「無事か?お2人さん」
降り注いだ声はハッキリと耳に届く
声の主は蛍光の緑がかったサングラスを煌めかせ、青のコートを風になびかせる端正な顔立ちの青年だった
そして、体感は数時間にも及ぶ数秒の激動の余韻を味わい、ようやく自分達は助かったのだと認識した
「………た、助けてくれてありがとうございます」
「……ほ、ほんとに死んだかと思った…。マジでサンキュー…」
そう感謝を述べると、青年は少し笑みを浮かべ、ネイバーからアニメのようにカッコよく着地し、そしてカツカツとイケてる雰囲気の音を奏でながら歩いてくる
「どういたしまして
それにしても、まさかこんな時間のこんなところに人がいるなんて思わなかった
間に合ってよかったよ」
そう言ってよく見ると構造が特殊なサングラスを外す
その立ち振る舞い、天性の姿形も彼の雰囲気を助長する
「かっけぇ…」
そう、かっこいい
サッと助けてくれる姿勢も、歩き方や自然音の演出が噛み合ってめちゃくちゃかっこいい
漢の一目惚れする感覚に最も近いであろう感情を抱き、目の前のヒーローに感謝と感動と感激が溢れる
これぞ皆の憧れるイケメン救世主というやつだ
「嬉しいこといってくれるね
ぼんち揚げ食う?」
そう言ってどこからともなく取りだした菓子を差し出してきた
その菓子をしまえるほど服装に収納は付いていない
もやは己の常識など通用しないことは身をもって体験させられたので、己の生きていた世界とは色々違うのだろうと無理やり納得することにした
「どこにしまってたんだよ…食べます」
「僕は遠慮しておきます」
立ち上がりながら、メガネくんは謙虚だと思いつつ口に放り込んだぼんち揚は口内の水分を吸収し喉の乾きを助長させた
家を出る前にココアを飲んだのに、何故か乾いている喉に疑問が浮かぶが、その思考は青年の声により遮られた
「それはそうとして、お2人さんなんでここにいるの?」
「…………」
「あー…」
先程の俺の質問と同じようにメガネくんはどうやらこの質問をガン無視で乗り切ろうとしているらしく、冷や汗をかいている
いくらなんでも無理があるぞ、と思いつつも先に質問に答えてあげることにした
「何故かここで寝てたんだよな、俺」
「…そうだな、僕が見つけた時には既に熟睡していた」
「ん?マフラーくんはここで寝てたのか?」
「そうなるけど…」
そう答えると、イケメンは目を開いて驚いている
やはり、ここは呑気に寝ていられるような安全な場所ではないのだろう
それに、マフラーと呼ばれ、視線が自然と自分の首元に落ち、目に入ったオレンジの特徴的なマフラーからそう呼ばれたのだと理解した
それと同時に、メガネくん呼びしていたメガネくんの名前すら聞いていなかったことに気付く
「マフラーって安直だな
…そういえば自己紹介すらしてなかったのか」
「短時間に色々ありすぎて忘れていたが、
…僕の名前は三雲修だ」
「俺は菜月昴」
「おれは実力派エリート、迅悠一だ」
メガネくんの修という名前は真面目っぽくて雰囲気にあっており、
迅悠一は名前もかっこよく隙がない
どちらも名が体を表しており、親はネーミングセンスの塊だなと感心した
「それにしてもよく無事だったな、マフラーくん」
「あだ名そのままかよ!」
「僕の名前は三雲修です」
「あはは、こっちの方が分かりやすいしな
それはそれとして、何があった?」
食い気味に突っ込むが、本人は何処吹く風と受け流す
修の冷や汗が増えた気がするが今更である
そうして、悠一に視線を戻すと、その顔は思いの外真剣であり、何とか思い出そうとするが、ここにいる理由はやはり何一つ出てこない
「ここにいる理由はまったくもってわかんねぇ、
ここに来てからはネイバーに2回も襲われたけど、悠一さんが助けてくれたお陰で五体満足だな!不幸中の幸いだよ、マジで」
「え?2回も?」
「え?悠一さんが助けてくれたんじゃないのか?」
2回とも同じようなエフェクト付きで助かっているので、てっきり最初も悠一が助けてくれたものだと思っていたが、反応的にどうやら違うらしい
確かに、1回目は姿を見せなかった、しかしそれは小さな警告的な演出だと思っていたのだが…
「2人を助けるのは今回が初めてだ
