吸血鬼だけの世界で、人間ただ俺独り   作:やーなん

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昨日は投稿してから、低評価が連続でついてショックを受けました。
やっぱり脳破壊されてしまったのでしょうか……安心してって言ったのに!!
ならば、可及的速やかに、それを証明せねばなるまい、とこの時間まで頑張って書きました。では、本編どうぞ!!

あ、今回もAIイラスト使ってます、苦手な人は観覧設定からOFFにしてください。


ここで、タイトル回収

 

 

 

 お嬢様の偽装通夜が終わって、一週間が経過した。

 

 妹様たちが大暴れした聖堂の片づけが終わり、新調した椅子などが到着したその日から、俺は毎日仕事の合間に神に祈りを捧げていた。

 

 神頼みではない。

 ただ自分が楽になりたいからだ。

 

 俺が祈っても、俺が自殺に追い込んでしまった者は地獄行きから変わることはない。

 これは自己満足に過ぎない。

 

 だがそれでも、祈らずにはいられなかった。

 それが誰に向けたものなのかわからない中身のないモノだとしても。

 

 スーロやサキュート卿を始めとした城の者達は心配そうに聖堂の入り口からのぞき込んでいる気配がする。

 こんなこと、心配されるようなことではない。

 

 結局、俺は被害者の冥福を祈るポーズをしたいだけなのだから。

 

 

「ヨコタ様」

「……妹様、お戻りになられたのですね」

 

 俺は顔を上げる。

 どうやら、妹様が割譲された領地の確認からお戻りになったようだった。

 

「聞きましたよ、ここ数日、ずっと聖堂におられるとか」

「それ以外、することがありませんから」

 

 まるで、あのツェーラー侯爵の言葉みたいだと、自嘲する。

 

「ヨコタ様、聞いてください」

「はい」

「リェーサセッタ様は、死後に苛烈な罰を下す神です。

 生きている貴方に罪の自覚を促したのは、そうやって祈りに逃げる為ではありませんよ」

 

 それは、今の俺にとって痛烈な言葉だった。

 

「では、俺はどうすれば良いのですか?

 誰かを死に追い込んだ事実と、どう向き合って生きれば……」

「ヒトは死後、メアリース様とリェーサセッタ様のいずれかに御会いするそうです」

 

 妹様は、神妙な表情のまま俺に語り掛ける。

 

「あなたはこの世界に来る前に、リェーサセッタ様に御会いしたのですか?」

「……いえ」

「ならば、メアリース様は貴方に責無しとしたのでしょう。

 裁かれるべき罪ならば、リェーサセッタ様もわざわざ告げに来ない筈です」

「ですが……」

「しっかりしてください!!」

 

 妹様は、俺の襟を掴んで言った。

 

「あなたがどんな人間でも、あなたは私の救世主なのですよ!?

 あなたが苦しむのなら、私は寄り添い続けます。

 あなたが恨まれるのなら、共に罵声を受けましょう。

 誰かがあなたを責めるのなら、私はその者どもを──」

「やめてください、妹様!! 俺は、そんな人間じゃない……」

 

 俺は涙を流し、懇願した。

 悲しいのではない、嬉しかったのだ。

 こんな世界でも、俺を理解しようとしてくれる人がいることが、救いだった。

 

「……ならばどうして、お姉様の為に、私の代わりに復讐を遂げようとしたのですか?

 己の命を賭してまで、私達の大切な人の為に憤ってくれた。

 その事実さえも、違うと言うのですか?」

 

 俺は、彼女の言葉に首を振った。

 

「俺は、恐ろしかったのです」

「恐ろしかった?」

「俺は何もせず、何も成し遂げず、一度命を落としました。

 たとえ再び命を落としてでも、お嬢様の為に命を捨てられるのならば、それは生きた証となりましょう!!」

「──バカ!!」

 

 俺は、妹様の吸血鬼パワーでぶん殴られた。

 長椅子がひっくり返り、俺は痛みで呻くことしか出来なかった。

 

「誰がそんなことを頼んだ!!

