白翼の守護者   作:綾海しろ

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第8章 再調査へ

翌日の早朝、禊を済ませ封印術のための荷物を取りに戻っていた弥生が感染対策課の事務所へ帰ってきた。

彼女はずっと李白の事が気になって仕方がなかったらしく、李白の無事な姿を見るとほっと息をついた。

 

「よかったわ、何事もなくて」

 

昨日の朝のように、李白の体に封印の重ね掛けを施す弥生に、ジオとアイゼは二人そろって首を振った。

 

「何事もなかった訳ではない。李白は昨日、何度も一人寮を抜け出そうとしていたのだ」

「私たち二人で監視していても、隙を見て気づけばどこかへ行こうとするの」

「お陰で私もアイゼも、研究する余裕なんてなかった訳だが」

 

襟元のネクタイを正しながら、ジオリードがギロリと李白に睨みを利かせる。

 

「申し訳ありません、私が不甲斐ないばかりに」

 

竹笛を握りしめたまま、李白が呟く。

それもそのはず、李白は昨日、竹笛を吹く合間に度々寮から脱走を企て、ジオリードとアイゼの手を焼いたばかりには留まらず、苛立ちを抑えられなくなった裏李白――《不浄のもの》――が一時表面化して事務所で暴れ、二人の貴重な研究サンプルを破壊。

ジオリードとアイゼがその対処に追われる間、結果として私やスズ、ヴァレリア、リネットも加わり交代で彼の監視を行わねばならなくなったのだ。

更に封印術が弱まる朝方は特に危険であろうと判断し、李白の部屋の前では一日ヴァレリアが寝ずの番をする羽目に陥った。

その為今、目の前には昨日以上に機嫌が悪いヴァレリアの姿があった。

 

「こいつの中身、一度表に出ると飛んでもねーな。昨日だけで壊された備品の数が山のようだぞ弥生」

「ヴァレリア、苦労をかけたわ……ごめんなさいね。備品は全て、六花家で補填するわ」

「そうしてくれ。ついでに一晩中寝ずの見張りをしたんで、今日の任務同行は無理だ。さすがに眠い」

 

暴れる裏李白を一晩部屋に閉じ込めておく為に、かなりのVS能力を使ったのだろう。

バトンタッチと言わんばかりに弥生の肩を叩き、ふらふらとその場を後にするヴァレリア。

その様子を不安げに見送りながら、リネットが両手を合わせ懇願するように言った。

 

「ごめん、ヴァレリア本当に疲れてて。その分私が頑張るから、暫く休ませてあげてくれないかな」

「もちろんよ。みんなにも迷惑をかけてしまってごめんなさいね」

 

弥生が李白と一緒に頭を下げる。

 

「まあ、これも全て李白というよりは《不浄のもの》が悪さをしただけだ。李白本人が悪気のあっての事ではないのはわかっている。しかしこのまま李白を任務に連れていくのは、正直難しいかもしれんな」

 

ジオリードはどうしたものかと顎に手を当て虚空を仰ぐ。

 

「任務の間は、私たちが見張っているしかないでしょうね」

 

間髪入れずにアイゼが答えると、弥生もそれに同意した。

 

「正直李白がこんなに不安定になっているの、あの卵が関係しているんじゃないかと私も思うの。あの日、【T=/M+】ニュートラル・ミスティックの森の畔に行ってからでしょう? あんたがこんなにおかしくなったのは」

 

弥生が確認するように李白を見たが、李白は何か答えようと息を吸い込んだ後、それを吐き出すことなく顔をそむけた。

 

「…………」

「答えられないのね。当たらずとも遠からずってことかしら。李白、あなた《不浄のもの》に何か言われたり体に制限をかけられたりしてるわね?」

 

頷くことは出来ないながらも、李白は視線を床に落とす。

その様子を見て、恐らく弥生の問いは当たっているのだろうとその場にいる誰もが悟った。

 

「早急にあの卵をどうにかするしかないようだな」

 

いつでも任務に出かけられるよう、私は外出用のグローブを手に取ると両腕にはめた。

仲間が苦しい状況にあるのなら、その大元を打開するまでだ。

弥生が卵を仮封印することで、もしかしたら李白の症状も何か改善するかもしれない。

やれることがあるうちは、何でもやってみたほうがいいだろう。

 

「行こう、【T=/M+】ニュートラル・ミスティックへ」

「エイト……うん、行こうみんな!」

 

スズが慌てて鞄を持つと、私の元へ駆け寄ってくる。

 

「では私とアイゼで当面の間、李白の様子は見ていよう。卵の事はお前たちに任せる。終わり次第報告に来てくれ」

「わかった」

 

ジオリードと顔を見合わせ頷くと、ヴァレリアと李白を除いた現地対策班が事務所を後にする。

別れ際、ジオリードがパチンと指を鳴らすと、アイゼが李白の首根っこを掴み言った。

 

「李白、あなたは暫く私たちと一緒よ。安心なさい、悪いようにはしないわ。少しぐらい気を抜いて、あなたもゆっくりするべきだわ」

 

 

アイゼの手刀が李白の首裏を掠める。

トン、という衝撃音と共に声もなく李白の体は崩れ落ち、意識を手放した。

 

「……おやすみなさい」

 

李白の体を抱きとめて、アイゼが優しく囁く。

そのアイゼから李白の体を受け取ると、ジオリードは彼の体を急患用のベッドに横たえ、すぐ傍のソファーに深く身を委ねたのだった。

 

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