吸血鬼だけの世界で、人間ただ俺独り   作:やーなん

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今回は神々の世界のお話になります。
なんか長くなって、普段の二倍以上書いてしまった……。
あ、今回はしょっぱなだけAIイラストで風景の挿絵があります。嫌いな人はOFFにしてどうぞ。



死神の帰郷と、神々の事情

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「ここに来んのも久々だな……」

 

 果てしない砂地だけの荒野。

 死に果てた大地と、終わった歴史。

 さもすれば月面と勘違いしそうな場所であるが、最果てには満月が浮かぶ。

 

 死神は、赤き庭から用事を済ます為、この地に足を踏み入れた。

 この場所は、この滅び去った世界は、かつての彼の故郷だった。

 彼が転生を繰り返すよりもずっと、ずっと昔の話だ。

 

 

 果たしてどれだけ歩いただろうか。

 距離が、時間が、狂っている。

 現世と彼岸が入り混じるようような、一瞬にして永遠の果てに、彼は辿り着いた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 門だ。

 見上げるほど巨大で、途方もない大きさの門だった。

 

 いつそれが目の前に現れたのかもわからない。

 最早この地は、常識では語れない場所であった。

 

 だからこそ。

 

「よう、サイズ」

 

 死神は振り返る。

 彼に声を掛けたのは、知り合いだった。

 

「なんだお前、ザルヴィスじゃねえか」

 

 知り合い、顔を真っ赤にした髭面の大男、ザルヴィスと呼ばれた彼は酒瓶を嬉しそうに煽った。

 

「仲間と一緒にお前新しい世界に移住したとか言ってなかったか?」

「おう、メアリースの奴に良い感じの世界を用意して貰ったんだ。

 ま、あいつが俺ら人類の造物主って、思い知っただけだったがよ」

 

 ザルヴィスは酒瓶を差し出す。死神はそれを受け取って、中身を煽った。

 

「新しい門出に乾杯!! それで、お前ら大勢で、何しに来たんだ?」

 

 ザルヴィスの背後には、数百の男女が立っていた。

 誰もが武装し、鎧や戦装束に身を包んでいる。

 

「その先の、門の奥におわす、“あの御方”からのお言葉だ。

 ──絶対にお前を通すな、と」

 

 ザルヴィス──酒宴の神にして武神たる彼は、巨大な鉄の棍棒を肩に背負った。

 

「つまりだ。俺達はお前を袋叩きにして良いって大義名分を得たわけだ」

「はッ、だせぇ真似しやがる」

「なんとでも言え。おい、みんな!! やるぞ!! 騒げ歌え、宴の時間だ!!」

 

 酒宴の神の言葉に、武神、戦神、軍神の数百名が嬉々として武器を構えた。

 誰も彼もが、一騎当万。世界を危機から救うぐらいの逸話を持ち、死後に神へと昇華した英雄英傑、武を極めた救世主たちだった。

 そして一人残らず、この死神にボコボコにされていた。

 

「面白れぇ、そういやお前ら全員同時にやるのはまだだったなぁ!!」

 

 満月から、魔剣が降って来る。それを手にした死神が、目の前の神の軍勢に相対した。

 

「さあ、やろうぜ!!」

 

 不毛の大地が、神々の戦場と化した。

 

 

 

 一瞬とも、永遠とも言えない時間が過ぎた。

 

 武芸を極め、数多の武功と戦功を手にした英雄英傑が不毛の大地に倒れている。

 

「これだけの戦神や軍神が率いる英雄たちをモノともしないとは!!」

 

 この中でも屈指の戦神が、死神の武勇を称えた。

 戦神とは、個人の武勇で成り上がった武神に対し、主に自らも先陣切って戦うタイプの武将などが後に神格化した存在である。

 逆に、軍神とは完全な後方支援、戦場を知略などで支配した軍師などが神格化した神である。

 

「いや、あんな無茶苦茶な相手に軍略とかどうしようもないでしょう……」

「そもそもこれが戦争とも言えるものなのか……」

「しかし、これまでの奴の強さを分析し、効果的に対処できてはいる筈……」

 