 そんな身勝手で、自分本位な理由で仇を取るなどと、そんなのは侮辱だ!! 謝れ、お姉様に謝れ、地に頭を付けて謝れッ!!」

「も、もうじわげ」

「だから貴方はお姉様に止められたのよッ!!

 道理で、貴方に褒賞が無かったわけだわ!!」

 

 ブチギレた妹様の言う通りだった。

 俺は結局、最初から最後まで自分勝手だった。

 

「私はッ、貴方が、死んでしまうかとッ……」

 

 妹様も、涙を流してそう言った。

 

「遺される私達は、その程度でしかなかったのですか……?」

「もうしわけ、ありませんでした」

 

 俺は痛む身体を推して、土下座した。

 それ以外できなかった。

 

「もう二度としない、と約束してください」

「はい、もう二度としません」

「もし次があるとしたら、貴方が死ぬ前に私が殺して、私も死にますから」

「は、はは……」

 

 ……冗談、だよね?

 身体がブルっちまったぜ……。

 

「そうです……あなたが苦しいのなら、私の与える苦しみで上書きすれば良いのです……」

「……妹様?」

「貴方の心を私以外の誰かが独り占めするなど、赦されませんよ」

 

 こ、コワい!!

 妹様は、ガチだ!! 助けて、お嬢様!!

 

「何をしているの、二人共」

 

 お、お嬢様!! お助け!!

 

 俺は奇しくもお嬢様の足元に縋りついて詫びている無様を晒すことになった。

 ぺい、って蹴飛ばされた。

 

「お姉様……」

「帰っていたのね、トゥーリ」

「はい、先ほど戻りました」

「人の氏族から、届け物があったわ。貴女に向けてよ」

「わかりました」

 

 お嬢様が妹様を直接呼び出すなんて、ただ事ではない。

 

「ささ、行きましょうヨコタ様」

「ひ、ひぃ」

 

 俺は妹様に首根っこを掴まれ、引きずられていく。

 怖いよ、このシスター……。

 

 

 

 §§§

 

 

 人の氏族からの届け物、と言うのは、昨日届いたアレだろう。

 

 それは端的に言うと、桐の棺桶だ。

 手紙が張りつけられており、そこには氏族長からの伝言があるからと、姉妹で共に開けて欲しい、とのこと。

 

 向こうの氏族長、つまり公爵家からの伝言。

 それは当然、お嬢様も無視できない。

 

 なので、お嬢様は妹様の帰りを待っていた。

 

「一体なにが入っているのかねぇ、楽しみだねぇ」

 

 メインホールに置かれた棺桶を、キュリアさんは興味深そうに見ている。

 どうやら、彼女の異能でも透視できない何かのようだった。

 

 使用人達も、遠巻きに開けられるのを今か今かと遠巻きに見ている。

 

「では、開けますよ」

 

 俺とメイド長が、棺桶の両脇の蓋を持って、中身を開ける。

 その中身とは──。

 

「これは、人形かしら?」

 

 それは、女性を模った球体人形だった。

 とても精巧で、まるで生きているかのようだった。

 

 だが、俺はその人形を見て、目を見開いた。

 知っている。この人形は!!

 

 すると、人形が目を開く。

 それは勝手に起き上がって、自分から棺桶から出て行った。

 

 球体関節が、人体のそれへと変化していく。

 その身体が全て変化する前に、ローブが現れ、服を纏う。

 

「貴女様はッ」

 

 俺だけでなく、妹様も驚いている。

 

 人形は、まるでそこに椅子が有るかのように、虚空に腰かけて周囲を一瞥した。

 俺は、彼女を知っている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「メアリース様!?」

 

 そう、俺をこの世界に送り込んだ、あの冷たい瞳の女神だった。

 

「……同調はまずまずね。

 さて、用件は手短に言いましょう」

 

 彼女は、お嬢様たちの反応に興味など無いのか、一方的に話し始めた。

 

「先日、あなた達のお仲間が育てていたあの怪物。

 あれは魔物なんかではないわ」

 

