第四回、異能図鑑!!
──『
希少性:A 持続性:B 破壊力:B 特異性:B 応用性:S 効果範囲:影のある場所全て
説明:
ヤーシャ侯爵家に伝承される、強力無比な影を操る異能。
自分の影を起点に、影から影へと影響力を広げられる効果範囲や射程距離。影を物質化し身に纏ったり鋭利な刃にしたり、逆に影の中に潜航し、別の影がある場所に移動できるなど実用性の高く無駄のない数々の効力を発揮する。
弱点の無さ、代償が殆どない。全吸血鬼の異能の並べても、十指に入る強力さ、使い勝手も込みなら五指に入るだろう。
デイウォーカーとは、太陽の元を歩くことを出来る吸血鬼のことを差す。
太陽の光さえも制する真祖の吸血鬼のこそ、最大の力を発揮できる能力だからだ。
妹様のことを語る前に、俺の認識の祖語について話さなければならないと思う。
一般的に、ライトノベルの一巻は十万文字程度とされている。
つまり、俺が自分の趣味で書きなぐっていた一章と二章を合わせて、丁度いい文字数だったわけだ。
これを書いている頃は、まさか俺の書いた文章が出版されるなんて思っても居なかったので、俺は地球人でも日本でしか伝わらないような例えを多用していたと思う。
実はスーロについて書いている頃には、既に販売が開始されていた。
出版自体は妹様の伝手で、人の氏族の手で行われている。
俺はスカーレットガーデンで、知る人ぞ知る人間が書いた珍書として五十冊ぐらい販売されるのだと思っていた。
……一万部刷って、全部売れたらしい。
何でも、よその世界の人間達にとって、スカーレットガーデンとは吸血鬼達の住まう秘境世界と思われているらしく、立ち入りや内部の情報は厳しく制限されてるそうな。
出版社はこれに目を付け、売れる、と思って外の世界に輸出したらしい。殆ど丸投げしていた俺はそれに気づかなかった。
その結果、俺と言う人間の視点から見たこの世界の世情や風俗は、非常に注目を受けて増産待ちらしい。
個人的には、文章力を評価されたわけではないことが腹立たしいことこの上ないが、既に46通*1ほどファンレターを頂いた。
……どうしよう、俺、お嬢様との情事について書いちゃったんだけど。
貴族は自分の性事情について赤裸々に記した手記を後世に残しちゃったりするそうだが、まさか自分がそうなるとは思っていなかったのである。
この幕間から気合が入っているのは、そうした事情もあるのだ。
かくなる上は開き直り、読者が期待している話を書こうと思う。
妹様と、お嬢様についてだ。しかも下世話な話だぞ、喜べクソったれ!!
ちなみに妹様は俺の本が出版されることには好意的である。
何と言うか、本当に貴族なんだなぁ、と思う俺であった。
さて、妹様について、俺はまた複雑な感情を抱いている。
昨今のライトノベルと言えば、脳みそスカスカなヒロインが主人公にほぼ一目ぼれでやることなすこと全肯定して、都合の良い女性として描かれることが殆どである。
俺は最初、妹様やキュリアさんもそう言うタイプなのでは、と失礼なことにそう思ってしまったのである。
なにせ、異世界に転生するなんて非現実的な事実に直面した直後だったからだ。
或いは、俺のような童貞をこじらせた女っ気のない男にとって、恋愛とは段階を踏むものだと言う幻想がまとわりついていたのだ。
実際、ラノベでは序盤で主人公に理解のある都合の良い天才キャラやら従者やらが仲間になるのが定番である。或いは、奴隷を買ってそれが有能であったりな!!