 軍神たちは軍議を行いながら、前線で戦う武神や戦神たちを支援する。

 魔法で地形を変えたり、卜占で戦況を有利に変えたり、扇からビームを撃ったりと、各々の得意分野で死神を叩き潰そうとしていた。

 

 まさに総力戦。武勇や武功を誇る神々が、たった一人を叩きのめす為に総動員していた。

 

 が、それも終わる。

 

「はあ、はあ、俺の勝ちだぜ!!」

 

 その全員を、死神は叩き潰した。

 己の武芸、異能、その全てを駆使して、最強を示した。

 

「う、うわーん!! や、やっぱり無理だったぁ!!」

 

 非常に珍しい女性軍神ヴィオライラが砂まみれになりながら叫んだ。

 彼女はずっと伏せていたので、ほかの軍神たちのように蹴散らされてなかった。

 

「おい、ヴィオライラ」

「あ、あう、助けて、お姉ちゃん!!」

 

 死神に詰め寄られ、助けを呼ぶ軍神。

 しかし、彼女の姉たる戦神は、今さっき蹴散らされたばかりで大地に倒れ呻いていた。

 

「あ、あの、サイズさん、私、軍衣を司る女神でしてぇ、戦場に立ったことすらない、戦意高揚とか国威発揚とかの分野の女神なのでぇ、正直戦う力なんて無いクソザコなんで痛いのは嫌かなぁって!!」

 

 オシャレな軍服の女神は必死に弁明していたが、むんずと髪の毛を掴まれ、起き上がらされた。

 

「ちょっと、女性の髪の毛を掴むなんて、ルナさんが怒りますよ!!」

「知るか!! なんだこの大騒ぎは」

「聞いてたでしょ!! あの御方が、貴方を通すなって──」

 

 へりくだってたのに髪の毛を掴まれて怒り出す女神だったが、その時、不思議なことが起こった!!

 

 ういーん、と砂だらけの大地が割れて、煌びやかな四角いステージがのし上がってきた。

 

 大量のスモークが焚かれ、ライトの灯りと共に登場した四人組の女神が声を挙げる。

 

「どうもー!! 今日は私達GodⅣsの緊急ゲリラライブに集まってくれて、ありがとー!!」

「「「ありがとー!!」」」

 

 死神は、ぽかんとなった。

 

「それでは聞いてください。私達のデビュー曲!!」

 

 スピーカーから大音量で音楽が鳴りだす。

 四人の芸能神(アイドル分野)が歌って踊って、可憐にステージを舞う。

 

「なんだこれ……」

 

 当然アイドルなんて無縁の生活をしている彼は訳が分からなかったが。

 

「う、うおー!! GodⅣsのライブだ!!」

「オレ、あのクソ死神に勝ったら、ほっぺにちゅーして貰う約束してんだぜ!!」

「はぁ、死ねよお前!!」

 

 武神たちが野太い声を挙げて、立ち上がる。

 

「ああ、踊り子が舞踊とかでバフとか蘇生をするアレか……」

 

 ようやく死神はこの急なゲリラライブの意図を理解した。

 

「悪く思うなよ、死神。お前を倒したら彼女らにデートして貰うってことになってんだ……」

「お前、昔戦場で女を抱くために大勢連れてたじゃねえか」

「おいバカ、あの四人に聞こえるだろ!!」

 

 死神にツッコまれ、しどろもどろになる武神。

 だが、芸能神の力で次々と武神たちは復活し始めた。

 

「まだまだこれからだぜ、存分に卑怯だと言うがいい!!」

「いーや」

 

 死神は頭を振った。

 

「最初からこうしておけばもっと楽しめたじゃねえか!!」

 

 彼は嬉々として、復活した神々に立ち向かった。

 

 

「ふん、貴様らが復活したところで何になる」

 

 その時、星の明かりしかないこの世界に雷鳴が鳴り響く。

 天空より、空を覆うような超巨大な大鷲が舞い降りたのだ。

 

 雷を司る雷神だった。

 

「そうとも。所詮貴様らは人間。

 我ら自然の化身こそ、最高位の神性よ」

 

