吸血鬼だけの世界で、人間ただ俺独り   作:やーなん

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お気に入り1300人突破、ありがとうございます!!
今回から新キャラが、どんどん出てきますよ!!



集結する六氏族

 

 

 

 公都デーエックス。

 恐らく、スカーレットガーデンで一番発展している街である。

 

 お嬢様及び配下の俺達はこの街に来ていた。

 クリル侯爵他、ニーヴァ侯爵、あとヤーシャ侯爵家からツェーラーの名前を襲名した新当主もいる。

 

 六公爵が集まって会議する、と言えば六家だけでするのかと言えばそうでもないからだ。

 だって貴族って、見栄を張る生き物だもの。

 

 そんなわけで、発言権は侯爵家にも与えられている。

 彼らの手勢を含めれば、百人くらいになる。これでも少ない方だ。

 

 月の氏族はお嬢様の方針で必要以上の華美は要らないとのことで、このような形になった。

 先代様だったら、この五倍は動員していただろう、とはメイド長の談である。

 

 さて、この数十人の使用人やら騎士達。

 騎士はともかく、使用人たちのトップは当然──俺である。

 

 だって、俺の立場は公爵家の家令だもの。

 それより家格の下の使用人は、それに従うのが道理なのだ。

 少なくとも、侯爵三家の方々の当主はそれを当然だと思っている。

 

 俺達使用人はそれに倣うほか無いのだ。

 そして、上下関係が絶対な下級吸血鬼たちは、それに疑問を抱くことも無い。

 ……俺、人間なんですけど。なんで吸血鬼の支配階級に組み込まれているんだろうか。

 

 俺達が乗った馬車が公都のメインストリートを通ると、道行く住人達は通り過ぎるまで立ち止まり、頭を下げる。

 気分は大名行列だ。勿論、庶民が横切ろうとしたら無礼討ちである。

 

 理不尽ではあるが、この列が止まったら秩序だって再行進するのにかなり時間を取られる。

 庶民にも事情があるように、貴族にも貴族の事情があるのだ。

 

 一応街並みについて描写しておくと、月の氏族の領内は街に降りても中世のド田舎って感じなのに、この街は石造りので区画整理もしっかりしている。

 工場の煙突から煙が出ているし、完全に近代の生活様式である。

 異世界に来た俺が言うのもなんだが、まるで別世界だ。

 

 さて、ラノベならここで庶民が横切るハプニングでも発生して、今時のタイプなら主人公がとりなしてヒロインの好感度でも上げるのだろうが、生憎吸血鬼達にとって上下関係は絶対である。重要な事なので二度言った。

 

 特にそんなハプニングも無く、俺達の乗る馬車はデーエックス城に入場を果たした。

 ここから一週間ぐらい、パーティーをしながら会議を行うのである。

 つまり政治の時間である。

 

 俺達が到着するより先に、既に到着している家が存在した。

 

 死の氏族の長、アズラ公爵である。

 現当主はローブを纏い、儀礼用の大鎌を携えた陰のあるイケメンである。

 そんなものをパーティー会場に持ってくるな、と言いたいが、流石に彼以外はそれを手にしていなかった。

 あれがデカくて邪魔なのは理解しているらしい。

 

「ごきげんよう、アズラ公」

「これはこれは。リーリス様」

 

 アズラ公爵はへりくだるように一礼をした。

 各公爵家は一応対等と言うことになっているが、月の氏族は初代リーリスが総大将を務めた経緯がある。

 それ故に、その子孫は敬われているのだ。

 

 それに、死の氏族はリーリス陣営が唯一、矛を交えなかった氏族である。

 

 キュリアさんは黒の氏族は後になって合流した、なんて穏当な表現をしていたが、どちらかと言うと初代リーリス達が屈服させたのだ。

 白の氏族が竜の氏族に合流した際に、孤立した黒の氏族は両陣営から標的になった。

 最終的に、白の氏族の居る方に付くよりはマシ!!ってな感じで、リーリス陣営に黒の氏族が加わったのである。

 

