吸血鬼だけの世界で、人間ただ俺独り   作:やーなん

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※本日二回目の更新です!!


 第三回、異能図鑑!!

 ──『見透視の瞳(クリアポヤンス)』。所有者:キュリア。
 希少性:C 持続性:A 破壊力:― 特異性:C 応用性:E 効果範囲:視界内

 説明:
 千里眼の一種で、物体を透過して視認できる能力である。
 強い能力ではないが、逆にデメリットや代償が有るわけでもない。これと言ってコメントに困る無難さである。
 吸血鬼の異能は、基本的に“襲う”為の能力である。
 なので、こう言った補助系の異能は珍しい部類に入る。

 どうせ継承するならもっと強力な異能にすればいいのに、と思わなくも無いが、祖先から引き継いだものに縛られるのが、吸血鬼と言う種族の在り方を示している。




キュリアの初恋

 

 

 

 キュリアさんについて語らせて貰う。

 俺にとって彼女は、忌憚のない言葉を選ばせてもらうのなら、友人、だろうか。

 

 ものぐさで自分の興味のあることにしか関心を向けない、趣味人。

 合理的で、時に冷酷な方法を実行し、感情を排した言葉を述べる。

 

 その知識量から裏付けられる傲慢さ、残虐さ、それは吸血鬼そのものだった。

 それが彼女の個性で、その性格に助けられることも多いのが悩みどころだろうか。

 

 彼女の難のある性格について、何度も描写してきてなんだが、俺は彼女のそう言う性格が嫌いではなかった。

 女性は感情で物事を判断する。理屈ではないのだ。

 俺の居た地球では、昨今男女の分断が叫ばれ、女性を蔑む言葉としてそのような特徴挙げる者も多い。

 俺もそう言った偏見を持っていた一人だった。人付き合いの苦手な童貞の分際で、と笑っておいてほしい。

 

 いや、違うな。

 俺は彼女の理性が、理知的な余裕が羨ましいのだ。

 常に最善を、正しい選択を取れる彼女が。

 これを、と決めたら躊躇わず実行できる。俺が欲してやまない行動力を、彼女は持っていた。普段は図書館の虫なのに。

 

 そんな俺の持っていないものを当たり前のように持ち合わせている彼女は、どういうわけだか俺に恋をしている。

 最初はどうせ気の迷いだと思っていた。吸血鬼の本能がそうさせるのだと。

 

 だが、彼女と接するうちに、彼女のそれが揺るぎ難い本気のそれであると俺も感じられるようになった。

 

 彼女が俺の腕に、自身の腕を絡ませる度に。

 セミロングの銀髪が俺の肌に触れる度に。

 華奢なその身体が、俺に寄り添う度に。

 どこかダウナーな言葉の吐息が俺に掛かる度に。

 

 俺はどこか恐怖していた。

 

 俺は、彼女の好意が恐ろしかった。

 だってそうだろう? 俺に甲斐性なんて無い。

 スーロ達お城の者達に好かれてるのもそうだ。

 

 誰か本気で好かれることが、それに応えなければならない自分に恐怖した。

 愛されること、それを神に望んだ俺が、実に情けないことに。

 

 本物に直面した瞬間、俺は恐れ戦いたのだ。

 

 俺は彼女に自身の心情をヒアリングし、文章に書き起こす。

 彼女は取材の最中、ずっと俺の隣で俺のメモを見ていた。

 

 

 

 §§§

 

 

 君は興味深いことをするんだねぇ。

 私は自分が発表する側に回るなんて、考えたことは無かったよ。

 

 ああ、はいはい、自己紹介ね。

 私はキュリア25世。幼名や家名も記しておくかね?

 それは後で良い、なるほどね。

 

 さて、自分のことを語るとなると、何だか面映ゆいね。

 ましてや、君相手に私の心境をさらけ出すとなれば。

 

 そう言えば、私の研究テーマについて話したことはあったかな?

 そもそも研究なんてしていたことを知らないって?

 まったく、君も失礼だな!! 私が何もしていないと思っていたのかい?

 

 異能だよ。我々ヴァンパイアの異能について、私は研究しているんだ。

 

 私達は精神の比重が大きい生物だと以前に語ったね?