 突如遠くで、山が盛り上がり、噴火する。

 その火口から、巨大なトカゲが顔を覗かせる。

 

「死神よ、貴様らは先代が世話になったそうだな。

 だが、我々が後れを取ると思うなよ」

 

 地平線の果てから、津波が押し寄せる。

 その波にのって半人半漁の津波の化身が顕現する。

 

「我ら、新しき世代の自然神の力、思い知らせてくれるわ!!」

 

 大地が罅割れ、そこから全てを飲み込むような巨体のナマズが現れる。

 

 地震、雷、津波に、噴火。

 嵐の神こそ居ないが、自然災害を司る神々が一度に姿を現したのだ。

 

 一体一体でもこの場に居る武神達を圧倒するほどの神威。

 

 神々は代替わりをする。

 火を消しても、火と言う現象そのものは消えない。だが、火元は消える。

 

 かつて死神たちが戦った自然神とは異なる、生物がその席に座ることで神々の世界は平穏が訪れた。生物の時代の訪れだ。

 しかし、先代たちと全く同じ力を誇る暴威が、四体同時にやって来たのだ。

 

「おもしれぇ!! 先代たちと付けられなかった決着、付けようや!!」

「てめぇは飽きて投げ出しただろうがボケが!!」

 

 最高に楽しそうにしている死神に、当時を知る数少ない旧世代の武神が怒鳴り散らした。

 

「ルナ!! 合体すんぞ!!」

「ええ、良いわよ」

 

 月光が死神に集中し、彼は月の女神の権能を獲得した。

 彼の黒髪が伸び、黄金色に輝き始めた。

 

「くそ、あいつばかりルナティアさんの愛を独占しやがって!!」

「ズルいぞ、俺もルナティアさんと合体(意味深)させろ!!」

 

 更にパワーアップした死神は、後ろの連中の野次を無視して、災害の神々に挑みかかった。

 

 

 十数時間後。

 

 四自然の神々は折り重なって伸びていた。

 死神はそんな自然の暴威を忘れて、武神達と戦いを繰り広げている。

 

「はあ、はあ、どうしよう姉さん、もう持ち歌もカバー曲も歌い切っちゃったよ!!」

「なんのこれしき!! 百時間耐久ライブを忘れたの!?

 ここからは即興で演るわよ!!」

「わかりました、姉さん!!」

「みんなー!! 私達四人の即席作詞作曲ライブが始まるよー!! 聞き逃したら二度と聞けないよ!!」

 

 四つ子の芸能神が楽器を取り出し、ローテーションを組んで歌って踊り始めた。神域に至った才覚を存分に発揮し、ライブを続ける。

 

 が。

 

「ふ、所詮流行り廃りの激しい若さだけが取り柄の四人組などこの程度よ」

 

 彼女らのステージの真横に、オーケストラの楽団が現れる。

 誰もが各々の分野で歴史に残る第一人者、神格化された神業の持ち主にして、神器に等しい名器を手にしていた。

 

「クラシックこそ、至高の音楽。それを見せましょう!!」

 

 指揮者を務める音楽神が自信満々にそう言った。

 

「聞き捨てならなぇな!!」

 

 その横に、今度は禍々しいステージが出現する。

 

「デスメタル!! ロックこそ、魂を揺さぶる音楽の極み!!

 悪魔の力を我が物とした、俺らの演奏こそ至高!! 古さ自慢とクソアイドルは引っ込んでろ!!」

 

 悪魔の姿をした怪人のロックバンドが、悪魔の宿った楽器を手にデスボイスを披露する。

 カルト的人気を手にし、死後もその分野で神格化したロックバンドが名乗りを上げた。

 

「あの、皆さん、これ対バンじゃ……最初の趣旨覚えてます?」

 

 対抗心バリバリの音楽神どもに、四つ子のアイドル神はドン引きしてた。

 

「じゃあ、お前らあれが見えねぇのか」

「はい?」

 

 悪魔のギタリストが指さす方には、戦いやらライブやらを肴に酒盛りをし始めている神々が居た。

 

「行け、やれッ、あのクソ野郎を叩きのめせ!!」

「あの野郎のせいで我々にどれだけ風評被害を被ったことか!!」

 

 本当に死を司る神々が、酔っぱらいながら武神たちを応援している。

 そう、死神の名は異名で、別に彼は死を司る神でも何でもなかった。

 基本的に死の神は真面目でなければ務まらない。彼らの鬱憤は当然と言えた。

 

「なにやってるのよ男ども!!