 そんな友誼もあり、お互いの氏族同士で婚約関係があったり、親戚同士と言うのも珍しくはない。

 いや、一人の始祖から六公爵は産まれたので、言ってしまえば吸血鬼は全員親戚同士なわけだけど。

 

「御早いお着きで、歓心いたしますわ」

「いやはや、此度の会議は、始祖様が直接ご足労頂くと聞いて、おちおち眠ることすらできませんでしたよ」

 

 お嬢様とこんな世間話が出来ている通り、両者の関係は良好である。

 と言うか、先々代ぐらいにアーリィヤ公爵家に当時のアズラ公爵の妹がお嫁に来ているので、二人はかなり近縁の親戚同士になるらしい。

 

「そちらこそ、君の葬式が取り行われたと耳に入って、心臓が止まるかと思ったよ……」

「その件に関しては、お騒がせをしました」

 

 お嬢様が優雅に頭を下げた。

 

「いやいや、顔を見れて安心したよ。

 先代が亡くなった際にも出向けなくて、こちらこそ申し訳なかった」

「……いえ。お構いなく」

 

 お嬢様は先代、ご両親の件を話題に出され、露骨に目を逸らした。

 

「あ、いや、失礼!! まだ最近の話を、無神経だったね……」

 

 アズラ公爵はあたふたとしながら、年下の親戚にそう言った。

 陰のある美青年って感じだったが、意外と愉快な人なのかもしれない。

 

 ちなみに、忙しい筈の俺がこんな話を聞いている余裕があるのは、理由がある。

 

「おい、木偶人形。酒を注ぎたまえ」

「カシコマリマシタ」

 

 メイド服を着た球体人形が、恭しく一礼して貴族に応対をしていた。

 それが数十体。

 

 これはマキナ公爵の異能によるものだ。

 

 ──“血統能力(ブラッドレコード)”、『人形操公(グランギニョル・マリオネッター)』。

 

 六公爵の中で最も支配に秀でた、人形遣いの異能だ。そして“人の氏族”の由来でもある。決して、人類に下ったからではない。

 この異能があの伝記で発揮されたのは、精々交渉で決裂した両陣営がその場で殺し合いを始めた時ぐらいなので、その異能の詳細や全貌を俺は知らない。

 

 ただ、同格の筈の公爵家の面々にさえ通用する異能なので、お嬢様の異能に勝るとも劣らない性能の筈である。

 

 

 あと、これは本当に余談だが、魔王アキバ様──どうせ読み飛ばして構わない、って書かれても読み飛ばす読者は居ないことを前提に言わせてもらうが──が幼い頃好きだったマンガに、人形遣いの真祖の吸血鬼が登場していたな、と今思い返した。

 

 が、後になってキレちらかして二度と読むかと憤っていた。

 何でも、修行パートを数ページで終わらせたのが赦せなかったらしい。

 

 彼女は設定厨だった。某型月の複雑な設定を読み込んで悦に入るタイプの。そして、主人公が強くなることに、理由が無ければ納得できないタイプだったのだ。

 だから俺はこう言って宥めた。修行パートは読者から反応が悪いのでなるべくあっさり終わらせたいものなんだよ、と。

 

 萌ちゃんはこう言った。そんなのは真の読者じゃない!! と。

 そんな真の仲間じゃない、みたいなこと言わなくたっていいじゃないか、と俺は思ったモノだ。

 

 そんな彼女の書くマンガが売れるわけがないのだ。メアリースも的確なアドバイスをしたものだ。その上で自分のマンガを理解しないと魔王になって周囲にキレ散らかしているのである。はい、余談終わり。

 

 さて、俺にとってはノンフィクションの、読者にとってはハイファンタジーを続けるとしよう。

 

 お嬢様とアズラ公爵が雑談をしていると。

 

「やあ、二人共!! 久しぶりだね!!」

 

 マキナ公爵がパーティー会場に現れたのである。

 パンツルックの貴公子と言った風情の、ブロンドをセミショートに切り揃えたボーイッシュな風貌の少女である。

 背丈はお嬢様よりちょっと低い。しかしそれが元気っ子って感じを際立たせているように思える。

 

「此度はお招きいただき、ありがとうございます。マキナ様」

 

 アズラ公爵は彼女にも頭を下げた。それでようやく彼女の背丈と丁度いいくらい彼は長身だ。長身で女性受けが良さそうな陰のあるイケメン、その上地位も。……全てを持ち合わせていやがる。

 

「久しぶりね、マキナ。最後に会ったのは八十年ほど前かしら」

「うん、あの時は白と黒のアホ貴族共が派手な喧嘩をしてくれてたから覚えてるよ!!」

「その前のパーティーもそうではなかったかしら?」

 

 日常茶飯事なのかよ……。やっぱりこの城、呪われてるのでは?

