吸血鬼だけの世界で、人間ただ俺独り   作:やーなん

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始祖なる者

 

 

 

 突然だが、俺には尊敬している作家が一人居る。

 文章力や飽きない会話劇、キャラ同士の掛け合いや舞台設定等など、どれをとっても最高としか言いようのない。

 

 しかし、そんな作者さんのシリーズの一つに、絶対にアニメ化とかできないなんて言われている尖った内容の物がある。

 そこに、シリーズ通して“最強”と銘打たれたキャラクターが存在するのだ。

 

 俺が非常に斬新だと思ったのは、その最強キャラの戦闘シーンがそのシリーズで一切存在しないことだった。

 元々バトル物ではなかったのだが、それでも俺は衝撃だった。

 

 最強と言う設定を与えられた存在。それは逆に言えば扱いにくさに繋がる。

 だがその作家はキャラクター性だけで、最強キャラを描き切ったのである。

 

 この作家は後にも別のシリーズで最強の剣士を登場させておいて、主人公との戦闘シーンを一切描かずに退場させたりしている。こっちは当然バトル物だった。

 

 

 さて、ここまで前振りしておいてなんだが、俺はかの御方を描写しきることを諦めたことをここであらかじめ伝えておきたい。

 

 あの御方を俺如きが理解するのは、不可能だったからだ。

 ただ目の前の出来事を描写するだけの俺ですら、かの御方の存在に振り回され、圧倒され、その輝きに目を焼かれそうになった。

 

 最強。ヒトはたったそれだけの単純な言葉に、どうしようもなく憧れてしまうのだから。

 

 

 

 §§§

 

 

 六氏族の全員が集結したのは、その翌日だった。

 

 正直、今回は白と黒の長たちの会話は省略させてもらう。

 読者は彼ら二人の意味のない罵倒と嫌味の応酬を聞きたい訳ではないのだろうから。

 この両者については後程、別の章で詳しく話すとしよう。なにせ、今回の件で彼女達の意思決定は大して問題ではなかったのだから。

 それに偉い人の名前をいっぱい並べられても、覚えられないだろうし。俺がそうだからだ。

 

「では、そろそろ時間だ。

 我ら公爵家一同で、始祖様をお出迎えしようじゃないか!!」

 

 腕時計を見て、公爵家の面々に呼びかけを行うマキナ様。

 その大多数が面倒そうにしながらも、ポータルに移動を開始した。

 

 公都は唯一、都市部にポータルの設置を許された場所である。

 月の氏族のところにある、交易用のポータルは郊外の離れた場所に設置されている。

 

 ポータルと言っても、ストーンヘンジじみた長方形の岩で出来た巨大な門のようなものだった。

 そんなシンプルなデザインだが、非常に高度な魔法装置なのだ。

 

 これを通るだけで、簡単に別世界へと移動できる。

 できる、が……この先にある検問は、常軌を逸した戦力が常駐されている。

 一人たりとも吸血鬼を外に出すわけにはいかない、そんな鋼鉄の意思を感じるほどである。

 まあ、それについては後程嫌でも描写するだろう。今は始祖の出迎えだ。

 

 

「さて、約束の時間だとそろそろだ」

 

 マキナ様が腕時計を確認し、そう呟いた。

 貴族一同、門の前に列を成してお出迎えの準備は完了している。

 

 始祖を崇めるアズラ公爵なんて、緊張を隠し切れずそわそわしている。

 それ以外の貴族も、今更始祖様が来て何になるんだ、みたいな様子だったのに、緊張で強張っている。

 

 始祖。六公爵を産み出した、最強の吸血鬼。

 それが今、この世界に訪れようとしていた。

 

 お嬢様の側で日傘を差している俺も、緊張を隠せなかった。

 六公爵の一人たるお嬢様も同様で、緊張を紛らわすように俺の指先をそっと握り締めていた。

 なお、俺を挟んで反対側のクリル様も俺の燕尾服の裾を掴んでいる。ベッド以外では可愛らしいガキである。

 

 そして、その時が来た。

 

「時間だ。皆の衆、歓迎を」

 

 マキナ様が音頭を取る。

 吸血鬼達は今か今かと、ポータルが起動するのを待った。

 

 ……そのまま、十分くらい。

 

「あれ……おかしいなッ」

 

 数多の視線が向けられ、マキナ様が焦りだす。

 おいおい大丈夫か、と俺は不安に思っていると。

 

 ふと、ポータルの前に異変が起こった。

 周囲の貴族たちが騒めきだした。

 

 それもそうだろう。

 

 まるで月光が人型を形作るかのように、輪郭が構築される。

 

