吸血鬼だけの世界で、人間ただ俺独り   作:やーなん

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高評価、ウレシイ、ウレシイ、続き書く、書きました。
どうぞ、お納めください。


王城にて

 

 

 

 ライトノベルは俺の人生の青春だった。

 

 友人作りが苦手だった俺は、ライトノベルを読みふけることに学生時代を費やした。

 

 面白みも無い人生だった。

 無難に大学を出て、無難に就職。そこがブラック企業で、同期が辞めていく中、独り取り残されて。

 

 その挙句――。

 

「その挙句、望みがこれとはね」

 

 俺は目の前の存在に目を向ける。

 

 雲海の上に広がる青空のような場所に、俺とかの存在は浮かんでいた。

 ここは死後の世界。俺は死んだのだ。

 

「アンケートの希望要項は、誰からも愛されるようになりたいって!!

 もうちょっと具体的にお願いしたいところね」

 

 そう言って、可笑しそうにしているのは、死後の世界の案内人。

 

 最初、彼女はこう名乗った。

 

「我が名はメアリース。人類の造物主にして、数多の世界の管理者。

 ……ああ、貴方は地球出身だったわね。ならこう名乗りましょう、メアリー・スーと。本名じゃないわよ、女神としての芸名みたいなものよ」

 

 仮にも文学を愛する俺に、かの存在はそう名乗ったのである。

 

「私は文明を司る者。人間は死後に来世を見出し、救いを求めた。

 故に私は人類の死後に来世を与える業務をしている。

 そこのアンケート用紙に、必須事項を記入しなさい」

「あの……」

「何かしら。質問なら手短に。次が控えているのよ。死人の数だけね」

「俺は死んだのでしょうか」

 

 この現実味の無い空間。身体は浮遊感を感じているし、目の前の美女が女神だと言うのも、信じよう。

 

 でも、俺は死んだという自覚は無かった。

 

「まあ、大体はそう言うものよ。

 自分が死んだと理解できずにここに来るものも多いわ。

 それで、他に質問はないわね? 早く要望を書きなさい」

 

 ……俺は、目の前に浮かんできたアンケート用紙に要望を書き込んだ。

 

 項目は容姿や才能、種族や境遇などなど、多岐に渡る。

 自分の記憶を来世に持ち越しするか否かなど。

 本当にこんなアンケートで、来世に転生させられるのだろうか。

 

 そして要望を書き記したら、大笑いをされた。

 

「……まあ、異性に縁のないまま死ぬ人間もそれなりに居るし。具体的な事なんて書けないわよね」

 

 この女神を見ていると、ネット小説から大躍進を遂げた某ラノベの駄女神を思い起こすが、彼女のような愛嬌は皆無だった。

 

「愛されたいと願うことは、そんなに可笑しいことでしょうか」

「別におかしくはないわ。

 ただあなたは誰かを愛そうとしなかったし、愛そうとは思わなかった。そんな人間のくせに、都合の良いことを言うものだと思っただけよ」

 

 ぐうの音も出ない正論だった。

 

「まあ考慮はしてみるわ」

 

 案内人は虚空から資料を取り出し、アンケート用紙と見比べる。

 

「ふむふむ、あと一つぐらいなら、要望を聞いてもいいかしら。若くして事故死は、来世に多少の優遇を加味できる要素だもの」

「……では、ライトノベルの、俺が創作だと思っている世界はあるのでしょうか」

「ええ、私は娯楽として、創作物と言う形で別の世界のことをあなた達に与えることもある。

 そうね、あなたの読んだことのあるライトノベルの中で、実在している世界は、と」

 

 ふと、彼女は何かを考えるそぶりをして、こう言った。

 

「世界名、スカーレットガーデンはどうかしら?」

「スカーレットガーデン? どこかで聞いたことがあるような……」

「貴方の世界では、『吸血乙女の円舞曲(ヴァンパイア・ワルツ)』というタイトルの物語として語られることになったわね」

「あッ、思い出した……」

 

 そう、確かそのラノベの内容は。

 

「確か面倒ごとが起こってるって報告が上がっていたわね。

 よし、決めたわ。あなたをあの世界に送ることにしたわ。

 そこで貴方が救世主として振舞うのも、魔王として暴虐を巻き起こすのも自由にしなさい。

 どうせ、あの連中が今更復興しようが、滅びようが惜しくは無いもの」

「え、あのッ」

「それじゃあ、また死後に会いましょう」

 

