吸血鬼だけの世界で、人間ただ俺独り   作:やーなん

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怪物の目覚め

 

 

 

 またリーチが出た。

 こんな頻度で出現するのは、間違いなく異変ではあるそうだ。

 

 問題なのは、それの解決に俺が呼ばれる必要があるのか、ということだ。

 だから、俺は屋敷に向かう最中に、スーロに問うた。

 

「スーロ、お嬢様はまだ起きてないのか!!」

「まだっす!!」

 

 なるほど、それは事である。

 

「何と言うかこう、起こすってことは出来ないのか!?」

「出来ると思うっすか!?」

「だよなぁ!!」

 

 俺は走りながらそう叫んだ。

 真祖の吸血鬼がこんなに燃費が悪いなんてありえない。

 あのラノベには数日ぶっ続けで戦っていた描写もあるくらいだ。

 

「はあ、はあ、遠い……」

 

 走っても走っても、お城の入り口が遠い。

 東京ドーム四つ並べても余裕で入りそうなこの庭、何の意味が有るんだよ。貴族ってどうかしてる。

 

「ヨコタさん、失礼するっす」

 

 すると、スーロが俺の腰を掴んで跳躍をした。

 

「う、うわッ、うわあぁ!!」

 

 それは紐無しバンジーか、ジェットコースターか。

 人体二人分の着地を難なく行い、もう一度ジャンプする。

 

 数度それを繰り返して、城の入り口に到着した。

 

「こっちの方が早いっす!!」

「……うん、ありがとう」

 

 俺は屈託なく笑う彼女に、そう言うしかなかった。

 

「えへへ、できればお父さんみたいに、撫でて欲しいっす!!」

「お、おう……」

 

 俺は言われるがままに、スーロの頭を撫でた。

 髪の毛はさらさらで、ケモミミも触り心地が良くて温かい。こんな状況でなければいつまでも撫でていたいくらいだった。

 すると、メイド服の背中の方のスカートからバサバサって音がし始めた。そう言えば、普段はメイド服に隠れてるが尻尾もあるんだった。

 

「よ、よかったら尻尾も……」

「……スーロ」

「あッ、こんなことしてる場合じゃなかったっす!!」

 

 スーロがドアを開ける。

 メインホールの中心に、メイド長とキュリアさん、サキュート郷が集まっていた。

 そして、村人らしい粗末な格好の男吸血鬼が一人。

 

「ヨコタさんも来ましたか。

 村長、もう一度説明をお願いします」

 俺が来たのを認め、メイド長が彼に促した。

 

「へ、へい」

 

 どうやら村長らしい彼は、顔を真っ青にしながら頷いた。

 普段ならイケおじみたいな渋い大人の男性と言った見た目なのに、恐怖で怯え切っている。

 

「養豚場で働いているヘイドリックの奴が、り、リーチになっちまったんですわ!!

 ワシらはとにかくバリケードで守りを固めて、今は自警団の連中が応戦してくれてるんですが……」

 

 俺は行ったことが無いが、一番近くの集落までは歩いて一時間はかかるらしい。

 今どうなっているか、想像もしたくないだろう。

 

「……どの集落にも瘴気を遠ざける結界が張っている筈だ。

 なのにこの発生頻度、明らかに異常が過ぎる」

 

 キュリアさんは眉を顰めてそう言った。

 

「それに、犠牲者が増えるとまずい……」

「ええ、今すぐ対処するべきですが……」

 

 メイド長はそう言ってから、口ごもる。

 お嬢様はまだ眠りから覚めていないようだ。

 

「め、メイド長!! 私が、私がやるっす!!」

「スーロ!! しかし、背に腹は……」

 

 メイド長には、心配、の二文字が顔に書かれているようだった。

 

「私も同行しよう。前々から調査をしたかったし、リーリスには先々代から恩がある」

 

 きゅ、キュリア院!!

