吸血鬼だけの世界で、人間ただ俺独り   作:やーなん

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今回も主人公のクソ長余談がありますが、編集済みなので読みたくない人の目には映りません。ご安心!!
では本編どうぞ!!



『最強』

 

 

 

 マキナ様曰く、スカーレットガーデンは二重構造になっているとのこと。

 

 これがどういう意味かと言うと、スカーレットガーデンと言う世界を球体とすると、それを覆うように更に球体の世界で閉じ込めている、ということらしい。

 

 分かりやすく言うなら、スカーレットガーデンを“牢屋”。

 それを内包する“刑務所”と言う世界が存在すると言うわけだ。

 

 つまり、メアリース様はスカーレットガーデンの吸血鬼を閉じ込める為に、その周囲をまるまる一つの世界で覆って封じたと言うことだ。

 流石神様、スケールが違いすぎる。

 

 この周辺世界を、便宜上“刑務所世界”と表記する。

 

 スカーレットガーデンはこの更に刑務所世界の外と繋がっており、そこと交易をしているのである。

 

 さて、この周辺世界が刑務所なら、当然刑務官が存在するわけだ。

 それが先ほどのレーザー装置であり、ミスリルゴーレムである。

 

 無論、わざわざ世界ひとつを創るほどなのだから、その程度で終わる筈も無かった。

 

 

「た、太陽だ……」

 

 吸血鬼は、五千年振りに陽の光を浴びることになった。

 流石に伝承通り、灰に成ったりするわけではない。

 

 吸血鬼が太陽光を浴びると、まず酷い炎症を起こし、肌が焼けたようになる。

 更に長時間浴び続けると、異能や魔法の行使に支障が出て、肉体の再生能力が極端に落ちる。

 この状態で治療を行わなければ、最悪命に関わるそうだ。

 

 この症状は、階級が低い吸血鬼ほど顕著になる。

 だから騎士階級の吸血鬼達は、太陽光を浴びただけで膝を突く者が大勢現れた。

 

 衰退して人間性を獲得しても、別に吸血鬼の特性が低減したりするわけではないようだった。

 そしてイヤミったらしいほど、照り返しの激しいコンクリートとで地平の果てまで覆われている。それ以外、何もない。

 

「あれは、人工太陽です。この周辺世界に、夜は訪れません」

 

 マキナ様は太陽光を厭うように、手で顔を覆いながら汗を拭う。

 こんな場所だから、それはもう暑い。

 

「人工太陽って……メアリース様の技術力はとんでもないな」

「何を言うんだい、盟友よ。

 人類の技術の真髄とは、核エネルギーだろう?

 核融合……即ち、太陽の力だ」

 

 言われてみれば、その通りである。

 人類は核エネルギーを手にし、神の領域に足を踏み入れた。

 

 核は、人間の技術の象徴そのものだ。

 ギリシャ神話において、火を人類に齎したのはプロメテウスとされる。

 それの第二の炎と呼ばれているのが、核エネルギー。まさしく、人類の英知そのものである。

 

「雷神を解剖し、太陽の力を掌握した人類に、私達吸血鬼が勝てる道理など無いのに……」

 

 マキナ様はそうぼやいた。

 この戦いのことではない。仮に始祖様が此度の戦争で勝利しても、それは戦術的勝利に過ぎないことを、彼女は理解しているのだ。

 

 メアリース様はやろうと思えばいつでも吸血鬼達を皆殺しに出来た。

 ただその事実だけが、頭上に輝いている。

 

「なんだ、あれ、浮いてるだけかよ」

 

 始祖様は、太陽光を浴びても平然としていながら、頭上の人類の英知を見上げた。

 

「じゃあ落とせばいいだけじゃねえか」

 

 はい? と、何を言っているのか、それを理解した者は居なかった。

 

「うぉりゃ、っと」

 

 始祖様は大上段で大鎌を構え、振り下ろした。

 ほぼタイムラグなく、頭上の対応が爆発四散した。

 

「ははははは!! メアリース様も粋な花火を用意してやがるな!!」

 

 世界に、暗闇が訪れる。

 星ひとつない、暗黒の世界だ。

 

 俺達は、開いた口が塞がらなかった。あの、人類の英知が木っ端微塵になったんっすけど……。

 俺が狂ってるわけではない。ありのままのことを描写している。本当だって!!

