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希少性:S 持続性:A 破壊力:— 特異性:SS 応用性:A 効果範囲:因果律
説明:
六公爵のひとつ、デーエックス公爵家に伝来される、人形遣いの異能。
一見すると人型の対象物を操る力に見えるが、その本質は“登場人物”になることである。
自身や他人に、役柄を被せ、物事に介入する。それがこの異能なのである。
その性質上、必ずしも使用者の望み通りの結果を得られるわけではない。他人を“登場”させる場合、その傾向が顕著である。
連続で使用すると、使用目的に対する反作用が起こり、最終的に望まぬ結果に収束する。
強力かつ特異な異能だが、使いどころや使い方の見極めが非常に難しい異能と言える。
グランギニョルとは、血生臭い芝居以外にも荒唐無稽な芝居のことをも言う。
この異能で実現できることは、その結末を含めて荒唐無稽なのは既に読者の皆様もご存じだろう。あの死神以上に、荒唐無稽な存在は居ないのだから。
「スーロ」
「はい、お嬢様」
跪く私に、お嬢様はこの首筋に牙を突き立てたっす。
月明りを浴びながら、血を吸われる。
あの時叙勲されたっすけど、これはあの時以上の神聖な儀式だったっす。
なぜなら、吸血と同時にお嬢様の血が送り込まれ、私の全身を支配したっす。
ああ、なんて耽美で、気持ちいいんだろう……。
「連合騎士団の設立以後は、我が騎士として戦働きを期待するわ」
「はい、お嬢様の御意のままに」
いよいよだ、と私は思ったっす。
お嬢様の下僕として、私は戦うんだ。
「スーロ、あなたの考えていることが手に取るように分かるわ」
「はい」
「ズルい、と思ってるわね?」
「ッ!?」
「ヨコタを独占してズルい、と」
「……とんでもありません」
「スーロ」
お嬢様は、私に優しくお言葉を掛けてくれるっす。
「私達に気を使う必要なんてないわ」
「それって……」
「あなたも、ヨコタも、私の物に違いないのだから」
れろ、とお嬢様が首筋の噛み跡を下でなぞる。
ぞくぞくって、身体が快楽で震えたっす。
「まだ先になるでしょうけど……いずれあなたも、我が閨にて可愛がってあげるわ」
「……はい♡」
寝室に呼ばれるまでも無く。
私は今、全身に巡るお嬢様の血に、身体を犯されてるっす……♡
私の血液に交じることなく、私の全身の血脈を蠢いているっす!!
……逆らえない♡
永遠に、私はお嬢様のモノって、わからされてるっす♡
ずっと不思議だったっす。
お嬢様に仕えて間もないヨコタさんが、お嬢様にあれほど忠実なのか……。
あれはきっと、お嬢様の血を受け入れたからなんすね。
あの人も、お嬢様無しじゃ生きられない身体になったんすね♡
私と同じっす♡
苦痛も快楽も、全てお嬢様の思うがまま。
やはりお嬢様こそ、真の
私は恍惚の笑みを浮かべたまま、お嬢様を見上げる。
お嬢様の笑顔は満月の化身そのもので、月天様のようだったっす。
§§§
「……スーロ、お前もお嬢様に血を与えられたのか」
朝食の席で、ヨコタさん……今はヨーコさんっすね?
彼女がそう言ったっす。まだ男に戻ってないみたいっす。
やっぱり、分かるんすね。私も何となく、感じてたっす。
「お嬢様から血を与えられたってことは、スーロも連合騎士団で戦うんだね!!」
隣でパンをスープに付けて食べているサキュちゃんは喜ばしそうにそう言ったっす。
「……俺はただのメイドのままでいて欲しかったけどな」
「ヨーコさん……安心してくださいっす。私はメイド服が正装っすから!! メイドのまま戦うっす!!」
「いや、俺をメイドフェチみたいに言うなよ!!」
こほん、とヨーコさんは咳払いした。
「ニーヴァ侯爵の騎士団の人員や設備がこちらに移送が始まれば、俺達も正式に騎士団メンバーとして活動することになる。
そして、主力メンバーはお嬢様から直々に血を与えられることになる」
「へぇ、どうしてっすか?」
「お嬢様の異能は、どうやら吸血鬼の力に目覚めた者に力を与えることが出来るみたいなんだ」
まるでソシャゲのレベル上げみたいにな、とヨーコさんはよくわからない例えでそう言ったっす。
「恐らく、他種族を吸血鬼にする伝承のように、吸血鬼の力の純度を高められるのだろう。まさに血を支配する、最強の異能の一つだよ。
初代リーリス様もそんな使い方はしてなかったからな。いや、当時はその必要は無かったのか」
「ふむ、ある意味ではメアリース様と同じやり方だね」
マキナ様がブラッドソーセージをナイフで切りながら、そう言ったっす。
……あれ、なんでマキナ様がここにいるんすか?