『我が子孫たちよ、聞こえるかしら?』

 

 女の声。

 

「ま、まさか、月天様!?」

 

 マキナ様が素っ頓狂な声を挙げる。

 周囲の吸血鬼達は、膝を突いて頭を下げた。

 俺もそれに倣う。

 

 月天様、月の女神。

 吸血鬼達にとって、創造主に等しい存在だ。

 

『非常に申し訳ないんだけど、彼、もうそっちでスカーレットガーデンを満喫してるの』

「え、ええ? もう既に、始祖様はこちらにいらっしゃるのですか?」

『ええ、そう言っているのよ』

 

 もうこっちの世界に来ている。

 とんだ肩透かしだった。

 

『観光が終わったらそっちに行くってさ。

 だから待ってなくて良いわよ。それじゃあ、バイバーイ♪』

 

 人型を形成する輪郭が消える。

 いや、軽ぅ。

 

「皆の衆、そう言うことらしい……」

 

 マキナ様はげんなりした様子でそう言った。

 そう言うことはもっと早く言ってほしい、そう顔に書いてあった。

 アズラ公爵とその氏族の貴族達なんて、始祖に会えるのをすごく楽しみにしていたので、めっちゃガッカリしてるじゃないか。

 

 それで、俺は思った。

 俺の故郷では神の干渉なんて皆無だったが、神様に振り回されるのもこれはこれで嫌だな、と。

 

 

 

 

 さて、空振りに終わったお出迎え会だったが、六公爵の面々は手持ち無沙汰になったので会議を始めることにしたのだ。

 そもそもそう言う予定だったし。

 

 デーエックス城の会議室の円卓で、貴族達が卓を囲み会議を始めた。

 議長は当然、マキナ様である。主催者とは言え、彼女の過労死が危ぶまれる。

 

「では、ゲダモノについて分かっていることを共有したいと思う」

 

 マキナ様は資料をメイド人形に預けて、全員に配った。

 俺? 俺は壁の方で待機だ。よくアニメの貴族の会議のシーンで、背景に移っているモブ執事とか居るだろう? 今の俺がそれである。

 

 資料が行きわたり、マキナ様が解説を始める。

 読者の皆様におかれましては、すでにご存じの筈なので割愛する。

 

 ちなみに、発言権こそないがキュリアさんや、お嬢様の付き添いで妹様も会議に参加している。

 

「それでは、次に具体的な対策について話し合おうと思う」

「話し合うも何も」

 

 マキナ様の言葉を遮るようにそう言ったのは、真っ赤な燃えるような肌の、立派なツノを備えた巨躯の大男だった。

 言うまでも無い、“竜の氏族”の高位貴族だった。

 

「これは月の氏族の不始末だろう。

 お前達の仲間がしでかした、な」

「サーペン侯爵……」

 

 マキナ様が咎めるように彼を見やる。

 

「我はおかしなことを言っているか?

 自分達の不始末は自分たちで拭う、それが道理だろう」

「それはそうでしょう。しかし、事の重大性はそんな程度では済まない」

 

 マキナ様は彼に一定の理解を示しつつも、そのように言った。

 

「ゲダモノの隠密性は事前に説明した通り。

 奴らはどんな隙間からでも侵入し、対象に寄生する。

 眠っていれば抵抗もできないし、生前を擬態したまま別の領地に版図を広げることも予想が出来る。そして、それを防ぐ手立ては今のところ見つかっていない」

「ならば、そやつらを呼んで対処させれば良いだろう」

 

 サーペン侯爵は顎をしゃくって、お嬢様たちを示した。

 

「あのぅ、私はこの問題は、スカーレットガーデンの全氏族の問題だと認識しています」

 

 おずおず、とアズラ公爵が手を挙げ発言した。

 

「別に戦力を出せとか、そちらに負担を強いるとか、そんな話はまだしていませんよ。いきなりそんな態度で出られると言うことは、ドレイクラン公爵家も同じ意見と言うことでよろしいのですか?」

 

 侯爵君さぁ、それって公爵様のお言葉なのか、あーん? 要約するとそんな感じだ。

 言うべきことはちゃんと言える、出来るイケメンだった。

 

 サーペン侯爵は、多少たじろいで隣の姫君を見やる。

 

 鮮やかな真っ赤な髪の毛は、ラノベだったら炎属性を使うだろうことを分かりやすく示しているし、実際そんな感じだろう。

 竜の血が入っていない純血の吸血鬼の筈なのに、その恵体を包む深紅のドレスは露出度が高い。

 

