ヒルドルの唄に踊る   作:らんかん

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不可解な失踪事件

 ナバナはブラックマーケットへと足を踏み入れた。

 

 結局イタズラ電話だと思っていたが、現地に行けば呼んだ本人が入り口でちゃんと待っている。その上で公安局の人間があっちこっちへと移動して、状況確認をしていたようだ。

 

「ようやく来たか」

「あっどうも捜査局です」

「捜査局が何しに来やがった!」

「てめえらのドンに呼ばれたから来てんだよ」

 

 ヴァルキューレの中身は基本組織ごとに派閥化して仲は悪い。

 

 公安局はその中でもまともであるカンナの配下であることを自負しているため、非常に排他的だ。最も公安とはどこでもそんなものなのだから、あまり変わりはしないだろうが。

 

「待っていたぞナバナ」

「なんで私指定なんだ」

「お前しかまともに作業してくれる捜査官がいないからな。道具とかも持っていくどころかそもそも知識すらない奴が多くなった中では、数少ない頼れる警察官だよ」

「公安に全部権利渡せばいいのに」

「そしたらお前の居場所なくなるぞ」

「今のヴァルキューレにいるよりはまともな人生が送れそう」

 

 彼女らは笑いながら歩く。

 

「んで少女はどうなったんで?見つかったって話だったけど」

「そこの捜査用テントの中」

 

 二人揃って、テントの中に入る。

 

「あ、局長!お疲れ様です!そちらの方は」

「お前らのことを理解してくれるタイプの警官だ」

「捜査局のナバナ刑事だ」

「ああ!人壊しの!」

「ここで死体を一個増やしてやろうか」

「冗談ですって。ほら」

 

 案内されたのは野戦病院レベルのベッド。

 

「これか?」

「ええ」

 

 裸体の娘が、そこに眠っていた。

 

 傷ひとつない故に、余計に目立つ。

 

 薄紅色の長い髪だが、前の方はペンキが染みたように赤い髪が広がっている。頭皮あたりから髪をなぞれば、生え際は薄紅色でもそこだけ赤い色の髪。おかしすぎる遺伝子を感じる。

 

 全体的に肉がついた上でバランスがいい。胸の大きさも十分あるが爆乳という程でもなく、カンナの暴力的ボディとはまた違うエロス、破壊したい、泣かせたいというとんでもない絵ロスを掻き立てるほどのお姫様ぶりだった。

 

「生きてるっぽいすけどなんか分かります?」

「身体ペタペタ触ってるけどまあ反応もないってことは深く気を失ってるし、心臓とかは動いてるけどまだ……って感じだ。目覚めるのに十分時間が必要だな」

「ですよねえ。何時間くらい?」

「はっきりしたことは言えないな、こういうケースは他にない。脳が死んでる、っていうにはそもそも身体全体の反応が薄いから……まさしく徐々に起動してる感じがする」

「じゃほっとけば起きると」

「そうなるな」

 

 ナバナは一度、カンナの方を向いた。

 

「どうするんです?この子」

「今回の事件のキーパーになるかもしれない。持っていく」

「持っていくってヴァルキューレに?」

「いや、矯正局だ」

「……は?凶悪犯罪者でもないのに?」

「逆に聞くが、今回の事件の関係者であるはずの彼女を普通の病院に運べると思うか?」

 

 沈黙が、流れた。

 

「そう言うことだ、いいな」

「いやまあ異存はないですけど」

「では行こう」

 

 観察用のアイテムと装備をして、ナバナは導かれるままにカンナの後をついていく。

 

 事件があった場所はある建物、店っぽいものの奥にある研究施設。階段を登りながら、二人は話す。

 

「そういえばここの所有者っていうの失踪した人間と合致するんです?」

「ここの所有権が誰かを探している最中だが、公的文書に最後に記録されているそいつは死んでいる。なら今使っている人間は誰だ、と言う話になるが、ブラックマーケットの人間は非協力的だ」

「そりゃそう」

 

 2階の部屋に近づくと、さすがに血の匂いがしてきた。それでもハエの羽音はしない。

 

「腐ってるわけでもないか」

「とりあえず調べてくれ」

 

 自分のところじゃない上の監視のもとだと緊張するが、とりあえず調べる。

 

 部屋の様子は二人が倒れていたであろうという様子の血溜まりと、ガラス片が何枚かある。それ以外は特にない。

 

 手を合わせる仏様もいなければ、血の匂いも少し薄れている。

 

「うーん、とりあえず考察するための手段は集めておきますか。あ、箪笥とか勝手に出してもいいですか」

「構わない、私のために仕事してくれるような人間がさほど無能なわけはないだろう」

「といっても単にヒントになる書類がないかとかですけどね」

 

 ナバナはこの段階で考えていた。

 

 ブラックマーケットの人間が、ヴァルキューレの侵入を許し続けるかどうか。

 

 もしこれが偶発的な事件だったとしても、あぶれものの人間が腐っても権力の象徴が自分たちの島で好き勝手させるかといったら怪しい。

 

 だから判断材料になるものだけでも先に収集しようと、そう言う考え。

 

 引き出しという引き出しを漁りながら、ナバナは言う。

 

「うーんこれでもあれでもない。自賠責保険なんてあったところでだし……でも最近の人は日記を書くとも思えないんだよな、あってくれたら嬉しいんだけどない」

 

 カンナは現場の人間の動きを止める人間ではない。黙りながら、彼女を見守る。

 

