吸血鬼だけの世界で、人間ただ俺独り   作:やーなん

28 / 36
今回でこの章のエピローグになります!!



会議は終わるよ

 

 

 

 始祖様の魔剣が、魔王の眉間を捉えた。

 勝敗を決する一撃だった。

 

 巨星が墜ちる。

 見上げるほど巨大な魔王の竜身が、崩れ落ちる。

 

 彼を覆っていた闇の力が霧散すると、人型を取り戻していた。

 

「信じ、られぬ」

 

 彼は今の痛恨の一撃を受けてなお、生きていた。

 いや、違う。死ねないのだ、神の化身たる彼は。

 

「大いなる御二柱に、最強であれと望まれた、この私が敗北するだと?」

 

 何も無い大地に、両手を広げて倒れる魔王はそう言った。

 

「お前は強かったよ。だが、修練が足りねぇ。

 能力値の暴力で、俺に勝てるほど甘くはねえよ」

 

 始祖様は彼を見下ろし、そう言ったそうだ。

 いや、そもそもあんなのと戦いが成立する方がおかしいんだが。

 彗星相手に相撲を取って、技量で勝利した。そんな意味不明なことを、始祖様は実際にやってのけた。

 

「くッ、くくくッ、死神よ。お前は自分の言った言葉を理解しているのか?」

 

 何が可笑しいのか、魔王はそう言った。

 

「お前は吸血鬼としてではなく、人間として戦って私に勝利した」

「……」

「お前がなぜ、吸血鬼を産み出したのか。

 それは、────戦ってみたかったからだろう? 最強のヴァンパイアと」

 

 始祖様は、そう言われたらしかった。

 当然だろう。極めた剣技で戦う、吸血鬼など居るわけがない。

 

「存在しないのなら、産み出すほかない。

 だが、お前の子孫はその期待に応えられなかった」

 

 吸血鬼達に絶望があるとしたら、それだった。

 彼らは、始祖なる者の望みを決して叶えられない。

 

「言いてぇことはそれだけか?」

 

 魔王の言葉は、事実であろう。

 だが、始祖様にとって、それが全てではなかった。

 

「神に成り果てて、全ての武神や戦神、軍神と戦った。

 勝って、また条件を変えて勝って。それを繰り返して、神々の頂点に立った。

 あいつらは、諦めたように俺を見るだけになった。戦闘狂揃いのあいつらが、だ。そんなつまんねえ世界だった」

 

 だから始祖様は、神であることを捨てた。

 

「俺を満足させる奴はもう居ない。

 なら、育てるほかねぇだろ。何百という俺の子を鍛え、何千の弟子を取り、何千万もの挑戦者と戦った。

 どいつもこいつも、諦めた。俺を崇めるだけになった」

 

 最早悟りの境地、解脱の領域だった。

 永劫の修羅道の果てに辿り着いたのは、無窮の孤独。

 

「だからどこまで弱くなって、連中の目線に会わせられるか試し始めた。

 お前はなかなか良かった。久しぶりに、本気で戦えたぜ」

 

 魔王は、始祖様の渇きを一時癒した。

 だが、それだけだった。

 

「立てよ。次は片腕を落として戦ってやる。

 その次は片足だ。次は両目、その次はその次はその次は──」

 

 神にとって、権能とは存在意義そのものだと、キュリアさんは言っていた。

 そうやって相手に敗北を強いる始祖様は、武を極めた神々すら恐怖に値する存在だったのだろう。

 始祖様に、終わりは無いのだから。

 

 始祖様は、月の女神の英雄。

 かの女神様が司るは、月光と──狂気。

 

 彼を選んだ女神は、狂騒こそ是とする。

 騒乱、乱世、世の混乱。それを愛しておられる。

 

 だから、平和を手にした吸血鬼達に、興味など抱かない。

 始祖様はきっと、仮に何とか戦争で呼ばれるとしてもバーサーカー以外ではあり得ないのだ。

 

「……なんだ、お前も同じか」

 

 諦念。憐れむような、魔王の視線。

 

「飽きた。お前ら、帰るぞ」

 

 始祖様は、(あぐ)まれた。

 

 こうして、何も得る物の無い戦争は終わった。始祖様が始め、始祖様が終わらせた。

 魔王から、勝利を奪い去って。

 

 

 

 ……

 …………

 …………

 

 

「死神よ。お前の“最強”に、何の意味がある?」

 

 魔王は、自らに背を向ける死神に問うた。

 

「お前も神に至ったのなら、知っているだろう?