 いきなり、核心を突く話を始める。

 

「あれは外世界神性の眷属、私は“外墜摸乃(ゲダモノ)”と呼んでいるわ」

「待ってください、言っている意味が分かりません」

 

 キュリアさんが慌ててそう言った。

 人間の神でも、一応敬語で応対するらしい。

 

「めんどうね……。あなた達、我々の領域の神話を知っているでしょう?」

 

 女神は面倒そうにしながらも、律儀に説明を始めた。

 

「えーと、災害の神々と、生命の神々が争ったって言う……」

「そう、我々はそう言った起源を持っている。

 それとはまた別の起源を持つ、別の領域の神の落とし子。それがあのスライムもどきの正体よ」

 

 要するに、別の世界の神の使徒、俺はそう解釈した。

 

「あれは数を増やし、世界を侵食し、こちらの領域へと侵略の足掛かりにする。

 それでかつて、私は200の世界、およそ3000億人を処分する羽目になった」

 

 3000億人。想像だに出来ない人数だった。

 現実味がない。

 

「あれをスカーレットガーデンの内に居るうちに、殲滅しなさい。

 できなければ、私は貴女達ごとこの世界を処分しなければならない」

「それは命令でしょうか、人間の神よ」

 

 お嬢様が毅然とそう言った。

 

「いいえ、通告よ。

 私はこれまでの間、あなた達を飼ってあげてたのだから、それくらいの働きはしてほしいものだわ。

 鶏も病に侵されれば処分する。それと同じだわ」

「我々は、貴女の家畜である、と」

「家畜? 馬鹿を言わないで。いつあなた達から私が搾取したと言うの?」

 

 信じられない、と言わんばかりの表情をするメアリース様。

 

「五千年もの間、私は人類の文化をお前達が使うのを見過ごしてあげてきた。

 私は人類文明を司る者。この屈辱があなた達に理解できる?」

 

 冷たい瞳の女神が、吸血鬼たちを見据える。

 

「自分たちが家畜でないと証明したいのならば、私の定める特許料を払いなさい。

 私達人類の文化、それを勝手に盗用してきたその使用料をね。

 まあこの世界の住人全てを鉱山送りにしても、返済には二億年は掛かるでしょうけど」

 

 俺達は、その物言いに絶句していた。

 

「そうね、あのスライムもどきを全て駆逐出来たら、それをチャラにしてあげましょう。

 ついでに、私が他種族にも適用してきた人権付与プログラムを、あなた達にも適用するわ。名誉人類として扱ってあげる」

 

 俺は、居心地が悪くてたまらなかった。

 

「わ、我々を馬鹿にしているのか!!」

 

 キュリアさんが怒鳴った。無理もない。

 

「まったく、5000年前からまるで成長していない。

 あの時もそうだったわ。私が当時の環境保護団体から、吸血鬼を殺すなだの、実態も知らないくせにせっついてきた。だから皆殺しにしなかったのよ?

 こんな連中が、どうして私達人類と同じ心を持ってるだの、同じ哺乳類だからだとか、そう思えるのでしょうね。馬鹿馬鹿しいわ」

 

 女神は、吸血鬼たちを見下しきっていた。

 

「でも、あなた達を一応保護していると言う形になったのは、私にとってプラスだった。

 だって下らないことに、創作ではあなた達は人気者だもの。

 だから私は和解を持ち掛けたの、あなた達の祖先にね」

 

 誰か、この人を止めてくれ……。

 

「これから私達人類が至上の種族だと証明する、都合の良いやられ役として共存を許してやる、と言ったのよ、寛大にも私は。

 なのに逆上するとかあり得ないと思わない?」

「お嬢様、これは人の氏族からの送り物でしたね? 今すぐ宣戦布告を致しましょう」

 

 メイド長が、静かにブチギレている。

 

「あなた達は私が他の種族の連中にしているように、人類は寛大な種族だと言うアクセサリーの為に保護してあげているの。

 だから、もう少し待遇を良くしてほしければ──」

 

 人間だった。

 人間そのものだった。

 

