そろそろ俺が編集どもに執筆を急かされた理由を理解してくれたと思う。
全ては始祖様、いや俺が始祖様って呼ぶのは何だか違う気がするが、あの御方の功績の偉大さは後の無数のやらかしを含めても余りある。
月の女神に選ばれた英雄の神、武神。
他にも数多の生物が神々の英雄として選ばれ、災害の神々と戦った。
リェーサセッタ様が感謝しているレベルなので、きっと大活躍したのだろう。
つまり、始祖様は人類にとっても大英雄なのだ。
きっと英霊召喚でも出て来てくれるだろう。クラスはバーサーカー確定だ。
その理由は後程語るとしよう。
神性を捨てて人間に戻ってからも、逸話に枚挙に暇がない。
推察される転生回数一万回以上、その数多の人生で、数多の世界で、数多の種族に成って、無数の武勇伝を遺してきた。
始祖様にとって、吸血鬼達の伝説はそのひとつに過ぎないのだ。
だからあんな人物なのに、いろんな世界で人気があるのだ。
俺は今、彼の最新の英雄譚を執筆させられている訳である。しかも学術的価値まであると来た。
萌ちゃんが書きたいマンガを書けなかった、って言葉の意味をしみじみと実感している。俺は重厚なファンタジーを書きたいのに、読者はラブコメを求めている、みたいな?
シャーロックホームズを産み出したあのコナン・ドイルもきっと、同じ気持ちだったのだろう。世の中はままならないものである。
§§§
いよいよ、戦争が始まる。
「おい人間、お前気に入ったぜ。どうせ手すきだろ、お前は俺の世話しろ」
「は、はい……」
なぜか、俺は始祖様に気に入られてしまった。
俺に拒否権は無い。
各氏族の長たちが、部隊を編成している。
そんな中、お嬢様の補佐をしているキュリアさんがつかつかと歩いてきた。
「キュリアさん──」
どうしたんですか、と言おうとしたのだが、俺は突然に彼女に頬を張られた。
「君は、何様だ。始祖様に意見するなどと」
「……すみません」
キュリアさんの言うことは尤もだ。
俺の故郷で言うならば、神武天皇のような偉大でバリバリの武闘派な高祖が目の前に現れて、俺はそんな相手に、あの時の政策って間違いっすよねww、と当時の事情も知らずに言い放ったに等しい。
今、首が繋がってるのも奇跡なのだ。
マキナ様が庇ってくれなければ、他の貴族に殺されていたかもしれない。
「血の気が引いた。心臓が止まるかと思ったぞ」
「すみません……」
俺は、ただ謝るしか出来なかった。
彼女にビンタされた頬がじくじくと痛む。
「まあ、そのぐらいにしとけ。威勢のいい奴は嫌いじゃねえ」
「はッ。始祖様」
「お前キュリアだよな? ちゃんとリーリスの奴を押し倒したのか?」
「は、はは、どうでしょう……」
キュリアさんは始祖様の言葉に、苦笑いした。
初代キュリアは男性で、あの伝記には言葉にしなくても初代リーリスへの好意がにじみ出ていた。
「……人間君。恐らく、始祖様の御側が一番安全だろう。
その意味を、分かっているね?」
「ええ……」
そう、俺はあろうことか、この御方に気を使われたのだ。
使用人の分際で始祖様に意見したな無礼者グサッ、って処されても誰も文句は言えないのだから。それだけのことを仕出かしてしまった。
「では、生きていたらまた会おう」
「はい。お嬢様共々、ご武運を」
キュリアさんはそう言ってお嬢様の元へと向かって行った。
俺は彼女が生きてこの地を再び踏めることを願うばかりだった。
こんな、こんな狭くて暗い世界でも。彼女の故郷なのだから。
「一先ず、私が全部隊の指揮を執ることになりました」
「おう、任せた」
始祖様は基本的に細かいことを、任せた、としか言わない。
そうなると、一番角が立たない副将は政治的に中立なマキナ様になる。
そして、我らの総大将は相変わらず、任せた、しか言わない。最初の号令以外は。
ちなみに今後判明する彼の性格から鑑みるに、自分でやるのが面倒だから丸投げしている可能性が大である。
「各氏族の騎士階級を集めた、連合騎士団の編成が完了次第、ポータルに突入する予定です」
俺は想う。その中にスーロやサキュート卿が居るのだろうか、と。
それともお嬢様の側仕えとして、護衛として侍っているのだろうか、と。
「そうか。良い空気だ。戦の前の、心地よい空気だ」
始祖様の窪んだ両目は、ぎらぎらと戦意に満ちていた。
俺は、始祖様の大鎌を旗のように支えながら持って、いつでも彼が戦えるように控えていた。
あとは報告を待つだけの手持ち無沙汰になったマキナ様が俺にこう言った。
「先ほどは、どうしてあんなことをしたんだ」
「申し訳ありません。……俺の民族についての、エゴでした」
俺は掻い摘んで、俺の故郷で強制労働などの歴史について説明することになった。
「そうか……なら、私から責めることは出来ないね……」
マキナ様は複雑そうに、目を伏せた。
俺の故郷で、向こう側の主張がどうか、真実がどうかなどは俺などが知る由もない。
だが、吸血鬼達の歴史には、血筋としてかつての暴虐の証明が残っているのだ。
始祖様もそれを覚えているし、非を認めている。彼らの歴史に闇を落とす、そんな事実を。
「……人類は、我が氏族の盟友なんだ。メアリース様がどう思っていようとも」
マキナ様はそう呟いた。
人の氏族はメアリース様に恭順したと聞いたが、少なくとも無碍な扱いはされていない。盟約があるのは本当なのだろう。
「我が盟友ヨコタよ、もうあんなことはしないでくれ……」
「マキナ様……。あれは、俺のエゴでした。でも、それだけでも無かったのです」
「……どういうことかな」
「だって、吸血鬼ってかっこいいじゃないですか!!」
「え?」
「マキナ様は御存じでしょう? 人間にとって、吸血鬼を敵対者として創作で描くのは、憧れの裏返しなのです!!」
不死身で、不老不死で、いろんな能力を持ち、しかし同時に弱点をも有している。
ある有名なゲームの科学者は、弱点があった方が可愛げがある、と言った。
ただ完璧で無敵なだけの怪物だったら、創作上の吸血鬼達はこれほどまでに愛されていない。
「強大で誇り高く、高貴で傲慢で残虐で……それにちっぽけな人間が立ち向かうからこそ、物語が映えるのです!!