 さっさとその死神を倒して、ルナティアの顔を悔しさで歪めてやりなさい!!」

「そうよそうよ!! 誰が一番美しいかで、毎回名前に上がるのに、自分は素知らぬ顔しててムカつくのよ!!」

 

 多くの分野で美を司る女神やら男神やらが、野次を送っている。

 目立つのはそんな集団で、他にも様々な神々が顕現して宴をしていた。

 

「どいつもこいつも……私達四人が、どれだけ覚悟をして戦場で営業をしてると思って……」

 

 アイドル神たちはげんなりしていた。

 比較的若い女神である彼女らは、芸能神の中では弱小なので仕事を選べないのである。

 そして、他の大御所の芸能神たちは、宴の中で芸を披露していた。

 

「姉さん、これ以上やってられないよ!!」

「でも、私達はプロなのよ……」

「だけどどいつもこいつもダメじゃん!!」

「そうよ、どうせ神域で炎上もコンプライアンスも無いし、もっと罵ってやりましょう!!」

「そうよね……こんなの、やってられるか!!」

 

 彼女達はマイクをステージに叩きつけて叫んだ。

 オーケストラ楽団も、ロックバンドも、好き勝手演奏を始めている。

 

「こんな連中滅べばいいんだわ!!」

 

 

 

 

「おい」

 

 

 全ての神々が、ほんの僅かも身動き取れなくなった。

 

 門が開く。

 

「もういい、役立たずども」

 

 門の奥から、声がする。

 少年の声だった。

 

 そこにいる全ての神々は、震えあがった。

 そして、頭を下げて地に伏せる。

 

「これ以上うるさくするなら、お前ら一人残らずアメーバにしてやる」

 

 足音が迫る。

 一歩一歩、迫る度に重圧が増す。

 

 巨大な門から、神経質そうな眼鏡を掛けた少年が姿を現した。

 誰も、声を出せない、喉が枯れていた。

 

 存在の規模が、格が違う。

 自然災害の神々ですら、ひれ伏すほかない。

 

 そんな絶対的な存在が、門から現れたのだ。

 

 

「よう、久しぶりだな」

 

 ただひとり、死神だけは立ったまま陽気に片手を上げた。

 

「何なのお前達。この体たらくは」

 

 が、少年は無視した。

 

「も、申し訳ありません!!」

「まあどうせ期待して無かったよ。

 武の神なんて言われてても、所詮他の命を奪うぐらいしか出来ない脳みそ筋肉のバカ共だって知ってたし」

 

 少年の口から、純粋な罵倒が放たれた。

 誰もそれに逆らえない。異を唱えられない。

 

「戦神も軍神も、同じだよ。

 お前達の功績を見て、後世の連中はどれだけ殺したかを悦んでるんだ。気持ち悪いったらありゃしない!!

 お前達もそう思うよな? 憧れなんて言葉でデコレーションして、屍の山をチョコレートでコーティングして、嬉々として貪るんだ。

 ああ気持ち悪い、おぞましい。そう思わないか?」

「……はい、おっしゃる通りです」

 

 稀代の軍師が、様々な感情を飲み込んで肯定した。

 

「お前の言いたいことはわかるよ。

 人間にも良いところはある、素晴らしいところは一杯ある!!

 でもさ、それで薄汚れたゴミのような部分がそれで拭い去れると思うのか?

