ヒルドルの唄に踊る   作:らんかん

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ただ、食い違い

 事件現場から離れて、ここは公安局の建物。

 

 公安局はヴァルキューレでも真面目かつ強い人間が集まるため、相当に厳重な警備が敷かれている。尤も、それが三人に牙を向くことはない。二人はその公安局の人間だし、ナバナはちゃんと戸籍のある少女だ。

 

 ただし、サザリ以外は今威厳がない。

 

 そこに入っておおよそ30分、叱られているのだから。

 

「で、二人とも喧嘩してたって言うじゃないですか。本当に恥ずかしくないんですか警察として。ナバナは多数派だからって腐すことを真面目にやってる人間の前で口にする事がどれだけ傷つけるか理解できてないし、局長は相手を評価しているとはいえそれ主観だから押し付けたら当然反発されるんです」

「しかしだサザリ、私はナバナがこれ以上腐ることのないよう思い遣って」

「だからそれが余計なお世話になってるって言ってるでしょうが。局長、気持ちは十分に理解しますが遠ざけるだけですよ。それに立場というものが言葉の価値や力に大きな影響力を与えることをそろそろちゃんと理解してください、あなたの立場だとぼやきでさえ最悪強制力を持つんですから」

「本当にヴァルキューレってカスしかいないんだな」

「五月蝿いぞ穀潰しが」

 

 怒られてやんの、と口撃を咥えたらそれよりも鋭い言葉でナバナはサザリに刺されてしまった。

 

「確かに局長の誘い方や言葉が強引かつ無配慮だったことは認めるが、そもそも仕事している人間を馬鹿にすることがどれだけ悪いことか理解しているのか?理解してないとは言わせないぞ」

「はっ、それが分かってたら捜査局なんざ入ってない」

「言わせないと言っただろうが!」

 

 ビンタが飛んで、体が傾くどころか少し浮いてデスクに追突した。

 

 サザリは叫ぶ。

 

「あだっ!?て、てめえ!」

「そうやって腐っていった結果が元SRT生徒の反乱なんだろうが!それに対抗しておいて、性根から同調してたら余計な混乱を生むだけなんだぞ!」

「だからなんだ。自治権の乱立を無視して軍を擁立しようとしたバカ女の末路でも、甘い汁を啜るのが当然じゃないか。ただし、その甘い汁とやらが奴らにとっては"権力"であって"金"ではなかった。それだけだ」

 

 血の味を飲み込んで立ち上がるナバナ。相当痛かったらしいし、妙な緩さを口に感じる。

 

「私は金さえあればいい、だがあいつらには誇りという麻薬が全てだ。人を好きに弾圧して殺す権利、それに抗える人間はそもそも”軍”なぞ選ばない。ナショナリズムだの、共同体も全てそうだ。そしてそういう共同体は考えることを放棄させる」

 

 ナバナも声を張った。

 

「この世で一番賢い生き方は、英雄の下にいることだ。ヴァルキューレはシャーレの英雄とやらからは遠いが、それでもその下に警察もいるってことは政治的理由をつけて働かず飯食っていける。それがどれだけ素晴らしいことか知らないのか」

「じゃあなぜ首を突っ込んだぁ!お前はっ!」

 

 サザリが襟を掴んで、彼女を壁に押し付ける。相当の怒りが顔から見て取れる、少女から出るはずのないほどの皺の寄りが、その激情をはっきり表現した。

 

「答えは一つだ……」

「言ってみろっ!」

「金くれる奴が居なくなったら終わりだからだろうがッ!」

 

 相手の下腹部を蹴り、餌付いたタイミングで殴り飛ばすナバナ。

 

 彼女は遠くに吹っ飛んで、二席離れたデスクに突っ込んで壊しながら転がる。

 

「存在するだけで金落とさなきゃいけない英雄依存の馬鹿どもは自分で考える力がないから、その超人が決めたルールの通りに税という形で金を落とすんだ!甘い汁を搾られる馬鹿が消えるような真似をみすみす見逃すことがいい事だって言うのかよ、あぁっ!?」

 

 ナバナの言うことは、ある観点から言えば正しかったとも言える。

 

 司法がすべき事は遠回りにはなるが、まさしく財の源を確保・保全する事が目的だ。

 

 市民達は公共として自分たちの生命を保障してくれるし、無意識下でその活動費の維持として税金を払うわけだ。それはどの学園でも例外ではない。

 

 ヴァルキューレが腐敗しているのは学園というなの自治区の乱立が、警察の行動を阻害している事が大きい。それに自治区がない場所は全部ヴァルキューレに皺寄せが来る上に下部組織ではそもそも自治区という事実上の国境付近での行動が制限されてるのもあって義務が果たせてない。

 

 それ故に中途半端な追跡になるし、中途半端にならない場合は外交という事件とは遠い場所で無用の会議をしなければならないのだから結局被害者が増えていく。自治区を持っている学園はその範囲が狭い上に軍を警察に転用できるように”法律という根本”を弄りやすいから自治区にすら治安維持の面で負けていると言えた。

 