 

「私も行きます、戦いで役に立てなくても人手は多い方が良い筈です」

 

 サキュート卿はスーロを見ながら、彼女を案じている様子だ。

 

「人間君、君も来てくれないか?」

「……俺もですか?」

「ああ、万が一の場合、その方が犠牲を減らせるだろうからね」

 

 キュリアさんは最悪の事態を想定している。

 なぜなら吸血鬼と戦う時の犠牲とは……。

 

「わ、わかりました、俺に出来ることがあるなら……」

 

 俺に、俺に何が出来るんだろうか。

 

「話は聞かせて貰いました」

 

 城の入り口のドアが開き、お嬢様の妹君が現れる。

 場の空気が、一気に冷えるのを感じた。

 

「妹様……」

「私も彼の護衛として、一緒に向かいます。

 微力ながら、治癒と支援の魔法なら心得がありますわ」

「……今は四の五の言っている場合ではない、か」

 

 あまり彼女と城の者達と、関係が良くないのかもしれない。

 みんな、妹君と視線を合わせようとしない。

 

 とまあ、そんな空気ではあったが、リーチ討伐隊はこうして結成された。

 

 

 

 §§§

 

 

 頭の無い馬──夜馬(ナイトメア)に牽かれる馬車に乗り、御者としてサキュート卿が馬を駆る。

 荷車に乗る俺の両脇を、スーロとキュリアさんが固めて身体を俺に寄せて触ったりしてくる。

 キュリアさん、このために俺を同行させたんじゃなかろうか。

 

 両手に花、いや吸血鬼だから造花かもしれない。まったく嬉しくない。

 

「……リーチって、どうして発生するんですか?」

 

 ベルトから下を死守しながら、俺の身体に触って来るキュリアさんに問うた。このまま黙っているのは居心地が悪い。

 

「うーん、人体は正と負の魔力、その均衡によって成り立っているんだけれど、負の魔力、瘴気が過剰に増加した場合、精神や肉体に異常が起こる。

 知能の低下や食欲の異常増進、異常な肉体の細胞分裂……結果として肉風船みたいになるんだ」

 

 と、キュリアさんは語った。

 

「そうなっては、もう手遅れです。

 幾ら衰えたとはいえ、我々は肉体的損傷が快復すれば、心臓が止まっていても息を吹き返しますが……」

 

 妹君はそう付け加えた。

 そうなのだ。伝承通り、吸血鬼はそう簡単に死なない。

 

 人間なら脳死すれば手遅れだが、吸血鬼は生命活動が停止しても後で外部からショックを与えれば何でもないように生き返る。

 だからこそ、犠牲と言うのは重い。

 

 そして、ふと思う。

 

「なんっすか? ヨコタさん」

 

 俺の肩に顔をすり寄せているスーロを見やる。

 彼女は吸血鬼として力に目覚めなかった方が、幸せだったのではないか、と。

 

 衰退して俺達人間と同じような感性を得て、そのまま残虐さと無縁のまま滅亡した方が、よかったのではないか、と。

 勿論、それは人間である俺の価値観でしかない。

 

 だが、そう思わずにはいられなかった。

 スーロはここ一週間で、本当に健気な子だと知った。

 

 なぜ彼女が、戦う必要の無い子が戦いに駆り出されなければならない。

 吸血鬼達が衰退したからか? 彼らがその為に何もしてこなかったからか? そう言う種族だからか?

 

 ……俺は、どうしたいんだ?

 

 

 

 §§§

 

 

 覚悟していなかったわけではないが、現場は修羅場だった。

 悲鳴と怒号が飛び交い、自警団らしい吸血鬼達が数人がかりで応戦をしている。

 集団で盾を使い攻撃を受け流し善戦はしているが、劣勢なのは明らかだ。

 

 バリケードの後ろで、治療もままならずに放置された怪我人が何人も横たわっていた。

 四人はすぐにそちらに向かい、俺も慌てて外に出た。

 

 妹君が冷静に癒しの祈祷を行っている。

 

「──我らの大いなる神に僅かな慈悲を乞いたもう──」

 

 聖印が輝き、傷だらけだった吸血鬼達の傷が塞がって行く。

 すかさずサキュート卿が彼らの心臓を思いっきり叩いた。

 

「げほッ、げほッ!!」

「大丈夫ですか?」

「はあはあ、なんとか……」

 

 自警団員は息を吹き返した。正直、俺には死体にしか見えなかった。

 

「状況はどうなってるの?」

「こ、これは、サキュート卿!!」

「今はかしこまってる場合じゃないでしょ?」

 