 うちのお嬢様とは正反対な容姿なのに、その態度はうちのお嬢様そっくり。静かに紅茶を嗜んでおられる。

 

 彼女は、何も言わない。それは、肯定と同義だった。

 

「公主様の御心は、我と同じである」

 

 と、サーペン侯爵は自信満々にそう言った。

 

「うーん、アーリィヤ公爵家はどう思うかな?」

 

 マキナ様は頭が痛そうにしながら、こちらの陣営を見やる。

 

「……まず、我が父の撒いた種がここまでの災禍となってしまったことを、お詫び申し上げる」

 

 新ツェーラー侯爵が立ち上がり、周囲の貴族たちに頭を下げる。

 彼も先代によく似た、紳士的な青年である。ちゃんと謝れるよく出来た男だ。

 

「しかし、だからこそ危急の事態だと訴えなければならない。

 先ほどの資料は、祖父の研究結果も含まれている。

 これは、スカーレットガーデン全土の問題なのだ!!」

「だから、そちらで対処すればよかろう」

 

 新当主の訴えを、サーペン侯爵は退けた。

 

「我々は寛大にも、そちらの手勢で我々の領地を守らせてやる、と言っているのだ」

 

 彼はスゴイことを言っているように見えて、実際スゴイことを言っている。

 普通、自分達の領内に他国の軍隊が侵入するのは、どんな領主でも嫌がることだ。

 

 彼はそれを気にしていない。いつその刃が自分達に向けられても、跳ね返せる自信があるのだ。

 傲慢でもあるが、剛毅でもある。流石は最強の氏族の、高位貴族と言うべきか。

 

「それで解決であろう。違うか?」

「それは……」

 

 身内の不祥事を語った手前、新ツェーラー侯爵は強く出れないでいた。

 

「ほう、ではそうさせてもらおうではないか」

 

 そう言ったのは、ニーヴァ侯爵だった。

 

「氏族領内のゲダモノの対処は、我が家が全権を任されている」

「なにッ、ニーヴァ……貴様が!?」

「そちらに問題が起こった際は、喜んで貴公の領地に馳せ参じさせてもらおう」

 

 ニーヴァ侯爵の名前は、スカーレットガーデンに知れ渡っている。

 格上殺し、それは敵こそが最も恐れている異名だ。

 

「ま、待て。それは良くない。公主様、いかがしますか?」

「…………」

 

 竜公女は、何も言わない。

 これにはニーヴァ侯爵も判断に迷いが生じた。

 

「あのー、せめて迅速な連絡網の構築だけは最低限、お互いに了承してくれないかなぁーって」

 

 マキナ様は、居心地が悪そうにそう間に入った。

 

「う、うむ、それは当然のことだ」

「ええ、リーリス様もお互いの氏族を思っていらっしゃる。

 

 と、サーペン侯爵とニーヴァ侯爵はそう頷き合った。

 

「……」

「……」

 

 こちらと、あちらのお嬢様は何も言わない。

 会議をそっちのけでじくじく嫌味を言い合ってる白と黒の貴族たちも、これにはどうしたものかって表情になった。

 

 そうしていると、人形ではない使用人がマキナの元にやって来て、耳元に何かを囁いた。

 

「えッ、始祖様がご到着あそばれたって!?」

 

 救い主の到来に、マキナ様は満面の笑みを浮かべた。

 

「すぐにお呼びだてしなさい!!」

 

 使用人に対しても高圧的ではないマキナ公爵の所作から、人柄がにじみ出ていた。

 

 そして、程なくして、会議室のドアが開け放たれた。

 

「始祖様の、御来場──!!」

 

 全氏族の貴族たちは、椅子から立ち上がってそれを待った。

 そして、来た。

 

 

「んだ、てめぇら、俺をのけ者にしてもうおっぱじめてんのかぁ?」

 

 そこに居たのは、昨日馬車を横切ろうとしていた、あの狂暴な老人だった。

 

「つーか、よう。おめえらも俺を大人しく待ってるとかできねぇのかよぅ」

 

 よたよた、と杖を突きながらバランスを崩しながら、老人は歩く。

 皆、唖然としていた。

 

「し、始祖様、なのですか?」

「そう言ってんだろぉが!!」

 

 しわがれた声で、唾を飛ばしながらマキナを老人は怒鳴りつけた。

 

「あん? おめぇ、マキナか!? たぶん俺の息子そっくりだぁ、会いたかったぜぇ」

「は、はい……」

 

 みすぼらしい老人は、皺だらけの顔で笑みを浮かべてマキナに抱き着いた。

 マキナ様は困惑している。

 

 え、本当にこの人が、最強の吸血鬼なの、といった具合だ。

 それは他の貴族たちも同じだった。会うのを楽しみにしていたアズラ公爵達さえもだ。

 

「んじゃ、おめえら、始めろよ」

 

 老人はドカッと円卓の椅子に座り、そう言った。

 

 

 各々釈然としないまま、会議は再び踊る。

 

 若々しく美しく、美麗な顔が並ぶ中で、老人は会議を見守り──。

 

「ぐがぁー」

 

 ね、寝ている!?