「あいつらは、目の前しか見えてないんだ。見えてないから革命なんてやりたがる。今の社会を壊して、自分達の思い通りに動かしたい。腐敗や悪政がなんだ、そんなもん政治家が真面目にやってても馬鹿どもはミスした時に揶揄する。でもその揶揄すら出来なくなったら、人間は死ぬ!言論の自由が首を絞めるわけじゃない、精神も死ぬかもしれないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ!」

「ナバナ……!」

「人間は知らないことに恐怖する、恐怖するから最悪のパターンが増幅する!だけど社会がその確認どころか口にできないものだったら、人々は事実かどうかもわからない理由で排除するんだ!警察ってのはな、手遅れで、しかもその全容が一切わからない状態でも実体化した司法として、最前線で警察が事件という未知に突っ込む!警察だからこうあるべきだ?あいつらはそれに背いたからダメだ?そんなもん人間を理解しようとしてない権威主義のバカしか口にしない!根っから法律や権威以外で個性がないモモトークの政治アカと一緒だろうが!」

「警察は法律という正しさの元に動いている!それに背くやつは犯罪者になる、だから止めるんじゃないか!」

「このクソアマ!」

 

 ナバナは感情をむき出しで、痛みを引きずり起き上がりつつあるサザリへと殴るような言い方で声を出す。

 

「正しさがある社会なんざない方がいいだろうが!」

 

 それは無政府主義ではないにしろ、悪辣でもあるが起源とも言える民主主義の言い種であった。

 

 彼女にとっては警察が腐敗するのは現実を受け止めた結果であり、自分が生きている範囲の最適解を歩んでいるに過ぎない。犯罪をしない範囲で、暇つぶしして税金を貰っていた。仕事を果たしていないことは責められるべきだが、人に害してないならそれ以上のことは出来ない。

 

 だが、元SRTの反乱は話が違う。社会に対する破壊をし、自分たちが気持ちいいだけの社会として再生しようというのだ。歴史上、革命というのはそういう革新派の”正義”が横行した結果”悪”が生まれてしまっていて、その悪と正義が定めた者の価値観の変化でまるで()()()()()()()()()()()()

 

 そういう類の人間が支配することを、ナバナは敵対した。自分の怠惰さえも、その相手が来たらかなぐり捨てて戦ったのは公安局も知るところだと言っていい。

 

 独裁・専制の法律というのは『善悪の制定』であり、民主的な体制の法律というのは『様々な行動の上限・下限の制定』だ。後者であれば、そう簡単に基準を変えることは出来ない上で”やらかしても当てはまらない・選択肢のなさも含めてやらかしたやつに加減が出来る”柔軟性を見せれた。

 

「お前らが警察の正義とやらでしか動けないなら私は手を組むなんざ一生ごめんだ!私は私で勝手に戦う!」

 

 嫌気が差しすぎて捨て台詞を吐き勝手に帰ろうとするナバナ。

 

 喧嘩を始めてしまって呆気に取られていてもサザリばかり大人な対応をさせることをよしとせず殴り合うことを肯定したカンナは少しばかり笑って、自由にさせてやるかと言わんばかりに見送ろうとした。

 

 サザリ本人も、言いたいことは言い切らせた上で戦うこと自体は今否定しなかったナバナにあとで意地悪しつつも戦いを選んだ彼女に文句を言う気が起きなくなっている。

 

 さて、そんな公安局の奴らに目もくれずナバナが踵を返して扉を開けようとすると、その5歩手前で気が利く扉が開く。

 

「た、大変です局長!で、デスクも大変になってますけど!」

 

 扉が自動じゃない以上勿論開ける人間がいるわけで、華麗に避けたナバナもその慌てぶりを怪訝に思って立ち止まった。

 

「なんだ」

「只今矯正局で元SRTによる反乱と犯罪者の暴動が発生しています!このままだと例の少女もそうですけど、不知火カヤやFOX小隊も身が危険かもしれません!公安局のメンバーが今一生懸命連邦生徒会が動かせる兵と共に戦わせてますが、七囚人よりも時間の余裕があるだけで全く他の余裕がありません!」

「……面倒なことを次々と起こす!」

 

 罰することは脆弱で、罪を犯すことが損ではなくなる。それがどれだけの被害を生むか理解できているナバナは公安局の奴らの手助けこそ気に食わなかったものの、ヴァルキューレでそこそこ戦えると自負し、それが事実になりつつある自分の仕事だと舌打ちしながらも走り出す。

 

「待て、ナバナ……!一人で行くな……!」

 

 少しばかり手当てをして、ついて行こうとするサザリ。スタートダッシュを決めすぎて素早いナバナには追いつけずにいた。

 

 そんな光景を見ていたカンナは、少し不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「あ、あの」

「大丈夫だ。お前は確か事務員だったな……すまないが、あのバカ達が荒らした後をなんとかしてくれないか?あとでちゃんと叱っておくとも、迷惑を被ったやつには伝えておいてくれ」

「わかりました!」

「私も公安局長として行かなければならないからな、頼んだぞ」

 

 そう言い残して、カンナも二人の後を追うべく、二人とは非にならない速度で鍵を取って走り出した。

 

 自分たちを襲ってきた生徒達が大規模行動を起こし、軍事によってキヴォトスを変えようとしている。その一大事を見逃すやつは、少女達の中には当然居ない。

 

 次の戦場は矯正局、その一手が騒乱のトリを飾るのか?

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