 

「その時はトカゲどもと君のところだったと記憶してるけど?」

「ふふふ、そうだったかしら。覚えていないわ」

 

 お嬢様は優雅にすっとぼけた。優雅なら何でも許されると思っておられるのだろうか。……思ってそうである。

 

「それより、例のゼラチンの化け物……メアリース様はゲダモノって呼んでたアレ、こっちの領地でも現れだしたよ」

「……そうですか、我々の領地でもです。事態は思った以上に切迫しているのかもしれません」

 

 マキナ公爵の言葉に、アズラ公爵も現状を告げる。

 月の氏族と領地が隣接しているアズラ公爵はともかく、公爵家で一番領地の少ないマキナ公爵の領地にも現れるとは由々しい事態である。

 

「私の方でも捕まえて研究を始めてみたけど……。

 まだわかったことは少ないけど、その分かったことだけでも気分が悪くなる」

 

 と、マキナ公爵は不愉快そうにそう言った。

 

「連中は単細胞生物に近いけど、他者を乗っ取り、寄生し知恵を付ける。

 一度寄生を経験した個体はその身体が無くなった後に、脳を構築し始めたんだ」

 

 マキナ公爵は、その地位にかかわらず研究者気質でもあった。

 彼女自身優れた人形技師であり、メカニック。機械技術だけでなく科学にも精通している。

 

 その異能からも、ゲダモノの研究に最適な人物でもあった。

 

「……それで、どうなったの?」

「研究者としてはその結末を見てみたかったけど、危険と判断して処分したよ」

 

 そして、吸血鬼らしくないことに、真っ当な倫理観を持っていた。

 その上で常識人で気配り上手とか。キュリアさんと交換してほしいぐらいである。*1

 それでいて趣味は花を愛でること。この乙女らしさがキュリアさんにもあればなぁ。*2

 

「叔父上は、死体に寄生して生前の模倣すると言っていたわね」

「……怖気が走りますね」

「とにかく、他の氏族の連中はともかく、私に拒否権は無い。連中の駆除に全力を注ぐしかない」

 

 アズラ公爵は顔色が悪くなっているし、マキナ公爵も顔を顰めてそう言った。

 

 マキナ公爵の領地が発展しているのは、全てメアリース様の恩寵によるものだ。

 彼女とその領民は、人類として人権を保有──即ち、かの御方の庇護下にある。

 

 メアリース様は言った。誰が人類で、そうではないかは自分が決める、と。

 つまりかの御方の気分次第で、虫けらのようにこの世界ごと焼き払われるのか、気が気ではないのだろう。

 

 メアリース様はマキナ公爵たちを一応人類として扱っているが、あの御方は非情な判断を間違えない。やるとなったら、やるだろう。

 そう、あのゲダモノが、この世界に溢れることになったらば。

 

「はあ、こんな話は会議の席で十分だよね、今はやめよう」

「それがよろしいでしょう。胃が痛くなるのは政治だけで十分です」

 

 アズラ公爵は、うんうん、と頷く。

 彼も苦労しているらしい。

 

「……ところで、リーリス。噂になっているよ、人間を雇っている、って」

「それが貴女に何の関係があるの?」

 

 お嬢様の声のトーンが下がった。ひぇ。

 

「それが、って……知っているだろう? 私が昔から人間の文化に憧れているって。

 そりゃあ、メアリース様は惜しみなく我らに恩寵を与えてくれるけど、所詮は使い古された御下がりに過ぎない」

 

 それは、俺も感じていることだった。

 