 なあ、リェーサセッタ?」

「はい。おっしゃる通りです」

 

 邪悪の女神、リェーサセッタが彼にひれ伏していた。

 怯えている。形の無い悪そのものが、目の前の少年の姿をしたナニカに怯えている。

 

「(なにが、神だ。この私が神だと。馬鹿馬鹿しい)」

 

 諦めだった。彼女が語ったように、神とは諦めの形だった。

 

「(これに比べれば、ここに居る誰が神などと言えるものか!!)」

 

 彼女にとって本物の諦めそのものが、そこに居た。

 

「お前の娘が言ったよな。汚らわしいなら一緒に捨てれば良いって。

 僕も心の底からそう思うんだ。メアリース、お前もそう思うよな?」

「……はい」

 

 死神の他に、唯一地に伏せない神が居た。女神メアリースだった。

 

「お前、人間の精神は成長するって信じてるんだったな」

「はい。その通りです」

「じゃあこうしよう。人間って種族はずっとこのままだ。

 これからずっと成長しない。ゴミのような連中が蔓延り、他の奴らの足を引っ張り続ける。今決めたぞ。良かったなメアリース、お前は人間なんかに期待しなくて良いんだ!! お前もその為に無駄な労力を割かなくていいんだ……嬉しいだろ?」

 

 女神メアリースは両目から滂沱の涙を流していた。

 目の前の存在によって、人類の成長を完全に閉ざされたからだ。

 

 “絶対”だ。他に何の表現の余地もない、絶対がそこにいた。

 

 神々の頂点足る“全知全能”の権能。

 その玉座に座るその彼を、誰もがこう呼んだ。

 

 “暴君”と。それ以外に、彼を形容できない。

 

 そして人間出身の神々が多く占める神域ににおいて最悪なことに。

 彼は誰よりも、人間と言う生き物が嫌い嫌いで仕方がなかった。

 

「気持ち悪い、気持ち悪い!!

 お前ら全員だ!! 手ずから殺すのも触れるのも見るのも嫌だ嫌だ!!」

「お、お許しください……」

「ならなんで僕を起こした!!」

 

 “暴君”は、目の前の神々に怒鳴り散らした。

 その威圧だけで、彼らはぺしゃんこになりそうだった。

 

「お前達は僕が起きれば全てを祟ると知っていただろうが!!

 僕もお前らなんかに関わりたくないから、ずっとそこの寝床で寝ていたって言うのに!!

 なんでそこのバカ一人止められないんだ!!」

 

 “暴君”は怒り狂っていた。

 彼が門の外でそうしているだけで、ありとあらゆる世界で大災害がが起こっていた。

 

「責任を取れよ」

 

 冷酷な、暴虐そのものが告げる。

 

「お前達全員代替わり。人類はリセット。それ以外の種族もだ」

「そ、それだけは!!」

「お前ら負けたじゃん。負けたなら死ねよ。それとも死ぬ覚悟も無いのに戦ってたわけ?」

 

 その言葉に、武に携わる神々は何も言えなかった。

 

「次の代の神々は、二度と僕に近づこうと思えないようにもっともっと祟ってやるよ。

 知能はアメーバ以下で良いよな? どうせお前たちの産み出す文化なんて、カスなんだからさ」

 

「お、お助け下さい……」

 

 女神リェーサセッタが、懇願した。

 

「──女王様ッ」

「はい、良いですよ」

 

 神々のほぼ全員がひれ伏すその場に、ふわりと黒子の装束の誰かが現れた。

 

「ダーリン♪」

「杏子か」

 

 怒り狂っている“暴君”の腕に、覆面を外した幼い女神が抱き着いた。

 

「もうそこまででいいでしょう?

 皆さんも反省したでしょうし」

「嫌だね!! 僕はそこのイカレ殺人狂に絶対会いたくなかったんだ!!」

「またまたぁ、お願いダーリン♪」

「い、や、だッ!!」

 

 まるで見た目そのままの子供のように、“暴君”は伴侶の頼みを拒絶した。

 

「そんな、ダーリンったらもう。

 いくらサイズ先輩がダーリンより男らしいからって……私がダーリン以外に靡くわけないじゃないですか!!」

 

 幼い女神は、くすくすと彼の嫉妬心をからかった。

 

 ここに居る全ての神々は思った。そんな理由かよ、と。

 

「だからほら、みんなをイジメるのはやめましょう?

