窓を破り、入る者。
しっかりとした特殊部隊の装備で身を固め、銃弾なぞそもそも生身に届かないというほどのもので突撃してくるポイントマンが二人の間にワイヤーから振り子のようにして突撃。
「どけえ!」
「邪魔だ!」
喧嘩最中にやってきたやつを許すような二人ではない。
お互いに右ストレートを急接近して放つと、着用していたガスマスクとヘルメットがひしゃげて内部の人間の顔に歪んだ部分がめりこみ出血。
「どこだ!私らの邪魔をするバカは!」
「出てこいよ!なあ、お前らは殺したいんだろ!?おい!」
互いにダウンしたやつを蹴り、引こうか検討していた陰に潜むバカどもを挑発。
すると、窓からも入り口からもいろんなやつが飛んでくる。
「ギャハハハ!なあ、見ろよこれ!殺したいと思ってるやつが多すぎ____ってええ!?ちょっと多すぎやしねえか!?」
「どうやら仲間意識が強いようで安心した」
突入してくるやつは全員いい装備を着ている。
対して防弾ベストもない状態でいる奴らが二人、そして敵は12人。
殺さないで確保するなら上場か。
「カンナ!」
「ああ、ルール変更だ!こいつらの首の数で決着をつける!」
この時のカンナはもうとびきり笑顔。
自分の悩みの種の一つをぶっ潰せることに喜びを得れる狂犬が、潰しがいのあるやつが出てきて歓喜できない訳はない。しかも自分がどうやってきたか、今否定したい相手に見せつけれるチャンスなのだから。
対するナバナは怒髪天。
人が関わりたくないと言っているのにも関わらず突っかかってきたのに到底許せるような性格ではないのは無論、しかもそれが誰かとの喧嘩中。彼女がいくら現状に対して虚無であっても、その虚無の発端はすでに燃え尽きたやる気。
”今すぐに死ぬ気”はないから、命を差し出せと言われれば当然反発する。
「死ね!」
先に駆け出したのはナバナ。
一瞬の隙で一人の至近距離に近づけば、銃弾など使わずに高速ラッシュを叩き込む。
キヴォトス人の本気の殴り、フィジカルが高すぎる上にファンタジーじみたラッシュは防弾ベストを破壊。内部の金属プレートが露出するほど殴ると、それを無理やり引き抜いて相手に刺す。
流石に殺すわけにはいかないのか、心臓以外は適当に刺す彼女。プレートは捻じ曲がったせいで鋭い針のような部分ができていて、それで切る。殺人まで後一歩のところまで踏み込んで、彼女は暴れる。
「わ、わあ!」
「怯むな!こっちは」
「遅い!」
面射撃の態勢を組もうとするメンバーを後ろからカンナが急襲。
振り向かせたところで首を無理やり反対方向に引っ張って振らせることで神経へのダメージと首の小さな骨を折らせて、アッパーを入れ込んで吹き飛ばす。
「チッ、無機物じみて楽しくない」
上を見るが暗くて見えない。彼女はつまらなさそうにしている。
腹いせにもう一人近くにいたやつも、膝蹴りで防弾ベストを破壊してから何発も拳を鳩尾に入れ込んで、ヘルメットを鷲掴みにして砕くほど握る。
血が流れるほどではないが、強烈な痛みや圧搾に血の循環が上手くいかないせいでその兵士は気絶。
「おい気絶するな!」
掴んだまま腹に膝蹴りを数発入れて投げ飛ばす。
もう、彼女の理性はどっかに消えた。
この世界で警察としての仕事が真っ当にできている、それは『自治区などに逃げられた場合政治的に手が出せないからその前にしばき倒す』が出来るような人間であること。これを成立させるには『相手に圧勝できて絶対に己のテリトリーから逃さない実力』『行動に鈍りが出ない自分が間違っていないという確信』が必要だ。
それを常に持っていて、敵に飢えたほどの戦意で突っ込むから狂犬だ。彼女に対して使わなかった”戦術”でアイデンティティを保ってるような奴らが敵うわけもない。
投げ飛ばせば追加で二人引っかかって倒れるところを飛びかかって顔を何回も殴り、腹を蹴り、逃げようとするもう片方に至っては急いで銃のストックで引っ掛けて床と挟む。
一人でも複数人の犯罪者を捕まえられるほどの実力とは、厭わないことである。
1人で4人もしばき倒す、なんて無茶を平然とやってのけるカンナ。
「はっ!この程度の攻撃も防げないとはなぁ!」
を、超える勢いでしばき回すナバナ。
最初の1人からプレートの鋭いところで装甲がないところを刺したり切ったりしていたが、流石に一度強い衝撃を加えてしまっただけあって脆い。カンナが殴り飛ばしてる間にプレートが壊れてしまっていて、その結果ガラス片を振り回すヤバい女に昇格。
脇や腕、大腿の裏などとにかくほぼ生身な場所を切り裂きながら進む彼女。カンナとは違い“別に死んでもいいから”で攻撃できる。
そもそもがどうせ滅びるというスタンスでやっているからこそ他人に執着しない。自分にも執着できないから死というものに対して興味もなく、目の前で殺したとしても倒した傷にもならないだろう。
腕を切り裂かれ、ふとももからも血を流して叫ぶ奴らが作られていく。
「おいおいこの程度で殺そうとか思ってたんじゃないだろうなぁっ!?ああっ!お前ら甘すぎるんだよ!」