 

「さ、流石です、始祖様!!

 生身で月を斬り、ルナティア様に見初められたと言う伝説は本当だったのですね!!」

 

 アズラ公爵が目をキラキラさせながらそう言った。

 

「おうよ、しかも俺が神に成る前の話だぜ。

 あん時は少し掠めただけだが、今なら太陽も真っ二つよ」

 

 始祖様はドヤ顔でそう言った。

 もうその時点で人間離れしてたのかよ、と俺は思った。

 

「おいルナ!! なにサボってやがる、さっさと出て来い!!」

 

 始祖様が空に向かって怒鳴りつけると、なんとひょいっと満月が地平線から登場し、頭上に浮かび上がったではないか。

 

 嘘やん、と俺は思った。

 他の吸血鬼達もそうだった。

 

 満月パワーで吸血鬼達の体力やら自己治癒能力が向上し、ついでに万全の状態になった。

 

「何と言うか、始祖様と我々で十万と一人の軍集団って感じだね……」

 

 マキナ様があの漫画の某少佐の演説の台詞を引用し、そう遠い目で呟いた。

 ちなみに言うまでもないが、十万が始祖様で、残り一人が吸血鬼達全員である。もはや誤差だ。

 

 始祖様一人だけ、神話の住人だった。

 今を生きている吸血鬼達はみんなパンピーである。

 

 その後も、滅茶苦茶な行軍は続いた。

 コンクリートゾーンを抜けると、何も無い岩肌が見えてきた。

 

 こそこそと六公爵の面々が、どうやったら始祖様が飽きるか、真剣に、今頃になって真面目に話し合っていた。

 アズラ公爵さえも、始祖様の御体の具合を心配して話し合っていたところ、話の途中だがワイバーンの群れだ!!

 

 そう、ワイバーン。飛竜である。

 大体二百匹ぐらい。俺は本物の竜を見た興奮よりも、恐怖が勝ったのだが。

 

「おいお前ら、足ができたじゃねえか!! 捕まえて来いよ!!」

 

 始祖様はそんなことを言い出したのである。

 吸血鬼達は従う他ない。

 

 騎士階級の吸血鬼達は群がられてガブガブされたり、火球を吐かれて丸焦げになったりしている。

 しかし、貴族階級の者達はそこそこ上手く行っている。

 

 お嬢様はサキュート卿の魔眼で前後不覚になったところを傷を付け、血に触れて異能で支配した。

 マキナ様は魔法の糸を指先から出して、ワイバーンを雁字搦めにした。

 ノルム様なんて、竜の腕で直接ねじ伏せている。

 

 先ほどまで良いところの無かったサーペン侯爵も、腕力でワイバーンを殴って気絶させ、二十匹近く倒している。まさに豪傑だ。

 

 他の貴族も魔法で撃ち落としたり、異能を駆使して何とかワイバーンを撃墜した。

 そんな感じで、ボロボロになりながらもワイバーンを群れの大多数を生け捕りにした。

 

「じゃ、こいつらに乗って向こうまで飛ぶぞ」

「お言葉ですが、始祖様。野良ワイバーンはとても狂暴で、調教無しでは……」

 

 ノルム様が始祖様にそう御忠言した。

 そう言えば、竜の氏族はワイバーンを調教して騎兵にしているのだ。

 

「ばーか、こうすれば良いんだよ」

 

 始祖様の指から、魔法の糸が束になって伸びる。

 これは、間違いない!! “血統能力(ブラッドレコード)”、『人形操公(グランギニョル・マリオネッター)』だ!?