言わば、我々人類と吸血鬼は、お互いに競い合える理想のライバルなのです!!
ドラゴンは強いですが、人間のライバルですか? あれは災害でしかないです。
メアリース様は吸血鬼を都合の良いやられ役などと仰いましたが、俺はそう言う意味であると解釈しています!!」
俺は彼女にそう熱弁した。
「だから、他種族をただ欲望の捌け口にして、奴隷にして、虐げていたなんて……信じたくなかったのです」
相手を支配するのは野望の為であったり、自分の強大さを誇示するためにするべき。そんな、人間の身勝手な理想だった。
「……勿論、そんなものは
あの漫画の伯爵も、人間に理想を求めすぎている……。そんな人間、60億人探しても、千人も居ればきっと多すぎるほどでしょう。
でもあなたと同じように、俺達人類もヴァンパイアに恋焦がれているのです」
「そうか……そうだったんだね」
マキナ様は俺の熱に浮かされたのか、頬が少し赤かった。
「君は私達の誇りの為に、命を賭けてくれたのか」
俺は頷いた。でなければ、お嬢様の家名も穢れてしまう。
「お前、わかってんじゃねえか」
ふと、始祖様が顔だけ振り返ってそう言った。
俺達はまあ、始祖様の後ろで控えているので聞こえていて当たり前なのだが。
「俺がヴァンパイアを作ったのも、お前と同じよ」
「……え?」
「俺とルナが吸血鬼って種族を創るまで、ヴァンパイアってのは人間の想像上の生き物だったんだよ。
それまで、人間だけを獲物とする、狙ったような都合の良い人型の吸血生物は存在しなかった。どの世界にも、だ」
俺は衝撃を受けた。
吸血鬼は完成度の低い生き物だと言ったが、それも当然だったのだ。
五千年と数百年。たったそれだけの浅い歴史しか存在しないのだから。
ホモサピエンスも五万年は続くと言われている種族だが、それ以前の人類はその数倍の歴史があるとされている。
吸血鬼たちは、未だ進化の過程を経ていない生物だったのだ。
「お前、ヨコタっつったか? 俺の創った吸血鬼は、──俺の理想のヴァンパイアはどうだった?」
「……最高です、始祖様」
「だろ?」
漫画の神様が居るように。彼はまさしく、“神”だった。
絵師、漫画、ゲーム開発者等々。その筋で称えられる創作者を、俺達オタクは神と呼ぶ。
俺は最早、彼を始祖様と呼ぶことに躊躇いは無かった。
俺達オタクが崇めるのに値する、創造主だった。
彼のしたことが、たとえ人類にとって脅威を創ったとしても。
彼はこれまで存在しえなかったファンタジーを現実にしたのだ。
それを“神”と呼ばずに、なんと呼ぶ。
「じゃあ次は、もっとすげぇもんを見せてやる」
それが何か、それを問うまでも無く、彼は上機嫌にそう言った。
「──“最強”、だ」
§§§
準備が完了した。
ポータルの前に約300人の騎士が並ぶ。
これに加えて貴族階級の高位吸血鬼が約50人。
人類に挑むには信じられないほどの寡兵である。
当然だ、彼らはただ会議にしに来ただけなのだから。
「者ども、我に続け!!」
サーペン侯爵が騎士達より先んじてポータルを超える。
本当に一番槍をするらしい。
鬨の声と共に、騎士達が雪崩れ込む。
ああ、ついに始まってしまった。
が、次の瞬間には眩い光がポータル越しに瞬いた。
「このポータルの奥は、ドーム状の建物に覆われています。
その丸みを帯びた壁や天井、180度全方位に約200門の太陽光レーザー発生装置に覆われています」
と、マキナ様が始祖様に解説する。
いや、それちゃんとサーペン侯爵たちに教えたの?