うめきが聞こえ肌にかかる血も拭わずに、切り裂いて4人目に襲いかかる彼女。
飛び乗ってはタコ殴り、そのまま首を軽くガラスで切って動けなくしてからまた殴る。
12人突撃したはずなのにいつの間にか数が三割に減っている、本来装備したやつを12人けしかけるということは制圧できると同義のはずなのにそれが全く出来ていない。
ただ、それはポイントマンの失敗で片付けられる話でもなかった。
ナバナもカンナも同じくストレス発散が必要だったのだ。下っ端であるからこその縛りはキツすぎてやる気を無くしているのにやる気を出せと迫られたら当然嫌気が差すし、上は上で周りと比べたりとか自分に常にのしかかる責任が少女には重すぎるほどだった。両者人を殴り倒すぐらい原初的な快楽を欲していたのだ。
「ああくそ、どうしてこんな!」
「逃げるぞ!このままだと食い殺されてしまう!」
流石に襲いかかってきた奴らも消極的になる頃だろう、尻尾を巻いて逃げ出すのにはちょうどいい頃合いとも言えたのだが______
それが許される時間ともなれば、もう過ぎていた。
「てめぇら!銃捨ててはよ伏せんかい!」
警察が色んなところから飛んできて、二人を守るようにして展開。
流石に精鋭教育を受けていたとしても、ある程度のシステムを構築した警察の数には敵わない。
あっという間に包囲されて、全員床に伏せる結末となった。
「大丈夫ですか局長!」
「サザリ!」
「良かった無事だ、やっぱり局長は_____ってナバナ!」
「ああ、んだよ」
「そんなふくれっ面しなくてもいいじゃねえかよ、お友達が助けに来てやったんだぞ」
「誰が友達だ、こんなことに巻き込まれたくないのに巻き込んだバカがそこにいるからこうなったんだろうが」
「バカ?ああ、局長のこと?」
「おい待てサザリ、お前私のことバカって言ったか」
「文脈的にそれしかありえないかなあって」
ただ、サザリが目をつむりたいのは別のこと。
普通血まみれになるとかないはずなのに、何故か血が滴ってる。
「あの、その、お二方。もしかしなくてもこの血はあんたらのせいですかね?」
「ああ。ハンデを上げたんだから、こうなってしかるべきだろうが」
「そうだそうだ。私達はほぼ丸腰だと言うのに」
「全くそう思って_____って同調してんじゃねえ!」
やっぱり内心はカンナのことが好きでなくなってきたナバナは拒否るようにそっぽを向く。
「サザリさーん!伸びたやつはどこにー!?」
「警察病院にでもぶち込んどけ!ボーナスの種って言えばバカどもも気前よくやってくれらあ!」
「あーい!」
どうやら戦友だと思っていた少女が非常に苛立って嫌っているのは伝わっては来ている。
「あんだ何があったんだナバナ」
「聞けよ、カンナはどうしても私を働かせたいんだ。だが頑張ったところでシャーレが全部持ってくんだから意味なくね?っつったら怒ってさ」
「怒る?局長が?」
「待てサザリ、ナバナは私のことをアバズレって言ったんだぞ。ひどくないか!?」
「うーんそれはちょっと擁護できないなあ」
「でもそう言わせるまでストレスかけたのあっちだっつーの!私働いても働いてもただ仕事が増えていくだけで給料変わらない働いたところで何も輝かしいものが得られる社会じゃないから働く意味ないってのは間違ってないだろ!?」
「先に話は聞いていたけど、それは間違ってるとは思わないなあ」
「助長するなサザリ!だったら私の成果はどうなる!?シャーレができる前から公安局長になってたんだぞ!」
「それは周りとちがって狩りまくった結果だし、努力そのものは間違いなく実力なので才能がなくてもそうなれるきっかけは誰にでもあるとおもうなあ」
「「はっきりしろ(よ)!」」
「あ痛いぁ!?」
二人の理解しろよ!味方しろよ!というのが思い切り込められたビンタがサザリを襲った。
腫れてないが赤くなった頬を擦り、彼女は言う。
「まあ待ってくださいよ。ここでそれの決着つけたところでどうしようもないじゃないですか」
「てめえ話を伸ばそうと」
「話伸びる前に叩かれすぎてこっちの顔が伸びるっちゅーの。刀ちゃうねんぞ」
「結構サザリの話し方って俗っぽいんだな」
「敬語使わせるような立場にいてその発言はないでしょ」
「今は違うだろう」
「どこが」
「お前は私とナバナの仲介人だ」
「ここ仕事場なんですけど?」
サザリも流石に苛ついてきてしまったが、やるべきことが沢山ある。
と、いうよりここに長居するわけにも行かなかった。波状攻撃の懸念もあった。
「たく____二人とも、喧嘩するならとりあえず移動しますよ」
「私は行かねえよ!一緒に行ったら」
「はいはい」
いがみ合うくらい擦れてる二人を、彼女は引っ張る。
襟を掴んで。
「うわっ」
「あわ」
「話は署で聞きますからねッ!」
犬猫の首を掴んで引っ張っていくサザリ。
ともかく一度公安局に引っ込んでから色々始末をつけたほうがいいだろう。
ナバナは頬を膨らませてるが、もうふざけ倒してストレス発散してる最中のカンナは面白そうな顔をして部下に引っ張られるのだった。