 

 その糸が倒されたワイバーンどもの頭に伸び、脳の神経を奪い取った。

 その上で、糸が徐々にワイバーンの方から赤く染まる。

 それは、血だった。

 

 最終的に、血塗られた糸が、始祖様に集結する。

 

「これで、こいつらは俺の言いなりだ」

 

 血による支配。血統能力(ブラッドレコード)、“流血公(ブラッドルーラー)”の力そのものだ。

 

 俺はこの時、理解した。

 吸血鬼達の異能とは全て、数多の転生を繰り返し、その過程で始祖様が得た異能を分け与えた物に過ぎないのだと。

 

 血に刻まれた、異能のそのものなのだと。

 始祖なる真祖。そう言い表すほかない、吸血鬼達の神なる存在そのものだった。

 

 

 こうして、俺達はワイバーンに乗って、幾多の障害を素通りした。

 そして、周辺世界の最奥へと辿り着いた。

 

 巨大な、周辺世界の出口となるポータル。

 その前に布陣した、魔王の軍勢が居た。

 

 その数、約一万。こちらの軽く二十倍。

 

 始祖様はワイバーンを乗り捨て、地上から堂々と進軍を指示した。

 

「思った以上に、御早いお着きでした。まさか一日も掛からないとは」

 

 魔王。軍勢の前に立つ、マスターロードがそう言った。

 

「あたりめーだ。なかなか洒落たアトラクションだったぜ」

「どうしても、メアリース様と戦うおつもりですか?」

「お前と戦えるんならそうするぜ」

「……良いでしょう」

 

 魔王と相対した始祖様は、彼の回答にニヤリと笑った。

 

「その代わり、メアリース様と我が母と戦うのはおやめください。

 貴方もご存じでしょう。御二柱は、武功を立てて神に成った存在ではない。

 貴方が戦っても、弱い者いじめだ。きっと御二柱も、抵抗はしないでしょう。それが一番あなたにダメージを与える方法でしょうから」

「ちッ、姑息な真似しやがる」

 

 始祖様は手札を捨てながら、ではなく、舌打ちをしてそう言った。

 

「いいぜ、女を殴る趣味は無ぇ」

「では次に」

 

 マスターロードは、マキナ様を見やった。

 

「この戦いは貴女の意思ですか、デーエックス公」

「……ええ、その通りです」

 

 マキナ様は、なんと頷いて見せた。

 

「それはメアリース様に対する裏切り、盟約の破棄の意思と捉えてもよろしいのですか?」

 

 それは、ある種の脅迫であった。

 メアリース様の加護を失う、それはあの発展した産業、その生活の全てを捨てることを意味する。

 

「侮るなよ、魔王!! 始祖の意思こそ、我ら吸血鬼全ての意思だ!!」

 

 マキナ様は、割と始祖様に責任を擦り付けつつそう言った。

 

「それに、これを見ろ!! ──ステータス、開示(オープン)!!」

 

 彼女がそう宣言すると、彼女の目の前にパソコンのウインドウのような、タブのついた半透明な画面が浮かび上がった。

 

「う、おえええええええええええええええぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「ど、どうしたんだい、盟友!!」

「い、いえ、ちょっとした拒絶反応です……お気になさらず」

「そ、そうか」

 

 マキナ様は急に嘔吐した俺を横目に心配しつつ、こほんと気を取り直してこう言った。

 

「これは、私が産まれた時にメアリース様に与えられた、管理画面だ。

 口さがない人間達は、これを“奴隷の烙印”と言うそうだな」

「……」

 

 魔王は、何も言い返さなかった。

 

 そう、メアリース様の支配下にある存在は、一人の例外も無くステータス画面が与えられている。勿論、俺もだ。

 家畜にマイクロチップを埋め込み、その健康状態を管理するかのように。

 

 これを見るだけで、その人間がどんな技能に適性があるか、名前やIDに、年齢やら家族構成やら性別やら、どんな病気になったか、誰と接触したかまで事細かくログで確認できる。

 これは管理する側からすれば非常に便利だ。疫病の際に簡単に誰から病原菌を貰ったか判別できる。

 が、同時に神相手にプライベートは存在しない、それを物語っていた。

 

「これほどまでに事細かく私と我が領民を管理しておきながら、メアリース様は私の欲しかった自由を下さらなかった!!