 カッコ悪いですよ。そんなダーリン、嫌です」

「……」

「ほら、キスしてあげます、ほらちゅー」

「やめろ。うっとおしいな」

「あ、そんなこと言っちゃいます?」

 

 “暴君”は、愛情表現をしてくる運命の女神に投げやりな視線を向けるが。

 

「どうせみんな消えるんですし、ダーリンの黒歴史を喋っちゃいまーす!!」

「おい、止めろ……」

「実はまだ初恋を引きずって──」

「わかった、わかったから、止めろ!!」

 

 “暴君”は声を荒げて、伴侶の口を手で覆った。

 

「……よかったなお前ら。運命はまだこの世は滅びるべきじゃないって言っているみたいだ。

 まただ。また滅ぼせなかった。ムカつく、ムカつくよ」

 

 彼はそう言いつつも明らかに機嫌を持ち直していた。

 これには神々も、ホッとした。

 

 “暴君”が指を鳴らす。

 彼がこれまでした決定も、彼の顕現で巻き起こった全ての世界の大災害もその犠牲者も、全て無かったことになった。

 

「……それだけの御力を持ちながらなぜ、人類の為にそれを使いになって下さらないのですか?」

 

 女神メアリースの言葉を、彼は無視した。

 

「その全知全能の権能さえあれば、人類が夢見る永劫楽土を、完成させられるはずなのに!!」

「そうか。お前の夢見る楽園とやらは、随分ちっぽけなんだな」

 

 “暴君”は彼女を鼻で笑った。

 

「だからお前はその程度なんだ。教えてやろうか、人間はバカだから力を使いたがる。でも僕は賢いから使わない。ただそれだけのことだよ。

 だから二度と、僕を起こさせるな。僕の我慢にも限度があるからな」

「まあ、ダーリンが私のお願いを聞いてくれないほど怒ってたら、どうしようもないってことで」

 

 ちゅっちゅ、と“暴君”のほっぺにキスの雨を降らす運命の女神がそう言った。

 

「失せろ、役立たずども」

「……終わったか?」

 

 死神は立ちながら寝ていた。

 ようやく自分の用事になったことで、目を覚ました。

 

「じゃあ聞かせろよ」

「お前に言うことなんて無い」

「ゲダモノのことだよ、知ってんだろ」

「管轄外だ。僕の権能の及ぶ範囲じゃない」

「マジかよ……」

 

 全知全能の神をもってしても、ゲダモノの存在は感知できない。

 その事実に死神は驚いた。

 

「お前この世の管理者だろ、何とかしないのか?」

「なんで?」

「何でって……」

「こっちの領域を滅ぼしてくれるんなら、大歓迎だよ。好きなだけこっちを喰らえばいいさ。

 それとも僕に責任があるって? じゃあ聞いてみようか」

 

 “暴君”は神々に問うた。

 

「僕に責任があると思う奴、手をあげろよ」

 

 誰も、手を挙げなかった。身じろぎさえない。

 

「だってさ。僕に責任は無いってよ」

「おいおい……」

「ダーリン、あいつらキモイからイヤだ」

 

 “暴君”は溜息を吐いた。

 

「お前ら、好きに対処しろ。よきに計らえってことだ」

「よーし、楽しみだぜ。異界の神って奴はよぉ」

「じゃ、僕は寝る。次は無い」

 

 “暴君”は踵を返した。

 

「ふーん。じゃあ俺が次来たらどうする?」

「お前が最強だって認めてやるよ」

 

 彼は振り返り、死神にそう言った。

 

「お前より強い奴なんて永遠に現れないようにしてやる。どうあがいてもお前が一番強いんだ、嬉しいだろ?」

「ちッ」

「最近ここがなんて言われているか、知ってるか?

 “聖地”だとさ!! 偉大なる女神メアリースの生誕の地!!