その点で言えば、キュリアさんも妹様も、どちらも俺にとって都合の良い人物などではなかった。
キュリアさんはあんな性格であるし、妹様も神器の件でブチギレられた。
二人共、譲れない一線が存在するのである。
主人公に言われたらこれまでの価値観をポイ捨てする薄っぺらい性格ではなかったのだ。
人付き合いの苦手な俺にとっては、悲しい事実ではあるが。
正直なところ、妹様の好意は俺に対する罪悪感やら使命感なのだとばかり思っていた。
俺みたいなのに本気で恋するのは、キュリアさんみたいな変わり者ぐらいではないか、と。
だって、気持ち悪いじゃないか。初対面で何でもするとか言ってくる相手なんて。
あのお嬢様と同じ金髪、美しいルビーのような瞳。
お嬢様より幼げな顔立ち、常にシスター服を纏った神秘的な出で立ち。
俺を救世主と言って憚らない彼女の眼は、曇っているのだと信じたかった。
だからこそ、俺は取材を通して彼女の心情をヒアリングし、妹様を理解しようとした。
……ああ、これを文字に書き起こすのかぁ。嫌だなぁ。でも売れちゃったしなぁ。
§§§
ごきげんよう、トゥーリと申します。
偉大なるリェーサセッタ様に仕える神官ですわ。
本来なら家名を名乗るべきなのでしょうが、流石にそれは憚れますわね。
え、猫被るなって? ふふふ、ヨコタ様は冗談がお上手ですわね。
私のことは以前ヨコタ様にお話した通りなので、何を話せば良いのかわかりませんわね。
あ、そうそう、ヨコタ様。
この間、キュリアさんとオセロをしておりましたよね。あれ、メアリース様に特許に引っかかります。
勝手に他種族に存在しない人間の技術や文化を伝えるのは、自動的に金銭が発生しますわ。請求書が来てたので、あとでお送りします。払わないと、来世は鉱山送りになりますよ。
ええ、気を付けてくださいまし。メアリース様はその辺りきっちりしていますので。
ふふ、そんな顔をしないでください。
鉱山送りもそう悪いモノではないらしいですわよ。
健康とスケジュールを管理され、最大効率で休日と人権を保障されたまま搾取され続けるだけだとか。
自分で物事を決めるのが苦手なヨコタ様には悪くない環境だとは思いますよ。
え、笑顔で毒を吐くなって?
そんなつもりは無かったのですけど……。
うーん、では読者の皆様が期待している話でもしましょうか。
ええ、先日ヨコタ様に詰め寄って、お姉様とのあれやこれやを問い詰めた後の話です。
正直、あの場に乗り込まなかっただけでも理性的だと思ってくださいませ。どんな名目でも、お姉様は貴族の務めを果たそうとしていたわけですし。
だから、朝食の後のティータイムに話を付けに行ったのです。
バーメイに席を外して貰って、一対一で。
「姉の閨を覗き見しておいて、何を言うかと思えば」
お姉様は私の詰問に、涼しい顔でそう仰ったのです。
「彼と、私は一心同体よ。何の問題があるのかしら」
お姉様とヨコタ様は、血液だけで交わりましたわね。
羨ましい!! お姉様の全存在を受け入れた、その事実が憎いのです。
私のヨコタ様を独り占めしたお姉様も、お姉様を独占したヨコタ様も。
私はどちらも愛しているのに、いつも私だけ蚊帳の外なのですから。
再誕の秘儀、あれはそれ相応のリスクがあると伝わっておりますわ。
我々吸血鬼にとって、精神の方が肉体よりも比重は大きいとは言え、肉体が重要では無い訳ではありません。
その肉体の大半を失った状態での復活、精神と魂が剥離して消滅する危険性と隣り合わせ。
衰退した我々ではままならぬ御業の筈です。
だと言うのに!! お姉様はヨコタ様に自身の全てを預けた!!
私でも良かったはずなのに!! ……いいえ、それは傲慢な発言ですわね。
弱ったお姉様が吸血鬼の本能を利用した、苦肉の策であったのは想像に難くはありません。
ねえヨコタ様、私がお姉様と同じ状況に置かれたら、私の全てを受け入れてくださいますか?
血液だけになってでも、私を……。いえ、忘れてください。
あれは、尊い公爵家の異能を持って産まれたお姉様だから出来たのでしょう。きっと、私では真似できないはずです。
あ、そうですわ、人間には輸血と言う技術があるそうですわね。
私とヨコタ様の血管を繋いで、お互いの血を交換すれば……。
え、ある小説にそうやって相手を殺す変態忍者が存在するですって? ……聞かなかったことにしてください。
「最初に目を付けたのは私ですわ」
私はお姉様にそう言いましたわ。話を逸らすな、ですって? ふふふ、黙らっしゃい。
「罪悪感と、献身の振りをした鎖で相手を縛ることしか出来ないのに?」
お姉様は、いつだって私の嫌なことを言うのです。
でも、仕方ないじゃないですか、私にはそれしかできないのです。
ヨコタ様のだけではありません、私はお姉様にも同じことをしました。こうして、公爵家から身を引いたのは、私にとって守りでもあり、攻めでもありました。
私の存在を、お姉様に刻み付ける為の。
でも、お姉様はやっぱり私の本質を見抜いていたのです。
「私は、いつだってお姉様の影なのですわ」
「それはあなた次第よ」
お姉様は微笑んで、こう仰った。
「私から、奪って見せなさい」
心臓が、飛び跳ねました。
「私はそれに何も言わないわ。
その代わり、お互いに骨肉の争いは無しにしましょう。ね?」
ああ、なんて傲慢で、残虐で、愛に満ちたお言葉なのでしょうか!!
やっぱりお姉様は私を愛して下さっているのです!!