 誰よりも、私よりも私のことを知っているくせに、だ!!」

 

 マキナ様はそう言って、彼を糾弾した。

 

 そもそも何だよステータス画面って。現実をゲームと混同してるって言うのかよ。

 全く──どいつもこいつもステータス、ステータス、ステータス!! そんなに数字で他人にマウント取りたいってのかよ、使いもしないスキルをアクセサリーみたいに並べて、毎回最後に大して変化のないそれを記載して文字数稼ぎ……場末のネット小説かよ。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。あと、そこれは例えばの話だが、異世界に移動して見知らぬ森に出たとして最初にすることが、ステータスオープン!! なんだよその超即理解!! エルフに出会うとかでも良いだろ、異世界って判別するのによ!! 好きだろ、エルフッ、それとも奴隷として買うとかしないと嫌だってのか!? 何でも言うこと聞いて自分を裏切らないって保証されたお人形じゃないと自慰ができないってか!! 読者を馬鹿にするのもいい加減にしやがれ!! その程度の低レベルな内容で喜ぶって見下しやがって、だからそんなスカスカなハンコで押したみたいな内容で喜ぶ読者層ばかりになるんだ。そんなラノベに媚びてアニメ枠を圧迫する制作会社共々滅びろ!!*1

 

 ……ふう、落ち着いた。お目汚しを失礼した。

 

「自由か。では、他の吸血鬼達に問おう」

 

 マスターロードは吸血鬼達を見やった。

 

「スカーレットガーデンを出ようと思ったことは?」

 

 彼の問いに答える者は、誰も居なかった。

 

「デーエックス公とは立場の違う、貴公らの目の前にポータルが設置してあった。だと言うのに、誰も出ようと思わなかった。

 デーエックス公よ、メアリース様は貴公に自由を与えなかったのではない」

 

 魔王は、事実を口にした。

 

「貴公らが鍵の開いた牢屋から、出ようとしなかっただけだ」

 

 それが、全てだった。

 

「貴公らの祖先の罪は、祖先の罪に過ぎない。

 もうとっくに鍵は開いていた。出たければ、出ればよかったではないか」

「そちらが出す気が無かった、としても」

 

 お嬢様が鋭くそう返した。

 

「どうぞ出てください、などと我々の立場で言えると思うか?

 ポータルからここまでの間の出来事、それ全てメアリース様の試練なり。

 貴公らが人類と共に歩むにふさわしいか、その成長を問うものだった」

「どこまでも、勝手な……」

 

 キュリアさんが吐き捨てるようにそう言った。

 彼女はそう言ったが、俺は多分その言葉に嘘は無いと思った。

 

 もし全ての吸血鬼達が協力すれば、案外ここまでの障害は突破できた可能性が高い。

 容赦こそ無かったが、殺しでも脱出を阻止する、と言う意図は感じられなかった。

 

「その全てをぶち壊してくれたな、死神」

「つまりよ、出てって良いってことなら、出させてもらうぜ」

「それは出来ぬ。事情が変わったのだ」

 

 始祖様の言葉に、魔王は顎をしゃくって見せた。

 

「お前達の中に、あのゲダモノに寄生された者が居ないと誰が保証できる?」

 

 ここは刑務所でもあり、検疫でもあった。

 

「あの外世界神性の眷属の撃滅が確認できない限り、貴公らをあの牢獄から出す訳にはいかなくなった。

 ここまでの道中、殆ど何もなかったであろう? あれは元々あったモノを処分したからなのだ」

 

 コンクリートの大地に、岩肌ばかりのワイバーンの巣。

 そうだよな、あのゲダモノがスカーレットガーデンに侵入しているのなら、この周辺世界を通ったってことになるのだから。

 

「もし、このままあのポータルを通ろうとするのならば、貴公らを一人残らず滅ぼさなければならない」

 

 彼の主張は真っ当だった。ゲダモノは吸血鬼以上に危険な外来生物。

 その駆除が確認できない限り、吸血鬼達を外に出すなんて出来るわけがない。

 

「じゃあ、戦うしかねぇな」

 

 始祖様は楽しそうに言った。

 この人は初めからそのつもりだからなぁ。

 

「では、止む無しか」

 

 魔王は後ろの軍勢へと振り返る。

 ゴブリン、コボルト、オーク、オーガ、ハーピー、人狼、ラミア、夢魔、ミノタウロスetc……。

 人間以外の、ありとあらゆる種族がそこで待機していた。

 