 俺はバリケード越しに、向こうの状況を確認する。

 

 スーロがリーチに襲い掛かり、キュリアさんが魔法で援護している。

 応戦していた自警団は、スーロに腰を抜かしている。

 

 彼女は既に異能によって全身が膨れ上がっている。

 しかし、最初に会った時ほどではないし、理性を留めている。メイド服も破れていない。(ここ重要)

 特訓の成果は一応出ているらしい。

 

 だが。

 

「死ねッ、死ねッ、死んでしまえ!!」

 

 スーロが膨れ上がった怪物を引き裂く。

 

「お嬢様お嬢様お嬢様の為にッ」

 

 引き裂く、切り裂く、叩き潰す。破壊する。

 かつての同胞だったと言う認識、躊躇いは無かった。

 

 残虐で狂暴。

 吸血鬼の力に目覚めた彼女は、己の本能に忠実に暴れていた。

 

 キュリアさんも援護よりも、自警団の面々が巻き込まれないように誘導を指示している有様だ。

 

「なに、あれ…………あれが、スーロ?」

 

 気が付けば、バリケードから顔を出しサキュート卿が彼女を見ていた。

 特訓に付き合っていた彼女だったが、その残虐性を見ることは無かったのだろう。

 

「スーロ、心臓を狙いたまえ!!」

 

 やや離れたところからキュリアさんがそう指示する。

 理性が飛びかけているスーロでも、それぐらいは理解できたのだろう。

 怪物の腹に腕を突っ込み、血を撒き散らしながら心臓を引き抜いた。

 

 スーロになんとか抗っていたリーチも、それで動きを止めた。

 

 どすん、と怪物の巨体が倒れた。

 

「ふぅーーーッ、ふぅーーーッ、よ、ヨコタさんッ」

「あ、ああ、よくやったスーロ!!」

 

 スーロがこちらを振り返り、犬のような顔のまま必死に笑おうとしてくれていた。

 だから俺もなんとか彼女の奮闘を労ったのだが。

 

「ざ、ざまあみろ!! あいつは、俺の仲間を四人も喰ったんだ!!」

 

 スーロの惨殺を見て、治療を受けて息を吹き返した自警団員が怯えながらそう叫んだ。果たして、どちらに怯えたのだろうか。

 

「四人もッ!? スーロ、油断するなッ!!」

 

 キュリアさんが叫んだ。

 それとほぼ同時に、心臓を抜かれた筈のリーチがスーロの足を掴んだ。

 

 そして、起き上がるのと同時にスーロを人形のように振り上げ、地面に叩きつけた。

 

「あ、ぎゃあ!!」

 

 スーロが苦痛から苦悶の声を発する。

 俺はその瞬間を咄嗟に目を逸らした。

 

「ファイアボール!!」

 

 すかさずキュリアさんの魔法が、炸裂する。

 しかし、俺にもはっきりと見えた。

 怪物に直撃した火炎弾が、皮膚に沿って広がって内部にダメージが通らなかったのを。

 魔力の抵抗(レジスト)現象。つまり、奴の魔力がキュリアさんを上回ったと言うことだ。

 

「ちッ、四人分の魔力が生命力を刺激して、暴走を始めているなッ」

 

 忌々しそうにキュリアさんがそう吐き捨てた。

 

 俺は、スーロが開けた胴体の穴の奥にある筈だった、たった今失われた心臓が再構築し、その穴が塞がって行くのを見た。

 

 まさに、化け物。

 

「うごぉおお、うごおおぉぉぉ!!」

 

 リーチが醜悪な叫び声と共に、目の前にいたスーロを抱きしめた。

 そのまま身体をへし折るつもりなのだ。

 

「ああああ、ああああッ!!」

 

 スーロの苦痛の叫び。

 あの状態では、幾らパワーが上回っていても反撃は難しい。

 

「こちらだ、化け物!!」

 

 キュリアさんの魔法の火炎弾が、リーチの頭部に何発も浴びせられる。

 だが、まるで怪物は意に介さない。

 

 そして、怪物は、口を開けた。

 そう、スーロを喰らうつもりなのだ。

 