 傲慢で、残虐で、容赦が無い。

 女神メアリースは、どうしようもなく“人間”という種族そのものだった。

 

 

「お断りします」

「……へえ」

 

 お嬢様は毅然とそう言った。

 

「この世界は、我々の庭。

 貴女に頼まれなくとも、我々は我々の問題を解決するでしょう」

「そう。ならいいわ。私はどちらでもいいの。

 失敗すれば、この世界ごと処分すればいいだけだし」

 

 お嬢様の対応に、女神はそのように返した。

 

「ですが、勘違いしないでほしいですわ。

 私達は貴女の飼い犬ではない」

「何を言っているの?」

 

 女神はお嬢様の言葉に、首を傾げた。

 

「犬は人類の歴史、その古来から共に生きるパートナーよ。

 あなた達みたいな下等な寄生生物と一緒にしないで。失礼じゃない」

 

 恐ろしいことに、その言葉に悪意は無かった。

 いや、これまでの言葉も、そうだった。

 彼女は自分にとっての事実を話しているだけなのだ。

 

「幾らなんでも傲慢が過ぎるんじゃないかな、人間の神よッ」

 

 キュリアさんなんてプルプル怒りに震えてそう言った。

 

「傲慢? 私は当然のことを言っているのよ。

 私は人間による、人間の為の、人間だけを贔屓する神。

 誰が人間でそうでないか、私が決めるの。例え同じ胎から出てきた双子でも、片方が私が違うと言えば、その子は人間では無いの」

 

 だから吸血鬼は贔屓しない。彼女は当然のことを言っているだけなのだ。

 

「今すぐお前達ごとこの世界を滅ぼさないだけ、私は慈悲深いと思っているわ。違うかしら?」

「……ええ、そうかもしれませんね」

 

 お嬢様は扇子で口元を隠しそう言った。

 その裏では、激情を噛み締めている。

 

「……あの、すみません、皆さん。人間ってこう言う生き物なんです」

 

 俺は、申し訳なくて申し訳なくて、みんなに謝ることにした。

 

「ねえ、なんで彼は謝っているのかしら」

「……さあ、何ででしょうか」

 

 妹様も愛想笑いしかできない。こんな神を崇めているなんて、そりゃあ言えるわけがない。

 そうだよな、こんなのが、人間の造物主なんだよなぁ。

 

「そう言うわけで、ゲダモノの対処はお願いするわ。

 その後には、先ほど言った待遇はちゃんと適応するから」

 

 彼女は、お嬢様の話を聞いてなど、いや自分の決定を覆すつもりは無いようだった。

 

「話は以上よ、それじゃあね」

「ま、待ってください、メアリース様!!」

 

 人形に宿った女神が去ろうとした瞬間、俺は咄嗟に彼女を呼び止めた。

 

「ああ、結局生前に会うことになったわね。それで、何の用かしら」

 

 意外にも、彼女は俺の話を聞く構えを見せた。

 

「……俺の、俺の罪とは何でしょうか。リェーサセッタ様は言いました、俺に自覚がない罪があると!!」

「……ああ、あんなのは八つ当たりよ、気にする必要はないわ」

 

 彼女はくだらない話だと言わんばかりに、溜め息を吐く仕草を見せた。

 

「教えてください、お願いします!!」

「ヨコタ様……」

 

 そんな俺を、妹様は痛まし気に見ていた。

 

「……これを見なさい」

 

 彼女は、虚空から書類を取り出して見せた。

 

 それは、何らかの履歴書のように見えた。

 中年男性の顔写真、名前、年齢、職業──。

 

「トラック運転手……」

 

 俺は、それでハッとなった。

 俺が死ぬ、原因となった事故を。

 

 書類の最後には、こう書いてあった。

 

 ──高所からの飛び降りによる自殺、と。

 

「私は事故だと言ったはずよ。

 貴方は死を以て己の愚かさを贖った、それ以上の責任をあなたに背負わせるのは不平等よ。

 親の罪が子にまで及ぶような、野蛮な行為だわ」

 

 資料には、こう書いてある。

 

