“白翼神託世界"オラクルネスト。
少数の有翼人と、大多数の無翼人からなる【T+/M+】フューチャー・ミスティックに存在している《世界》。
そこでは神の御使いとも言われている白い鳥から翼を授かった王の末裔が、この世に存在するあらゆる光のエネルギーを行使する事で平和を維持する、緑豊かなまるで楽園のような《世界》であった。
有翼人たちはすべからく「救い」を使命としていた。
古来に神鳥が神の御言葉を運んできたように、有翼人たちは有事の際に神託を受け、いついかなる時もこの世界を護り、ただ無欲に繁栄を祈る。
祈りは神に届くことで救いとなり、救いはやがて人々の幸福へと転化する。
そうして《世界》は存続し続けるはずだった。
――だが、私たちの《世界》は崩壊した。
今からもう、だいぶ昔の話だ。
突如現れた《感染源》により豊かだった私たちの《世界》は汚染され、それは《災厄》となり、緑溢れる大地は瞬く間に荒廃した。
当時、私は惨状を打開するべくひとつの可能性に懸けていた。
神の御使いの一人であるスズの救いの力で、《世界》を浄化しようと考えたのだ。
だが一度《感染爆発》を起こした《世界》をスズ一人の力で支えるのはあまりにも難しく、私とスズはダーザインに協力を要請し、助力を得ることにした。
しかし“白翼神託世界"オラクルネストは、“中央世界"カノニカルとあまりにも遠く、まだこの二つの《世界》を繋ぐ《路》は存在していなかった。
《路》という《路》を辿り、他の《世界》を経由してカノニカルを目指すことは可能であったが、その間にオラクルネストは消滅するだろう。
しかしこのままオラクルネストに残っていても、滅びの時を迎えるのは時間の問題であった。
誰もが諦めかけていたその時、神の御使いであるスズの元に一つの神託が下った。
神託は神の御使いの夢の中で告げられると言う。
神託により指示された救済への糸口となる場所は、オラクルネストの中央に位置する湖畔。
そしてそこに突如として現れた《穴》。
それこそが天啓より示された、たった一つの救いの可能性であった。
しかし、この《世界》の住人はすでに皆疲弊しており、今はもうほとんどの人間が自分の意思で体を動かす事すら出来なくなっていた。
そもそも荒廃した大地を前に、望みを叶えてくれぬ神を信仰できる者などとっくに消え失せていたのである。
そして私達も、この《穴》がどこに繋がっているかもわからない状態であった。
――この先は今より過酷な環境が待っているかもしれない。
だが私とスズは諦めていなかった。
いや、諦めきれなかったと言ったほうが正しいか。
当時のスズは齢十三。
繋いだ掌も私より一回り小さく、幼さの残る顔立ちをしていた。
そんな小さな少女が一人、ただひたむきに全てを救おうとする姿を私はいつも隣で見てきた。
だからかもしれない。
スズも、そして私にも迷いはなかった。
少しの可能性でいい、誰かを救う力を得られるならと二人で《穴》に飛び込んだ。
その時誓ったのだ、この子を必ず護ると――。
あれからもう五年。
私たちは現在ダーザインに所属している。
そう、奇跡というべきか《穴》は“中央世界"カノニカルへと繋がっていたのだ。
しかし私たちが正式にバースセイバーとしてオラクルネストの救助活動を開始しようとしたのも束の間、やはり“白翼神託世界"オラクルネストは汚染の進行が著しく酷く《穴》すらも繋いでいる状態が危険であると判断され、オラクルネストとカノニカルを結ぶたった一つのそれはダーザインの手によって封鎖される事となった。
私たちの故郷は事実上、完全に孤立したのである。
今はもう《観測者》も居なくなり、おそらく滅びの道を辿ったであろう。
――もう、それを知ることも叶わないが。
やるせない想いを抱いたのは否定できない。
それでもお互いを励ましあい、周りの協力も得て、今は他の《世界》を救うべく日々奔走している。
ダーザイン厚生部、感染対策課所属。
オラクルネストでは囚人番号「No.8」と呼ばれていたが、ここでは「エイト」と呼ばれている。
それが今の私の名前だ。
この物語はそんな【救う者】と【護る者】を綴った物語の一部である。