第一回、異能図鑑!!
――『
希少性:E 持続性:C 破壊力:D 特異性:E 応用性:E 効果範囲:自分自身
説明:
主に下僕階級、獣人の血統を有する吸血鬼の持つ異能。その種類は、人狼、コボルト、ウェアキャット、ウォーパルバニー、ハーピー等々多岐に渡る。
概ね身体能力の向上や、獣毛による防御力の向上などの効果が発揮される。
理性を失えば失うほど効果が上昇する傾向があるが、同時に狂暴性が増し、見境なく攻撃を始めてしまう。人狼タイプのスーロは特にこの傾向が強い。
混血になるほど異能が弱くなる吸血鬼を象徴する能力であり、最大限活用しても男爵級以上の吸血鬼にはまるで通用しない。
そもそも吸血鬼という強大な種族が、獣人なんて概ね中の下くらいの強さの種族の力を得るなど、本末転倒である。そんな矛盾を孕んだ、まさしく雑兵の宿命と言えるだろう。
スーロの帰郷
三章を書く前に、俺の仲間たちについて語ろうと思う。
決して、三章執筆の筆のノリが悪いからではない。
最初に俺が語るのは、スーロだ。
彼女には命を救って貰ったのと同時に命の危機を感じた、スカーレットガーデンの第一村人である。
正直なところを言うと、うちの城の面子の中で一番好みのタイプではある。
万年発情期の残念ワンコではあるが。
素朴な茶髪のショートの美少女であり、ケモミミ尻尾は地球人なら眉唾物のオプションだろう。メイド要素も忘れてはならない。
俺はゲダモノの件が落ち着いたのなら、きっと彼女と結婚でもして、その子供と共にお嬢様に仕えるのだろう、と思っていた。
俺みたいな奴が、スーロみたいな美少女と結婚するなんて烏滸がましいだろうが、生憎とスーロの顔面偏差値は吸血鬼どもの中ではまだ大人しい部類なのだ。
つまり、俺にとっては身の丈に合った相手と言うことだ。スーロには失礼な事ではあるが。
まあ、そんな風に憎からず思っていた相手なのである。
表裏の無い素直な性格に、俺も知らずに救われていたこともあった。
お嬢様とはあんな関係になってしまったが、別に結婚することぐらいは許してくれるだろうし。むしろ、自分の前でおっぱじめろ、と言いかねない。やっぱり貴族って怖い。
さて、彼女がどういう人物かをここに書き記す為に、彼女からヒアリングをしながら心情を語ってもらうことにした。
この時点で取材は終わっており、正直文字に書き残すのにうんざりするのだが、文学史に我が名を残す為にもこうして筆を取る次第だ。
なお、スカーレットガーデンの文学は終わってるので、ブルーオーシャンに参入すれば自動的に名前が残るとか、言ってはならない。
では、始めようか。
§§§
私はスーロ!!
恐れ多くも尊き六公爵がひとつ、アーリィヤ公爵家のリーリスお嬢様に仕えるシモベっす!!
えへへ、何を喋れば良いのか、わかんないっすけど。自分のことを教えて欲しいと言われたので、そうするっす!!
幼い頃にあの迷いの森で迷ってべそをかいているところを、偶々お嬢様に助けて頂いて以来、お城に置いて貰ってるっす。
お城のお仕事はのんびりしているけど、グズの私は丁度いいんすよね。
今でこそ、使用人や騎士を含めて、十人も居ないっすけど、先代様と奥様がご存命の時はこうじゃなかったっす。
百人以上を使用人、常駐する二十人の騎士隊、毎年開催される社交パーティ。
全て、お嬢様の代になってから、無くなったっす。
みんなは口では言わないっすけど、やっぱりお城が寂しくなったのはお嬢様が……。
いや、止めるっす。もう終わった話っすから。
こんなに広いお城が息苦しくなってから、これが変わったのは十年くらい経った頃っす。
あの人、ヨコタさんが来てくれてからっす。
瞬く間にお嬢様の信認を得た、スゴイ人っす!!
しかも、人間……じゅるり。
ああ、あの時の血の味が、どうしても忘れられない……。
でも我慢しないと。食べちゃったらもう終わりだし、ヨコタさんのことは好きですし。
最近は、彼が仕事に行っている間に、彼の部屋のベッドで匂いを嗅いで悦に浸ることで、何とか自分を抑えてるっす。
何度も何度も、ヨコタさんを押し倒して、怯える顔を舐めまわして、思う存分彼を犯して、独占する。そんな妄想をして、自己嫌悪に陥る。
ヨコタさんに貰った力は、同時に私のこんな醜い本性を浮き彫りにするっす。
お嬢様の従者として、自分を律さないと。
……サキュちゃんは、これに苦しんでるみたい。
一度全部受け入れちゃえば、案外何とかなるのに。昔っから不器用なんだから。
でも日に日に、我慢できるか分かんなくなるっす。
ヨコタさんと会うたびに、襲う、って選択肢が常に頭を過ぎるんすよ。
ヨコタさんは優しくて、いつも私の頭を撫でてくれて、し、尻尾の付け根もこしょこしょしてくれるっす……。
想像しただけで、下着がぐっしょりしちゃう……。ヨコタさんは人間だから、匂いでバレてないといいけど。あ、言っちゃったっす!?