 君は私達のヴァンパイアの異能を目覚めさせてきて、どう思ったかな?

 

 獣化の異能に目覚めたスーロは狂暴さが見られるようになった。

 私もより本質を見たいと言う欲求に駆られ、サキュート卿なんてあの有様だ。

 

 私は異能こそが、──我々ヴァンパイアの精神を形作るののではないか?

 実例はまだあまり多くは無いが、君が来てから私はこのような考察をせざるを得ない。

 

 別に不思議な事ではないだろう。能力を使えるように、精神が最適化されるだけの話さ。

 狩りをするにも役割があるのと同じさ。

 獲物を追い込む者、罠を張る者、全体の指揮をする者、トドメを差す者。

 

 それは恐らく自然な事なのだろう。

 だから、君が気に病む必要は無いと思うけどね。

 ふふ、私も気づかいぐらいするさ。

 

 でも理解することだね。

 私は本気だよ。

 

 私に嫌われようと、君はいろいろなことをしてくれたね?

 勝手に図書館の中を整理したり、三日ぐらいお風呂に入っていないくらいで風呂場に皆と無理やり連れて行ったり。

 

 ああ、私は自分のペースが乱されるのは嫌いだ。すごくイライラする。

 でもね、それも君から与えられたものだと思うと愛おしいんだ。

 

 ふふ、恋は盲目とはよく言う。透視の異能を持つ私がだよ?

 どんなやり方でも、私を見てくれていることが嬉しいんだ。

 

 そう言えば、覚えているかな。

 葬儀がパーティに変って、それが終わった日のことだ。

 

 あいつ、名前をなんて言ったかな。

 家名は覚えているんだ、元婚約者だったからね。

 アーテホース男爵家の三男だったかな。家督を継げない立場だったから、騎士かぶれの奴だった。

 

 私の家が没落してから何の音沙汰も無かったくせに、私が伯爵の位階になった途端話しかけてきたんだ。子爵位階と伯爵位階は、その力も影響力も隔絶しているからね。

 彼は二日前から来てたのに、だ。

 

 私がリーリスに世話になっていることは知らなかったのだろう。

 その時になって、私が公爵家から覚えがめでたいと知ったみたいでね。

 本当に、今更さ。私が浮世離れしていて良いだの、昔より知性が磨かれているだの、そんな言葉を並べ立てた。

 

 君はうんざりしている私を見かねて、席を外すように促してくれたね?

 それを奴は咎めた。あんな典型的なアホ貴族が未だに生き残ってることに驚いたよ。

 

 だから私は言ってやったんだ。

 彼はツェーラー侯爵の攻撃から私を守って負傷したんだ、お前にそれが出来るのか、とね。

 

 え、事実とは違う? まあ些細のことではないか。

 君はいつだって私を想ってくれているじゃないか。そいつは違う。

 

 図書館の片付けも、私の為だし。

 風呂場に連行させたのも、私の清潔の為だろう?

 

 はあ、はあ、胸が熱くなるよ。

 今すぐ君を私のものにしたい……。

 

 私のことが疎ましいなら逃げたまえ。

 でもその代わり、私はこの眼で地の果て、たとえ異世界に逃げようとも探し出して追い詰めるよ。でもその時は誰にも手出しできない地下深くに監禁して、私無しでは生きられないようにするからね。君を取り戻そうとする万難を排してでもね。私は君の心が欲しいなんて女々しいことは言わないよ。私は君の体中に張り巡らされた血管を見ているだけで十分幸せだからね。その時は正直面倒だけど、食事やシモの世話もするよ。君だって面倒なのに私の世話をしてくれたからね。ああでも、君はあと八十年も生きられないんだよね……。嫌だ、そんなのイヤだ!! そうだ、リーリスを解剖して、再誕の秘儀を解明しよう、彼女なら嫌とは言わない筈だ。そうとも、私は知っているよ、リーリス達と夜な夜なしていることをね。ズルいズルいズルい、私もキスしたい裸で身体を重ねて体温を感じたい、お互いに労わり合って触れ合いたいッ、不幸と周囲との偏見に晒されると分かっていても君との我が子が欲しいよ。君の心が要らないなんて嘘だ、本当は私のことを分かって欲しい、見透かしてほしい、好きになって欲しい、でも自分がどうしようもない物臭だって分かってる、君に好かれる要素なんて無いってわかってる、女性として意識されてないのも嫌だ嫌だ嫌だ、私だって恋をしたい好きな人と一緒になりたい。君が死ぬのが嫌だ、それを想像するだけで胸が苦しくて苦しくて張り裂けそうになるんだ、なんで君は人間なんだ、すぐに死んでしまうんだ君が死んだら私は生きていけないよどうしよう、誰か助けてくれ、狂おしいほど君が好きなんだ!!