 あのラノベでも、滅多に死なない吸血鬼同士の戦いで、完全に相手を殺す方法が幾つか描写されていた。

 その一つが、相手の肉体の血を余すことなく吸血行為で奪うこと。

 

 あいつは、スーロを殺そうとしていた。

 

「召喚、カッターバット!!」

 

 妹君も援護に回る。

 魔法陣から無数の蝙蝠が出現し、怪物をその鋭利な翼で切り裂きながら飛翔を始めた。

 

「サンダークラウド!!」

 

 キュリアさんは魔法で物理現象を誘発するタイプの攻撃に切り替え、援護を行う。

 スーロごと落雷で攻撃し始めているが、喰われるよりはずっとマシと言う判断だろう。

 

 しかし、それでも怪物はスーロから手を離さなかった。

 うっとおしがってはいるが、その程度だった。

 

「マズい、このままじゃスーロが喰われるッ」

 

 俺の焦りは、隣にいるサキュート卿にも伝わっていた。

 

「ど、どうしよう、どうすれば……このままじゃ、スーロがッ」

 

 よほど動揺しているのか、彼女の側頭部にあるツノが俺に当たった。

 

「いてッ……いや、これだッ」

 

 俺は逆転の一手を思いついた。いや、賭けには違いないのだが。

 

「サキュート卿ッ、俺の血を!!」

 

 俺は咄嗟にそう言った。

 彼女は恐らく、夢魔との混血。

 

 夢魔、インキュバスやサキュバスの総称。

 彼らとの混血の吸血鬼は、格上にも通用する強力な精神攻撃系の異能を発揮する。

 原作ラノベでも、初代リーリスの仲間に夢魔との混血児が一人居た。下僕階級なのに、最後まで共に戦線に連れて行くくらいの壊れスキルを持っていた。

 

「わ、私が、あなたの血を?」

 

 しかし、サキュート卿は怯えながら俺を見た。

 

「い、イヤだッ、私は、あんな風に成りたくないッ」

 

 彼女の拒絶に、俺は何も言えなかった。

 

 吸血鬼に覚醒したスーロは、怪物だった。

 理性を失い、本能のままに暴れる化け物になった。

 あの本当に優しく健気な、あのスーロがだ。

 

 だが、状況は待ってくれない。

 

「ああああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 スーロの悲鳴が、絶叫が聞こえる。

 このままでは、本当にマズい!!

 

「あ、ああッ、私は、私はッ」

 

 サキュート卿は、目の前で友人を失おうとしていた。

 彼女自身、恐慌状態なのだろう。

 

「お願いです、サキュート卿!!

 俺はスーロを失いたくないッ!!」

 

 それは、奇しくも、俺が初めて彼女達に吐露した本音だったのかもしれない。

 

「…………わ、分かりました」

 

 俺だってこんな状況を利用しているようで、嫌だったのだ。

 

 サキュート卿は自身を奮い立たせて、膝を突いた。

 

「……あなた様の御血を、拝領致します」

 

 彼女が剣を抜き、俺に差し出してくる。

 俺は躊躇わずに手首を切った。使い魔を横で制御していた妹君がギョッとしている。

 

 だらだら、と手首から血が流れる。

 サキュート卿は、既にそれに目を奪われていた。

 

 艶めかしい舌を出しながら、彼女は俺の手首を舐めた。

 

 彼女の、吸血鬼の力が覚醒する!!

 

 

 

 ……

 ………

 

 

 私は、生まれながらに怪物だった。

 

 母の胎内から産まれたその日に、私の両眼を見た父は知性が焼き切れ、理性を失って森へと逃げ出した。

 後日、リーチとなった父は討伐されたと言う。

 

 知性を焼く、魅了(チャーム)の異能。

 所謂、先祖返り。奇跡的な確率で私は誕生した。

 

 いや、意図した奇跡ではあったのだろう。

 私の両親は夢魔の特徴がよく出た人物だった。

 

 貴族の方々がするような、同じ異能を持つ者同士の交配。

 戯れなのか、願掛けなのか、そうやって私は産まれたらしい。

 

 貴族にも出来ない、異能の発現。

 私は天才として、一時期はもてはやされたものだった。

 

