「うおうわあああぁぁぁぁぁぁ!?」
「っ!?」
どこかデジャブを感じる痛み、そしてその痛みにより覚醒した頭はまずここがどこかを認識しようと動いた
目の前には痛みに悶えるメガネくん、そしてその背景には少し前に見た住宅街であった
振り返れば先程近未来的だのなんだと言って驚いたあのメタリックな研究施設が傲然とそびえ立っている
…何かおかしい、飛び起きたこの場所は先程自分自身が寝転がっていた場所だ
しかしだ、自分は確かにあの謎の化け物と遭遇して飲み込まれたはず
その後どうなった?どうしてここで寝ている?
疑問が渋滞し、冷えた体のなかでも脳が熱くなっていく感覚を覚える
「……お前は、っ、大丈夫だったのか!?
さっき、ネイバーに襲われて、!
というか、なんでまたここに…」
「何が起きたのか全くもってわかんねぇが…なんか大丈夫っぽい」
体をぺたぺたと触ってみるが、頭の痛みはあるものの外傷は微塵もナッシングである
ぱっと見るにメガネくんも先程より勢いよくぶつけたおでこ以外はバッチリ健康体なようでかなり安心した
しかしやはり、先程化け物に、いやネイバーに襲われたのは思い違いではなかったようだ
メガネくんも同じような疑問を呟いている
「…てか、あれがネイバーかよ」
ゲートからネイバーが出てくる、ネイバーは危険な生き物であるという情報は聞いていたが、まさか聞いた後すぐに襲われるなんて聞いてない
しかもあんなデカくて怖くて…思い出しただけでちょっぴり漏れそうだ、いや男のプライドに誓って漏らしはしないが
「ああ、あれがネイバーだ
だが、僕も実物を見るのは初めてだな
…正直死ぬかと思った、というか死んだと思ったんだが」
「俺も飲み込まれてまさかの出オチかと思ったぞ…
てか、…なんで俺達生きてんだ?」
先程は化け物に飲み込まれて万事休す状況だったというのに、どこか別の場所に連れていかれたでもなく、化け物の胃袋という訳でもなく、何故か襲われる前にいた住宅街の道のど真ん中に寝転んでいた
普通にあそこから生還するなんて俺が不味すぎて吐き出したくらいしか思い浮かばない
「でもどこも痛くねぇんだよな」
あの化け物は大体2、3階建てくらいの体長で、しかも俺は飲み込まれて体が垂直に落ちかけた感覚があるため首は真っ直ぐ上をむいていたのだと考えられる
あんな化け物が、吐く時に律儀に地面へ口を近づけるとは思わないので仮に吐き出したとしたらあの高さから受身無しで落っこちたことになるはずだ
打ちどころが悪ければ普通に死ぬ高さだし、仮に打ちどころが良くても無傷とは行かないだろう
つまり、
「誰かが助けてくれたのか」
メガネくんも同じ結論に至ったらしく、そうこぼした
「じゃないと色々おかしいもんな
なんか飲み込まれた後一瞬光ったのが見えた気がするし…
それはそうとしてなんでここに寝かせてんだって話だけど」
助けてくれたであろう相手に文句を言うのは烏滸がましいが、しかし真っ当な疑問だろう
しかも初めに起きた時と殆ど同じ場所だし、もしかしたら立入禁止区域にいる自分達を最初から監視していたのかもしれない
「…とりあえず安全なとこにいこうぜ」
あんな危険な目にあったのはここが立入禁止区域だからであるというのは当然の理由だ
何故かここで寝ていた自分はまだしも自分から入ってきたのであろうメガネくんは自業自得と言える
まずは安全な所へ行って色々ゆっくり考えたい
「そうだな、助け貰った以上これは忠告なのかもしれない
…悔しいが一先ずはここから出ることにしよう」
顔は納得してないという気持ちがありありと滲み出ているが納得してくれたようなのでセーフだ