「メアリース様の与える、平和な世界で満足できない憐れな者どもよ。

 自ら人権を捨てて、魔物へと成り下がったその情動を好きなだけ満たすがいい」

 

 彼らは、メアリース様に恭順した種族のうち、その平和な生活に馴染めず、爪はじきになった連中だった。

 結局のところ、メアリース様の他種族の受け入れとは、人間基準に依るものだ。

 大半は帰順して人類として平和に生きているが、魔族としての本能や血に抗えない者も多くいると言うこと。

 その闇が、目の前にあった。

 

「ほ、本当に、好きなだけ殺していいのか!!」

 

 あるオークが言った。

 

「壊して犯して、奪って良いのか!!」

 

 あるゴブリンが言った。

 

「ああ、地獄へ行き罰せられることも無い。

 なぜなら、お前たちはそう言う生き物……魔物(モンスター)なのだからな」

 

 魔王は、それに頷き返した。

 ただ彼は言っていない。

 

 魔物は、所詮退治されるものである、と。

 

「……我は、魔王なり。人類の前に立ちはだかり、試練を与える者。

 されど、今は背後に向き直り、人類を脅かす脅威への盾とならん」

 

 それが、彼の存在理由だった。

 

「やれ、お前たち」

 

 魔の軍勢が、魔王の号令によって押し寄せてきた。

 

 

 

 §§§

 

 

 意外なことに、二十倍の相手に吸血鬼達は善戦していた。

 

「者ども、今こそ始祖様に我らの武勇を見せつけるぞ!!」

 

 サーペン侯爵が、騎士団と共に敵軍と衝突する。

 

「なんで竜人が居るんだ!!」

「や、やめろぉ!!」

 

 敵勢の悲鳴が聞こえる。

 彼は臆することなく敵勢を薙ぎ払い、獅子奮迅の活躍だった。

 

「やればできるじゃねぇか」

 

 その戦いぶりに、始祖様も満足げだった。

 今回は御自分一人で無双するつもりは無いらしい。

 

 しかし、多勢に無勢。

 吸血鬼達は周囲を囲まれようとしていた。

 

「ツェーラー侯!!」

「ええッ」

 

 そこに、妹様とツェーラー侯が異能を発動させる。

 まるで底なし沼に落ちたかのように、次々と自分の影の中へ沈んでいく魔の軍勢。

 

 で、でたぁ、初代リーリスの姉君が、いつも一騎打ちをする時にお供を排除する時にやってる影落としの技だ。

 影の中に落とされると、自力で脱出はほぼ不可能。同じような能力が無いと、完全に無力化されるのだ。

 

 とは言え、これにも許容量があるらしい。俺はそれをここで初めて知った。

 二人合わせて五百人ぐらい、無力化した。大戦果だ。

 

「ど、ドラゴンだぁ!!」

「いったいどこからッ!!」

 

 ノルム様が変身した巨大な竜が、敵勢の中心に着地した。

 ただそれだけで、数百人の敵兵が吹き飛ばされる。

 

 火を噴き、大地を踏みしめ、大暴れ。

 まさしく最強にして最悪の異能、災害そのもの。

 

「この機を逃すな!! パペットアーミー!!」

 

 マキナ様が召喚魔法で、数十体のメイド人形を召喚した。

 非人間的な動きに加えて、まるで吊り下げられた人形のように空を舞い、爆弾やら銃撃を加えていく。

 

 血飛沫が、血だまりが、意志を持つかのように地を這い、流れ、一点に集まっていく。

 その中心に居るのが、お嬢様だった。

 

「や、やめろ、こっちは味方──」

「あぎゃあ!! ば、化け物!?」

 

 倒された筈の敵兵が、次々に味方を襲っていく。

 まるで死体から蘇ったアンデッドのように。

 

 他の高位貴族も、恐れることなく敵勢に立ち向かう。

 本物の、戦争だった。

 

 俺はそのど真ん中に居た。

 始祖様と、魔王が目の前にいる。

 

「そこの君」

「……俺ですか?」

「私は命令なく、人間を殺すことは出来ない。

 戦場の外側へ転移させてもらうよ」

「……わかりました」

 

 魔王は実に、律儀だった。

 どのみちここに居ても邪魔になる。

 

「始祖様、ご武運を」

「おう、よく見とけ」

 

 そして、俺は魔王の魔法で戦場から遠く離れたところに転移させられた。

 

 

 始祖様と、魔王の戦いが始まった。

 

 さあ、どうせ期待していないだろう、俺の渾身の戦闘描写に震えるがいい。

 

 

 キンキンキンキンキンキン。

 ドカーン、ドカーン、ドカーン。

 

 

 いや、無理だよ。二人の戦いとか、もう目で追えないレベルなんだよ!!