 事故後、結果的に人を殺した彼は借金を背負わされた挙句に仕事を追われ、人殺しの身内と家族にまで中傷され、離婚。

 それを苦に、自殺。

 

「この新聞を見なさい」

 

 彼女はまた、虚空から新聞紙を取り出した。

 その見出しに、俺は目を見開く。

 

「■■商事、生き馬の目を抜く勤務実態を、元社員がSNSで暴露……」

「貴方の事故死の後、貴方の元同僚たちが集団で会社を訴え、週刊誌にその事実を発表させたわ。良い友人を持ったわね」

「あいつら……」

「貴方は死んだわ。我が盟友は、こうして過去の記憶を持って生きている貴方が存在していることを、不公平と感じたのでしょうね。

 でも私と違って、彼女は感情で物事を判断する」

 

 そうだ、俺は死んでこちらの世界に来たとは言え、前世の記憶を持っている。

 なら、それは死と言う贖いを受けていない、そう思われても仕方がない。

 俺を殺してしまった、彼と同じ苦痛を受けていないのだから。

 

「だから彼女のやり方は不合理なのよ。でも、だからこそ必要とされるやり方でもある。

 復讐は社会観念的にも秩序的にも許されることではないわ。

 でも、その感情を無視することも出来ない。

 故に私が管理し、我が盟友が心に寄り添う」

 

 冷たい瞳の女神は、淡々と俺に語り掛ける。

 

「彼はもう、地獄でその精神も魂も浄化され、全てをリセットされたわ」

「……なぜ、彼は地獄に行かねばならなかったのですか?」

「当然でしょう? 私は人類の造物主。全ての人類は私の所有物。それが勝手に死ぬのだから、それは私の資産の毀損に他ならない」

 

 この女神は、貴族なのだ。

 吸血鬼達と同じように、人類を管理している。

 

「私は人類に、精神的な成長を求めているわ。

 もしあなたが彼に申し訳ないと思うのならば、──乗り越えなさい。

 人として成長し、苦難を乗り越え、最期に人として死になさい。それが、貴方の責任の取り方よ」

 

 俺は、膝を突いた。

 

「……はい、わかりました。我らの造物主よ」

 

 俺は思った。なんで、俺と同じ対応を、彼女達にしてやれないんだ、と。

 人間にとって完璧な神なのに、なぜ彼女達を愛してあげられないのか、と。

 

「あなたにも、すぐ分かるわ」

 

 俺の心を読んだのか、メアリース様はこう言った。

 

「そいつらは、奪うことしかできないのだ、とね」

 

 がちゃん、と人形が崩れ落ちる。

 人間の神が去ったのだ。

 

 怒り心頭だったお嬢様たちも、俺とメアリース様とのやり取りに毒気を抜かれたのか、キュリアさんは俺の肩を優しく叩いてくれた。

 

 

 

 俺は、こうして罪を抱えながら生きていくことになった。

 未だに苦しみはあるが、俺は前を向いて生きていく。

 

 メアリース様のウーズ──ゲダモノ討伐令から数日。

 なんと、クリル侯爵が城にやってきた。

 

 まだ婚約関係の二人だが、今のうちに親交を深めるらしい。

 しかも長期滞在の構えである。

 

 これは、とうちの城内の面々が浮足立った。事実、二人が昨日、お嬢様の部屋から出てこなかった。

 スーロは今からお嬢様の御子を抱かせてもらうのを楽しみにしている。

 

 俺は婚約してるとは言え、婚前交渉は良いのか、と疑問に思ったのだが。

 

「いえ、機会を逃せば、次いつ欲情できるかわからないのですよ」

 

 と、メイド長が真顔で言った。

 ああマジか、と俺は種族のギャップにびっくりした。

 

 吸血鬼モノで有名な某マンガの究極生命体も、セックス不要、と書いてある通り、死なない生物は子孫を残す必要が無くなるのだ。

 

 お嬢様はまさに、不死の生き物。

 身体が子孫を作ろう、と思うまでどれだけ時間が掛かるか分からない。

 クリル侯爵は、マジで頑張らないといけないのである。

 

 と、密かに俺は応援していると。

 

「おい家令、ちょっと来い!!」

 

 なぜか夜、クリル侯爵にお嬢様の部屋に呼ばれた。

 

「どういたしましたか、クリル様」

「お前、公爵家の家令ってことは、僕の使用人ってことでも良いよな?」

「……ええ、まあ、将来的には」

 

 俺がお嬢様の方を見ると、彼女はそっぽを向いて窓の外を見ていた。

 これは、身体の相性が悪かったパターンか?