何をしに来たのか事情は分からないが、普通に死にかけるような場所に来ている時点でやはりこのメガネくんは変な人なのだろう
「こっちだ、僕に着いてきてくれ」
そうしてやや小走り気味であのメタリックな建物と反対側に走り出した
立入禁止区域にそびえ立っているあの建物はこの区域の中央に位置しているのだろうか
…深く考えると家に帰ったあとにあなたは知らなくていいことを知ってしまいましたねとか言って刺されそうだしあまり気にしないようにしよう
あの建物以外は異様に静かな事以外特段普通の住宅街である
しかし、災害でも起きた後なのか人の気配は全くと言っていいほどしない、不気味だ
先程異世界転生と興奮した心臓は別の意味でドキドキしている
いつもスニーカーを履いていたので、今着ている出自不明のロングブーツは違和感しかないが、動くのには問題無さそうだ
しかし、ブーツの中に砂が入っているようでジャリジャリして気持ち悪い
服にも砂がついてるようで、軽くはたこうと思えば手袋にも砂がついている
早くここから出て着替えたい
「ここから出るのってどれくらいかかりそう?」
そう思いメガネくんに尋ねた瞬間だった
《ゲート発生ゲート発生》
《座標誘導誤差0.11》
「っ!?」「!?」
ネイバーに襲われる前、轟音で少し聞き取りずらかったが確かに聞こえたアナウンスが響き渡った
しかも先程と座標らしき数値が違う、新しいネイバーかもしれない
「走るぞ!!」
そう言って走り出したメガネくんの後を全力で追う
だが自分の方が速いらしく、しかもメガネくんは息切れしかけていた
「っ、転けるなよ!」
そう言って腕を引っ張りながら住宅街を駆け抜ける
すると、先程はアナウンス開始とほぼ同時に出現したネイバーだが、今回は少し遅れての登場のようでアナウンスが終わった後に、恐らくゲートであろう黒い空間からネイバーが姿を現す
輝く赤い目が見えるが、直視していてはまた足がすくんでしまう
先程と同様に異様に大きな図体で地響きと共に足を動かしているようだ
とにかく走らないと、また喰われてしまう
先程助けてくれであろう人がまだいるとも限らないし、また助けてくれるか分からないのに宛にするのもおかしな話だ
過ぎてゆく住宅街の景色に変化はなく、終わりが来るのか分からない
永遠と走り続けなければいけないのだろうか、また喰われて、今度こそ死んでしまうのか
後ろから迫り来る地鳴りが体の芯まで響き渡り、恐怖を埋め込んでいく
「、はっ、はぁっ!」
焦燥と不安に駆られ駆けていく今程、時の流れをこんなにも恨んだことはないだろう
はやく、早く、速く、お願いだからはやく
あの辛い持久走よりも、最悪だった授業も、冷たい目で見つめられたあの時よりもはやく終わって欲しい
「っ!まずい!」
メガネくんの声が聞こえる
腕を引いていると言えど、彼も全力を出しているのか腕に体重は感じない
まずいとはつまり、ネイバーがすぐそこまで来てるのだろうか
見たら戦慄してしまうのは目に見えているのに、それでも見てしまうのはやはり人の性なのだろう
「ぁ、」
そうして振り向いた眼前にはあのネイバーの、化け物の赤い目があった
目が合う、そして悟る
「…もう、だめか」
その瞬間、あの時の蛍光の光が赤い目と交わり、そして切り裂いた
目の前にあったネイバーの頭はごとん、という音と共に崩れ落ち、光り輝く赤い目は徐々に彩色を失っていった
突然の事に呆然としていたメガネくんと俺だが、助かったという事実はひしひしと感じていた
「よう」
そんな静寂の中、芯の通った明朗な声が耳に届く
「無事か?おふたりさん」
その声が聞こえた方向へと目を向ければ、
悠然と立ちすくむ、救世主の姿がそこにあった