 ……だがここに来た奴は僕の眠りを妨げる奴だ。どう扱っても文句無いよな、メアリース!!」

「はい、大師匠……」

 

 彼がメアリースに当たりが強いのは、生前からの知り合いだからであった。

 

「……お前がわかんねぇ訳ねぇだろ。

 人間ってのは聖地って言葉が大好きだ」

 

 死神がぼやくようにそう言った。

 “暴君”はもう振り返らない。

 

「そこまでして、俺達の……こんな砂だらけの故郷を守らなくたって良いじゃねえか」

「お前に何がわかる」

 

 門が閉じる。重厚な音を立てて、扉が閉ざされる。

 

 

「……お前、何したんだ?」

 

 ようやく顔を上げられた神々。

 酒神ザルヴィスは死神に近寄って、彼に問うた。

 

「あれだけ嫌われるなんて、普通じゃねえぞ」

「いや、ただあいつが人間だった頃に半殺しにしたり、魔術の研究成果を寄越せって脅したぐらいなんだが……」

「──なんでお前殺されてないんだ?」

 

 ザルヴィスは真顔で言った。

 

 かの“暴君”は人間だった頃から、神の如きと称される魔術師だった。

 魔術師にとって研究成果は命より勝るもの。

 百度八つ裂きにされても不思議ではない。

 

「それより、当てが外れた。

 あいつならゲダモノの弱点とか知ってそうだったのによ」

 

 ドカッと地面に座り込んで、そう呟く死神。

 強敵に相対するのに無策で挑むのは彼にとって侮辱に等しいのだ。

 

「折角影響力の多い大神が揃っているのだ。

 今すぐ対策を話し合おうぞ」

 

 邪悪の女神リェーサセッタがそう言った。

 

「……そうね。どいつもこいつも我が強いし、一か所に集まることすら難しいし」

 

 文明の女神メアリースが、自分のことを棚に上げてそんなことを言った。

 我が強くなければ神になど成れない。

 

「それもそうね。サイズも戦いたいみたいだし」

 

 死神から分離した、月光そのものがそう言った。

 吸血鬼リーリスそっくりの、月の女神ルナティアが顕現したのだ。

 

 他にも数多の生物たちから崇拝される大神たちが、合計七柱顕現した。

 この場に集まった格の低い神々は、そっとその論議を見守る。

 

「あの侵略者共のいる世界を、焼き払えばよかろう」

 

 炎を司る、熱そのものが言葉を発した。

 

「私もその意見には賛成よ。

 リスクコントロールを行い、最小限の被害で留まるうちに滅ぼすべきだと思うわ」

「では、我がやろうか」

「でもそこの住人に、私は時間を与えたわ。

 その約束を破るわけにはいかない」

 

 メアリースは淡々とそう宣言した。

 

「ルナティア。スカーレットガーデンはお前の子孫たちがいるのだろう? 何か意見を述べよ」

 

 霊山の化身、巨大な狼の大神が口を開く。

 

「私はどうでも良いわ」

 

 満月を見上げればそこに見られる、横顔の美女が月光のような美しい髪の毛を手入れしながらそう言った。

 

「……どうでもいい?」

 

 その言葉に理解が出来ず、霊山の化身は首を傾げた。

 

「だって、あの子たちはサイズを楽しませられないみたいだし。

 サイズがいつか戦う為に用意したのよ? 最強の吸血鬼と戦いたいって言うから。

 でもダメそうだから、どうでもいいの」

 

 ここに居る神々は絶句した。

 人と交わり子を為した者も多いからこそ、その言葉が信じられなかったのだ。

 

「それが、己の子孫への言葉か、ルナティアッ!!!」

 

 リェーサセッタが激怒してそう言った。

 邪悪を司る神ながら、母神としての側面を持つ彼女はその言葉が許せなかった。

 周囲に論議を見守る多くの地母神たちも頷いた。

 

「なぜ彼らがあれほど弱体化したか今分かったッ。

 貴様、彼らへの加護を絞ってるな!!」

「だって外敵も無いし、平和に暮らしてるじゃない。何で強さを維持する必要があるの?」

 

 吸血鬼たちの創造神が、創造物に関心を払っていない。

 それは、当事者にはきっと想像を絶する尊厳破壊だ。

 

「おい、ルナ。そりゃねえだろ」

「サイズ。貴方がそれを言うの?