使用人とお貴族様は、同じ食卓で食事はしないのが当たり前っす。
「……マキナ様、また異能をお使いになったんですか?」
「良いじゃないか。今は卑しい奴隷の身分にやつして食事を取っているんだ。それにリーリス達と毎食一緒なんて、息が詰まる」
ヨーコさんは咎めるようにマキナ……様? マキナさんにそう言ったっす。
「もう何でもありですね、その力」
「君が“役”を与えたからこうなったんだ。その時その時にふさわしい“登場人物”になる」
「程ほどにしてくださいよ。しっぺがえしがくるんですから」
「ふむ、わざわざ奴隷になった時のしっぺ返しとは何なのか、気にはなるね」
私にはわかったっす。マキナさんも、お嬢様の血を与えられている。
「それで、メアリース様も世界によってはステータス画面から、スキルと言う形で恩寵を与えるという」
「ちッ」
「……おほん。しかしながら、リーリスも」
「リーリス様、だ。奴隷。身の程を弁えろ」
舌打ちはするし、ヨーコさんは不機嫌そうにそう言った。
まあ、お嬢様を呼び捨てにするなんて、ありえないっす。家令の立場から奴隷身分の使用人に教育するのは当たり前っす。
「……しかしながらリーリスお嬢様も、ノーコストで吸血鬼の力を引き出すことは難しいだろうね」
「そのうち何らかの石5個で召喚とかしそうですね」
「それは人間の文化かい?
私は、逆だと思うけどね」
「逆?」
「葬儀のことは聞いたよ。
君の血に潜み、お嬢様は復活したと。
だからお嬢様は血を与えた者が居る限り、彼女を完全に殺すのは難しい上に、或いは血を媒介にしてどこにでも現れたり……やろうと思えば可能だろうね」
流石はお嬢様っす!!
お嬢様こそ、本物の真祖の吸血鬼っす!!
「まさに人間が想像する、吸血鬼そのものだなぁ」
「きっと、死の河とかもできるんだろうなぁ、何百万回殺さないと死なないとかも、できるんだろうなぁ。羨ましい……」
「前は意識を共有した自分の複製とか出してましたよ……。治癒能力が極まると自分を複製しだすってのは本当なんだなぁって」
「いいなぁ、私もこんな使いづらい異能よりそっちが良かった!!」
いいなぁ、マキナさん。ヨーコさんとあんな風に仲良くお喋り出来て。
そうして、私達の食事が終わった頃。
「おい、使用人ども。街に繰り出すから準備をしろ」
クリル様が現れて私達にそう仰ったっす。
「旦那様。ご予定にありませんでしたが、如何なる用向きでしょうか」
ヨーコさんは懐からメモ帳を取り出し、クリル様の今日のご予定を確認しながらそう言ったっす。
「今日から一週間ほど、奴隷市が開催されるんだよ。
ちょっと奴隷を買いに行こうかと思ってね」
「……ご主人様、人手なら今私が人形を作っている最中ですが」
「誰が人手が居るなんて言った? 良いから準備しろ」
マキナさんの言葉を退けて、クリル様は踵を返されたっす。
クリル様は普段、自領の書類仕事などをされているので、外出は珍しいことっすね。
「ヨーコさん、奴隷市ですって!!
この間の取材の時に言ってた、あれやりましょう!!」
「……いや、別に良いって」
何でも、ヨーコさんはいつか自分で本を出したいとのことで、私は色々とお話をしたっす。
「ご主人様、狩猟でもなさるのかな?」
「狩猟ですか? 動物を追い立てさせるってことか?」
「いいや。奴隷を獲物に見立てるんだよ」
ヨーコさんはマキナさんの言葉に、絶句した様子だったっす。
「まあ、人間の君には少々ショックかもね」
「ヨコタさん。そもそも奴隷墜ちって、そう言う風に使い潰されるって罰だから」
サキュちゃんが、フォローを入れたっす。
「消耗品なんだよ。長持ちさせるつもりで扱うなんて、ダメなんだ。それが普通なの」
それが、使用人たち下僕階級との決定的な違いなんすよね。
「そうなんだな……」
ヨーコさんは、しばらくショックを受けたまま様子で、御出立の準備をしていたっす。
§§§
サキュちゃんが御者をする馬車に揺られること数時間。
私とマキナさんとヨーコさんは、クリル様に同行したっす。
街は奴隷を買いに来た貴族の皆様で賑わっていたっす。
牢屋を兼ねた馬車の荷台に、ボロキレみたいな服を着せられた奴隷が十人ほど押し込められていて、それが二十台くらいメインストリートに並んでるんす。
周囲には食べ物の屋台とか、色々な露店とか出ていて、なんだかワクワクするっす!!
