静かに人が消え、行方不明者が続出する離島。白装束の怪異が迎えに来たら諦めてください   作:わんた

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砕かれた希望

 当面の目的は決まった。お守りを作って防御能力を高めるだけだ。

 

 夜も遅くなってきたので寝よう。

 

 家は安全だとわかったけど、幼い子を一人にさせるわけにはいかない。

 

 鈴ちゃんと一緒に寝ると決めて布団へ入る。

 

 目を閉じると今日の出来事が思い出される。

 

 魚の顔をした白装束の怪異――幽魚は近くにいるだけでも空気が重く、頭がおかしくなりそうだった。お守りを手に入れたところで倒せるのだろうか。

 

 静めていたはずの不安が浮かび上がる。

 

 明日は仕事だというのに目がさえてしまっている。瞼を上げて横を見ると鈴ちゃんは静かな寝息を立てていた。

 

 体力を使い切って寝てしまったのかな。不安で眠れないってことにならず安堵する。

 

『鈴ちゃんのご先祖様を人身御供として島の守り神を作り、お守りを広げて行方不明者は減った』

 

 ふと、先ほど読んだ本の内容を思い出す。

 

 人身御供とは、簡単に言えば生け贄だ。同じことをするのであれば、鈴ちゃんの命を使わなければいけないことに繋がる。

 

 あり得ない!

 

 人道とか、そんなの関係なく、大切な人だから嫌だという感情が心に広がっていく。

 

「他の方法を考えないと」

 

 戦う手段がないというのは本当に辛い。

 

 警察に訴えたところで虚言だと言われて終わってしまうだろう。そうだ。証拠となる写真を撮れば……って、幽魚を前にして、そんな余裕はないか。

 

 それに離島には交番すらないから、成功したところでSNSに投稿するぐらいしかできない。被害が拡大してしまうだけだ。

 

 余計なことは止めよう。

 

 夜に考えてもネガティブな方向に行くだけなので、無心になって眠ろうとする。

 

 それでも朝方になるまで目は冴えたままだった。

 

 ◆◆◆

 

 眠くて重い体を起こして朝食を食べると、小学校に休む連絡をした。

 

 風邪ってことにしたので、数日は休んでも怪しまれないだろう。その間に幽魚の問題を進展させないと。

 

 自室で鈴ちゃんは自習中なので、僕はPCを立ち上げてインターネットに接続しようとするけどつながらなかった。

 

「え?」

 

 物理的な回線が抜けているわけじゃない。昨日まで使えたので壊れた線も薄いだろう。

 

 PCが壊れたのか?

 

 念のため再起動したけどインターネットにはつながらないままだ。通話はできていたのに。

 

 そうだ! スマホなら使えるかも。

 

 ディスプレイを見ると圏外になっていた。

 

 さっきまで使えたのに!

 

 もしかして基地局を破壊したのだろうか。確認するには外へ出る必要がある。

 

 どちらにしろ食料の買い出しは必要だったんだ。場所はわかっているのだから行ってみるか。

 

 怪異ともあろう存在が回線を切るなんて手段を執るなんて思わず、動揺しながら玄関へ行く。

 

 靴を履いて外へ出ると、太陽の陽差しが眩しかった。

 

 みーん、みーんと蝉が鳴いている。

 

「夏、か」

 

 今回はインターネットを切られるだけで終わったけど、電気まで止められてしまったら冗談抜きで死んでしまう。僕が思っていたよりも時間がないのかもしれない。

 

 汗をかきながら走り出すと、途中で島の守り神につながる道を見つけた。

 

 いつ襲われるかわからない状況であるため、先にお守りを手に入れておくべきだろう。目的地は変更だ。

 

 救援が期待できないからこそ、守りを高めるべきである。

 

 十分ぐらいかけて移動を続け、入り口についた。十段ぐらいの短い階段と鳥居のようなゲートがあり、奥には小さい箱がある。中にはお地蔵様っぽい石像があるんだけど、ヒビが大きくなって縦に割れていた。少しでも触れてしまえば完全に壊れてしまいそうだ。

 

 僕を守ってくれた謎の力とお守りの効果が切れたことと関係があるのだろうか。

 

 もしそうなら何度も守ってはくれないだろう。厳しい戦いになりそうだ。

 

 とりあえず二人分の石を拾うと、苔や汚れを落として綺麗にしてからその場を後にする。

 

 基地局までは歩いて10分ほど。海が見えて観光客を運んでいるフェリーが港に着いていた。平日だから人は少ないだろうけど、幽魚のエサにならないことを祈るよ。

 

 ポケットにはお守りがあるので幽魚には出会うことなく到着したけど、思っていた通り破壊されていた。立派なアンテナがへし折られている。人間がやったとは思えないほどの力業だ。

 

 インターネットや通話ができないなら外部への協力は求められず、僕は無断欠席を繰り返したことになって会社をクビになってしまい、資金の供給も止まってしまう。

 

 一種の兵糧攻めだ。

 

 弱点を突くのが上手い。

 

 フェリーには島民の食料も運んできてくれているので、これを静められたら終わりだけど、さすがに騒ぎが大きくなりすぎて止めるか……?