ああでも、ヨコタさんの所為っすよ!!
あの人が来てから、ずっと発情期が終わらないんっすよ!!
おかしい、こんなのおかしい、気が狂う!!
本能が彼を求めてるんす、いや、それだけじゃない、どうしようもないほど愛おしい!!
ただの人間なら食べて終わり、でも彼はそうじゃない、それだけじゃ満たされない!!
……はあ、はあ、そうっす、尻尾の付け根っす。
そこをイジメてくれれば、正気に戻れるっす。えへへ……。
……え? もう既にこんなことを始めたのを後悔してる、っすか?
ううう、ごめんなさいっす。
あ、じゃあ、別の話をするっす!!
そうだ、私が騎士に叙勲されて、村に戻った時の話なんてどうっすか?
実家に戻ったのは二十年振りぐらいっすから。
うちの村のご先祖様は、奴隷だったらしいっす。
ほら、初代様方は血を相手に送り込んで支配できたらしいじゃないっすか?
それで吸血鬼には出来ないことをやらせてたらしいので、その末裔が私達っすね。
今の御貴族様はそうじゃないらしいんですけど、昔の御貴族様たちは発情期以外に、戦いで命のやり取りで高揚を得た時に、子供が作れたって話っす。
その捌け口に、私達の祖先の片割れ、獣人やらエルフ、ドワーフやら、いろんな種族が使われた。その名残っすね。
……え、どうしたんすか、ヨコタさん?
ヨコタさんの氏族にはセンシティブな話題? センシティブってなんっすか?
まあとにかく、私の村にはいろんな種族の特徴を持った人たちがいるんすよ。
うちのサキュちゃんは夢魔だし、ピュアちゃんはハーピーだし。
吸血鬼との混血は、必ず吸血鬼ともう一つの種族の特徴が出るっす。
吸血鬼+エルフ+獣人、みたいな組み合わせとかは出ないってことっすね。
人間との混血は居たかって? いや、いなかったはずっす。人間との混血なんて、聞いたことすら無いっす。
ヨコタさんは豚と交尾するっすか? しないっすよね。
昔の吸血鬼にとって人間ってのはそういうモノだったんじゃないんすか。
まあとにかく、村に着いたら、村中の皆が入り口で待ってたんすよ。
みんな、手を挙げて歓迎してくれたっす。
だって、騎士ってのは、騎士の家系の人がなるものっすよ?
私みたいに、農民出身の卑しい血筋の者が叙勲されるなんて、うちの村では初めてだったんすよ。
知り合いのおばちゃんやおじちゃん、村長やパパやママ、お兄ちゃんやお姉ちゃんや弟や妹たちも、私に抱き着いてきたっす。
私はむず痒かったし、ちょっと気恥ずかしかったっす。
私は、名誉ある戦いで叙勲されたって伝わっていたから、本当に喜ばれたっす。
だって、私の村に騎士は居なかったから……。
最近、騎士の家系はどんどんと没落しているっす。
ほら、この前もリーチと戦った時の、自警団の人達を覚えているっすか?
あの人たちも、没落した騎士の家系だった人達っす。
各村や町に常駐する騎士団の人達が、形を変えて存在しているわけっすね。
ええ、騎士の家系も世知辛いっす。村や町の代官を任されるならまだ良い方で、騎士団の収入も良くないらしいっす。
知ってるっすか? 騎士の鎧って、借金で買ってるんですよ、先代や先々代の物を大事に使ってるって聞いてるっす。
騎士は一代限りってことになっているっすけど、主君の貴族様たちからは騎士の家の血筋ってだけで叙勲されることもあるっす。
祖先の名誉があるからって、信用を前借できるんす。
でも最近は、それもままならないことが多いらしいっす。
仕えているお貴族様が没落したり、思うように活躍できなくて次世代への叙勲を打ち切られたり。
自警団の方々は、それでも町や村を守るために働いてくれているっす!! タダ働きっすけど……。
うちの村から騎士が誕生した、しかも公爵家の騎士だって、村長は大喜びしてたっすね。
あと皆はうちの村の名産品のカボチャのスープでお祝いしたり、ママは私の大好物の玉ねぎのスープを作ってくれたっす!!
