一旦止まると言いましたが、19話だと区切りが悪いので、これを書きました。
今回は主人公のお話で、吸血鬼はあまり出てきません。悪しからず。
この話は極めて俺自身の個人的なエピソードになる。
読み飛ばして貰って構わない。
編集どもが、この幕間と三章だけで二巻目を作りたいとせっつきやがったので、ボリュームを出す為に捻りだした感じである。
だと言うのに、どうしようもなくこのスカーレットガーデンに関わる出来事でもあった。
それこそ、存亡にも関わるほどの。
時期的にも丁度いいので、正直迷ったが書き記すことにした。
§§§
メアリース様がゲダモノの討伐令を発して少ししてからのことだった。
六氏族の長が集まり、会議をすることが決まった二週間前のことである。
「リェーサセッタ様からのお告げです。
二日後にさる貴人がこのお城に訪れます。歓待の用意をお願いいたします」
妹様が、使用人たちの前にそう言ったのだ。
「かしこまりました」
メイド長はそう言った。俺も家令として、粛々と頭を下げて同意する。
この時、俺は別の氏族の長が来るのだと思っていた。
貴族の会議とは、現地に集まってから意見を突き合わせるのではない。
事前にあらかじめ根回しをし終えて、同じ意見を持つ仲間で結託しておくのである。そうして自分の意見を通しやすくするのだ。
だからその為にお嬢様が接待するのだと。
しかし、それを告げたのは妹様で、リェーサセッタ様からである。
政治の話に、なぜ神官が神の言葉を伝えたのだろうか?
しかし俺達下僕には、そんな疑問の余地など関係無い。
妹様は緊張した面持ちで、お嬢様と話だし、お嬢様も頷く。
盗み聞きは破廉恥なので、俺は二人が何を話しているか聞くことはなかった。
そして二日後、俺にとってどうしようもない現実を目の当たりにすることになった。
「お客様が御出でになられました!!」
うちの使用人の一人、伝令役を担うハーピーとの混血児、ピュアがばっさばっさと腕を兼ねる翼をはばたかせて、俺達に言った。
俺達はお出迎えの準備をし、お嬢様もスタンバって、歓迎の準備は万端だった。
城の入り口で列をなして、貴人を待つ俺達。
程なくして、馬車がやってくる。
普通の馬が曳く、普通の馬車だ。
しかし、御者は普通ではなかった。
全身緑色の肌を持つ、毛の無い亜人。
甲羅のような装甲を殻に備える、リザードマンの亜種だと、後に彼は言っていた。
そんな亜人でも希少種らしい彼は、荷台から客人が地面に降りるのを先導する。
「ささ、足元にお気を付けてください。──魔王様」
魔王。陳腐な響きだった。ライトノベルだけでなく、色々な創作で使い古された、そんな単語。
だが俺達の前に現れたのは、そんな冗談みたいな存在だった。
俺にとっても、そうであってほしかった。
「歓迎いたしますわ、リェーサセッタ様のご息女」
俺達は頭を下げ、貴人の顔を見ることなく出迎える。
お嬢様は、魔王に向けて一礼したのが見える。
「ええ、ありがとう。急な来訪になって申し訳ないわね。用件が済んだら、すぐに帰るから」
「お気遣いなく。ここを我が家と思ってお過ごしください」
お嬢様とそんな社交辞令を交わして、魔王は頷いた。
魔王は、女の声だった。仰々しいマントを脱いで、己の従者に預けた。
「ええ、ここは故郷を思い起こすわ」
「それは、光栄ですわ」
「だって、彼が居るのですもの。──ねえ、キューちゃん」
俺は思わず顔を上げてしまった。
俺をそう呼ぶ者は、一人しか居ないからだ。
「も、え、ちゃん?」
捻じれた角を持ち、エルフのような尖った耳。
酷薄な血の色の瞳を持つ、黒い長髪の妖しい美女。
それはかつて、俺の幼馴染だった人間の少女の面影を持つ、化け物だったのだ。
§§§
魔王は語る。
「メアリース様は、昨今の貢献度の低い停滞した文明を持つ世界の処分に際し、新たな方策を打ち出したわ」
お嬢様とテーブルを囲み、メイド長がお茶を入れている。
「即ち、その世界が存続する価値があるのか、その世界の住人に問うことにしたの。
──我魔王なり、我と我が軍勢を打ち破りし時、破滅の運命は回避されるだろう、とね」
何ともあの傲慢で、残虐で、容赦のない女神らしいやり方だった。
「私はメアリース様と、我が母たるリェーサセッタ様の代行者として、そんな世界に遣わされる。
メアリース様にとって停滞した文明の損切を、魔王の一族を作り任せることにした。
その為に、私はお母さんに
ゾッとする話だった。
「そこで!! 魔王と言えば、やっぱり四天王じゃない?