 俺へのファンレターには、電子書籍で読みましたと言うエルフ族からのお便りもあった。

 メアリース様は高度な電子機器を、吸血鬼達に与えていないのだ。

 それについては、もう少し後に記述することにする。

 

「勿論かの御方には感謝している。

 我が領地は飢えや病気とは無縁だし、幾らでも仕事を斡旋して頂ける。他のどの氏族の領地よりも豊かだと自負しているけど、それは私の実力や、代々の祖先の努力の成果じゃない」

 

 創造性の欠如、それは吸血鬼達にとって大きな足かせだった。

 そして大きな文明の発展を、吸血鬼達は必要としていなかった。

 

 マキナ公爵の領地は豊かでも、高度な教育を受けているのは極少数なのだ。

 そして……。

 

「ご先祖様は、メアリース様から学校を作り、教育制度を整えろと言われたそうだ。

 でも、ご先祖様はそれを拒否した。統治に、民衆に知恵は不必要だと……。

 思えば、今の状態はその時に決まったんだろうね」

 

 これは俺達人間にも言えることだ。

 俺はスマホを使用できるが、それがどうやって作られるか、どんな仕組みで動くのか、全く知らない。

 

 マキナ公爵の言う、“御下がり”とはそう言うことだ。

 メアリース様は吸血鬼達に、全く期待をしていないのだ。

 

 メアリース様は言った。自分は人類に精神的成長を望んでいる、と。

 それは、吸血鬼達には無縁なモノだった。少なくとも、種族単位では。

 

「実際に人間の目と耳を通して、聞いてみたいんだ。

 私が守るこの都市が、領地が、どのように映っているのかを……」

「………………まあ、いいでしょう」

 

 長い沈黙の後、お嬢様は了承した。

 彼女は側に侍る俺を流し見た。わかってるな、と言う意味である。俺にどうしろと……。

 

 お嬢様は俺を吸血鬼ホイホイか何かだと思っているのだ。

 俺がスーロ達に好きで好かれていると思っているのだろうか。言われなくても、俺はお嬢様の所有物なのに。

 

 

 そんなわけで、俺はマキナ様を伴って街へ出た。俺としては取材の一環でもあったので、気分はローマの休日と言ったところか。

 

 実際、マキナ様からは上記した通りのお話を聞けた。

 ボーイッシュな見た目に反して、マキナ様は乙女チックで、ロマンチストで、……オタクだった。

 

「あの吸血鬼が主人公のマンガは衝撃的だった!!

 本当に伯爵階級なのだろうか、いったいどれほどの異能を備えているのか、ワクワクした!!

 ついつい大枚叩いて、メアリース様から銃の製造に関する使用料を払ってしまったよ!!」

 

 マキナ様は人間だったら反動で腕が折れそうな大口径の自動拳銃を見せびらかしてくれた。ちなみに自作だと言う。

 

「パーフェクトですね、マキナ様!!」

「ふふふ、感謝の極みだね!!」

 

 ……すみません、お嬢様。すぐに打ち解けちゃいました。一敗。

 

「でも私は、主人公の吸血鬼より、敵の人間の方がずっと魅力的に感じたよ」

「わかります。わかります。あの演説を完全詠唱できるのがオタクの必須教養です」

「やはり、人間でもそうなってしまうのか!!」

 

 伊達に世界一カッコいいデブとか言われてないもんなぁ、と共感しかない俺だった。

 

「……正直、衝撃的だった。

 数多くの書籍を読んでも、我々ヴァンパイアは人間にとって単純な分かりやすい敵でしかなかった。

 人間は我々をそのように求めているのだと」

 

 実際、その通りなのだろう。

 メアリース様の言う通り、都合の良いヴィランとしか見ていないのだ。

 

「人間はなぜ、自らの種族を悪として描けるのかな。

 あんなに残虐で、おぞましく、同時に気高く、狂気的に」

「……寿命が短いからだと存じます」

 

 俺はそう答えた。

 マキナ様が俺を見る。

 