…2回もネイバーに襲われたのか?」
「ああ、あれと全く同じヤツに飲み込まれた後、なんか気が付いたら助かってた
その後すぐまた襲われたんだけど」
「…僕は飲み込まれた時、腕を強打したが、気が付いた時にはそれも無くなってたな」
「は!?大丈夫かよ!」
「ああ、どこも痛くない」
初耳の情報だが、無くなっているというのは本当のようで、試しに腕をつついてみるが痛がる素振りはまったくない
「…ゲートが空いた時、ここだと確実に警報が鳴るはずなんだ
けど、うん、やっぱり前の警報は1時間くらい前だな
うーん、どうしたもんかね」
誰かと連絡を取ったのか、スマホを見ながら不可解な状況にうんうんと唸る悠一
冷や汗が増えていく修
異様な住宅街の静寂がより一層顕著になっていく気がして、背筋に冷や汗が流れる
修の冷や汗が移ったのか、などと思いながらやはり脳内にあるのはなぜここにいるのかだ
父ちゃんとお母さんに心配をかけているかもしれないと思うと、早く家に帰りたいという気持ちが逸る
「…そろそろつつくのをやめろ」
束の間の静寂は堪忍袋の緒が切れた修の言葉によって幕を下ろした
先程からずっとつついていた指を手のひらガードしてしまい、行く先の無くなった手は空中を彷徨うことになった
「修は痛くないって言うけど、神経ぶっ壊れてる可能性もあるだろ!心配だから!
それともあれか?この世界って治癒魔法的な何かがあんのか?」
「治癒魔法?そんなものないぞ」
「なら尚更心配だから!偏見だけどお前怪我してても自分は大丈夫だとかいうタイプだろ!」
「あーいいそう」
「いや…そんなことは……」
「図星だな」「図星だな」
そんなことを話していれば、悠一が小さく手招いた
それを見て視線を移した修と昴に向かって、悠一は口を開いく
「メガネくんが大丈夫と思っていても、何か異常がある可能性がある
本部で診察してもらって、また話を聞かせてほしい」
そう悠一が言うと、修の冷や汗が増えた気がするが気のせいだろう
本部で診察して貰えるらしいが、その本部とはどこだと思い周囲を見渡たそうとする
そして、見渡すまでもなく視界に入ってくるあの建造物なら最新の治療、なんなら最新の怪しい研究なんかも出来そうだと異世界転生系やSF系の小説で学んだ脳が確信する
「…本部ってもしかしてアレ?」
思い返せば、修があの建造物をボーダー本部とか行ってたような気がするが、あんな所に行った暁にはモルモットにでもされそうで恐ろしい
なるべく行きたくないが、
「うん、あそこが我らのボーダー本部だよ」
そうあっさり帰ってきた返答に内心絶望する
「マジであそこかよ、俺生きて帰れるかな…」
「そんな危なっかしい場所じゃないよ
ここに長居したら危ないしはやくいこう」
そう言われ、すごすごと迅さんについて行く羽目になった二人だった
歩いて数分、ボーダー本部の入口にたどりついた
裏口なのか、見た目に反して地味目の扉にWiiリモコンのような形状のものを悠一がかざす
恐らく鍵だったのだろう、がちゃんという音と共に屋内特有の籠った空気が流れ出してくる
金属で作られた道は歩く度に金属製の音を発し、the近未来な雰囲気に昴の心は高ぶる
「おお、すげえ!これがボーダー本部か」
「まあ裏口だけどね」
「なんか地味って思ったらそういうことか」
「基本使わないんだけど、正面から行ったら面倒くさそうだったからな」
そう軽口を言い合いながら進んで行くうちに、広場に出たようで、人もいる
ボーダー本部の内装はあらかた外観のイメージ通りであったが、広場にいるあ職員らしき人達は学生と見受けられる人、そうでなくても30にも達していないような若年層ばかりであった
若い組織なのか、はたまた若くなければいけないのか、若くあってしまうのか理由は分からないが、昴の知らない世界であるのは目に見えて明らかだった
服装が軍のような雰囲気を持ち合わせており、戦争という言葉が現実味を帯びてくる
思えば、あの寂れた住宅街もネイバーから避難した後なのではと思えてくるが、なんだか怖くなってきたので考えるのは辞めることにした
疑問と疑念を抱きつつも、悠一の後をついて行く
