ガタンっと再び、大きく電車が揺れた。
それと共に、光がすっと弱くなる。それを感じて、ノエルは目を開けた。
「グラサンっ?!」
立ち上がったノエル。声があたりに響き渡る。その姿を数人の乗客が驚いたように見た。
「グラサ…ってあれ」
え?
あたりを見渡す。相変わらず電車の中に立っている。しかし、彼の他に数人の乗客が乗っていた。
ノエルを見ていた人もその多くが彼から視線を外し、本を読んだり、スマホの画面を見たりと自分の作業に没頭しはじめていた。中にはまだ、ノエルを怪訝そうに見ていた人もいた。おそらく、ノエルが夢でも見て、寝ぼけていたのだと思っているのだ。
一体、今度はなにがあったのか?ここはどこだ?
窓の外は普通の街だ。見覚えのある路線の風景。いつも彼が乗る路線だった。
もうすぐ、彼の住んでいる街に着く。見上げれば、夜空に星はあるけれど、先程までのように光りはしない。
この電車はもう美しい天を走ることはない。
手の届かないほどに高い空。そこにはさっき迄彼が居た天の河が光っていた。
戻ってきたのだ。ノエルにはすぐにわかった。
その時、ノエルの頬を何かが流れていった。指で触れると冷たく濡れる。涙だった。
「……夢……だったのか?全部?」
そう、呟いた。
しかし……
違う。
あの河で作った歌を、ノエルはそっと、歌った。
そう。確かに、この音だ。懐かしいようでいて、新しい。鮮烈な水のような、暖かい光のような音の連なり。イヴェールが、ノエルが愛した調べ。
11音の贈り物。
大丈夫だ。忘れていない。
夢だったのかもしれない。けれど覚えている。絶対に忘れない。
永遠に覚えている夢ならば、それは思い出と呼んでも良いはずだ。
駅員の声が聞き慣れた駅の名前を告げる。もうすぐ、彼の街に住む。
ノエルはにわかに顔を上げた。
電車は彼の自宅の最寄り駅に滑り込んでいく。扉がひらくやいなや、ノエルは立ち上がり、再び駈け出した。
改札を抜け、駅の階段を駆け下りる。背中では愛用のFrying Nightforkが揺れる。
このメロディを中心にして、1曲分の長さにしよう。キーボードやベースのスコアもかいて、完成したらすぐにでも仲間に見せよう。詩を付けなければならない。けれど、どんな歌詞にしよう。最高の曲にしなくてはならない。この曲を聴く誰もが、何回でも聴きたくなるような、誰もが歌いたくなるような。
繰り返し、繰り返し、口ずさむ。彼は早く、それを弾いてみたくてしょうがなかった。
読んでくれてありがとう!
Sound Horizon大好きなのですけれど、文章にするのはものすごく大変でした。自分の裁量1つでキャラの生い立ちや性格、位置づけが変わってしまう感覚は創作のそれと似ています。けれど書いている間はノエルもイヴェールもとても愛おしく思えました。
またやるかもしれません。しないかもしれません。