吸血鬼だけの世界で、人間ただ俺独り   作:やーなん

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 第二回、異能図鑑!!

 ──『魅了の魔眼(サキュバスチャーム)』。所有者:サキュート。
 希少性:A 持続性:E~A 破壊力:E 特異性:A 応用性:C 効果範囲:視界内

 説明:
 祖先に夢魔、インキュバスやサキュバスを持つ下級吸血鬼に発生する異能。
 全ての夢魔との混血に現れる異能ではなく、その強弱はピンキリである。魔眼と言う形で現れるのは、そのうちの一つに過ぎない。

 サキュート卿の魔眼は特に強力無比であり、伝説に登場する石化の魔眼に類する神話級の希少性と威力を有している。
 その効力の本質は絶頂、エクスタシーであり、知性が焼き切れるほどの快楽で相手を昇天させる。その代償に、一時的に視力を失う。

 一応威力をセーブして、相手を誘惑に使用することもできる。むしろ、それが本来の用途だろう。
 中くらいの威力で相手を前後不覚にすることもできる。その場合は、一時的な視力の減退に留まる。

 その性質上、格上の吸血鬼にも通用する希少な異能である。
 が、同時に特化型の異能であり、上位貴族に見れる異能のような高度の汎用性は見られないのが下級吸血鬼の異能の限界と言えるだろう。



二人のサキュート卿

 

 

 

 サキュート卿について語るには、昏く重い感情を抱かせる。

 彼女にしてしまったことは、きっと俺が自殺に追い込んでしまった彼と同じように、己の罪の重さを知らしめるからだ。

 

 リェーサセッタ様がわざわざ俺に釘を刺してきたのも、当然だ。

 俺は前世と同じことをしてしまったのだ。

 

 果たして、俺がスカーレットガーデンに来た現象を、転移と呼ぶのか転生と呼ぶのか、ラノベ愛好家としては論議の余地はあるが、そこは置いておくとしよう。(そこを混同している昨今のラノベが多すぎて嫌になる。 異世界転移と異世界転生は別ジャンルなんだよッ、転生って書いておけば何でも売れるとでも思ってるのか、それともジャンルの分類もできないのか、クソがよ!!)

 

 実を言うと、俺は彼女とそこまで親しくはない。あくまで、俺の認識は、ではある。

 作業場も被らないし、同じ職場の同僚って感じだ。

 

 とは言え、決して会わないわけでもない。

 食事の時間とか、休日とかは散歩がてらに挨拶や雑談をしたりする。

 寝る前とかも偶に会ったりするし、他の同僚たちと一緒に酒盛りとかもしたりする。

 

 真面目で頼りになる、そんな同僚……だった。

 例によって、取材した彼女からヒヤリングした心情を、書き起こさせてもらうとしよう。

 

 まず、あらかじめ念を押させてもらうが、俺は別人を取材したわけではないことを記しておく。

 

 

 

 §§§

 

 

 あたしの名前はサキュート、キュートちゃんて呼んでね♪

 あはッ、なにヨコタさん、その表情、おっかしー!!

 

 そうよ、あたし、自分を受け入れたの。

 そんな悲しい顔しないで、とってもいい気分なんだから!!

 今思えばなんであんなに我慢してたんだろうね。ホント、馬鹿馬鹿しい。

 

 うん、あたしはあたしだよ、ヨコタさん。

 え、これじゃあ調子狂う? じゃあ前の私に寄せてみる? 出来なくはないけど。

 

 ……今のあたしを否定したくない? ありがとう。好きよ。

 

 あたしのことを話すって言ってもねぇ。物心ついた頃からこのつまんないお城で暮らしてたから。

 

 あ、そうそう。ヨコタさん、あたしね、産まれた時にお父さんを殺しちゃったの。この目を見ちゃってね。

 お父さんはリーチになって、最終的に先代様に殺されちゃった。

 ふふ、お互いに同胞殺し同士ってわけ。

 

 ……ごめんなさい、違うの、あなたを傷つけたいわけじゃなかったの!!

 

 終わりにしないで!! もっとお話しよう?

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、あたしったら口下手で、本当はどうやってお喋りすればいいかわからないの!!

 私の傷をさらけ出せば、もっと楽しくお喋りできると思ったの、やめて、貴方まで私を化け物みたいに見ないで!!

 

 ……はあ、はあ、取り乱してごめんなさい。

 まだ自分が不安定なの。私が、まだ心の底で足掻いているから。

 

 お、お詫びに、どこでも好きなところ触ってもいいのよ?

 ジロジロ見られるからイヤだったけど、お、おっぱいとか、どうかな?

 

 おしとやかな人が好みなの?

 わ、わかった、もう二度とこんなこと言わないから、そんな風に見ないで……。

 

 ……え、えへへ、ヨコタさんはお城で誰が好みなのかな?

 だ、誰かとキスしたこととかある?