「今日は多いね。盗賊団でも捕まえたのかな」
クリル様は上機嫌だったっす。
でも、ヨーコさんは既に顔色が悪かったっすね。
「俺の想像する奴隷ってのは、ファンタジーだったんだな……」
ヨーコさんは具体的な奴隷の用途を、馬車の中で詳しく聞いてきてメモを取っていたっす。
過酷な鉱山労働やらドブ掃除を始めとした汚物の処理、それで病気になっても使い捨て。狩りの獲物や、ストレスの捌け口にして暴力の対象にする。豪農みたいな庶民が買えば、休みの日無しで農作業をさせたり……パッと思いつくのはそれくらいっすね。
「ファンタジー? どういう意味?」
「よくある物語では、自分達と同じ生活やら待遇を与えて戦力やら相棒などにして、それで奴隷たちは主人達を慕って恋慕を抱く、そんな内容ばかりでした」
「ぷッ、なにそれ!! ここに居る連中は犯罪の現行犯で捕まった連中だよ?
その場で殺されなかっただけマシってだけだよ」
「うーん、実はそれが冤罪で主人公と復讐するってパターンもありましたね」
「馬鹿馬鹿しい妄想だね」
クリル様はヨーコさんが語る人間の定番の物語を鼻で笑ったっす。
「……ええ、自分もそれで良かったのだと、今思い知りました」
ヨーコさんの目には、現実が映ってたんす。
「こ、これはこれはクリル様!! まさか貴方様がいらっしゃいますとは!!」
奴隷商人はクリル様を見つけると、大声を挙げてそう言った。
奴隷たちを品定めしていた貴族達も、驚いたように目を向ける。
「適当に十人ばかり見繕ってよ。アーリィヤ城に送っておいて」
「かしこまりました」
「……値段交渉などはなさらないのですか?」
クリル様にヨーコさん耳打ちしてたっす。
ヨーコさんはお金に厳しいっすからね。
「奴隷の値段なんて端金だって決まってるからね。
気になるならお前が自分で確認しろよ」
「……そうさせて頂きます」
ヨーコさんは手頃な馬車に向かった奴隷商人のところに行って、こっ難しい話を始めたっす。
そして、その値段の安さに驚いていたみたいっす。
庶民にとっては高価かもしれないっすけど、お貴族様からすれば大した値段じゃないっす。
多分、ヨーコさんのお給料でも二人や三人は買えるんじゃないんすかね?
「あ、そうだ。試したいことがあるんだった。
おい!! あと一人買うよ、ちょっと使うから場所も用意しろ」
「ははッ、御意のままに!!」
奴隷商人は召使のように恭しく、満面の笑みで頭を下げる。
クリル様は随分と気前のいい買い方をしてるっすからね。
「うーん、どれがいいかな……あ、おいマキナ、あれ見てみろよ。お前そっくりだぞ!!」
「勘弁してください、ご主人様」
奴隷の扮装で、奴隷の首輪をしているマキナさんにやにやとしてるクリル様がそう言ったっす。
それ以外はマキナさんは執事服がシュッと似合ってるんすけどね。
「おい、これを買うよ!!」
「かしこまりました。流石クリル様、御目が高い!!
そやつは没落した騎士の末裔で、盗賊団を率いて貴族宅を襲撃した生きのいい奴隷です!!」
マキナさん似の奴隷は、奴隷商人がそう説明するだけあってクリル様を睨んでいたっす。ああ、可哀想に。
よりにもよって、マキナさんに似ていたばかりに、クリル様に目を付けられてしまったっす。
街にある地下牢、そこを間借りしたクリル様は奴隷を牢屋に放り込んだっす。
「旦那様……何をなさるつもりですか?」
「まあ見ていろって」
ヨーコさんは顔を真っ青にしているっす。
でも、クリル様は嗜虐的な笑みを浮かべてるっす、怖いっす!!
「ち、近づくな、貴族野郎!!」
「本当に生きが良いね。まあそれに越したことはないか」
クリル様は酷薄な笑みで、こう言ったっす。
「今から、お前の血を全部抜く」
「ッ!!」
「ここに僕の婚約者の血がある。それをお前に輸血して、お前と言う存在を完全にリーリスに置き換えられるか実験するんだ」
「や、やめッ、いやぁぁ!!」
牢屋に、悲鳴が響いたっす。
「どうだい、リーリス。その身体は」
「……まだ彼女の意識が残っているわ」
血塗れのクリル様。
お嬢様の血を入れられた奴隷が、まるでお嬢様みたいにそう言ったっす。
抜かれた血が、元の身体に戻っていくっす。
でもすぐにそれが、お嬢様の血へと変換されているのが私達にはわかったっす。
「早速、試してみて」
「うん、わかったよ」
クリル様は自分の下腹部に手をぬちゃりと突っ込み、手を引き抜くと奴隷の下腹部に手を差し込んだっす……。
「おい奴隷、お前に何をしたか分かるか?