……え、玉ねぎは大丈夫なのかって? 私は犬じゃ無いっすよ!!
特にパパなんて、うちの家は騎士の家系になるんだって大喜びしてたっすね。
妹や弟たちも、騎士ごっこをしてたり、大はしゃぎっす。
「で、婿はどうするんだ、スーロ?」
騎士の家系になるには次の世代からっすから、パパがそんなことを言ったっす。
「お隣のライか、向こう隣のカーンなんて良いんじゃないか?」
「パパ、私には心に決めた人がいるっす」
「なに、本当か、スーロ!!」
「本当っす!! 騎士団を作れるぐらい、私がバンバン子供産んであげるっす!!」
って言うと、パパは感極まったみたいに泣き出したんすよ。
私は孝行娘だって。まあ俸禄は全部仕送りしてるんで、少しは生活が楽になるはずっす。
「今度うちに連れてくるっす。みんなに紹介するっすよ」
「お前のような田舎臭い喋り方のイモ臭い女に、良い人ができるなんて……」
私はにっこり笑って、パパをぶっ飛ばしておいたっす。
そう言うわけで、ヨコタさん!! とりあえず、百人は子供作るっす!! 一緒に騎士団を作るっすよ!!
え、サッカーチームじゃないんだからって? よくわからないっすけど、私は本気っすよ!!
その後はまた百人子供作って、うちの畑を広げて大農園にするっす!!
……自分は相応しくない、っすか?
この間の、自殺に追い込んでしまったとかなんとか、あれを気に病んでるんすか?
……うーん、わかったっす!!
ちょっと、────奴隷買ってくるっす!!
私がそいつをぶち殺せば、私もヨコタさんと同じっすね!!
これで私達は心置きなく結婚出来るっすよね?
次の奴隷市はいつだったっすかねぇ。
家族には次の俸禄を我慢して貰わないといけないっすねぇ。
楽しみっす!! ヨコタさん、生きの良い奴隷を一緒に買うっすよ!!
それとも一人じゃ足らないっすか? 十人なら足りるっすか?
それとも、殺しても良い、奴隷じゃダメっすか?
それなら奴隷になる前にぶっ殺して良い犯罪者を探さないといけないっすね!!
そうだ、うちの村からごく潰しを出してもらうのなんてどうっすか?
厄介者の一人ぐらい、みんな心当たりは有る筈っすよ!! そいつをリーチってことにしてぶっ殺すっす!!
ヨコタさん!!
ヨコタさんッ!!
ヨコタさんッッ!!
ヨコタさんッッッ!!
ヨコタさーん!?
ヨコタさん!!!!
ヨコタさんヨコタさんヨコタさんヨコタさん────。
どうして、そんな目で見るんすか?
§§§
……スーロの村に行くのは、丁重にお断りすることにした。
俺はスーロをよく理解していなかった。
彼女は善良で、無垢で純粋で誰かを守るために戦える子だ。
でも吸血鬼だった。彼女は、決して異常ではない。
彼女は自分が犯罪者になるような行動はしようとしなかった。
村社会ではごく潰しが淘汰されることは珍しいことではなかった。
恐ろしいことに、吸血鬼の村社会では法律の順守より村の顔役や牧師、代官の騎士の意向が優先される場合がある。
それが合理的と見なされるのなら、の話ではあるが。
要するに、魔女裁判上等の、そんなディストピアなのだ。スカーレットガーデンは。
まあ捜査機関なんて無いのだから、当然かもしれないが。
俺はその時、やはり責任は取らなければならないと思った。
同時に、俺がうんざりする理由を分かって貰えたと思う。
さて、次はサキュート卿について語ろうと思う。
彼女はスーロとはまた別のベクトルで、疲れる取材だったと追記しておく。
近頃は低評価も増えましたが、それ以上に感想が増えたことが嬉しい作者です。
それ自体は、読んで下さる読者の皆様が増えたと前向きに捉えることにします。
幕間は、こんな感じで各々のキャラクター性を掘り下げていきます。
残りはサキュート卿、キュリア、妹様を予定しています。
お嬢様はって? お嬢様は、語らずの美学って奴ですよ。お嬢様の心情は、文章から読み解き想像する楽しみを見出して頂きたいですね!!
メイド長は、まだモブよりの立ち位置なので後回しです。悪しからず。
ではまた次回!!
どのヒロインがお気に入りですか?
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皆のワンコメイド、スーロ
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属性過多の騎士、サキュート卿
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ダウナー系美女、キュリア
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正道こそ王道、リーリスお嬢様
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いざ我らの妹様、トゥーリ