 

 スーロ? スーロが良いのッ!?

 あんなヒョロガリの貧相な犬っころが!?

 

 こ、殺してやる、殺すッ!!

 ああダメッ、違うッ、そんなの私の本心じゃない!!

 

 はあ、はあ、じ、実は、魔眼の細かい制御が出来るようになったんだぁ。

 

 えいッ、き、キスしてッ。書いたままでいいから!!

 ちゅ、ちゅッ、え、えへへッ、キスしちゃった!!

 

 つ、次は、今日、今日はどんな下着履いてるのか────。

 

 

 だ、大丈夫ですか、ヨコタ様ッ。

 はい、私です、サキュートです……。

 

 ええ、お嬢様が私の身体に、自身の血を入れて下さったのです。

 お嬢様に支配して頂いたお陰で、私は私を保ったまま、あたしと分かれました。

 

 その、あたしが、失礼しました。

 

 一度は本能に呑まれてしまったので、分かるんです。

 あいつは、間違いなく私でした……。

 

 寂しがりで、嫉妬深く、欲望に忠実な、私が押し殺していた存在です。

 

 あたしは、自分が父を殺してしまったと言いましたよね?

 私は家族に、お城に売られたのです。

 一応、奉公って形ですけど。叙勲される前は、普通に使用人として働いていました。

 

 スーロとは幼い頃からの付き合いで、この忌まわしい瞳をまっすぐ見てくれるのは彼女だけでした。

 

 彼女はあたしを見て、キュートちゃんって言うんです。

 あの子は私と、あたしを別の人物だと認識してくれている。それが救いでもあり、複雑な心境でもあります。

 

 ……この瞳の力は、硬く封じているつもりでした。

 こんな力、忘れたままでいたかったです。

 勿論、あの時スーロを助けたことに後悔はありませんし、貴方も恨んではいませんよ、ヨコタ様。

 

 でも今目の当たりにしたでしょう?

 この力を使うことを楽しんでいる自分が居るのです……。

 

 この間の巡回で、たまたま実家のある村に行ったんです。

 

 え、巡回について教えて欲しい?

 ええ、構いませんよ。

 

 と言っても、大したことではありません。

 食うに困った領民が野盗になったり、魔物とか出たりするので、その対処とか、街や村の人達の争いごとの仲裁だとか、おじいちゃんやおばあちゃんの世間話に付き合ったり、そんな他愛もないことです。

 

 え、魔物ですか?

 ええ。昔の御貴族様方が、愛玩用だったり、奴隷をイジメて悦ぶ為にスカーレットガーデンに持ち込んだらしいです。

 それが野生化して、繁殖しているんですよ。危険な種類も居るので、ヨコタさんも町に行く時は護衛を忘れないでください。

 

 ええと、何の話でしたっけ。

 そうそう、実家に戻った話でした。

 

 騎士に叙勲された時、俸禄が出るのでそれを伝えに行ったんです。

 私もスーロと同じように、実家に仕送りしてるんです。

 その時は、なんで帰って来たんだって、母にお皿を投げつけられましたけど。

 

 案の定、その時も似たような反応でした。

 ええ、落胆はしませんでした。

 

 その後は、自警団の方々と変わったことがないかと話をしました。

 彼らは最初、苦手だったんです。

 だって、今も彼らは純血の血統を維持しているんです。没落して久しいって言うのに。

 私のような卑しい夢魔との混血なんて、疎まれていると思ったんです。

 

 でも、聞いてみると、私のような混血でも騎士になれるのなら、気になってるあの子を口説いてみようか、なんて冗談を言っていました。

 と言うか、私も口説かれました。……いえいえ、地位が目当てなんですよ。騎士の血統に返り咲きたいんです。あわよくば、自分もお嬢様の目に留まれれば、と。

 

 純血の方々が私達のような卑しい血筋に欲情したりはしませんよ。純血の方々は、そう言う生き物なんです。

 ……へえ、人間の貴族は、気に入った庶民を愛人にしたりしていたんですか。

 そう言う話は聞きませんね。下世話な事なので、実際にあるなら噂になっているでしょうし。

 我々の貴族と人間の貴族は違うんですねぇ。

 

 とにかく、そうして駐在所に居ると、言い争いが始まったって、村のおばちゃんがやって来たんです。

 

 何事かと私達が出向くと、子供とその親たちが騒いでいたのです。

 子供たちがお金の貸し借りをしただのしてないだの。

 

 片方の子供は、お金を貸したのに返してくれないと主張していました。

 もう片方の子供は、そんな話心当たりはないと言っていたんです。

 

 まあどちらかが嘘をついていたわけですね。

 私達は両方の主張をうんうんと聞いていました。

 

 でも、私はふと思ったんです。これ、証拠なんて無いな、って。

 だから私は眼の力を使ってしまったんです。

 

 結果は、お金を借りていたと言う子供が嘘を言っていたんです。

 親から頼まれたお使いのお金を使い込んでしまった言い訳を、もう片方の子供に擦り付けた形でした。

 

 これで一件落着だと思ったんですが、私は嘘を言った子供の親から責められました。

 恥を搔かされたので、八つ当たりだったんだと思います。

 

 ええ、化け物だと言われました。

 そしたら、あたしが出て来てしまったんです。

 

 ええ、ええ、彼女とは“仲良く”なれました。

 あたしはそのまま、実家に向かって、家族と“和解”したんです。

 

 ねえヨコタさん。あたしが家族と縁を戻したいと思いましたかぁ?