そこに居るお前そっくりの貴族と、そこの人間とで作った受精卵をお前の胎内に強制的に着床させた」
「ッ!!」
奴隷の身体が、身を捩ろうとして正されたような動きをしたっす。
「僕の家は少しばかり錬金術に詳しくてね。
限りなく正規の妊娠に近い形で、ホムンクルスの生成する。大体一か月くらいでお前はそれを産むだろう。
それがどういう異能を持ち、人間との混血がどの程度純血より劣るのか、実証してみるんだ」
私にはクリル様が何を言っているのか分かんなかったっす。
だけど、とても冒涜的な、邪悪なことをしてるのはわかったっす……。
「僕の異能と、血を支配するリーリスの力……その組み合わせで実現して見せるんだ。我ら月の氏族の復興をね」
ヨーコさんとマキナ様は、震えあがっていた。
けたけた、と嗤うクリル様の声が地下室に響いたっす。
§§§
「大丈夫っすか、ヨーコさん」
「……ああ」
奴隷の意識がお嬢様に成り代わり、身体を乗っ取ったのを見てヨーコさんは体調を崩してしまったっす。
胃の中身を吐いて、泣いていたっす。
「安心してくださいっす、私が慰めてあげるっす!!」
私は物陰で彼女を抱きしめて、ずっと頭を撫でてあげたっす!!
メイド長に叱られた時も、ヨーコさんはこうしてくれるっすから。
「……なんで優しくしてくれるんだ」
「はい?」
「今の俺は女なんだぞ。もう男に戻りたくないって言ったらどうするんだ?」
「……? ああ、確かに!! 結婚できないっす!!」
私はその事実に、今気づいたっす!!
「しかも多分今の俺はスーロより美人で、胸もデカいし……」
「それをわざわざ言う必要はないっすよね?」
ぐぬぬ、いつか私も武功をあげて、クリル様におっぱいデカくしてもらうっす……。
「うーん、じゃあ、代理人を立てるっす。
うちの適当な村の人間と結婚したってことにして、夫婦になるっす!!」
「……わかってるのか? スーロ、俺は今お前の子供を作れないんだぞ」
ヨーコさんはなんでか悲壮な表情で、私を見てくるっす。
「別に子供を作ることが全てじゃないと思うっすけど……」
「俺はこんなにも変わってしまったぞ!! なのに、今もなお俺を好きだっていうのか?」
「当たり前じゃないっすか」
私はヨーコさんが何を言いたいのか、わからなかったっす。
「ヨーコさんはヨーコさん、ヨコタさんはヨコタさんじゃないっすか」
「……ゴメン。試すような真似をした」
ああ、そう言うことだったんすね!!
ヨーコさんはバツが悪そうに顔を逸らしたっす。
「俺はまだ、自分が誰かを好きになるなんて、そんな感覚が分からないんだ。
勿論、スーロのことは好きだよ。でもそれは将来を共にしたいという、そんな好きじゃないんだと思う」
「なんだ、そんなことっすか」
私は可笑しくて、笑ってしまったっす。
「そんなの、ゆっくり考えればいいっすよ。
ヨーコさんが変わったように、ゆっくり変わって行けば良いっす」
「……ありがとう、スーロ」
ヨーコさんは私の腕の中で、少し泣いたっす。
そこで私は、ふと思ったんすよ。
「……ヨーコさん。ヨコタさんに戻った時で良いんすけど」
私も、変われば良いんだって。
「連合騎士団が本格活動したら、いつ命を落とすか分からないっす。
私はお嬢様の為に死ぬ覚悟は出来てるっすから。
だから……──」
ヨコタさんは本当に、チョロいっす。
貴方に会ってから、発情期が終わらないって言ったじゃないっすか。
私は眠る彼をベッドで抱きしめながら、まだ熱が冷めない下腹部を撫でる。
お嬢様、これで最初の御子は私の物っすよ。
次回は引き続きサキュート視点でお送りします。
観覧数がかなり落ち込んで、作者も読者の皆様の読みたい物を書けている自信がありませんが、連載初期は下駄を履かされていたという気持ちで頑張ります!!
でもこのままの調子が続いたら、区切りの良いところで終わらせようと思います。モチベーションが……どうしてもね。
私も皆さんの反応が無いと書いていてつまらないので、感想とか待ってます!!
それではまた、次回!!
この作品に一番求めている物を教えてください。
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世界観や設定など
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キャラクター同士の掛け合い
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主人公の恋愛模様
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バトルや異能の描写
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主人公の毒舌(笑)