 そして、俺の意識は遠ざかった。

 

 気が付けば、俺はあの森の中に居たのだ。

 

 

 

 §§§

 

 

「なるほど。伝承に伝え聞く通りのようね、人間の神とは」

 

 俺は馬車に乗せられて、対面に座る彼女にこれまでの経緯を話した。

 

 彼女は真祖。六つの吸血鬼の始祖の血統、その末裔。

 六真祖、或いは六公とも呼ばれる、公爵の地位を持つ六人の一人。

 

 名前をリーリスと名乗った。『吸血乙女の円舞曲(ヴァンパイア・ワルツ)』の主人公と同じ名前だった。名前は世襲制で、彼女はその27代目だそうだ。

 

「我々がこの地で滅びるまで、何もしてこないと思ってはいたけど」

 

 扇子を広げて、口元を隠しながらリーリスお嬢様はそう言った。

 

「人間を一人送り込んで、何になるのかしら」

「……俺は、どうなるのでしょう」

 

 俺は不安を口にした。

 なにせ、俺はこの世界で身寄りは無いし、周りは吸血鬼ばかり。

 

 血を見せただけで、スーロはああなった。

 幾ら衰退して大して人間と変わらなくなっていたとはいえ、共同生活なんて不可能だろう。

 

「別に生かさず殺さずの処置をして、延々に血を絞り出すようにしてもいいけど」

「……ッ」

「そんなことをして、何になるのかしら」

 

 それは、俺にとっても信じられない言葉だ。

 あのラノベの吸血鬼は、傲慢で残虐極まりなかった。

 傲慢で、残虐で、支配欲の塊。怪物と化したスーロの姿こそ、彼女らの正しい在り方だ。

 

 なのにお嬢様はまるで枯れ果てた老人のように達観していた。

 真祖の、最も純粋で邪悪な怪物の末裔がこれなのだ。

 

 しかも月の氏族、アーリィヤ公爵家は始祖に近い由緒正しい血脈。

 なら他の五家はどれほど落ちぶれているか、想像も出来ない。

 

「……なぜ、我々の祖先がこの地に追いやられているか、知っているかしら?」

「……あなた方が、人類と共存できないほど、凶暴で手が付けられなかったから、と」

 

 原作では、そのように記述があった。あくまで、人間の神、あの女神の視点では。

 

 人間の女神、俺が死後に出会った造物主。

 メアリースと名乗ったかの存在は、一応吸血鬼達に共存を呼びかけた。共存を受け入れた穏健派の吸血鬼達以外、彼女に反発したそうだ。

 しかし、当の吸血鬼達からすら傲慢だのクズだのボロクソ言われていた通りだったと、俺は実際に会って理解した。

 きっとかの存在が、吸血鬼と戦ったのは崇高な理由とかではないんだろうな、と。

 

「その通り。一応、我々に一定の理解のある人間を送ってきたようね」

 

 しかし、お嬢様は否定しなかった。

 

「我が氏族は月の氏族と呼ばれるように、月の女神を拝しているわ。

 我々吸血鬼以外の、多くの魔族と呼ばれる人類種以外からも崇拝される御方を崇めている。

 このスカーレットガーデンも、かの御方の奇跡によって生み出された最後の安息の地」

 

 この世界、スカーレットガーデンは吸血鬼にとって牢獄であり流刑地でもある。

 しかし、それと同時に多種族から決して脅かされぬ楽園でもあった。

 

 そうでなければ、あの原作ラノベで身内同士で仲良く権力争いなどできない。

 

「今更人間達の満ちる世界に、進攻しようなどとは誰も思わない」

 

 そもそも、彼女も、スーロも、恐らく他の吸血鬼達も。

 もう人間なんてどんな生き物かも知らないのだ。

 

 不老不死の代名詞の吸血鬼にも、寿命は存在する。

 5000年という時間は、吸血鬼達を飼い殺しにするには十分すぎたのだろう。

 

 あの女神は、人間側としては十分に有能のようだった。

 完全に牙が抜けている。吸血鬼だけに。

 

「かと言って、貴方を野放しにするわけにもいかない」

「でしょうね」

 

 俺の血を少し舐めただけで、スーロは我を忘れて凶暴化した。

 狂暴化は一時的な物だったとしても、あの変化は不可逆だと俺は一目見ただけでどうしようもないほど理解せざるを得なかった。

 

 スーロはもう、血の味を知らなかった頃には戻れない。

 血の味を覚えたヒグマのように。

 