「いやこれは違う、てかここは基本書類がないな。てか二人死んでるのになんで何も証拠がないんだよ。ガラス割れているのに窓割れてないし、他の窓か?」

 

 風呂場や寝室を探すナバナだが、当然事件とはあまり無関係な場所だったのかあまり意味はなかった。

 

「ああもうマジどれもないんだ」

「いろいろな場所を探しているがないな」

「はあ、全く」

 

 と言っても時間と体力と状況が許すまでは、探さなければならない。

 

 今の所血痕や事件の跡がなかった場所は後回し、リビング相当の場所を探すしかない。と言っても、何度も箪笥を引っ張り、裏に何か細工されてないか探しても特にないから、彼女はだんだんイラついてきた。

 

 しかし、ここで蹴ったり下手な変化を加えるわけにもいかない。血痕を観察してきても、公安の奴らが言ったそこまで経っていないが正しい。

 

「あぁ……?」

「新しい情報はあったか」

「ゼロですね」

「そうか……ただ、分からないのも分かったことの一つだ。予測より事実の方がいい」

「それは賛成ですが……」

 

 ナバナが立つと、椅子が揺れる。

 

「あ、すみません」

「いや、大丈夫だが……」

 

 から、と音が聞こえた。

 

 金属が転がる音。

 

「何か物が転がってるか?」

「……」

 

 椅子の周りを見る。

 

 すると、うまいこと隠れていたのか、最初見つからなかった物が見つかった。

 

 血に濡れたそれは細長く、生徒に馴染みがないもの。

 

「キセルか?」

「ん?」

 

 手袋で取り、袋に入れてから彼女はカンナの元へやってくる。

 

「ほら見てください、血がこびりついたキセルです」

「本当だ……おそらく消えた一人の手かがりになるんじゃないか。大手柄じゃないか」

「と言っても、捕まえたりの大舞台には立てませんがね。そこら辺はもう公安の仕事になってきてしまってるし」

「そう卑屈になることはない。お前個人の功績として、ヴァルキューレで記録できるから。何しろ私の依頼だ、こういうことを公的機関で言えることの是非は問われるが」

「ですねえ」

 

 とはいえ、キセルか。ナバナはそう考えた。

 

 少なくともヴァルキューレが観測している範囲では、キセルを吸っている存在を見たことはない。動物の住民はともかくとして、今回の血溜まりの分かれ方から推測するに今回は人間、つまり生徒の一人が持っていた物だろう。

 

 犯人が落としてそのまま逃げた可能性もあるが、二人殺しておいて全く血溜まりがなく離脱するなんてことはほぼ不可能に近い。時間もあまり経っていない以上、そんな完璧な作戦を立てていたとしても、成功確率なんてたかが知れている。

 

「うーん、考えれば考えるほどめんどくさい事件だな」

「人は二人死んでいて、犯人が脱走した跡はない。血の匂いや時間的にはさして経ってはないし、とは言ってもこの匂いは間違いなく血で変な物じゃない。ただ、お前が見つけてくれたこのキセルがあれば、少しは問題を解決するのに役立ちそうだ」

「後は倒れていた少女が目を覚ました時に、どうなっているか。もっとも裸体で見つかっているってのを考えたら、流石に裸で襲う変態とかは考えたくない。あー、まじでホンマ______」

 

 この話の真実は、後に見つかった少女自身を巻き込んだ事件で明かされることになる。

 

 だが、今はその時ではない。手がかりさえも、その手中に収められる瞬間ではないのだ。

 

 

 

 

 

 どん。

 

 

 

 

 

 爆発音と着弾音がして、現場が揺れる。

 

「なんだ!?」

「やっぱりそうか、許してくれるわけねえもんな!」

「何が!」

「事件そのものは非常に難解で、正直なところ二人いや三人は消えている!それに事件が起きたのは本当だ!だが、ブラックマーケットの人間がヴァルキューレの存在を許すかと言われたらノーに近い!」

「自治区で解決できないから警察を入れてどうにかしようって判断じゃないのか……!」

「人間って思ってるほど弱くもなければ強くもないってことだ!」

 

 着弾して、窓が吹き飛ぶ。

 

 もはやこのままでは調査が続行できないどころかすでに現場としての意味はなさなくなるだろう。

 

《こちら捜査本部!今ブラックマーケットから外へと移動中!少女は無事ですけど警官が幾人か怪我してます!》

「何が襲ってきている!」

《戦車が三台、そして装甲車五台です!こっちの装備が手薄なのをいいことに……キャっ!》

「全速力で後退しろ、こっちも急いで逃げる!」

《了解!》

 

 無線からの通信は切れた。

 

 ナバナは入ってきた場所を見ると、その戦車達はすでに遠ざかりつつあった。

 

「あー、こっちから攻撃はできそうですね」

「できそうと言ってもどうするんだ。まともな武器ないぞ」

「蓋開けてまあぐちゃぐちゃにするしかないでしょ、これ」

「そうだな。いくら選りすぐりとはいえ、こちらの兵器が整うまでには時間を要する。奇襲で一気に破壊しよう」

「賛成」

 

 二人は急いで現場から出つつ、降りた。

 

 戦車はゆっくりと移動している。装甲車を前にその隙間から戦車の砲塔で攻撃する形。

 

「行くぞ!」

「ああ!」

 

 二人は武器を持って駆け出した。

 

 事件の最初、狂犬の栄光の一つが刻まれることになる。

 

 

 

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