騎士達が悲鳴を上げて逃げ帰って来る。
そりゃあ逃げる。人間でもたまらないだろう。
「お前ら、この程度でなに逃げ帰ってやがる。気合が足んねぇんだよ、気合が!!」
これに始祖様はお気に召さなかったようだった。
無茶を言いなさる……。
ノルム様が恥ずかしそうにポータルに手を突っ込んだ。
最後まで黒焦げになるまで残っていたサーペン侯爵を、竜化した腕で引っ張り出した。
「……面目ございません、始祖様」
「ぎゃははは!! なんだお前、焦げ臭いぜ!!」
あっさりと撃退されたサーペン侯爵が始祖様に頭を下げるが、彼は可笑しそうに笑うだけだった。
喜怒哀楽の落差が激しい……。
ただレーザーの高熱で焼かれたとはいえ、サーペン侯爵はピンピンしていた。彼だから全身丸焦げで済んだが、それほど威力があるわけでもなさそうだ。髪の毛はチリチリになったが。
まだあれくらいは威嚇、刑務官の持つテーザーガンレベルと言ったところか。
とは言え、騎士階級の吸血鬼達は突入に尻込みしている。
紫外線に耐性の無いこの世界の住人があの中に入ったら、即ガングロ吸血鬼の出来上がりだろう。
「ったく、情けねぇな。俺が手本を見せてやる」
そしていきなりの、総大将の御出陣である。
のしのしポータルに歩いていく始祖様に、俺は追従する。
「どうぞ、始祖様」
「おう」
俺が大鎌を差し出すと、始祖様はそれを受け取ってポータルに踏み入る。
即座に無数のレーザーが照射され、まばゆい光に吸血鬼達は顔を隠す。俺も直視できないレベルの光に、目を閉じる。
その直後だった。
がだん、とか、どすん、とか、重い物が崩れるような音がした。
そして、粉塵がポータルを通じてこちらの世界に流れ込んできた。
「ほら、こんぐらい簡単だろうが」
粉塵が晴れると、始祖様は瓦礫の上で大鎌の柄を肩に担ぎながらこちらに向けてそう言った。
吸血鬼達は、あっはい、としか言えなかった。
「えーと、始祖様。次は警備のミスリルゴーレムが鎮圧に来ると思うのですが……」
マキナ様がおずおずとそう言った。
すると、始祖様の立つ瓦礫の向こう、青白い光沢を持つのっぺりとした人型のロボみたいなのがノシノシと歩いてくるではないか。
全長5メートルはあるそれが、約五十体。
ちなみに、これを一体倒すのに騎士階級の吸血鬼十人がかりでもほぼ不可能だとのこと。
強力な異能が無ければ相手にならない、高耐久の上物理と魔法に耐性のある難敵であるそうな。
「ゴーレムなんざ動きが遅いって決まってんだよ。
んなの敵じゃねえだろ、何言ってんだバカタレ!!」
しかし始祖様は弱腰のマキナ様にそう叱りつけた。
「手本見せたんだからやってみろ!!」
いや、眩しすぎて見えなかったんだが。
「ったく、しょうがねえなあお前ら。平和に慣れ過ぎだ」
今思い返せば、始祖様はきっと久々に会う子孫たちを前に、良い格好をしたかったのだろう。
「始祖様、それは儀礼用でして……」
アズラ公爵が呼び止めるのも、遅かった。
始祖様は刃の潰れた大鎌を持って、ミスリルゴーレムの軍勢に一人で行ってしまった。
「皆の者、始祖様を御助けするぞ!!」
彼がそう呼びかけて、始祖様を助けに行こうとしたが。
「ほら、あんなの相手にならねぇって言ったろ」
始祖様は、何食わぬ顔でポータルのこちら戻ってきていた。
ゴーレムの方を見れば、原型がわからない残骸が一面に広がってるだけだった。
「今度こそちゃんと見てたか!!」
いや、どっちにしろ見えなかったです……。
あのせめて、戦闘シーンを描写させてほしいんですけど。
「おら、あのトカゲ野郎のところに行くぞ、お前ら!!」
そろそろ始祖様には、自分の子孫たちが戦力にならないって気づいてほしい、と皆の顔に書いてあった。
というか、もう全部この人独りで良いんじゃないだろうか?
そんな疑念を抱きながらも、吸血鬼達は始祖様について行くほかないのだった。
お気に入り1400人突破、ありがとうございます!!
あと二話ぐらいで会議編終わらせる予定です。
それにしても、マキナは人間を盟友呼ばわり……河童かな? ポジションもメカニックだし。
お嬢様以外の高位貴族にも好感度を上げていくスタイル。
単純に主人公がモテると言うより、吸血鬼達って出会いが少ないから男に免疫がないだけでは、と思わなくもない次第であります。
それではまた、次回をお楽しみに!!
この作品に一番求めている物を教えてください。
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世界観や設定など
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キャラクター同士の掛け合い
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主人公の恋愛模様
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バトルや異能の描写
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主人公の毒舌(笑)