 最果ての門に座する、この世の絶対なる真理を」

「……」

「お前が後生大事にしている強さとやらは、その真実の前には泡沫に過ぎない。それでもなお、強さを求めるのか?」

 

 く、と死神は肩を震わす。

 

「覚えてねぇな」

「なに?」

「人間だった頃に倒した奴のことなんざ」

「ッ……」

「例えばよ、お前は自分が他人の夢の中の存在って知っちまったら、それで全部諦めんのか?

 そんなお前がメアリースの代弁者だって? 俺はあいつが諦めるのを見たことねえぞ」

 

 魔王は知っている。彼の言うとおりであると。

 

「……完敗だ、私は……」

 

 その呟きが届かぬほど、死神は遠くへ行っていた。

 

 

 

 §§§

 

 

 スカーレットガーデンに帰還する頃には、みんなボロボロで疲れ切っていた。

 

 死者のゼロの帰還だったのは幸いだったのだが、気づけば始祖様は爺さんの姿に戻っていた。

 聞いたことがある。真の不老不死とは、永遠に若さを保つことではなく、どんな姿にでも自在になれることである、と。

 まさしく仙人のように。始祖様はまさにそんな感じだった。

 

 

 翌日、改めて六氏族会議が再開された。

 もう誰も、居眠りしている始祖様に関心を向けたりしない。触らぬ神に祟りなしとはこのことだ。

 

 そうしていると。

 

「マキナ様、お、お客様です……」

「なんだって? 参加予定の貴族は、全員──」

「それが先方は、魔王と名乗っておりまして」

「……御通ししなさい」

 

 魔王、再びであった。

 

「此度のゲダモノの件ではあるが、我々の一族が全面的にバックアップをさせてほしい」

 

 しかも、魔王マスターロードはこちらに歩み寄りの姿勢を見せた。

 

「……どういう風の吹き回しで?」

 

 マキナ様が席に着いた彼に問うた。

 

「私はメアリース様の最高傑作として創造された。

 その私に勝利する者が居るのなら、その者のどんな願いをも叶えることになっている」

 

 魔王は、事もなげにそう言った。

 貴族達の視線が、鼻提灯を出してる始祖様に向けられる。

 皆の顔には、余計なことを言うな、と書いてあった。当人が寝てるのを良いことに、このまま有耶無耶にするつもりのようである。

 

「スカーレットガーデンの封鎖が解かれるまでの当座の間、資金や物資の面でお前達を困らせることは無いだろう。

 流石に戦力などを送ることは出来ないだろうが」

「……いえ、お心遣いとてもありがたいです」

「今後も、メアリース様の使者として貴公らとメアリース様との間を取り持とうと思う。

 そして全てが終わった時、必ず貴公らに新たな道を示すことを約束する」

 

 彼は言った。自分の言葉は、メアリース様の言葉であると。

 そんな彼が吸血鬼達の意思を尊重し、全面的に譲歩し、肯定した。

 

 始祖様が、子孫たちへ道を切り開いたのだ。

 

「本当に、本当なのですね?」

 

 マキナ様が目に涙を浮かべそう言った。

 

「無論、母より頂いた、我が偉大な名にかけて」

 

 後に、魔王様から話を聞く機会があったのだが。

 マスターロード、と言う名前は太古の竜人族の偉人の名前だと言う。

 まだ人間だった頃のリェーサセッタ様が世話になった、偉大なる先人。それを息子に与えたのだ。彼は、その名にかけて己の言葉を保証した。

 

 スカーレットガーデンの暗い大地に、未来の光が差した瞬間だった。

 

 その後、大まかに決まったことを挙げさせてもらう。

 

 その1、各氏族から貴族階級を集め、連合騎士団を結成しゲダモノの駆除活動を始めること。またその用途以外に使われてはならないこと。

 その2、その連合騎士団の本拠地は、我がアーリィヤ城に置くこと。

 その3、魔王様一族は連合騎士団のスポンサーとして、資金や物資の全面的なバックアップをすること。

 その4、連合騎士団の内部において、氏族間の争いごとや政治的な駆け引き、階級の違いでの優遇不遇を禁じ平等に扱うこと。

 その5、連合騎士団はゲダモノの撃滅を確認次第、解散されること。

 

 他にも細かいことは色々とあるが、魔王様の意見を取り入れそのように大まかに決まった。

 

 そしてそろそろ察しているだろうが、その連合騎士団の会計担当として俺はお嬢様に直々に副団長として指名されてしまったのである。

 

 ちなみに、団長はニーヴァ侯爵の娘さんである。

 ニーヴァ侯爵の保有する騎士団を、そのまま連合騎士団の初期メンバーに合流する形にしたのである。俺以外、実質名前を変えただけだ。

 

 ともあれ、ニーヴァ侯爵は家として実績はあるので、そう言うことになった。

 