途中、若いが髭の生えた男や、金髪のタバコを吸っている男など、行く先先で声をかけられていた悠一はこの組織内で有名なのだろうか
「…そういえば、修はここに来たことあるのか?」
ふと気になっただけだが、聞いてみることにした
立ち入り禁止な場所にわざわざ近づいたのはほぼ確でこのボーダー本部が目的だろう
以前来たことがあるのか、それとも入れないから無断で入ろうとしたのか、純粋な疑問だった
「あるな、…僕はボーダーの入隊試験に落ちた事を抗議しに来たんだ」
「落ちたのか!?てか抗議!?行動力凄すぎだろ…」
その言葉には悠一も驚いているようで、言葉が出ないようであった
「落とされた理由を納得いく形で説明して貰えなかったんだ
筆記は落とされるような点を取っていない筈だし、運動神経はいいとは言えないがそこまで悪い結果ではなかった
実際、そこは落とされた理由ではなかったらしいが、トリガーを使う明確な才能が僕には無かったらしい
けど、それじゃ諦める理由にはならないと思ったんだ」
「…入隊テストってそんなんでいいのか?ボーダーって戦争する組織なんじゃ…
てかトリガーって何?というか明確な才能ってなんだよ、めちゃくちゃ不親切じゃねぇか!」
明確な才能とぼかされた表現をされては納得出来ないのは当然だろう、修の考えも当然だ
だからといって危険区域に入ってまで抗議するのはどうかと思うが
「あー、メガネくんはトリオンが足りなかったのか」
「トリオン?」
「トリオン?」
そんな様子を見て思い当たる節があったらしい悠一が発したトリオンという言葉だが、どうやら修も知らないらしい
「ああ、ネイバーはトリオンって呼ばれる物質で作られてるんだけど、トリオンにはトリオンでしか攻撃が通らないからおれたちもトリガーを通してトリオンを使う
そのトリオンは心臓のすぐ横にあるトリオン器官から作られてるけど、トリオン器官の大きさは個人差があるから小さい人間、つまりトリガーを使う才能が無い人はテストの時点で落とされるんだ」
「トリオンってそんな大事なの?東大卒とかプロボクサーが来てもトリオンがなかったら落とされるのか?」
「そうだな、なんならエリート軍人であってもトリオン次第で落とされる
そのくらい大切なんだ」
この世界の運命とは残酷であるようだ
抗議するレベルの強い思いを抱いてる修はこの才能に恵まれなかった、どうしても腑に落ちない
なんだか無性に悔しくて、手を握りしめてしまう
「…そこをどうにか、僕をボーダーに入隊させてくれませんか」
しかし、修は現実の非情さを突きつけられても尚、真っ直ぐ悠一を見る
絶対に諦めないという意志のこもった視線は鋭く悠一を貫いていた
「なんか、そのトリオンってやつを電池みたいに貯めて使ったり出来ないのか?そしたら才能とか関係なく誰でも入隊できると思うんだけど…」
理不尽な理由で進む道を歩めなくなるのはとても辛いはずなのに、それでも心を曲げない修にどうにか報われて欲しくて思いついたことを話す
トリオンというものがどういうものなのか分からないが、もしエネルギー的な何かなら貯めることもできるのではと思ったのだ
「…まず、トリオンを貯め込むことは出来ても戦場で戦うとなればトリオンを貯める機械は邪魔になる
そうなったら元から能力がある人間を使った方がいい
そして、このボーダーは規則厳守だからメガネくんだけ特別にってのは出来ない」
流石にこの世界の先駆者達が昴の思い付き程度のことを考えていないはずも無いので却下されるのは想像がついていた
それに、軍も同然のボーダーで特別が許されないであろうことも想像が着いた
「それは…そうなんですが……」
そういう修に諦めの色は見えないものの、やはり悔しさは隠しきれていなかった
そりゃそうだろう、才能がないからなんてやってもいないのに言われたら誰だって納得行くはずが無い
「普通はね」
「!?」「え?」
「そんなに心配しなくても大丈夫
実力派エリートの迅悠一が補償するからな」
まるで今から起きることが分かるかのような、実際に分かっているかのような物言いで悠一は話す
呆気に取られている修と昴を背に歩き出した悠一を、困惑しながらも胸には期待を抱きながら追って行った