殺してやりたいほど憎いのに、同時にその血の一滴まで私の物にしてやりたいほど愛おしい!!
それは同じじゃないかって? そうなのかもしれませんね!!
ヨコタ様、ここを触ってみてください。まるで人間のように心臓の鼓動が早いのです!!
もう、もうッ、我慢できません!!
ふふ、逃げられませんよ、ヨコタ様。
お姉様と同じことをしてください。
ほら、ほら!! 私はお姉様以上のことをして差し上げますよ!!
どうですか!! お姉様にはここを使わせて貰えなかったでしょう!?
お互いに初めてですよね!! お互いに捧げあったッ!! 最初に会った時に言った通りに、私も全てを捧げましたよッ!!
これでもう私に他家に嫁ぐ価値は無くなったんです!! ヨコタ様、あなた専用になったんです!!
嬉しい、嬉しい!! もっと私に傷を付けて!!
お姉様、言われた通り奪ってやりました!!
いつか、次は、お姉様自身を奪います!!
どんな形で、どのような方法かはまだわかりませんけど!!
私はお姉様を独占し、ヨコタ様と同時に貪るのです!!
§§§
これまで俺は散々童貞ネタを擦って来たが、それも終わる時が来てしまったわけである。
ここまで書き記した通り、妹様は時々、スイッチが入ると豹変してしまうのだ。
これには流石に妹様もショックを受けたらしく、事後我に返ると、泣きながら俺に謝罪し、数日ほどリェーサセッタ様に赦しを乞う祈りを捧げていた。
なお、リェーサセッタ様からは「お前たちはそう言う生き物だろう、それの何が悪い」、というお告げがあったそうな。
うーん、これは邪悪の女神。
俺は赦したかって? そりゃあまあ、恐怖は感じたが、妹様は美少女だし? シスターがあんな風に乱れると、ねえ?
いやでも、これを許したらそのうちキュリアさんにも襲われそうなんだよなぁ。
スーロなんて、俺と妹様を交互に見て、臭いで察したのかすんごい顔してたし。
妹様は普段はしっかり者で真面目で敬虔な方だけど、やっぱり吸血鬼なんだよなぁ。
真祖の吸血鬼であり、産まれながらの捕食者。
あんなことをされたが、俺としても妹様を嫌いにはなれなかった。
彼女は本気で俺に申し訳なく思ってるし、自己嫌悪でしばらく引き籠るほどだった。
吸血鬼の本能とは、かくも厄介で当人たちの心を踏みにじるものなのだ。
リェーサセッタ様が言った通り、そう言う生き物なのだ、彼女らは。
人間の尺度に当てはめて、改善とか矯正とか、出来ないからこうしてスカーレットガーデンなんて世界に押し込められている。
むしろ現在のような、衰退してある意味で人間らしさを獲得したのは奇跡であるのと同時に、憐れにも思うのだ。
最初から最後まで、人喰いの化け物であれば何も悩まずに済んだだろうに。
いや、こうやって憐れみを抱くのも、人間の傲慢さか。
さてこれが俺の体験した、スカーレットガーデンの吸血鬼達の生態である。
素直に、仲間たち、とだけで一括りにはできない連中だが、まあ俺は何とか上手くやって行けている。
ただ、今の俺の状態をモテて羨ましいとか思っている奴は、大間違いである。
彼女達は俺を尊重してくれては居るが、結局は下に見ているのだ。
やろうと思えばいつでも襲える。けど不都合があるからそうしない。
我々人間とて同じかもしれないが、生物の格が俺と彼女達は違うのだ。それを念頭に入れてから、もう一度俺の状況を見直してほしい。
まあ何も無いところだが、スカーレットガーデンに来たことは俺はよかったと思っている。
あのメアリース様は、間違いなく俺の願いを叶えてくれたのだから。
ちなみに、後から聞いた話ではあるが。
メアリース様の異名、或いは蔑称が、“
もし死後、メアリース様に会うことがあっても、余計な願い事はしない方が良いだろう。
だって、俺のような目には遭いたくないだろう?
これにて、幕間は終了ですね!!
次回から三章、と言いたいところですが、元々見切り発車で執筆していたので、次回以降はちょっと時間を頂きたく思います。
丁度高評価やお気に入りの数が増えるのも落ち着いてきましたし。私も頑張ってここまで毎日書いたと思いますし。
あと、アンケートの無情さに笑いました。
まだ投票していない方々は、是非してみると良いと思います。しばらく締め切りをせずに放置してますので。
ではまた、次回!!
どのヒロインがお気に入りですか?
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皆のワンコメイド、スーロ
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属性過多の騎士、サキュート卿
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ダウナー系美女、キュリア
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正道こそ王道、リーリスお嬢様
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いざ我らの妹様、トゥーリ