「自分たちが死んだ後など、どうでも良いのです。

 しかし、その代わり自分たちが生きた証を、鮮烈に遺していきたい。

 勿論、後世や子孫の為により良い世界を遺そうとする者達も居ますが……大抵はファッションか、カネの為です」

 

 少なくとも、俺は“本物”を知らない。

 

「君も、そうなのかい?」

「……ええ、惨めな種族だと笑ってください」

「笑うものか。我々は長く生きれるが、ご先祖たちがどれほどの物を遺してくれたか……」

 

 マキナ様は寂しそうに笑った。

 

「あの家は、ある伝統工芸品を作っている。

 3000年ほどずっと、だ」

 

 マキナ様は街の一角を指差し、そう言った。

 

「それは、素晴らしいことですね」

 

 俺は素直にそう感想を述べた。

 いいや、とマキナ様は首を横に振った。

 

「あの家が作っているのは、かつて人間が伝承していて、今は途絶えたと言う代物だよ」

「それって……」

「ああ、メアリース様は我々の種族を、そうして文化の保存に活用している。

 昔ながらのやり方を、何一つ変えない、進歩の無い私達を、そうやって、ね……」

 

 俺はすぐにこう言った。

 

「それは、決して悪いことではないかと」

 

 俺の故郷でも、後継者不足の伝統芸能なんて幾らでもある。

 世界規模で見れば、もっと多い筈だ。

 

「ああ、悪いことではない。それ自体は尊敬できる仕事であるし、素晴らしいことだとは思う。

 だけど、あの漫画の主人公が、あの伯爵が感じたことはこれと同じなのだろう。

 ……我々ヴァンパイアは、人間に置いて行かれるのだと」

 

 たった百年だ。

 地べたを這いずり回っていた人類が、ロケットで月まで行ったのは。

 そのロケットに搭載されたコンピューター程度のゲーム機の性能が、天井知らずで向上し続けている。

 

 それに対し、吸血鬼達の異能の全てを駆使しても、そんなことは出来ないだろう。

 

 人間はいずれ、吸血鬼を中世に存在した架空の怪物として、忘れ去らるのだろう。

 それはきっと、寂しいことなのだろう。

 

「私はこの地位を利用し、人間の世界への留学を希望したことがある。

 だけど、メアリース様はそれだけは、それだけはならぬ、と突っ撥ねた!!

 私がどれほどあの御方をお慕い、齎して下さる物に恋焦がれていると語り尽くしてもだ!!」

 

 この世界は、牢獄だ。

 それは五千年経とうとも、一ミリも変わっていない。

 吸血鬼と戦った人々も、その被害を被った者達も、それをした吸血鬼達の誰ひとりとしても生きていなくとも。

 

 あの、親の罪が子に及ぶのは野蛮だと言った、あのメアリース様でさえも、それを変えるつもりは無いのだ。

 人権を与えられている筈の、彼女達にさえ。

 

「こんな狭くて、昏い世界で、死にたくはないよ……。

 人間達に置き去りにされて、忘れられて……」

 

 きっとあのツェーラー侯爵も、同じだったのだ。

 たとえ太陽の光を浴びて死ぬのだとしても、こんな永劫の牢獄から出たかったのだ。

 

「……君も、私達を忘れて、置いて逝くのかい?」

 

 俺は、彼女に何も言えなかった。

 

 だが、俺はあの時、メアリース様に言われた言葉を思い出していた。

 救世主として振舞うのか、魔王として破壊の限りを尽くすのか。

 

 もし、もし、俺に出来ることが、俺だけが出来ることがあるとすれば……。

 

 

「貴様ッ、何をしているのかわかっているのか!!」

 

 俺とマキナ様は、そんな怒声に釣られ、そちらの方を向いた。

 新しい馬車の列が、王城へと向かっている。

 

 その真ん前を、一人の老人が横切ろうとしていたのだ。

 ただ、彼は杖を突き、身体が不自由なのか歩き方のバランスが悪い。しかも、目が見えていない様子だった。

 

「あーん、誰に向かって口利いてんだ、てめぇ」

 

 その上で老人は、すごく口が悪かった。

 如何にも偏屈な老人と言った感じで、怒声を浴びせる先頭の御者にそう言ったのだ。

 