 

 幽魚が次にどう動くかシミュレーションしながら家に戻ると、玄関前に男が立っていた。

 

 頭部の中心が円形状に剥げている中年のおじさんだ。太っていて鈴ちゃんが怖がっているロリコンの田川さんである。

 

 保護者は僕になったというのに諦めきれなかったんだろうか。

 

 家には鈴ちゃんがいる。僕が盾になって守ってあげないと!

 

「何のご用でしょうか?」

 

 警戒しているのが伝わるよう、キツめに言ったけど田川さんは気にしてないようだ。

 

「あの後、上手くやれているか心配になってね。観光がてら来てみたんだよ」

 

 鈴ちゃん目当てで来たくせによく言う。

 

 お通夜の時に怖がっていた彼女の顔を思い出すと、会わせたくはない。このままお帰りいただこう。

 

「ご心配には及びません」

「であれば挨拶ぐらいさせてくれないかな。お土産も持ってきたよ」

 

 今気づいたけど、有名な和菓子店の袋を持っている。

 

 断りにくくさせる作戦なんだろうけど、その程度で僕の心は揺らがない。改めて、さっさと帰ってくれと思っていた。

 

 断固として拒否しようとしたところで、タンクトップに短波というラフな格好で、さらに髪の乱れた宮子姉さんが入ってくる。

 

「鈴ちゃんが風邪を引いたんだってー! 心配になってお姉さんが着た…………よ?」

 

 僕しかいないと思って油断していたみたいだ。

 

 見知らぬ中年がいると気づいて、すーっと僕の後ろへ隠れる。

 

「あの人誰? 島民じゃないよね?」

「遠い親戚かな。帰ってもらおうと思っていた所なんだよ」

 

 言うまでもなく鈴ちゃんが調子悪いと、田川さんにも伝わっている。

 

 お見舞いすると言う前に帰ってもらおうと思ったんだけど、タイミングが悪く玄関のドアがガラガラと音を立てて横にスライドした。

 

「お帰りな…………さい」

 

 僕を見て嬉しそうな顔をして、目の前に田川さんがいると気づいて声はどんどん小さくなった。

 

 顔は青くなっていて数歩後ろに下がっている。

 

 そんな姿を見て、宮子姉さんも関係性を悟ってくれたようだ。

 

「お見舞いに来たよ~! 悪化したら良くないし、中に入ろっか」

 

 宮子姉さんは僕から離れると、鈴ちゃんの手を取って家の中へ入ってしまった。

 

 ついでにドアも閉まる。

 

 田川さんに無言で入ってくるなと伝えたのだ。

 

「風邪を引いているには元気そうだったが、ズル休みかね? これだから最近の若い子はダメだ。この私がきっちりと教育してあげないといけないね」

「ご遠慮願います」

 

 許可なく入ろうとしたので腕を取った。

 

 睨んできたけど僕も負けないよう睨み返す。幽魚が襲ってこない唯一の安全地帯なんだ。絶対に守る。

 

「最初に会った時から思っていたが生意気なガキだな」

「僕のこと嫌いなんですね。だったら帰ってください」

「同じことしか言えんのかね?」

「貴方が同じ要求ばかりするからですよ」

「……ふん!」

 

 腕を振り払うと田川さんは玄関から離れてくれた。

 

「明日、また来るからな。その時にお前が保護者失格だと認めさせてやる!」

「できるものなら、どうぞ」

 

 だって今は、電話やインターネットが使えないからね。警察に訴えることも訴えることも不可能だ。

 

 何も出来ずに好き勝手暴れてればいい。僕はその証拠を押さえて徹底抗戦してやるんだから。

 

 苛立った歩き方をしている田川さんの背中を見て、ふと疑問をぶつける。

 

「お守り買いました?」

「金の無駄だ! 買うわけないだろ!」

「でしたら、宿泊施設から出歩かない方がいいですよ」

「うるさい! 私の勝手だろ!」

 

 警告したんだけど逆効果だったみたいだ。

 

 田川さんとは敵対しているけど死んで欲しいとは思っていない。幽魚に会わないことを祈っているよ。

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