 そんな彼女は今、血の鎖で縛られたまま馬車に牽引されている。

 

「ただでさえ最近はリーチが増えていると言うのに、奴らに餌をみすみす渡すのも具合が悪いわ」

 

 そう、スーロがあれだけ強くなったのなら、俺の血を飲めば同様にリーチもパワーアップすることを意味する。

 この地の領主たる彼女には、面倒極まりない事態となるだろう。

 

「……良いでしょう、あなたを我が家に迎え入れましょう」

「それは、俺を保護してくれる、という意味ですか?」

「もしかして、それ以外に聞こえたのかしら」

 

 気だるげにお嬢様はそう言った。

 

「リーチだけでなく、他家に貴方は渡せないもの」

 

 ただ、その言葉は俺の今後の不吉を占うようなモノだった。

 

 

 

 §§§

 

 

 お嬢様の実家、『吸血乙女の円舞曲(ヴァンパイア・ワルツ)』の原作でも舞台になった初代リーリスの居城。

 そこに、俺は訪れていた。

 

 五千年の時を経てもなお、荘厳な佇まいを残す建築物を目の当たりにして、俺は少しだけ感動した。

 

 騎士階級の吸血鬼二人が守る城門が開け放たれ、馬車で庭を移動すること数分。

 ようやくお城の入り口に到達した。

 

 幼げなドレスの少女が、馬車から降りる。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

 白い髪をまとめたメイド服の女性が、頭を下げる。

 後で紹介を受けたが、彼女がメイド長だ。

 

「そちらの御方は?」

 

 頭を上げたメイド長の視線が、俺に向けられる。

 

「拾ったわ。使い物にして頂戴」

「えッ」

「かしこまりました」

 

 なにそれ、聞いてないんだけど。

 

「ところで」

 

 メイド長の視線が、馬車が牽引するモノに注がれる。

 

「スーロが何か粗相をしましたのでしょうか」

 

 俺がそちらに視線を向けると、スーロは元の姿を取り戻していた。

 が、俺はすぐに目を逸らした。

 よく考えて欲しい、人間の体積が二倍になったらどうなるか?

 

 服なんて、弾け飛ぶだろう。

 つまり彼女は素っ裸だった。

 

 そして、しくしく泣いていた。

 

「ひどい、ひどいっす、お嬢様……」

 

 スーロは三十分近く馬車で引き回されていた。

 市中引き回しなんて言葉があるが、まさにその憂き目に遭っていた。

 

 全裸で引きずり回されたら普通ボロボロになるだろうが、一見して砂埃や草塗れになっただけで、肌に擦過傷やその他の傷は見えなかった。

 吸血鬼に代表される能力、高度な再生能力が発揮している証左だった。

 

「気にしないで。罰することでもないわ」

「ははぁ、かしこまりました」

 

 君主が罰しない、と言ったのだからメイド長は唯々諾々と従うのみだった。

 

 お城の入り口が自動で開き、お嬢様は中へと歩いて行った。

 

「あ、ええと、横田と申します。お世話になります」

「わかりました、ヨコタさん。びしばし指導させていただきます」

 

 ハッキリ言ってメイド長も、日本で出会ったら目が飛び出るほどの美人だった。

 ここは森の中みたいに木々が遮ることもなく、月明りで顔が分かる。

 

 スーロだってショートで茶髪の、小型犬みたいな可愛さの美少女だった。今はちょっと見るも無残な格好だけど。

 まだしくしく泣いている。

 

 俺は居た堪れなくなって、上着を彼女に掛けてあげた。

 

 その時だった。

 城門の方から、駆け足で一人の少女がやってきた。

 

「はあ、はあ、す、スーロ!! どうしたの!!」

 

 騎士服の格好からして、入り口の門番をしていた騎士階級の一人だろう。

 ピンク髪の、露出が全く無いのに色々とムチムチしている女の子だった。ヤギみたいな捻じれた角や、細長い黒い尻尾が当人の困惑を示している。

 実際にラノベでしか見たことの無い髪色に、俺はギョッとしていた。

 

 その見た目だけで俺は、彼女の祖先が夢魔当たりとの混血だと当たりを付けた。

 

「サキュート卿。どうやらスーロがお嬢様に粗相をしたようで」

 

 メイド長の言葉に、騎士の女の子は闇夜の中でも分かるほど血の気が引いた表情になった。

 

「お、お嬢様は何とッ」

 