そこにいるハウザーもそうだけど、折角だから悪役として人気が出るような配役を模索しようと思って、やっぱり一人くらいは吸血鬼とか居た方が良くないかな、って感じでさ!!」
「はあ」
「やっぱりこんなお城に住んでるんだから、悪魔城の主的な?
そんな肩書で売り出そうと思うんだけど、おぜう様はどう思う?」
「私めにはどうにも……」
ああ、やっぱり、こいつ萌ちゃんだわ。
あのクソ陰キャの地味眼鏡のオタク女が、どうして魔王なんかに。
「聞いたところによると、おぜう様はやられても復活できるんでしょ?
やっぱり悪魔城的な困難を与えて、クリアしたと思ったら二週目が必須な? そんな感じのプランを考えているんだけど。どうかしら? 私の四天王にならない?」
「申し訳ありませんが、お断りいたします」
「あー、やっぱりダメ? でもそこのハウザーみたいなカメ族みたいに、存亡の危機だって聞いたわよ」
魔王は、己の側に控える従者を見た。
「私の一言で、この世界の吸血鬼全員を召し上げることも出来るわ。ね、ハウザー?」
「……ええ、魔王様には我が一族に対し格別の配慮を賜って頂いております」
ハウザーと呼ばれたリザードマンの希少種は、意外と渋い声だった。
「メアリース様も、吸血鬼たちを滅ぼすなんてもったいない!!
人間はみんな吸血鬼が大好きなのよ!!」
「それは、かの御方が仰ったように、都合の良いやられ役としてですか?」
「とんでもないわ!! これこれ、これって吸血鬼が主人公のマンガなんだけど──」
それから、魔王によるマンガ談義が始まった。
お嬢様はうんうんと相槌を打っている。こういう面倒な相手の扱いは心得ているようだった。
「──そう言うわけだから、是非とも部下に一人は欲しいのよ、吸血鬼はッ」
「それでしたら、氏族の中から困窮している者をご紹介いたしますわ。お声を掛けるならそちらの者達にしては如何でしょう」
「じゃあ、伯爵で」
このオタク、ブレない。ちゃんと伯爵を選んでやがる。
「ええ、では紹介状をしたためてきますわ」
お嬢様はちょっと疲れた様子で、紹介状を書きに退出した。
「……久しぶりね、キューちゃん」
「本当に、萌ちゃんなのか?」
あんな地味眼鏡陰キャオタク女だったとは思えないビジュアルになってやがる。顔面偏差値がヤバい。
「懐かしいわね、中学校の卒業以来よね?」
「……いったい、どうしてそんな姿に」
「私の夢、覚えている? 散々語り合ったわよね」
「人気漫画家……」
「そうそう。私も私なりに頑張ったんだけどね、同人誌を書いて食つなぐのがやっとだったわ」
俺と彼女は、小中と地元の学校で度々クラスメイトになる仲だった。
俺の趣味と彼女の趣味は合い、小学生の頃はよく話したりした。
だが、中学校以降はお互いに男女と言うこともあり、校内で話すことは無くなった。
それに加え──。
「でもある時、短編だけど出版社に持ち込んだマンガが週刊誌に載ることになってね」
「ええ、スゴイじゃないか!!」
「それが笑えるのよ。アシスタントをしてくれてた子が、自分のネームで書いたことにしてさ、出版社もそれを知ってて無視して載せたの」
俺は、絶句した。彼女は同志に裏切られたのだ。
「私も気持ちはわかるのよね、お互いに苦労し続けてきたから。
でもそんな時、メアリース様が降臨した。
ねえ知ってる? 私達の故郷って、メアリース様の標本になったの!!
その時代の文明のサンプルとして保存するためにとか何とかで」
「メアリース様は理系だからな……」
「私は、人類にマンガを齎して下さったメアリース様にマンガを持って行って、批評して貰ったわ。
そしたら、これでは売れないって言われたの。あはは!!」
萌えちゃんは、手を叩いて笑った。
「もっと売れる物を書け、ですって。
私だってわかってたのよ。私の書きたいマンガではなく、既存の売れてる作品の画集とかの同人誌ばっか書いてたから」
「……」
「キューちゃんの好きなライトノベル業界も、酷いことになってたよね。
キューちゃんが新聞で事故死してなんか会社と社員が争ってるって、私もビックリしたわ」
「ああ、俺はそっちの道には行かなかった」
「それが正解だよ。好きな事と、好きなことで食べてくのはまた別だから」
彼女は、かつて人間だった頃の面影を思わせる笑みでそう言った。
「でも、メアリース様は私に新たな道を示してくれた」
「それが、魔王?」
「そう!! ねえキューちゃん、ファンタジーは実在したんだよ!!