 

 違うんだよねぇ!! 仲良しごっこしながら、あいつらが心の底であたしに怯えている姿を見たかったんだぁ!!

 

 きゃはははははははははははははは!!!!!!!

 あはははははははははッ!!!

 

 あたしは目いっぱいお皿を投げつけて、愛情を示してあげたんだ!!

 お母さんは泣きながら喜んでくれたよ!!

 

 私は我に返った時、謝りながら逃げ出しました。

 ヨコタ様。やはり私は化け物だったのです。

 

 でも勘違いしないでね、ヨコタさぁん。

 あたしはどうでもいい奴に好かれたいわけじゃないの。

 あたしを愛してくれる人を、愛したいだけなの。愛されたいだけなの!!

 

 でもこんな私を愛してくれる人なんて、居ないですよね。

 この事はお嬢様に報告しました。罰を受ける為です。

 お嬢様は私の首筋に牙を突き立て、血を吸うのと同時に御自身の血を私に与えてくださいました。

 それ以来、私は本能に悩まされることは無くなりました。

 

 あたしはあなたと同じだよ、ヨコタ様!!

 そんなわけない、ふざけないで、私!!

 私は私だよぉ、ねえあたし?

 違う違う違う!!!

 

 ……あれ?

 

 いまのは、どっちの(あたし)だっけ?

 

 

 

 §§§

 

 

 このような人格の混濁は、しばらくして完全に無くなり安定を取り戻したようだった。

 

 キュートさんの時は急にキスをしてくるので、すぐにわかる。

 その後俺にセクハラをかました後、サキュート卿に戻って慌てて謝ってくる。そんな定番が当たり前になった。

 

 でも、俺は分かっていた。

 この間セクハラに耐え兼ね、意地悪をした。

 

 俺にキスしてくるキュートさんに、止めてくださいサキュート卿って言ってやったのだ。

 彼女は動揺して、慌てて弁明をし始めた。結局のところ、二つの人格は同一人物に過ぎなかったのだ。

 

 しかしながら、俺はサキュート卿が恋愛クソザコで、キスぐらいしか引き出しの無い、そんな彼女で助かってはいる。

 根は真面目だから艶本の類に縁が無かったからだろう。

 

 だから俺はお嬢様の褥で、彼女の力を頼ることは無かった。

 そもそもあの魔眼は使用者に向けて感情を得る物。仮にお嬢様たちに使用して貰っても望んだ結果は得られなかっただろう。

 いや、お嬢様のことだから別の用途で楽しむために使わせるかもしれない……。いや、こんな想像は止めておこう。

 

 将来、彼女が精神的に成熟した時に、俺は彼女を壊した責任を取るべきだと思うのだ。

 もし俺が彼女の心の隙間を埋められるのなら、彼女の気持ちに応えるのもやぶさかではない。

 その時はどちらが先かでスーロの扱いに困るだろうが、まあどうにでもなるだろう。スーロだし。

 

 ただ、問題は彼女である。

 本能に忠実なだけのスーロと、気の迷いをこじらせてる可能性のあるサキュート卿。

 

 二人と違って、キュリアさんは本気で俺に恋をしていた。

 では次は彼女について、語るとしよう。

 

 

 

 





評価数100越え達成、ありがとうございます!!
こんなに早く達成できるとは、思ってもみませんでした!!

吸血鬼全員ヤンデレを標榜している本作ですが、その属性のパワーだけでなく、ストーリーで読者の皆様を惹きつけたかったものでして、本格的なヤンデレの描写が遅れたことをお詫びいたします。

前回のあとがきで、お嬢様の心理描写は語らぬ美学と申しましたが、解像度が低いのは頂けないと思い、主人公とお嬢様の関係は「春琴抄」を意識していることをここに明示しておきます。
脳を破壊された読者の皆様も、これで新しい性癖を開拓してみてはどうでしょうか?
個人的には結婚してハッピーエンドより、背徳的でエロチシズムに溢れていると思っていますね!!

それではまた、次回!! 次は、キュリアのターンです。

どのヒロインがお気に入りですか?

  • 皆のワンコメイド、スーロ
  • 属性過多の騎士、サキュート卿
  • ダウナー系美女、キュリア
  • 正道こそ王道、リーリスお嬢様
  • いざ我らの妹様、トゥーリ
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