 

 しかし、俺にとっての問題はこの後に起こったのである。

 

「ヨコタよ。大任を任されたな」

 

 会議の最終日、パーティー会場で俺はニーヴァ侯爵に話しかけられた。

 

「ええ、お嬢様は相変わらず無茶を言いなさります」

 

 正直、吸血鬼達のザル勘定でこの世界を救うための騎士団の運営を任せられるかと言えば、無理である。

 その上、吸血鬼達は魔王様から白紙の手形を渡されたに等しい。

 

 考えたくはないが、横領などの不正を監視しなければならないのは当たり前のことだ。

 その適任は、俺しか居なかったわけである。

 

「しかし、昔から金庫番と言うものは恨まれるものだ。

 お前には後ろ盾が必要だろう」

 

 俺はこの時、ティンと来た。ニーヴァ侯爵がその後ろ盾になってくれるのだと。

 

「お前には身寄りが無いと聞く。

 そこで、それ相応の地位が必要だと思わないかね?」

「いえ、もう既に我が身には有り余る栄誉を頂いております」

 

 副団長と言っても、別に叙勲されたわけではない。

 ただ身内に役職を与えられただけだ。

 

「そこで提案なのだが、ヨコタよ。

 我が家の──養子に成らぬか?」

 

 え、と俺は言葉を失った。

 

「お前の姓名はそのまま名乗って良い。

 私から、お前の仕事に干渉するつもりも、また我が家への優遇も求めぬ。

 これまで通り、リーリス様に仕えるといい。

 その上で、私はお前を息子に迎えたい」

 

 俺は困惑した。

 そんな、都合の良い話があるというのか。

 

 推しの吸血鬼の末裔を、義父と呼ぶなどと。

 

「無論、お前に家督を預けたりすることは先ず無いと言って良い。そこは勘違いしてはならぬぞ」

「……ええ、勿論です」

 

 俺は頷いた。その発想は無かった。

 

「これらの話を踏まえた上で、よく考えるといい。

 私は強制をするつもりなどないからね。十分に熟考を重ねてから、返事をくれたまえ」

「はッ、お心遣い、感謝いたします……」

 

 正直、俺は迷った。

 彼を父親と呼べるのは嬉しい。嬉しい、が……。

 

 俺はまだ、故郷の両親を捨てたわけでもなかった。

 

 

 会議の全日程が終わる。

 

 俺達は激動の一週間を終えた。

 城にはあの大騒ぎが嘘のように静寂があった。

 

 だが、それももうすぐ終わるのだろう。

 

 

「やあ、盟友よ!! いや、副団長と言うべきかな?

 早速だが、私自らお邪魔させてもらうよ!!」

 

 そして早速、マキナ様が領地経営をほっぽり出して、我が城にやってきた。

 

「ここを拠点にして、ゲダモノの研究や対策を講じることにするよ。

 そ、それに、君もここに居るしねッ」

 

 彼女は未知の生物を研究できることに、興奮した様子だった。

 俺から資金を引き出そうと、ちらちら熱っぽい視線を送って来るのだ。

 

 マキナ様の研究室にはキュリアさんも参加し、今後も吸血鬼の知恵者たちが集まるようになる。

 

 

 そして、あの御方も。

 

「ぐがー」

「始祖様。そのような場所で寝ていると、お身体に障りますよ」

 

 ゲダモノと戦う為にこの地に舞い降りたかの御方も、うちの城でお世話することになった。

 大変頼もしいこのこの上ないのだが、この人の一言で何でも動いてしまうから、恐ろしくもあった。

 

 だが、ゲダモノと、外世界神性と戦う準備は整ってきた。

 

 が、そんな新しい始祖様の英雄譚は一旦脇に置かせてもらおう。

 

 次は、俺の身に起こった、養子縁組騒動に対して、語らせて貰うとしよう。

 

 

 

 

 

 





まさに、ソシャゲにありそうな、キャラクター達のたまり場になるような設定!!
あんまりキャラを増やす予定はないのですが、マキナはヒロイン候補っすね。

次回以降の予定はまだ決まっていませんが、とりあえず幕間をやるのか本編を書くのか。
それが決まってから投稿しますね。

とりあえず、主人公とヒロイン達の関係を深堀しつつ、振り回されるのは確定ですww

そう言うわけで、感想や高評価を頂けると、作者の励みになりますので。どうかよろしくお願いします。
それでは、次回をお楽しみに!!

この作品に一番求めている物を教えてください。

  • 世界観や設定など
  • キャラクター同士の掛け合い
  • 主人公の恋愛模様
  • バトルや異能の描写
  • 主人公の毒舌(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。