私達があれほど語り合って、愛していた存在が!!」
「そうだね」
俺も今、嫌と言うほど思い知っている最中だ。
「私を産み直してくれる時、お母さんは言ったんだ。
私の怒りと憎しみは、私達が愛している物を証明してくれるって!!
だから私は、────魔王になったの!!」
魔王。神の化身、二柱の代行者。
破壊そのもの。
「私を殺しにくる勇者が、愛と勇気と剣と魔法の物語を紡いでくれるの!!
そうじゃない奴らは皆殺しにするの。
私をイジメてイジメてイジメて全てを踏みにじった連中みたいに、私が今度は人類を追い詰めて追い詰めて、私の大好きな物語にしてやるの!!
そいつらが駄作なら破り捨てる。
ねえ、キューちゃん!! 私と一緒に来ない?」
俺はいつの間にか俯いていた顔を上げる。
「一緒に、気に入らない全部を壊そうよ!!
私達の愛するモノを穢した連中を、駄作にして破り捨ててゴミ箱に放り込んでやろうよ!!」
邪悪だった。邪悪の化身が、そこにいた。
怒りと憎悪に塗れた、悪そのものだった。
「メアリース様は言ったよ。私が故郷の、あの下らない、私のマンガを理解しない連中をぐちゃぐちゃにしたいって言ったら、私にあげるって!!
本当に、本当に良かったと思わない? 私達の、私達を踏みにじった奴らは、その程度の価値しかないの!!
こんな嬉しいことは無いよね!! メアリース様が、人類の造物主が、その程度の価値しかないって、証明してくれたんだもの!!」
「ごめん、俺は萌ちゃんについてけない」
俺は彼女に、そう言う他なかった。
「その程度の価値しかない物の中に、俺達の愛したモノもあるんだよ、萌えちゃん」
「わかってないなぁ、キューちゃん。
メアリース様が存在する限り、いくらでも新しい神作が産み出されるんだよ?
だったら汚らわしいモノと一緒に捨てても良いじゃない」
「俺は、それは寂しいと思うよ」
彼女の気持ちは痛いほどわかる。
だけど……。
「昔大好きだった作品を、他の誰かと共有できないのは、寂しいよ」
「……そうかもね」
ヒートアップしていた彼女が、肩を落とした。
「そうか、キューちゃんは諦めたんだったね。
昔からそうだったよね。私がいくらイジメられても、何も言わなかったもんね」
「……ごめん、本当にごめん」
「ううん、赦さない」
彼女は言った。
「もしメアリース様がこの世界を滅ぼすことになったら、私が手ずからこの世界を滅ぼすね!!
駄作として、下らないゴミとして!! 0評価を付けて、ボロクソにこき下ろしてあげる!!」
「萌ちゃん……」
「キューちゃん、その時はキューちゃんが勇者に成るんだよ?
私の事、殺しに来ないとダメだよ? そしてちゃんと、証明しないと。私達の愛したファンタジーが、本当に存在することを!!」
§§§
俺は、幼馴染の変わり果てた姿に、何も言えなかった。
彼女の怒りと憎しみが、あんな怪物へと成長していただなんて。
いったいどれほどの苦しみを抱えていたのだろうか。
神がその素質を見出すほどに、悲しみを抱いて生きてたのだろうか。
彼女との再会が、俺がこうして筆を取る切っ掛けとなった。
もし彼女にこの世界が滅ぼされようとも、俺はこの世界に自分のいた証を遺したかったのだ。
それがまさか、外の世界にまで出版されてるとはね!!
想像の埒外だったよ!! 残っちゃったよ!! 俺とお嬢様と妹様との情事とかその他諸々の事実が!!
どうせあのオタク女のことだから、これを読んでるだろうことを前提にメッセージを綴る。
魔王アキバ様へ。俺は貴女の勇者には成れませんでした。
俺はこの世界でもがき苦しみ続けるので、どうかその様を見て少しでも留飲を下げてくださればと思います。
貴女の物語を彩る、最高の
またの再会が、この世界の滅亡の時ではないことを、俺は貴女の母君に祈っておきます。
さて、次はいよいよ新たな章に至ることになる。
会議を行う六公爵、或いは被害者の会。
出版社が三章を早く書けとせっつく理由が、登場する。
……吸血鬼達の始祖、あの“死神”がやってくるからだ。
一応魔王アキバは、彼女は以前書いた「オタク魔王は愛されたい」の主人公ですね。再登場の予定はありません。(なお未完……。
だってこれは吸血鬼たちの話ですから。でも主人公のバックボーンは掘り下げるだけの内容でした。
さて、いよいよ次回から本当に三章に入ります。
大まかな道筋は決まったのですが、六公爵の全員の設定が固まってないので、しばしお待ちを。
ではまた、次回!!
どのヒロインがお気に入りですか?
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