 空中で何度も交錯して火花が散り、魔法がドカンドカンと炸裂してるのぐらいしか、わかんないんだよ!!

 

 しかしながら、両者がどんな会話をしていたのか、後で始祖様から直接伺うことができた。

 二人は戦いながらこんな会話をしていたらしい。

 

 

「死神よ、私は母の加護により、無敵だ。

 我が妹、モエの提言により、魔王とは手順を踏まなければ倒されてはいけないことになっている」

 

 と、魔王マスターロードはそう言ったらしい。

 ズルいやん、自分だけズルして無敵モードとか。萌ちゃんも、余計なことを……。

 

「そいつはすげえな。

 マジでお前は無敵らしい。

 だがよぉ、お前の纏ってる加護は無敵なのかよ?」

「む?」

 

 始祖様曰く、奴の纏う加護、便宜的に“闇の衣”としよう。リェーサセッタ様は闇属性だし、別に間違いではない。

 

 始祖様は神から与えられる加護の力の流入源を、ズバッと切り裂いたらしい。

 それで闇の衣が復活するまで、約0.01秒のラグがあるとか。

 その瞬間に、もう一撃を叩きこめばダメージが入るのだとか。

 

 いや、グリッチやん、それ……。

 ごり押しで始祖様は無敵の魔王を倒そうとしてるのだ。

 

「良いだろう、下らない小細工は必要無いらしい」

 

 魔王は認めるしかなかったそうだ。始祖様の強さを。

 彼は自身が纏う加護の力を、全て攻撃に回したそうだ。ここまでで大体二十秒くらい。

 

 そこから俺の目にも見えて魔王の攻撃が激しくなったのを覚えている。

 始祖様と、魔王は互角に戦えているのである。それだけで冗談みたいな強さだと理解してほしい。

 一分ぐらい経った後。

 

「おらぁ」

 

 と、始祖様が大鎌で魔王を両断した。

 始祖様が勝ったのである。

 

 この時点で、周囲はもう戦いどころではなくなっていた。

 だってゴジラとキングギドラが目の前で戦っていて、その足元で戦争が出来るかって話だ。

 

「俺の勝ちだ!!」

 

 始祖様はそう叫んだ。

 

「それはどうだろうか?」

 

 真っ二つに切り裂かれた魔王が、ジッパーで服を留めるみたいに元通りになっていく。

 

「モエはこのように提言した。

 魔王とは、第二形態があるべきである、と」

 

 魔王の身体が、巨大に膨れ上がるのが見えた。

 人間の神が、人間が想像する最強の魔王が、顕現する。

 

 全長二十メートルの、巨竜。

 それは世界を滅ぼす、神なる竜の化身だった。

 

「本来ならこの姿を、試練に用いるものではないのだが……」

 

 この巨体で、第一形態を上回るスピード。破壊力。重さ。

 その咆哮が、世界を揺るがす。

 

「お前達を、この先に行かせるわけにはいかない。

 たとえお前達を、世界ごと滅ぼしても」

 

 ちなみに、俺はこの時点で気絶している。

 いや、俺ただの一般人よ? こんな大怪獣の衝撃を伴うような咆哮を受けて、立ってられるわけないでしょう。

 

 戦艦大和の主砲だって、発射時にすぐ側に人間が居たらミンチになるんだぜ?