 外神と戦えるってなって、ようやくあの子たちを思い出した貴方が?」

 

 月の女神の横に座る死神が苦言を呈するが、彼女は可笑しそうに笑うだけだった。

 

「今からあの子たちに加護を与え直しても、元の強さに戻るのは千年は掛かるでしょうね。

 私は別にどっちでもいいわ。滅んだなら滅んだで。だからみんなも遠慮しないでいいわ。

 ね、新しく理想の吸血鬼を作れば良いわよね、サイズ?」

「話にならんな……」

 

 リェーサセッタは吐き捨てるようにそう言った。

 古来より、人々は空に浮かぶ満月に狂気を見た。

 それそのものたる月の女神に、常識のある会話が成り立つわけが無いのだ。

 そもそも、月という自然そのもに対話をしようとすること自体狂っている。

 彼女の愛は、己の英雄たる死神にのみ注がれているのだから。

 

「……ゲダモノとは、俺と俺の息子たちで戦う。

 俺らがダメだった時はお前らが戦えや」

 

 死神が立ち上がる。それ以上の論議は不要だと言わんばかりに。

 

「私も行くわ。外神が強いと良いわね、サイズ」

「……ああ、そうだな」

 

 歩き去る死神にべたべたとまとわりつく月の女神。

 いつしか両者は立ち去った。

 

「まったく、頭が痛いわい」

 

 水を司る、とぐろを巻く巨大な竜神が溜息を吐いた。

 

「少なくとも、ゲダモノを操る外神は我々の常識が通じない、理解を超えた存在よ。

 以前、奴らの落とし子が現れた時は、防衛戦をした数柱の武神が犠牲になった」

 

 当時、処分を担当したメアリースは深刻な表情でそう告げる。

 この問題に興味のない者など考慮に入れるつもりは無いようだ。

 

「我々にも他人事ではない、か」

 

 竜神は呻くように息を吐いた。

 

「念のため、あのバカ共が失敗した時に備えねばなるまい」

 

 霊山の大神がそう述べた。

 

「武神達を編成し、いざとなれば……」

「そうなるな」

 

 スカーレットガーデンを処分するしかない。

 この場に集った神々はそう結論を出した。

 

「それでよろしいでしょうか、女王様」

「……あ、私に言ってます?」

 

 あの“暴君”が認めた伴侶は、暴君人形と死神人形で遊んでいた。

 

「そうですねー。あのキモイ奴らがいっぱいになったら、ダーリンにお願いしてみんな消してもらうんで、皆さん気楽にやりましょー!!」

「……はい」

 

 運命の女神は皆をそんな風に鼓舞したが、彼女は運命そのもの。

 お前ら揃って役立たずだから消すね、と“暴君”が宣言するというゲームオーバーの条件を提示したに等しかった。

 

「あと、私のことは王女様でお願いしますねー。

 だって女王様より若そうじゃないですか。私、神に成った時17歳だったんですよ? 私達に時間の概念は無いって? それはそうですけどー」

「かしこまりました……」

 

 あの“暴君”が耳を貸すのは彼女だけなので、他の神々は特に異を唱えなかった。

 彼女は彼女で話は通じないが、旦那よりかはずっとマシだった。

 

「ダーリン!! そう言う風に決まったんで、良いですよね?」

 

 門から返事は無い。それが答えだった。

 

「そう言うわけで、多分聞いてたと思うんで、それで行きましょー。

 ではみんな、手を取り合って侵略者に打ち勝ちましょね!!」

「それはつまり」

 

 女神メアリースはこう言った。

 

「私が以前、人間だった頃の貴女を切り刻んで実験材料にしようとしたアレ、まだ根に持っているみたいだけど、いい加減水に流してくれるわけね」

「やっぱ無しで」

 

 人間だった頃、女神メアリースはマッドアルケミストだった。

 神とは、我が強くないと成れないのである。

 

 

 

 





今回のお話の要約。
・神々は結構愉快な連中ばかりで、それなりに仲良くやってる。
・月の女神ルナティアは自分の子孫に興味が無い。

それだけですね!!

ではまた次回!! 次回から、四章に突入します。

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