときに弱音を吐くようなことはしない。

 だから僕も、今はもう弱音は吐かない。

 

「スネオとたけ…ジャイアンも、後できっと会えるよ。行こう、しずかちゃん」

 

 そう、勇気付けるように笑いかけると、

 

「そうね。行きましょう、のび太さん」

 

 精一杯、愛らしい笑顔を浮かべてくれた。

 

 

 

 ――終わりは、はじまった。

 

 

 

 




何のクロスかもうおわかりですね。
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