「ぶ、無礼者!! ここにおわす、竜の氏族の総領主、ドレイクラン公爵家の御前と知ってのことか!!」

「うわぁ、一番面倒くさい奴だ……」

 

 マキナ様はうんざり気味にそう言った。

 

 ドレイクラン公爵家。

 あの伝記の、ラスボスが当主を務める激ヤバ吸血鬼である。

 

 その気質は激しく、傲慢で、一度怒ると手が付けられない。

 しかしそれが許されるほどの、本物の強者だった。

 

「知るかよボケ!! 目が見えねぇんだ、てめぇこそ目が付いてんのか!!」

「こ、このッ、手打ちにしてくれる!!」

 

 御者がそんなお決まりの台詞を述べた、その時だった。

 その御者に、如何にも高貴なお嬢様……うちのお嬢様とは別ベクトルの美しい姫君が馬車から降りて、こう言った。

 

「構いません。御通ししなさい」

「で、ですが、ノルム様ッ、この者は余りにも──」

 

 御者の頭が、巨大な竜の腕に掴まれた。

 その姫君の腕が、あまりにも不釣り合いな爬虫類の鱗に覆われた真っ赤な腕に変化していた。

 

「当家の使用人に、二言目は必要ありません。その意味が理解できていまして?」

「は、はいッ。お、御赦しを!!」

 

 間違いない、と俺は思った。

 初代リーリスも殺しきれなかった、当時最強の吸血鬼。その末裔。

 

 巨竜に変身して大暴れする、そんな単純明快かつどうしようもない最強最悪の異能の保有者。

 

 ──“血統能力(ブラッドレコード)”、『竜公王(ドラゴニック・ドミネーター)』。

 

 その異能と同じ異名で呼ばれる、その初代の名を受け継いだ女性。

 あれが、そうなのか、と。

 

「ほら、お爺さん。手を貸しますんで、早く行きましょう」

 

 俺があのラスボスの末裔の登場に衝撃を受けていると、いつの間にかマキナ様がお爺さんの歩行に手を貸していた。

 

「んだてめぇ、俺を年寄り扱いしやがんのか!!」

「うう、この爺さんも面倒臭い……」

「あんだと、ぶっ殺すぞてめぇ!!」

 

 何とも狂暴な爺さんだった。

 マキナ様も手を付けられない有様で、手助けしようと思った俺もどうしようもなかった。

 

 結局、とろとろと歩くお爺さんが横切るのを、誰もが待つハメになった。

 

 それを見届けてから、竜公女は馬車に戻って行った。

 俺とマキナ様はホッとした。

 

「私達も戻ろう。ノルムの相手をしないとならないからね」

「はッ」

 

 まさかラノベでも恒例のハプニングイベントが、俺達ではなくこっちで起こるとは思ってもいなかった。

 

「六氏族全員の当主が揃ったら、ポータルに出向いて始祖様をお出迎えしなければならないし……まったく、胃が痛いことが山積みだ」

 

 と、ぼやくマキナ様を俺は不憫に思うのだった。

 

 

 

*1
「は?」by添削と推敲担当のキュリア氏

*2
「私だって乙女なんだが? 花の植生ぐらい言えるんだが?」by添削と推敲担当のキュリア氏




「自分の作品に作者の思想が反映されるってどうかと思わない、キューちゃん? そう言えばキューちゃんが嫌いなラノベ作家って、SNSとかで自己主張がやたらと大きいよね(煽り」by魔王萌ちゃん

最近は高評価の喜びよりも、低評価への恐怖が勝るようになってきています、
元々万人受けするつもりで書いているわけではないとは言え、創作とは産みの苦しみとはよく言った物です。

それでは、また次回!!

追記
一部表現を削除しました。創作はやっぱり、楽しむべきものですので。
深夜テンションで書いてたのです、すみません。

どのヒロインがお気に入りですか?

  • 皆のワンコメイド、スーロ
  • 属性過多の騎士、サキュート卿
  • ダウナー系美女、キュリア
  • 正道こそ王道、リーリスお嬢様
  • いざ我らの妹様、トゥーリ
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