ヒルドルの唄に踊る   作:らんかん

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プロローグ
プロローグ:ナバナ刑事に注がれた狂乱


 ヴァルキューレ警察学校。

 

 警察にも当然部門というものがあり、交通整理するのもあれば市民を助けるお巡りさんもいる。

 

 無論、その中には事件というものに対応する部署もある。

 

 それが今回、この話の主軸となる"捜査局"だ。

 

 この捜査は当然事件に関係する捜査を行う、いわば刑事のための部署。

 

 そんな部署の一人が、話の中心となる。

 

 

 

 

 夕方、のんびりしている捜査局内。

 

「暇だ」

 

 机に足を乗せ、スマホをいじっている人間が一人。

 

「ナバナ刑事、今日もお暇そうで」

「そら暇だよ。事件なんて”起きようがない”んだから」

 

 銀色の髪に金のメッシュ。それが一番目立つ黒いスーツの女。

 

 銀鐘(ぎんしょう) ナバナ刑事。階級は警部だ。

 

「起きようがないなんて、冷たいこと言いますね」

「確かに毎日事件こそ起こっているが、こちらには捜査権はない。自治区内に引き継がれることも基本ないからな」

 

 ナバナは後輩に向かって、あくびをしながら返事を返す。

 

 捜査局そのものがあまり話に上がらない要因。

 

 それは、ヴァルキューレの刑事は基本的に役に立つタイミングがないことだ。

 

 刑事といえば事件の解決のために様々なアクションを取り、追跡や聞き込みなどをした上で逮捕に踏み込む事がほとんどだ。そのために色々な場所を駆け回るのだが_____

 

 この学園都市には自治区が多すぎて、調査に必要なことが基本できない。

 

 例えば、ヴァルキューレが管轄している場所、もっと具体的にいえば連邦生徒会か直接管理している地域であれば当然連邦直下組織であるヴァルキューレの警官は何の隔たりもなく行動する事が可能。

 

 しかし、これが例えばD.U.地区で事件が発生し、捜査や追跡が難航して、犯人をようやく特定した上で捕まえようとした場合。仮に犯人が自治区を持つ学園へと忍び込んだら、その時点で追跡が出来なくなるのだ。

 

「いくら頑張っても結局他の学園に逃げ込むんだ、それでうやむやになることが殆どなのに頑張る意味はない」

 

 ナバナが言っていた通りの認識が、捜査局には広がっている。

 

 詳しい話をすると、当然犯人を擁護する理由もないため自治区を管理している学園に通告がいく。犯罪者の個人情報並びに罪状を共有されるのだが、その先の学園が対応するとも限らない。

 

 ミレニアムに行けばいい方だ、全員勉強しており、差があれど優秀な人材が居て高価な研究施設もある以上犯罪者を徹底的にぶちのめさなければならないこの学園は比較的協力してくれる。

 

 だが、そうじゃない学園の方が多い。

 

 ゲヘナやトリニティは、その申請を無視する事が殆どだ。

 

 前者はそれでも申請そのものを無視するだけで、粗暴なゲヘナそのものに卑怯者が隠れれる場所はあまりない。しかしトリニティは、犯罪者の脱走や自治区での活動許可・捜査のお願いを出したとしても受け入れられることはない。

 

 適切な場所に投げても、聞き流してしまう。政治を担っている者達にとっては政治闘争が全てであり、下の被害を気にするやつはいない。かといってトップを非難するわけにもいかず(トリニティの上は昨今かなり疲弊しているため追い打ちをかけたくないというヴァルキューレ上層部の以降もあるが)、結果として犯罪者はトリニティへの脱走を決めてゲームセットだ。

 

 山海経に逃げれば相手側の意向が強く出るためあまり話を聞いてもらえず、百鬼夜行も微妙な対応しかしない。ヴァルキューレにとっては、自治区そのものが鬱陶しいシステムであることに違いなかった。

 

 そのような中で真面目に仕事をしようという奴が出なくなるのは仕方ない。

 

 この状態がヴァルキューレの活動を大幅に制限し続ける以上、避けられないものだ。

 

 最初は捜査部だけのものだったが、時が経てば連邦生徒会失踪やシャーレの台頭が立て続けに起こった事で"連邦生徒会は信用ならない"との風潮さえ出てくる。

 

 そうなればヴァルキューレ全体の無気力化も起こり、結果この学園ではろくに仕事しない警官が多くを占めていた。

 

 訓練さえどうせ出来ないと適当になり、いつしか彼女らは訓練さえしなくなったのである。

 

 ナバナもその一人だ。今仕事がないから、仕事場でスマホを弄るに至っているのだ。

 

「あ、そういえば」

 

 後輩は口を開く。

 

「ナバナ刑事聞きました?元SRTのメンバーに対する身辺調査の件」

「関係ないから聞いてないがどうした?」

「この前不知火カヤの一件があったじゃないですか、だから上層部がテロを恐れて調べてるそうですよ」

「んあ?」

 

 聞いた方は首を傾げた。

 

「いやまあ、そりゃあんな事件上がつるんで起こされたら慎重になるわな。カイザーだっけ?それと連んでいたのがFOX小隊っていうSRTの顔だったってなれば警戒するのも無理はない。んでも、態々それで身辺調査するってなるか?」

「本気らしーですよ、あこれ食べます」

「食べる」

 

 後輩が差し出したアーモンドチョコを食べるナバナ。

 

 SRT絡みの一件で、尚更受け皿として機能したヴァルキューレの印象が悪くなりつつあった。その結果、元々からヴァルキューレの所属だった生徒は同類に見られたくないかつ憂さ晴らしやイメージアップ(といっても市民の溜飲を下げる程度の意味しかない)のために学園内の警官は最近元SRTに迫害をするに至ってる。