 

「お前、僕に夜伽のやり方を教えろ!!」

「……は? そう言うことは、そちらのお家で教わらなかったのですか?」

「僕が周囲に簡単に身体を見せるわけないだろ!!

 こっちの家で教わるつもりだったんだ……」

「ええぇ」

 

 そんなのアリかよ……。

 

「ちなみに、昨日はどんな感じでしたか?」

「勿論、精一杯愛を伝えたり、詩を読んだり……」

「うーん、雅すぎる……キスとかは?」

「ききき、キス!? まだ手も繋いでないのに!?」

 

 それは流石にウブすぎるのでは、と俺はキュリアさんやら妹様やらのスキンシップを思い返してそう思った。

 

「ヨコタ」

「……はい」

「ヴリコラ侯爵家は後継者が今のところ見つかってないわ」

 

 ああ、だからこんなに早く乗り込んできたのか。

 

「私達をその気にさせなさい」

「しかしお嬢様、わたくしめが間に入っては……」

「クリル、構わないわよね?」

 

 お嬢様が、クリル様を見やる。

 

「えッ、僕は、構わないけど……」

 

 クリル様はなぜか顔を赤くしてモジモジし始めた。

 

「ってか、僕はさっきリーリスより先に頼んだんだけど!!」

「私の分は入ってないわ」

「あっそ。家令、お前人間なんだろ!! 年中発情できる生き物なんだから、僕らをその気にさせられるよな!!」

 

 そんな無茶苦茶な、と俺は思った。

 これも仕事の内なのだろうか、と俺は諦めて、基本的な性教育から始めた。

 

 しばらくしてだが、何とか成果は出た。

 クリル様はやっぱりあの初代の子孫だと再確認した。俺が女にされて孕まされかけたのである。その上、お嬢様と本番以外のことは大体してしまった。

 

 お嬢様の第一子は五年後になったのだが、これでも驚くべき速さだと周囲は喜んでいた。

 お嬢様と妹様の年齢差は70歳ぐらいらしいし、本当に早いようだった。

 

 まあその辺りの話は、また別の機会でも良いだろう。これ以上は二人との爛れた関係は書きたくない。

 

 俺は仕事の合間に、自分の身の回りのこと、この世界に来てからのことを小説と言う形でまとめ始めた。

 今まさに、こうして書いているこれのことだ。

 

 タイトルは、そうだな。『吸血鬼だけの世界で、人間ただ俺独り』なんてどうだろうか。

 うん、やっぱり俺にセンスは無いな。どのみちラノベ作家になっても大成しなかっただろう。

 

 さて、次の騒動は、クリル様が滞在を始めて少し経ってから。

 ゲダモノ対策で、各公爵家、六氏族の長が集まって会議をしようという事態になった。

 

 次は、それについて記そうと思う。

 

 

 

 

 




以前は夢を見て冗談で言ったのですが、作者のリビドーが爆発したら、R18版を書くかもしれませんねww

あと、感想で主人公の罪を当ててる人いて驚きました。正答者に、拍手を。

次回からは、幕間で各キャラの掘り下げを、各キャラ視点で描きます。
感情激重の彼女達の視点を、是非お楽しみに!!

どのヒロインがお気に入りですか?

  • 皆のワンコメイド、スーロ
  • 属性過多の騎士、サキュート卿
  • ダウナー系美女、キュリア
  • 正道こそ王道、リーリスお嬢様
  • いざ我らの妹様、トゥーリ
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