静かに人が消え、行方不明者が続出する離島。白装束の怪異が迎えに来たら諦めてください   作:わんた

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完全崩壊した日常

 痛みに耐えて玄関に入ると俺が使っている部屋に来た。鈴ちゃんは救急箱を持ってきてくれて、蓋を開けると布の上から消毒液をかけてくれる。

 

 中身が全部なくなるほど使ってくれた。

 

「んっ~~~!」

 

 今日は何度も痛みに耐えている気がする。意識が飛びそうだったけど鈴ちゃんの前だと言い聞かせて何とか耐えた。

 

「痛かった?」

「全然、噛まれたときの方が痛かったよ」

 

 魚に食われそうになるなんて珍しい体験をした。

 

 振り返ってみると敵意のようなものがあった気もする。種族が違うから勘違いという線もあるかもしれないけど、なんとなく間違ってないように思える。

 

 あの時、鈴ちゃんが来てくれなければ、僕は間違いなく日用品屋の前で死んでいただろう。

 

「そういえば、鈴ちゃんはどうして外に出たの?」

「お守りが壊れたから、雪久おじさんに何かがあったんだと思ったら飛び出してたの」

 

 悪いことをしたと思っているのか下を向いてしまったので、噛まれていない右手の方で頭を軽く撫でる。

 

「おかげで命拾いしたよ。ありがとう」

「無事で良かった」

 

 不安が爆発したのか抱きしめられてしまった。

 

 体が痛いけどちゃんと受け止める。

 

 右手で背中をさすり、落ち着くのを待ちながらお守りについて考える。

 

 僕はお守りを持っていたのに、幽魚は問題なく近づけた。しかもすぐに壊れてしまったところから、拾った石はほとんど効果がなかったんだろう。

 

 加護の弱い石を拾ってしまった。

 

 そう思っていたんだけど、鈴ちゃんのお守りまで壊れたんだったら話が変わる。

 

 島の守り神様の加護が切れたんじゃないだろうか。

 

 もしかしたら島中にあるお守りが壊れている可能性もありえる。電話が使えないからすぐには確認出来ないけど、正しい気はしていた。

 

「玄関で幽魚を何度も見たと言ってたけど、昔から来てたの?」

「直系の血を持つ私が欲しいんだって。お母さんが言ってた」

「そうなんだ……どうして隠してたのかな」

 

 引き取る際に教えてくれたら良かったのに。

 

 そんな気持ちを飲み込んで、なるべく責めてると受け取られないように注意しながら言った。

 

「……危ないとわかったら、雪久おじさんは逃げちゃうと思ったの。私、田川さんだけは嫌だった!」

 

 保護者として僕を信じてなかったから、黙って耐えてたんだ。

 

 たまに意味深なことを言ってくれたのは、幽魚に狙われていると気づかれない、ギリギリのラインだったからだろう。

 

 人によっては身勝手な性格だと鈴ちゃんを責めるかもしれないけど、僕はそう思わない。

 

 両親を亡くしてロリコン野郎に引き取られるかもしれない状況で、僕だけが唯一の希望だったんだ。隠し事の一つや二つしても不思議じゃない。僕だって、立場が逆ならやっていたと思う。

 

「何があっても鈴ちゃんは手放さないよ」

「雪久おじさん……っ!」

 

 感極まった様子で、鈴ちゃんは泣き出した。

 

 背中をさする手は止めない。

 

 今回の件を通じて僕たちの絆は強固なものになっただろう。

 

 泣き止むまでずっと抱きしめていた。

 

◆◆◆ 

 

 気がついたら朝になっていた。いつの間にか寝てしまったようだ。疲れていたこともあって、半日以上は過ぎてそう。

 

 鈴ちゃんはパジャマに着替えて、僕と一緒の布団に入っていた。まだ眠っているようだ。

 

 起こさないように静かに立ち上がると、台所まで移動する。

 

 傷は痛むけど我慢だ。

 

 やっぱり食べ物はない。それでも漁っていると壺を見つけた。中には梅干しが入っている。自家製なんだろう。

 

「これで飢えをしのぐ?」

 

 一日か二日ぐらいなら、何とかなるかもしれない。でもそれ以上は無理だ。十分な栄養が取れず、僕や鈴ちゃんの体力が持たない。長期戦を考えればまともなご飯を用意するべきである。

 

 危険を承知で外へ出るべきだろうか。隣のお家に事情を話せば、ご飯ぐらいは分けてくれるかもしれない。

 

 今後の予定を考えていると、車の音が聞こえてきた。

 

 急いで玄関を出ると白い軽自動車が敷地内に入っていた。運転席には宮子姉さんがいる。顔が真っ青になっていた。

 

「何かあったんですか?」

 

 ドアを開けて車を降りた宮子姉さんが僕に話しかける。

 

「ここは大丈夫?」

「何を気にしているのかわかりませんが、今まで通りですよ」

「よかった~~」

 

 緊張が抜けたのか、宮子姉さんは地面にペタリと座り込んでしまった。

 

 その様子から尋常ではない出来事が起きていると察する。

 

「何があったんですか?」

「多くの島民が魚の顔になって、観光客を襲っていたの。お守りも壊れていて意味が無いみたいで……」

 

 日用品の店主だったじいさんと同じことが、他でも起こっているということ!?

 

「守り神様はどうなったの?」

「完全に壊れていたわ。きっと寿命だったのね」

 

 加護がなくなって、離島が大変なことになっているの!?

 

 もう僕たちだけじゃどうにもならない。絶望が襲ってくる。

 

 そんな中でも宮子姉さんは冷静だった。

 

「一晩かけて千代さんのことを調べたら、いろいろとわかったの。多分だけど、島で起こっている状況も説明できると思う」

 

 家系図を見た後すぐに調べて結果が出ていたようだ。

 

 それで急いで僕たちの家に来たんだろう。

 

 魚顔の島民、島の守り神様とお守り……その詳細は宮子姉さんの頭に入っている。僕や鈴ちゃんは無関係じゃなく、聞く権利ぐらいはあるだろう。

 

「ここは安全だから、客間で教えてくれないかな」

「ありがとう。私が知っていることは全部話すから、匿うのよろしくね」

 

 ちゃっかりしている。

 

 情報をもらう対価として匿うのはいいけど、食料はどうしようかな。

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