 

「すでにメディアへのアピールをしているんだろう?ならもう下手に触る必要はないだろ。何しろ、警官が勝手に暴行加えてるんだ、宣言だけで下手に動くと暴動が本当に起きるぞ」

「今回の事件でかなり悪化してるんですよ。それを拭うためにはアピールじゃ足りないし、しかも例の公安局長は元SRTへの支援プログラムを組んでいるし今回の強い弾圧的な発言をしていない。しかもシャーレと連んでるって来てますから、シャーレに同調しないってんで大衆はかなり不信感を募らせてる。手を伸ばしたから余計に辛い目に合わせてる、というのをあの現場主義が知っていると思います?」

「知らない方がいいことだ。ま、どっちにしても私達には関係のない事だけどな」

「あっポケットに入れてたエナジーグミ!」

 

 お菓子をたくさん持っている後輩のポケットから、硬いエナドリの味がするグミをとる。

 

 噛んでみればグミらしい感触だが、高反発枕のような感触、そして滲み出る甘いが神経に攻撃する味。

 

「仕事しないから別に食べなくなっていいでしょう!?」

「いいじゃないか、甘いもんは明日の気力になる」

「明日何するんです」

「うーんカラオケ?」

「仕事じゃない!」

 

 なんて話す彼女らも、無気力の渦の中。

 

 もはやニートを飼い慣らすだけのこの学園では、マシな方なのかもしれないが。

 

 楽しんでいる彼女らに、あるものが響いた。

 

「電話だ」

「しかも私のか」

 

 直近そういった仕事もなかったナバナは、電話が来る事自体を不審がった。

 

 しかし、電話は響いたら出なければならない。ヒモをやるには仕方ない。

 

「出るんですか?」

「態々私に来たんだ、仕方ない」

 

 彼女は、受話器を手に取った。

 

「もしもし、こちらヴァルキューレ捜査局です」

《ご苦労、私はヴァルキューレ公安局長の尾刃カンナだ。ナバナは?》

「私ですが」

《捜査局の中で真っ当に使える人材が君しかいないと聞いているので、今から仕事を投げる》

「嫌ですと言ったら?」

 

 ヴァルキューレの状態を知っているでしょう、という嫌味を言うが相手は変わらない。

 

《あんまり言いたくはないが、公安局の権力を知っているか?》

「そう言う脅しをするのどうなんだ。で、なんです?」

《不可解な事件が発生した、捜査局の力を借りたい。血痕は二人倒れていたのに見当たらない、犯人の痕跡はなし、一人裸体の少女が全く無事で見つかったというおかしな事件だ》

「ハァ〜?」

《ブラックマーケットで、だ。だから、いろんな介入が入る前に自校の刑事に頼ろうと思っている。もっとも捜査局の上とは折り合いが悪いが……お前は話を聞いてくれると思ってな》

 

 カンナであることには違いない。

 

 電話と繋がっている通話記録や操作するモニターの相手は、しっかり尾刃カンナの情報を出している。

 

《刑事事件を引き受けない刑事がいるとは思えないが、どうだ?》

 

 ナバナは考えた。

 

 今回の事件はブラックマーケットで起こった、犯人の痕跡はない、一人裸体の少女が殺されたでも強姦されたもなく無事に見つかっている。

 

 言われただけでも、頭が痛くなりそうな、雑な小説の朗読を聴いている気分。

 

 が、彼女は迷わず答えた。

 

「え〜では……どこにいるか、どんな状態かメッセージで下さい。では」

 

 電話を切るナバナ。

 

「え、そんな雑に切っていいんですか。イタズラ電話か分からないし、ブラックマーケットって基本自治区ではないですけど実質不干渉ですよね?流石にモニターはカンナ局長からとは出してたけど」

「気になることはいくつもあるが、イタズラ電話で態々警察内のネットワークにカンナ公安局長の名前を使ってくるかも怪しい。そんなことしてタダで済ませる狂犬じゃない。確かに直通で話をしてくるのには不安が出てくるが、確認しない理由にもならない」

 

 彼女は上着を着て、そのまま歩き始めた。

 

 カンナの話が本当ならブラックマーケットでの超不可解な事件が流れているとは思うのだが、それでも流れている様子はない。ニュース番組は、今は特集までやっている。

 

「ほんとに行くんですか!?」

「ああ。私は向かう、ヴァルキューレは組織体質上、上と連絡が取りにくいが今の通話情報を持って掛け合ってみてくれ。多分到着するのには間に合うはずだ

「仕方ないなあ」

「行ってくる」

「ええ」

 

 二人は別れた。

 

 後輩は今の通話データを抽出してから保存し、自分のパソコンから公安局の方への連絡を開始。ナバナはそのままブラックマーケットへ向かうことにした。

 

 彼女のスマホには、待機場所に比較的大通りな入り口が指定されていた。

 

(なるほど、さして怪しいこともせず逃げれるか)

 

 急いで車の鍵を取り、外に出て乗り込む。

 

(本物だろうが偽物だろうが真意は問いただす必要がある)

 

 エンジンをかけて、その車は夜に走り出した。




こんにちは、らんかんです。

急に始まりました、拙作「シャーレ前交番のヴァルキューレ警官」の過去作です。もしよろしければ見てください、そこそこ面白いと思います。

今回はシャーレ前交番の主人公ゼンヒやその他キャラのちょっとした過去を書きつつ若干ダークファンタジー風味でやる予定です。

どこまでうまくできるかわかりませんが、これからよろしくお願いします。

らんかんより
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