 気絶だけなら全然マシだ。

 

「つ、つえぇ!!」

 

 最強の魔王を目の当たりにして、始祖様はなお笑顔だったそうな。

 だが、それも長くは持たなかった。

 

 手数が圧倒的に違ったらしい。

 竜の巨腕に、叩き潰された。

 

 べちゃり、と。勿論即死だ。吸血鬼でも助からないレベルの。

 まだ気を保っていた吸血鬼は、息を呑んだそうな。

 

 だが、忘れてはならない。

 血の一滴から復活した初代リーリス。

 

 始祖様は、その格上の吸血鬼なのだ。

 

「ふー、頭がスッキリしたぜ」

 

 始祖様は蘇った。しかも若い姿で。

 

「今のてめぇに、ジジイの姿で相手しちまって悪かったな」

 

 それはもう、魔王の台詞なんよ……。

 

「強さってのを極めちまうとな。

 次は弱さを極めてみようって考えてみてよ。

 老いた上で両目の視力を捨ててみた。それでもなお、俺は最強だとな」

 

 これには魔王も、ドン引きしていたそうな。

 

「次はさっきの状態で勝てるように、修練を重ねないとな。

 今は、俺の本気を見せてやるよ。おいルナ、俺の剣を寄越せ!!」

 

 始祖様がそう言うと、夜空に浮かぶ満月から、一振りの剣が降ってきた。

 

 俺はこの光景を過去視の異能を持つ協力者と共に、視覚を共有して貰って書いているのだが……痺れた。

 

 それは呪われた、持つ者に不幸を想起させるおぞましい闇の魔剣だった。

 

「俺ってよ、名乗ったことはねえんだが、死神って呼ばれるから大鎌を持ってねぇとガッカリされんだ。

 本当に得意な得物はこっちよ」

 

 武だ。武の化身だった。

 

「魔法だの異能だの、いろいろと手にしてみたが。

 やっぱり最後にモノを言うのは(これ)よ。強さってのは何なんだろうな」

 

 ヘラクレスだった。

 クーフーリンだった。

 ジークフリートだった。

 ヤマトタケルだった。

 

 英雄、だった。

 

 

 巨大な竜に、力比べを制する。山をも動かしたヘラクレスのように。

 全身が真っ赤に燃えるような悪魔のような様相になりながら戦ったと言う、クーフーリンのように鬼気迫る表情で。

 竜を殺したジークフリートのように、臆することなく。

 炎の息吹を、大火を鎮めたヤマトタケルのように切り開いていく。

 

 ……萌えちゃん。ファンタジーだよ。

 

 ────“最強”は、実在したんだ……。

 

 

 ベオウルフだ、シグムンドだ、ラーマだ、アーサー王だ、フェリドゥーンだ!!

 両面宿儺だ、カルナだ、アキレウスだ、ランスロット卿だ、ゲオルギウスだッ!!

 

 人間が想像する、最強の英雄がそこに居た。

 

 

 神なる竜が、討たれる。

 魔王が、悪の王が倒れる。

 

 俺は、神話を目撃したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
あまりにも関係無い内容なので編集済み。by編集部





あと二話でこの章を終わらせると言ってしまったばかりに、普段の二倍書いてしまいましたww

後、皆さんの応援に応えたいのでなるべくネガティブな話は控えようと思っていたのですが。
評価コメントで、この内容でヤンデレタグは詐欺でしょ、と厳しいお言葉を頂きましたので、この場を借りて(どうせ当人は見てないだろうけど)返信いたします。

作者は、ヤンデレ“だけ”を書きたいわけではありません。
アンチ・ヘイトのタグがあるからと言って、昔読んだスーパーシンジ君が主人公のエヴァ二次創作みたいに、徹頭徹尾原作キャラを貶し続けなければいけない、みたいなことをしなければならない決まりは無い筈です。ヤンデレなヒロインに右往左往するだけの主人公の小説なら、ハーメルンに他に幾らでもある筈ですし。

もうここまで読み進めてくれている読者の皆様にはそんなこと言う必要はないでしょうが、念のため明言させてください。そんな皆様の為に、わざわざアンケートを取ったのですから。

作者のスタンスは以上です。
あと、そろそろ今のアンケートを締め切りますね。なんでネタ選択肢に票が入って、気合入れてたバトル描写が……ぶつぶつ。

それではまた、次回!!

この作品に一番求めている物を教えてください。

  • 世界観や設定など
  • キャラクター同士の掛け合い
  • 主人公の恋愛模様
  • バトルや異能の描写
  • 主人公の毒舌(笑)
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