 それはもう、いびきをかいて寝ているのだ。

 

「あ、あのー、始祖様?」

 

 マキナ様が恐る恐る、老人に話しかける。

 もうその辺の浮浪者が紛れ込んだんじゃないか、と俺は思い始めていた。

 

「んがッ、なんだぁ、マキナ」

「あの、出来ればご意見を聞かせていただきたいのですが……」

 

 貴族達は議論を止め、老人に視線を向ける。

 彼は、こう言った。

 

「おめぇらに任せる」

 

 と……。

 そして、うつらうつらと夢の世界へと舟をこぎ始めた。

 

「もう我慢ならん!!」

 

 サーペン侯爵が立ち上がってそう言った。

 

「そんなみすぼらしい老人が、我々の始祖だと!? 冗談も大概にしろ!!」

「叔父上」

 

 怒声を浴びせる彼に、初めてノルム公爵が口を開いた。

 

「いささか、口が過ぎるかと」

「しかし公主様!! 永遠に生きる筈の我らの始祖が、こんなに老いさらばえて無様な姿を晒しているなどと、信じられますかな!!」

「叔父上」

 

 もう一度、竜公女は叔父を咎めた。

 しかし、彼の言葉はここに集った貴族たちの総意でもあるようだった。

 

「それとも、このように老いに負けて、初代様たちのおられる戦場から逃げ出したのでしょうか!!

 なるほど、初代様たちの苦労もようやく理解できましたな!!」

「叔父上、聞くに堪えません」

「しかし公主様ッ、これのせいで我々が惨めにもこんな世界に──」

 

 

「おい」

 

 

 空気が、凍った。

 

 俺は、呼吸が出来なかった。

 

 

「誰が、逃げたって?」

 

 何をも映さない、老人の胡乱な瞳が強壮な吸血鬼の偉丈夫を捕らえた。

 

「じゃあ、てめぇは逃げねえんだな?」

 

 ボケた老人と言うのは、時たまボケる前の自分を取り戻す場合がある。

 まるで、スイッチが入ったかのように。以前の自分に戻り、そしてまた元通りになる。

 

 

「おい、お前ら。丁度雁首揃ってんだ。

 今からメアリースんとこ、カチコミかけんぞ!!」

 

 杖を捨て、まっすぐ立ち上がっただけなのに、巨大な何かと相対しているかのようだった。

 

 

「誰も文句、ねえよな? 俺が始祖、お前らの親玉なんだからよ」

 

 誰も、逆らえない。上位階級の、絶対的な命令。

 

 死神だ。

 生きた、死だ。

 

「はい、始祖様!!」

 

 アズラ公爵が大喜びで、儀礼用の大鎌を老人に差し出した。

 彼は、それを当たり前のように受け取って、ぶぅんと振り回した。

 

 たったそれだけで、テーブルの上に存在したありとあらゆる物体が吹き飛んだ。

 

「続きだッ、あの時の続きをすんぞ!!

 ぎゃははははッ、もう五千年も昔かッ、そんなに経ってたのか!!

 久々の喧嘩、抗争ッ、血が滾るじゃねえか!!」

 

 この老人、チンピラだった。

 この爺さん、レベル100のチンピラだった。

 

「いくぞ、てめぇら!! お前ら吸血鬼がハンパなく最強って、メアリースの奴に思い出させてやんだ!!」

 

 ああ、これが、お嬢様たちの始祖なのか。

 ……俺は、そう思ったのだった。

 

 こうして、第二次人類VS吸血鬼の全面戦争が決定してしまったのだった……。

 

 

 

 

 

 




主人公が冒頭で挙げたシリーズの作品がわかった人は、かなりコアですww

今後の今作の方針に関する新しいアンケートを設置致しますので、ご協力のほどをお願いします。
前回のアンケートは締め切ったので、この話以前で結果を確認できます。

次回!! 大戦争の始まりです!!
ではまた、次回!!

この作品に一番求めている物を教えてください。

  • 世界観や設定など
  • キャラクター同士の掛け合い
  • 主人公の恋愛模様
  • バトルや異能の描写
  • 主人公の毒舌(笑)
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