 しかし、それだけだった。

 多少吸血鬼としての力が有っても、本物の高貴な御方には足元にも及ばない。

 

 そう、私は幼い頃からアーリィヤ公爵家に献上され、それからずっとお世話になっている。

 先代様も、貴族の役目に殉じる素晴らしい御方だった。

 

 しかし、十数年前にリーチが三体同時に現れ村一つ食いつくした時に、奥方と共に出撃し戦死なされた。

 

 その日に、私はお嬢様に叙勲して頂いた。前代未聞のことだった。

 お嬢様は言った。お前には期待している、と。

 

 

 スーロは、幼い頃からずっと友達だった。

 異能の眼を持つと知っていながら、屈託なく笑って私の眼を見て話しかけてくる。

 

 下らないことで喧嘩したり、森で木の実を分け合ったり。

 

 あの日も、きっとそうだったのだろう。

 

 お嬢様が人間を連れてきた、あの日も。

 スーロが、怪物になってしまったあの日も。

 

 独りで森に出かけて、木の実を集めて、料理長にパイを作ってくれってねだるつもりだったのだろう。

 

 私は理解できなかった。

 だって、人間って敵の筈でしょう?

 

 お嬢様も、スーロも、メイド長も、キュリア様も。

 なんで敵を近くに置くのだろう。

 

 私は思った。何かあった時は、私が成すべきことをしよう、と。

 

 そんな彼が、私に言う。

 真剣な顔で、スーロを失いたくない、と。

 

 そんなの、私も同じだよ!!

 でも、私は、()()に戻りたくないッ!!

 

 スーロに、怯えた目で見られるのが、たまらなく恐ろしい。

 

 

 でも。

 でもッ。

 

 スーロを失ったら、そんな目で見られることすら無いんだ……。

 

 ……良いよ、私は怪物に戻るよ。

 

「……あなた様の御血を、拝領致します」

 

 剣を両手で横に持ち、彼に全てを委ねるつもりでそう言った。

 

 だけど、だけどだけどだけどッ!!

 

 あれ、私、何を考えてたんだっけ?

 

 おいしい、こんなにおいしいものがあるなんて……!!

 そうだ、そうだ、あれだ、あれを殺すんだ、思い出した!!

 

 あれを殺せば、もっとこれをくれるんだった!!

 

 殺さなきゃ。

 殺そう、殺す、コロすコロすコロす──。

 

 あげない。これは私のモノなんだから。

 

 うるさい肉達磨が、私に何かを叫んでいる。

 私は奴を睨みつける。

 

 死ね。死んだ。はい、終わり。

 

 ああ、ずっと、この味を堪能していたい……。

 

 

 

 ……

 ………

 …………

 

 

 一瞥。たったそれだけで終わった。

 

 スーロを放り出し、彼女を捕まえていた腕で頭を抱え苦しみ悶えるリーチ。

 そして、先ほどまでの苦戦が嘘のように完全に沈黙した。

 

 大当たりだった。

 ──血統能力(ブラッドレコード)、『魅了の魔眼(サキュバスチャーム)』。

 

 魅了の力を持つという伝承を持つ吸血鬼と、同じく魅了の力で異性を誘惑すると言う夢魔。

 能力の相性は絶妙で、両者が掛け合わさった場合の異能はより強力になる場合がある、らしい。

 

 スーロの異能とは比べ物にならない。

 スーロのレアリティがレアなら、サキュート卿も同じレアでもSSRに同じ能力を持つ者が居ない、状況によっては深く刺さる超強力な異能だった。

 

 俺は、ずっと俺の手首にしゃぶりつく美少女がこれを成したことに戦慄していた。

 

 暴走状態でも、知性は存在する。

 だって命令が無ければ肉体は動かない。

 その知性を、彼女は破壊した。もし復活しても、赤ん坊以下の白痴の肉塊になったままだ。

 

「ねえ、褒めて」

 

 サキュート卿が、異性を魅了する色香に目覚めたのを自覚せずにそう言った。

 

「私の全てを捧げますから」

 

 彼女はかくして、怪物になった。

 

「私を、愛して」

 

 

 

 





今日も二回更新するつもりだったのですが、力尽きました。
見切り発車なのです、お許しください。

ではまた、次回!!
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