 きっと友人なのだろう。彼女が狼狽えるのは当然だ。

 下僕階級の吸血鬼なんて、雑兵に過ぎない。気に入らなければ、ポイ。それが吸血鬼という生物である。

 

「不問に処しました。これを再教育しますので、手伝ってください。

 私はこの方を案内しますので」

「わ、わかりましたッ」

 

 騎士の子はギャルっぽい見た目なのに、礼儀正しいのはまさに騎士っぽい。

 でも、最低位階とは言え貴族階級の吸血鬼なんだよなぁ。

 

 混血で騎士階級ってことは、原作には無い設定だ。

 それは、明確に吸血鬼達の衰退を意味していた。

 

 

 

 §§§

 

 

「……どうですか?」

「よく似合っておいでです」

 

 俺は、メイド長の手によって執事服に着替えさせられていた。

 拾ったって、そう言うことかよ……。

 

 髪もオールバックにしてワックスで固めて、鏡で見る自分はかつて会社員だったとは誰も思わないだろう。

 精々、コスプレ喫茶店の店員か。服に着られているという印象だった。

 

 着替えを終えると、俺はメイド長に連れられ、城内を歩く。

 

「あの、なんて言うか、使用人の方が少なくないですか」

 

 俺は率直な印象を口にした。

 だって、さっきの騎士の子を含めて、俺は十人も吸血鬼を見ていない。

 

「この城に住んでいるのは、九人ですから。いえ、今日から十人ですわね」

 

 本当に十人以下だったのかよ、と俺は思った。

 

「そんな少人数でお嬢様の一族のお世話ができるんですか?」

「お嬢様のご両親が棺桶に入られてからまだ十余年。領主の務めを独りで果たされておりますから」

 

 棺桶に入る、とは人間で言えば鬼籍に入るみたいな言い回しだ。

 吸血鬼にとって、十年程度はまだまだ最近の話なのだろう。

 

 って、あれ、と俺は気づいた。

 独りで、ってことはあの騎士階級の子も戦力に入っていない、ってことでは?

 

 そしてその後、俺は自分に割り当てられる部屋に案内された。

 今日はとりあえず、初日なので各施設の場所を案内されただけだ。もう休んで良いらしい。

 

 それにしても広い!!

 アホみたいに広かった。

 

 幸い、城内は単純な構造になっていたので迷うようなことは無いだろう。

 ただ、老朽化で立ち入ってはいけない場所が、結構あったのが虚しかった。バルコニーとか基本立ち入り禁止だ。

 

 することも無いので、俺は城内をもう一度確認した後、自室に割り当てられた部屋に戻った。

 

 だが、防音なんて概念の無い中世のお城であるこの場所では、聞こえてしまったのである。

 

『はあ、はあ、ヨコタさん、ヨコタさんッ』

 

 俺の隣の部屋から聞こえるスーロのくぐもった苦しそうな声が。

 いや隣の部屋なのかよ、というツッコミも内心でそこそこにして、俺はさっきのリーチとの戦いで何かしら反動が起こったのかと思ったのだ。

 

 吸血鬼の異能は何かしらの代償を求めるケースもあるからだ。

 

「スーロさんッ、大丈夫ですか? 何か身体に異常が起こったんですか!?」

 

 しかも、生まれて初めて能力を発揮したのだ。

 あんな体の構造が変化するタイプの能力だし、苦しんでいてもおかしくない。

 そして愚かにも、俺に助けを求めていると、思ってしまったのだ。

 

 俺はドアを開けて、彼女の部屋を覗き込んだ。

 

「はあ、はあ、ヨコタさんヨコタさんヨコタさん、くんくん、すーはーすーは、れろれろれろ――」

 

 彼女は粗末なベッドの上で、俺の上着を抱きしめてかなり激しく自身を慰めていた――。

 

「はあはあ、あッ」

「あッ」

 

 俺と、彼女の目が合った。

 

「あの、えーと、声、隣に聞こえてますよー」

 

 俺はそう言って、そっとドアを閉じた。

 

「ちょ、まって、待ってください、これは、これは違うんすよ!!」

「恥ずかしいことじゃないから!! 誰だっていろんな事情はあるって!!」

「思いっきり勘違いしてるじゃないっすか!!」

 

 俺とスーロの攻防は、ドアを挟んでしばらく続いた……。

 

 

 

 

 

 





とりあえず、三話まで需要があれば短編から連載にしますね……。

あと言い忘れてますが、世界観を共有するシリーズを作者は書いてますが、特に他を読む必要はありません。
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