 

 ……ごめん、取り乱した。私としたことが。

 

 君を失いたくなくて、君に嫌われるようなことばかり頭に浮かぶ自分が嫌になるんだ。

 

 初めてなんだよ、こんなにも誰かに恋焦がれるのは。

 きっと君に出会う前の私なら、馬鹿馬鹿しいと切って捨てるようなこと、ひとつひとつが愛おしいんだ。

 

 君は昔の私を殺したんだ、その責任は取ってくれないと困るよ。

 別に君の一番で居たいなんて、そんなことは言わないから。

 君が死ぬまでは一緒に居させてくれ。その後のことは自分でけりを付けるから。

 

 今なら、ツェーラー侯爵があんなことを仕出かした理由が少しだけわかる。

 彼も、愛する人の居ない世界に希望を持てなかったのだ。

 でも少しでも近づきたくて、あんな真似をした。

 こんな気持ち、わかりたくも無かったけどね。

 

 ……私にこんな話をさせたんだ。

 君も、自分の話をしてくれたまえよ。

 

 

 

 §§§

 

 

 わたくし事だが、俺の初恋の相手は親戚の二つ年上の従妹だった。

 彼女は小説が好きで、俺は彼女の気を引こうと見よう見まねで小説を書いた。

 中学生の設定ノートよりも酷い出来の、小学生の頃の産物だったが。

 それでも彼女は褒めてくれた。俺がライトノベルにのめり込む切っ掛けだった。

 

 正直、キュリアさんに関しては貰い事故のような気がするし、俺が悪いわけじゃないと思うが、俺が死んだら自分も死ぬと言っているので、俺もなるべく長生きを心がけたいとは思っている。

 

 と言うか、デバガメしてやがったのかこのヤロウ、と思ったものだ。

 読者の皆さんは気づいているかもしれないが、俺はもうキュリアさんに対して遠慮なんて無い。

 割と二章後半辺りからため口で話してたし。

 

 彼女の良いところは貴族らしさが無いところだろう。良くも悪くも、ではあるだろうが。

 そんな気安い関係が俺は好ましかった。

 

 もしお嬢様に許されるのなら、相棒とすら思っていた。

 彼女は頼りになるし、いつも相談に乗って、解決策をくれる。

 そんな何でもないように何かをこなせる、そんな人間になりたかったのだ。

 俺のようなちっぽけな人間が、彼女のような美女を相棒だなんてふさわしくはないのだろうけど。

 

 だからこそ、気が重い……。

 今俺が書き起こしているこれ、文章の推敲をするのは彼女なのだ。

 

 彼女のことだから、これは私へのラブレターだね!! とか言い出しかねないので、あらかじめそうではないと釘を刺しておく。

 彼女の恋心に応えられるかは分からないが、友人として同じ時間を共有すること自体は苦ではない。

 

 そろそろチェスに付き合うのも飽きたので、他のボードゲームでも考案して一緒に遊ぼうと思う。

 スカーレットガーデンは異世界なので、異世界物のド定番のオセロ辺りなんか良いだろうか。あとはマヨネーズ作りを抑えておけば、君も異世界で無双できるだろう。

 

 ああ、そうだ。

 デバガメと言えば、妹様だよ……。

 

 あの人、俺の影に自分の影を潜ませてるって言ってたのを思い出してほしい。

 護衛とか言う名目で、常に盗み聞きと監視をしてくるんだよ。俺のプライバシーとは……。

 

 だから、お嬢様たちと、あんなことをしてしまった次の日は、ガン詰めされた。

 

 では次は、俺にとっての全ての始まり、妹様について語ろうと思う。

 正直しんどい……。

 

 

 

 





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ではまた!! 次回は、妹様です。

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